「I love you three thousand…」カテゴリーアーカイブ

I love you 3000…Ⅱ ③

「モーガン、次は何に乗ろうか?」
身長制限があるので乗れるアトラクションには限りがあるが、夢の国には小さな子供でも楽しめるアトラクションが山のようにある。
うーんと辺りを見渡したモーガンは、何かを見つけたのか
「パパ!あっち!!」
と、手足をばたつかせた。

モーガンが指差した方向には、あのミッキーマウスとミニーマウスがいた。が、写真を撮る列は長蛇の列。この炎天下の中…と思ったトニーとペッパーだが、可愛い娘の初めてのディズニーランドだから…と思い直した2人は列に並んだ。
が、列はなかなか進まない。加えてジリジリと太陽は照りつけるばかりで、暑くて堪らない。
「モーガン、暑くない?」
自分たちの足元におり陰になっているためか、モーガンは涼しい顔をしてジュースを飲んでいる。
いつもはカラッとしているLAなのに、今日に限ってジメジメと蒸し暑い。
帽子を取ったペッパーはパタパタと扇ぐと、汗を拭い、再び帽子を被った。
肌がジリジリと暑くなってきた。世界一強力なSI製の日焼け止めを塗っているので、日焼けすることはないだろうが、これが終わったら一度ホテルに入って、ランチがてら休憩しようとペッパーは考えた。
と、隣から地獄の底にいるような声が聞こえてきた。
「暑い……」
見ると、トニーは滝のように汗をかいて、眉間に皺を寄せているではないか。
シャツを脱ぎ帽子を取れば、トニー・スタークだとバレると自覚しているのだろう。だが、このままでは熱中症でぶっ倒れてしまうかもしれない。真っ赤な顔をしている夫に、ペッパーは提案した。
「シャツ、脱いだら?」
脱げば半袖のTシャツになるのだから、少しは暑さが違うだろう。が、トニーはジロリと妻を睨みつけた。
「脱げばバレる」
「え?」
首を傾げたペッパーに、トニーは右腕を指差した。
「これがバレる。いや、義手だと分かるのは別にいいんだ。だが、色合いから明らかに私だとバレるだろ!」
トニーが義手になったことは、隠すつもりははないのだが、プライベートなことなので、敢えて公表はしていない。
問題は、あからさますぎるアイアンマンカラーということだろうか…。おまけにリアクターまで付いているのだから、誰がどう見てもアイアンマンにしか見えない…つまり、トニー・スタークだとバレてしまう…。
だったら、わざわざアイアンマンカラーにしなかったらよかったのでは…と思ったペッパーだが、そんなことをこの場で言えばトニーが不貞腐れて後が大変なのは目に見えている。
目をくるりと回した妻に、トニーは大きな目を見開いた。
「そうなると…分かってるだろ?」
自分たち2人だけなら兎も角、モーガンは生まれてこの方、マスコミの前に出したこともないので、大騒ぎになれば怯えるだろう。だからこそ、娘を守るためには、絶対にバレないようにしなければならないのだ。
が、シャツは汗で濡れており、アイアンマンカラーの義手は透けて見えているのだから、もはやシャツを羽織っている意味はないのでは…とペッパーは考えた。
「アイアンマンのコスプレしてる人だと思われるかもしれないわよ?」
何となく頭に浮かんだ考えを口に出すと、トニーは眉を吊り上げた。
「コスプレだと?!」
「えぇ、アイアンマンの」
するとトニーは唾を散らして反論した。
「コスプレするなら、もっと本格的にするだろ、普通は!」
妙なところに拘るトニーは、ついには怒り出してしまい、余計に汗をかき始めた。
(ホント、子供みたいなんだから…)
気づかれないように溜息を付いたペッパーは、夫の機嫌を直そうと、タオルでトニーの額の汗を拭いた。頬に軽くキスをすると、サングラスを外し、顔を拭った。そして帽子を取って首筋の汗も拭いたのだが…。

帽子とサングラスを外した彼は、どこからどう見てもトニー・スタークなのだが、暑い暑いと皆下を向いていたし、顔を上げていた者も、夫の汗を嬉しそうに拭く妻の姿は、ただのいちゃついている夫婦にしか見えず、目のやり場に困ると見て見ぬフリをしていたため、誰も気づかなかった。
「ほら、気づかれないじゃない!」
サングラスと帽子を元に戻したペッパーは、嬉々として告げたが、トニーは盛大に鼻を鳴らした。
「偶然だろ?」
腕組みして見つめてくる夫にペッパーは頬を膨らませた。
(もう!素直じゃないんだから!)

