「I love you three thousand…」カテゴリーアーカイブ

I love you 3000…Ⅱ㉘【END】

日が昇った頃。
元気な産声と共に、男の子が産まれた。
ペッパーと同じ瞳の色をしている息子は赤毛で、何もかもが母親にそっくりだった。が、それでも鼻や口元は自分に似ているのだから、可愛らしい息子にトニーは涙が止まらなかった。
「ペッパー、ありがとう…ありがとう…」
泣きながらそう言うトニーに、ペッパーも疲労困憊だが、嬉しくて仕方なかった。
涙を拭ったトニーは、一刻も早く娘に知らせようと、ペッパーに息子を手渡した。
「F.R.I.D.A.Y.、ハッピーに連絡しろ。モーガンを連れてきてくれと」
『了解しました、ボス』
腕時計に向かってそう告げたトニーは、息子の頬をくすぐっている妻を抱き寄せると、2人を腕の中に閉じ込めた。

病室に戻りしばらくすると、モーガンを連れてハッピーとそしてローディもやって来た。
「パパ!あかちゃんは?」
出迎えたトニーに抱きついたモーガンは、興奮を隠しきれない様子で、目を輝かせている。
「お姉ちゃんに会うのを待ってるぞ?」
そう言いながらモーガンを抱き上げ頬にキスをすると、娘は満面の笑みで頷いた。

「モーガン、待ってたわよ」
「ママ!」
笑みを浮かべているペッパーに手を伸ばしたモーガンは、母親が腕に抱いているものを覗き込もうと身体を乗り出した。トニーがモーガンをペッパーの横に座らせると、彼女は母親の腕の中をそっと覗き込んだ。するとそこきは小さな赤ん坊がいた。恐る恐る小さな指に触れると、赤ん坊はモーガンの指を掴んだ。
「あたし…おねえちゃんだよ…」
そっと囁いたモーガンに反応するように、赤ん坊は指を動かした。
壊れそうなくらい小さな弟は、モーガンの中で、父親と母親と同じくらい愛すべき者へとなった。
「あかちゃん、小さいし、かわいいね」
頬を突いたモーガンは本当に嬉しそうで、その様子をハッピーとローディは必死で写真を撮っている。
「モーガン、抱っこしてみる?」
母親の言葉にモーガンはパッと顔を輝かせた。
「うん!」
モーガンの横に腰かけたトニーは、ペッパーが娘に渡した息子を後ろから支えた。
「ちっちゃいね…」
自分よりも小さな温もりをそっと抱きしめたモーガンは、両親に向かって笑顔で告げた。
「ママ、パパ、ありがと。あたし、おねえちゃんになれて、よかった」

あの時、命を掛けて守った未来。その未来を受け継いでくれる存在が、また一人増えた。その未来に自分が関わることが出来るとは、あの時思ってもいなかったが…。
だが、こうしてここにいることが出来るのも、あの時自分を救うおうと奮闘してくれた人、励ましてくれた仲間、そして何よりもずっとそばで支えてくれたペッパーとモーガンのおかげだ。

ローディの名前を貰い、『ジェームズ・ハワード・スターク』と名付けられた息子と、そして楽しそうに話をしている妻と娘を、トニーは両腕に閉じ込めた。
「パパ、どうしたの?」
黙ったまま抱き付いてきた父親に、一体どうしたのかとモーガンは不思議そうに顔を上げた。優しい笑みを浮かべているペッパーに視線を向けたトニーは、娘の頬にキスをすると囁いた。
「3000回…いや、これからも永遠に、愛してるよ…」

【END】
リクエストで『モーガンがお姉ちゃんになるお話』を頂いていたので、弟が産まれるところで終わってしまいましたが、EG公開後から書き続けていた”I love you 3000…”は一応完結とさせていただきます。

4 人がいいねと言っています。

I love you 3000…Ⅱ㉗

ハッピーにモーガンを任せたトニーは病院へと急いだ。急ぎすぎて、信号をいくつか無視した気がするが、深夜のため何事もなく無事に到着することができた。

静まり返った病院の廊下を全力疾走したトニーは、ペッパーの病室のドアをそっと開けた。
「ハニー…」
トニーに気づいたペッパーは、夫に向かって手を伸ばすと微笑んだ。
「トニー、そろそ……痛っ!」
顔をしかめたペッパーに駆け寄ったトニーは、ベッドの右側に腰を下ろした。
「こっちなら、思いっきり握りしめてもいいぞ?」
そう言いながら差し出したのは右手の義手。
「もう…」
頬を膨らませたペッパーはトニーの手を握りしめた。
「こっちの腕は…」
そう言いながら左腕を肩に回したトニーは、ペッパーを抱き寄せた。トニーの温もりに包まれ、ペッパーはようやく気分が落ち着いた。

