1年後。
「モーグーナー、昼ごはんだぞ!」
娘の姿を探して庭に出たトニーは、小さなテントの前に置かれた子供用の椅子に無理矢理座った。
テントの中からはゴソゴソと音がする。
「モーガン・H・スターク。出ておいで」
笑い声が聞こえ、モーガンが姿を現した。
4歳になったモーガンは、ラボから持ち出したのだろう、アイアンマンのヘルメットを被っており、おもちゃのリパルサーをトニーに向けた。
「おっと!アイアンマン!頼むから助けてくれ!」
わざとらしく頭を抱えると、モーガンはクスクス笑いだした。娘が被ったヘルメットにキスをしたトニーは、それを取った。そして娘の乱れた髪を掻き分けると、抱き上げた。
「おひるごはん、なに?」
「ママ特製のカルボナーラだ」
ふふっと笑ったモーガンは、トニーの胸に手を当てると目を閉じた。
「パパ、おなかすいたっておもってる?」
目を開けたモーガンは、可愛らしく小首を傾げた。
モーガンは時折こうやって、両親の考えていることを読むようになった。尤も、全ての考えを読める訳ではない。だが、両親がいつも自分たちのことを愛し考えてくれていることが分かるので、モーガンはこうやってこっそりと心を読むのがお気に入りだった。
「そうだ。腹ペコだ。聞こえるか?パパのお腹はぐーぐー悲鳴をあげてるぞ?」
笑い声を上げた娘にキスをしたトニーは、家の中に入って行った。
家の中に入ると、トニーは娘を床に下ろした。
「モーガン、先に手を洗ってきなさい」
キッチンから母親の声が聞こえ、
「はーい」
と返事をしたモーガンは、パタパタとバスルームへと向かった。
アイアンマンのヘルメットを、テーブルの上に置いたトニーは、ベビーチェアに座る息子の頬を撫でた。
「だった!!」
リアクターの形をしたおしゃぶりを首から下げたハロルドは、トニーに手を伸ばした。
ハロルドの能力、それはEMPを発し、電子機器を自在に操ること。
それが分かったのは、数週間前のことだった。
癇癪を起こしたハロルドが、いつになく号泣し始めた。すると家中の電子機器が一斉に破壊したのだ。最初はただの偶然かと思ったが、トニーがあの手この手で実験したところ、ハロルドは強烈なEMPを発することができると分かったのだ。
それを抑えるためにトニーはこの特性おしゃぶりを作ったのだが、厄介なことに、彼は電子機器自体も意のままに操れることも発覚した。
おしゃぶりに改良に改良を重ね、それを封じ込めることにも成功したトニーだが、内心はまた別の能力を開花させるのではと、ビクビクしていた。
だが、2人とも優しく良い子で、スクスクと育ってくれているから、ありがたいことだ。
パスタを皿に盛り付けているペッパーを手伝おうと、トニーは妻の隣に並んだ。
「トニー、ちゃんと薬は飲んだ?」
手際よくサラダとパスタを盛り付けながら、ペッパーは夫に尋ねた。
トニーは1年前の事件で心臓に後遺症が残り、発作を抑える薬を飲まなければならなくなった。今のところ発作もなく経過は順調だが、ペッパーは今まで以上に夫の体調管理に細心の注意を払っていた。
「今飲んだ」
薬を飲んだトニーは、ペッパーを背後から抱きしめた。
「なぁ…ハニー……」
耳元で囁いたトニーは、ペッパーの首筋に唇を押し付けた。
キャッと小さく声を上げたペッパーだが、トニーの手はペッパーの胸を掴み、揉み解し始めた。
「子供たちが昼寝をしたら……いいだろ?」
ふっと耳元に息を吹きかけたトニーは、再び首筋に唇を押し付けると、赤い印を刻み始めた。唇の感触に感じ始めたペッパーは、首元をオレンジ色に染めた。
「ん…ダメよ……。夜まで待って…」
身悶えしたペッパーだが、その瞳は真っ赤に燃え上がっていた。
「夜まで待てないだろ?分かってるぞ、君の考えていることは」
からかうように告げたトニーに向かって、仕掛けてきたのはそっちでしょ?と言うように頬を膨らませたペッパーは、手元の石鹸を投げた。物凄いスピードで向かってきた石鹸を辛くも避けたトニーだが、石鹸は壁にのめり込んでしまった。
「ハニー、私のことを愛しすぎて殺さないでくれよ」
ウインクまでしてきた夫に、後で腕の一本でもへし折ってやろうと考えたペッパーだが、娘が戻ってきたのに気づくと深呼吸をし、平静を保とうとした。が、母親の変化にとっくに気づいていたモーガンは、大袈裟に飛び上がった。
「ママ!おこってるの?」
目を丸くしているモーガンに、ペッパーはこれは援軍が来たと微笑んだ。
「パパがね、言うこと聞かないから怒ってたのよ」
怖いほどの笑みを浮かべる母親と、目を泳がせる父親をモーガンは見比べた。
「パパ!おとななんだから、ママのいうこときかないとダメよ!」
腕組みして口を尖らせる姿はペッパーそのもので、トニーは苦笑した。
が、トニーの方が一歩上手だった。
娘を手招きしたトニーは、駆け寄ってきたモーガンに何事か囁いた。頷いたモーガンは、トニーの胸に手を当てると目を閉じた。
と、目を開けたモーガンが目を輝かせた。そして今度は母親に駆け寄ると、手を握りしめた。
「ママ!パパね、ママのこと、せかいいちあいしてるって!ママのことがだいすきすぎて、パパ、こまってるって!」
娘を通した愛の告白に、ペッパーはポッと頬を染めた。トニーを見つめると、彼はニヤニヤと笑っていたが、投げキスをしてきた。
(トニーったら…)
いつまで経っても子供のようなトニーだが、そんなところも愛しているのだからどうしようもない。
「さぁ、お昼にしましょ?冷めちゃうわ」
何とか平静を装ったペッパーは、娘に皿を手渡した。そして近づいてきたトニーにキスをしたペッパーは、彼の耳元に口を近づけると、娘に聞こえないように囁いた。
「私たちにも、お昼寝が必要ね…」
すると、眉を吊り上げたトニーは、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「だから言っただろ?ミセス・スターク」
目をくるりと回したペッパーに、トニーは2人きりの時にしか出さないような甘ったるいで囁いた。
「3000回愛してる…」
【END】