「次の方!どうぞ!」
気づけば順番が来ていたようで、モーガンをミッキーとミニーの間に立たせたペッパーは、嬉しそうにポーズをとる娘の写真を撮った。

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I love you 3000…Ⅱ ②

一家はトニーの退院祝いで、LAへ向かっていた。初めて乗る飛行機に、モーガンはNYからLAへ向かう道中、ずっと窓の外を眺めていた。窓ガラスにへばりついて外を眺めている彼女は、何か目新しい物が見える度に、興奮気味に両親に報告した。そんな娘を、トニーとペッパーは笑顔で見つめていた。

LAに到着した一家は、ヘリコプターに乗り換えると、ディズニーランドへと向かった。
モーガンは驚いた。こんなに大勢の人がいる光景は初めてだったから…。最初は怖かった。だが、誰もが皆楽しそうに笑っているし、両親がいるのだから…と思うと、平気になった。
初めての夢の国に、モーガンは目を輝かせてキョロキョロとしている。
母親の左手と父親の右の義手を握りしめたモーガンは、飛び跳ねるように歩いており、全身から嬉しさを醸し出していた。

「パパ!ママ!あれにのる!」
モーガンが指差したのは観覧車だった。
早速乗り込んだ3人を乗せて、観覧車は動き出した。どんどん遠ざかる景色に、モーガンは歓声を上げた。何もかもが楽しくて仕方ない娘の姿を、トニーとペッパーは記憶と共に記録として残そうと、写真と動画を必死に撮影した。

観覧車から降りると、モーガンを抱き上げたまま、トニーはペッパーと手を繋ぐと歩き始めた。
「意外と気づかれないものなのね」
辺りを見渡したペッパーは夫に囁いた。
トニーもペッパーもサングラスと帽子を被っており、トニーも義手を隠すために真夏なのに長袖のシャツを羽織っていた。
変装しているつもりはないが、10年近く前、恋人になったばかりの頃に2人でこの地へやって来た時、大変な目にあったのだ。
『トニー・スタークとペッパー・ポッツがディズニーランドでデートをしている』とどこで掴んだのか知らないが、パパラッチは押し寄せ、そしてトニーは女性に追いかけ回され、ろくな思い出がない。
そのため、今回はなるべく目立たないようにしようと、2人は決めていたのだ。

③へ…

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I love you 3000… Ⅱ ①

リクエスト頂いた「モーガンがお姉ちゃんになるお話」と「家族で遊びに行く話」です。リクエスト全部くっつけてますので、長いです💦

***

モーガンの世界は、生まれた時から家の周りの湖と森が全てだった。
その場所だけは、安全だったから。
光に満ち溢れ、以前と何も変わらない日常がそこにはあったから…。

暗く混沌とした世間から娘を守るように、トニーとペッパーは娘を外の世界へは、殆ど連れて出ていなかったから…。

だが、世界は元通りになった。アイアンマンのおかげで…。

5年ぶりに世界は賑わいを取り戻した。暗闇の時代を生き抜いた人々は、突然戻ってきた賑わいに、最初は戸惑った。だが、元々あったものなのだから、数日経つと人々は5年前の暮らしに自然と戻っていった。

モーガンは外の世界をテレビを通してしか知らなかった。
映画で見る世界はいつもカラフルなのに、ニュースで見る世界は色を失った世界だった。そのため、モーガンにとっての現実の外の世界は、暗く淀んだ世界だった。

が、実際に目にしてみると、そこは明るくキラキラと輝いている世界だった。

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I love you three thousand…⑩【END】

一週間経ち、トニーは退院することができた。
数ヶ月ぶりの我が家。
湖のそばに立ったトニーは、季節がすっかり変わってしまった景色を一人で眺めていた。

と、モーガンがパタパタと駆け寄って来た。
「パパ!ぶらんこ、なおして!」
何ヶ月も前に壊れたと言っていたブランコ。早く直してやりたいのは山々だが、片手では無理がある。
「モーガン、パパは右手がないから、まだ無理だ。もう少し待ってくれ」
そう言うと、トニーはモーガンと手を繋ぎ、家の中に入っていった。

何をするにも片手では不便だと、トニーは早速義手を作り始めた。アーマー作りよりも簡単だと言わんばかりに、2日後にはトニーは自分の手のように動く義手を作り上げた。
リアクターを動力源にした義手。再び戦うことはないが、これでアーマーは本当に身体の一部になったのだ。

早速約束どおりブランコを直したトニーは、湖畔に腰を下ろした。
と、ペッパーがやって来た。
「モーガンは?」
ブランコで娘と遊ぼうと考えていたトニーは、娘の姿を探した。
「残念ながらお昼寝中よ」
クスクス笑ったペッパーは、トニーの隣に腰を下ろした。すると、トニーが義手でペッパーの手を握りしめた。
「どうだ?」
「感じるわ…。あなたの温もり…」
「そうか…」
少しだけ笑ったトニーは、庭の一角に目を向けた。何もなかったはずの場所には、何かを植えたような跡がある。
「何植えたんだ?」
「あなたの好きなひまわりよ。夏になったら、沢山咲くわ」
そう言うと、ペッパーは甘えたようにトニーの肩にもたれかかった。
「ねぇ…3000回愛してるわ…」
「あぁ、知ってるさ…」
ペッパーを抱き寄せたトニーは、コロンと地面に横になった。

彼の胸で再び輝きだしたリアクター。
が、それは戦うためではない。
ここで幸せに生きていくための、パワーの源…。

リアクターに指を滑らせたペッパーは、首を伸ばすとトニーにキスをした。ペッパーの腰を右の義手で抱えたトニーは、首筋に赤い印を刻みつけた。
「愛してる…永遠に愛してる…」
トニーが耳元で囁いた。そして腕の中にペッパーを閉じ込めた。
力強い腕と、甘ったるいその声に、ペッパーは自分がようやくあるべき場所に戻って来た気がした。

私たちは幸せになれる…。
今までよりもずっと幸せに…。
誰だって、ハッピーエンドが好き…。
だから、私たちの物語も、ハッピーエンドで終わなきゃ…。

【END】

EG、トニーには生きていて欲しかった。ペッパーと幸せになって欲しかった。
5年間幸せだったから十分だと、脚本家はいい、トニーが死ぬのは決まってたと監督は言ってますが、RDJ自身は最後まで納得してなかったようですね…。役者は製作陣に従うしかないと、彼は常々言っていますし、EGのラストもかなり説得されて最後は受け入れたようです。
だからこそ、こんな感じの幸せなハッピーエンドで終わって欲しかった。ようやく手に入れた家族と、普通の幸せをトニーは手に入れ、余生を過ごして欲しかったです。
そんな思いを込めて書きました。

8 人がいいねと言っています。

I love you three thousand…⑨

翌日目覚めたトニーは、ボンヤリとペッパーを見つめた。
「気分はどう?」
髪を撫でたペッパーに、トニーは顔を顰めた。
「最悪だな……」
そう言うと、トニーは目を閉じ口を噤んだ。
が、暫くして目を開いた彼は、妻を見つめた。
「もう…無理なんだろ?それだったら、いっそのこと…腕は切り落としてくれ…」
「トニー…」
静かな夫の声に、ペッパーは唇をギュッと閉じた。泣き出しそうな妻に、トニーは無理矢理笑ってみせた。
「分かってた。自分のことだから分かってたんだ。右腕はもう二度と元に戻らないと…。それでも希望が、捨てられなかった。君たちに直接触れたいという希望が…。だが…もう無理だ。このままだと、どんどん腐っていくだろ?そうなる前に…」
そう言うと、トニーはペッパーから視線をずらした。

今までと同じように…全てが元に戻ると思っていた。多少の後遺症はあったとしても、ペッパーを腕の中に閉じ込め、モーガンを抱き上げれると思っていた。
が、それは夢でしかなかったのだ…。

ふぅと息を吐いたトニーは、涙をこらえながらペッパーに告げた。
「命が助かった…それだけで満足しないといけなかったのに…。欲張りすぎたんだな…」
悲痛なトニーの声に、ペッパーは首を振った。
「トニー…諦めないで…。今、シュリが頑張って…」
「いつになるか分からないだろ!」
ペッパーの言葉を遮るように、トニーが声を荒げた。
「もう嫌なんだ…。もう無理なんだ…。いつになるか分からない希望に縋り付いて…絶望するのは……。だから頼む……頼むから…切り落としてくれ……。頼む……」
そう言うと、トニーは泣き始めた。声を出さずに静かに泣き始めた。

ペッパーは何も言うことができなかった。ただトニーに抱きつき、一緒に泣くことしかできなかった…。

結局トニーの意思を尊重し、3日後に右腕を切断する手術をすることになったのだが…。

帰宅したペッパーは、病院から深夜に掛かってきた電話に叩き起こされた。トニーの容態が急変したというのだ。
ハッピーにモーガンを任せたペッパーは、急いで病院へと向かった。

病室は人の出入りが慌ただしく、トニーには夕方にはなかった機器が沢山取り付けられていた。
壊死した右腕から感染症を起こしたと説明を受けたペッパーは、トニーの左手を握りしめた。苦しそうに魘されているトニーの息は荒く、血圧はどんどん下がり続けているではないか。
一刻の猶予もないと、トニーは手術室へと運ばれた。

早朝、手術室から出てきたトニーの右腕はなくなっていた。
数時間前まであった右腕は、肩から切り落とされていた。

早く決断していればよかった。
トニーはとっくに分かっていたのに、ありもしない余計な希望を与え、彼を苦しめてしまった…。
希望に縋り付いていたのはペッパーも同じだったのだ。
そのため、味合わなくてもよい苦しみをトニーに与えてしまった…。

「トニー……ごめんなさい…ごめんなさい…」
眠り続けるトニーに、ペッパーは謝り続けるしかできなかった…。

2日後、トニーは目を覚ました。熱も下がり、容態も安定しており、ペッパーは安心したように息を吐いた。
「トニー…」
頬に触れ呼びかけると、微睡んだ瞳でペッパーを見つめたトニーは、左腕を伸ばすと右腕に触れようとした。
が、そこには何もなかった。
あるべき腕はもはやなかった。

「トニー…ごめんなさい…私がもっと早く…」
左手を握りしめると、トニーが静かに首を振った。
「いいんだ…これで良かったんだ……。だから…ペッパー…謝らないでくれ……」
トニーが顔を歪めた。
ペッパーから手を離したトニーは、顔を覆うと静かに泣き始めた。

夕方になり、モーガンを連れてハッピーがやって来た。
「パパ!」
久しぶりに会う父親にモーガンは、大喜び。だが、父親はどこか元気がないではないか。
「パパ、どうしたの?どこかいたいの?」
ベッドのそばの椅子に座ると、モーガンは、首を傾げた。
「パパは元気だぞ?」
無理矢理笑みを作ったトニーだが、モーガンはまるで嘘をつかないでとペッパーがするように、眉をしかめると父親を見つめた。母親そっくりの仕草に、思わずトニーは苦笑した。
「あぁ、そうだな。パパは今、元気じゃない。落ち込んでる。可愛いパパのお姫様に会えなかったから、元気がなくなってたんだ」
そういうと、モーガンはふふっと笑った。
「じゃあ、げんきになった?チューしたら、げんきになる?」
「してくれるか?」
「うん!!」
元気の良い娘に、トニーは少しだけ気分が楽になった。
が、モーガンは気付いた。父親の右腕がなくなっていることに…。
聞いてみようかと思った。だが、父親の元気がないのは、右腕が急になくなったためかもしれないと考えたモーガンは、ベッドによじ登ると、父親の右腕があった場所にそっと手を置いた。
「パパ、あたしがたすけてあげるからね。だから、だいじょうぶよ…」
笑顔でトニーを見つめたモーガンに、トニーの目から涙が零れ落ちた。その涙を拭ったモーガンは、トニーの胸元に顔を押し付けた。
「なかないで、パパ…。あたし、パパとずーっといっしょにいるから…。だからなかないで……」
「モーガン…」
幼いなりに、必死に自分を励まそうとしてくれる娘。
この子がいるんだ…。自分のことをただ純粋に愛してくれる我が子が…。右腕なんかなくてもいい…。抱きしめるのは左腕だけでもできるんだから…。この子のそばで、生きている方が、よっぽど大事なことだ…。

娘の小さな身体を左腕で抱きしめたトニーは、目を閉じると鼻をすすった。

翌日、ローディがやって来た。
差し入れだと、ドーナツとチーズバーガーを持ってきたローディは、椅子に腰掛けると、暗い顔をしているトニーに話し始めた。
「足が動かなくなった時、お前はこれを作ってくれた。お前のおかげで、俺はまた歩けるようになった。お前と一緒に戦えるようになったんだ。あの時、お前が…トニーがいてくれたから…支えてくれたから…俺は諦めずに前に進めたし、この足を受け入れることができたんだ」
両足に視線を送ったローディは、トニーを見つめた。
「お前はメカニックだろ?だったら、作れよ。俺の足を作ったように…。諦めるなよ、トニー。お前らしくないぞ?お前はいつだって、前に向かって歩き続けてるじゃないか。アフガニスタンで捕まった時も、お前は何もない所でアーマーを作って、自力で脱出したじゃないか。お前は、こんなことでくたばるような奴じゃないだろ?それに、今のお前にはペッパーとモーガンがいるじゃないか」
親友の左手を取ったローディは、軽く握りしめた。
「それにさ、俺もいる。俺はお前とこうやって話ができるだけで…お前のクソくだらない冗談を聞けるだけで…お前が生きていてくれるだけで、十分なんだぞ…」
泣いているのか、声を震わせたローディに、トニーは顔を上げた。涙の浮かんだトニーの瞳に、いつもの煌めきが戻ってきた。
すうっと息を吸い込んだトニーは、大きく頷くと、スッキリとした顔で黙ってローディの手を握りしめた。

⑩へ…

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