日付けが変わった頃には陣痛の間隔もかなり狭まり、分娩室へと移動したが、数時間経っても産まれる気配はない。
ペッパーはトニーの右手を握りしめ必死でいきんでおり、義手はミシミシ音を立てている。
そう言えば、モーガンが産まれた時は骨を折られるのでは…というくらい握りしめられ、アーマーを装着してくればよかったと思ったなぁ…と思い出したトニーだが、そんなことをこの雰囲気で口に出そうものなら、ペッパーに殺されると、口を噤んだ。
「もう!!嫌!!」
声を荒げたペッパーに、励ますことしかできないトニーは、もう何度言ったか分からない言葉を再び口に出した。
「ハニー、もうすぐだから…」
するとペッパーは鬼の形相でトニーを睨みつけた。
「もうすぐ?!さっきから何時間言ってるのよ!くそっ!さっさと産まれてよ!!」
モーガンにはとても聞かせられないような悪態を吐くペッパーは、トニーの右手を更に強く握った。このままだと本気で義手を破壊されそうだと、トニーは心の声を思わず口に出してしまった。
「おい、息子よ。頼むから早く出て来てくれ。このままでは、パパはママに殺される」
が、口に出してしまった言葉は、ちゃんとペッパーの耳にも入っていた訳で…。

「アンソニー・エドワード!!!!!!!」

目を三角にして金切り声を上げる妻に、しまった…と首を振ったトニーは、機嫌をとるようにペッパーにキスをした。

㉘へ…

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I love you 3000…Ⅱ㉖

10月になると、朝晩は肌寒くなってきた。
もうすぐ予定日のペッパーのお腹ははち切れそうになっているが、ここ最近、顔を顰めたトニーが右肩を押さえているのにペッパーは気が付いた。
今も彼は辛そうにしているのに何も言わないのだから、心配になったペッパーはトニーの隣に腰掛けると夫に尋ねた。
「どうしたの?」
するとトニーは小さく首を振った。
「いや…傷口が痛んで…」
肌寒くなってきたため、切断した傷口が痛むのだろう。
「外して?」
ペッパーの言葉にトニーは義手を外した。するとペッパーは、服の上から右の切断した傷口を摩り始めた。
ペッパーの手の温かさ…いや、彼女の心の温かさに、トニーは痛みが和らぐのを感じた。

「楽になった。ありがとう」
暫くしてそう告げたトニーは、肩に置かれたペッパーの手を握った。そしてそのまま彼女のお腹の上に手を置いたトニーは、身体を屈めるとそっとキスをした。
「もうすぐ会えるな…」
トニーは優しい瞳をしていた。それはペッパーだけに向けるものとも、モーガンだけに向けるものとも違う…生まれてくる息子だけに向けるもの。
トニーの髪を撫でたペッパーは、トニーが生きてそばにいてくれること、そして新しい家族が増えることを神に感謝した。

***

それから数週間後。
予定日間近となり、大事をとってペッパーは入院することになった。
「ママ、もうすぐ赤ちゃんにあえるね」
「そうね」
待ち遠しくてたまらないというように、目を輝かせているモーガンは、ペッパーのお腹に口を近づけると囁いた。
「はやくでてきてね、赤ちゃん。あたし、おもちゃをいっぱいかしてあげるから」

「じゃあ、何かあったら連絡しろ。いいな」
ペッパーに告げたトニーは、モーガンを連れて病室を後にした。
「モーガン、何か食べて帰ろう。何がいい?」
「チーズバーガー!」
飛び跳ねるように右手を握りしめてくるモーガンに、トニーは目をくるりと回した。
「昼もチーズバーガーだっただろ?」
父親を見つめたモーガンは肩を竦めた。
「うーん…じゃあねぇ…ピザ!」
自分と同じようなことばかり言う娘にトニーは思わず苦笑したが、そんな娘のことが可愛くて仕方ないため、モーガンを抱き上げたトニーはピザ屋へ向かうことにした。

***

その夜。モーガンを寝かしつけたトニーがリビングに向かうと、ハッピーがテレビを見ながら寛いでいた。ペッパーがいつ産気づいてもいいようにと、ハッピーは数日前からずっと待機してくれているのだ。
ソファに腰を下ろしたトニーに、ハッピーはピザの箱を押しやりながら告げた。
「そう言えば、2人きりになるのって久しぶりですね」
確かに昔は2人でいることが多かった。が、ここ数年…特にモーガンが産まれてからは、2人きりになることなど殆どなかった。
ピザを1枚取ったトニーは、ハッピーにチラリと視線を送った。
ハッピーはいつも自分のそばにいてくれた。それは初めて出会った時からずっと…。
トニーは不意に彼と出会った時のことを思い出した。もう数十年も前の話だ。ペッパーと出会う何年も前の話…。

とあるバーで酒を飲んでいると、店の隅で突然殴り合いの喧嘩が始まった。ガタイのいい男が、数人の如何にも悪そうな若者に殴られていた。が、男は若者たちを殴り返すこともなく、ガードするように身体を丸め、ただひたすら殴られていた。バーには大勢の客がいるのに、誰も止めようとせず、ただ見ているだけだった。が、何となく放っておけなかったトニーは、立ち上がると喧嘩を止めに入った。
「おい、何があったのか知らないが、いい加減やめておけ」
声を掛けてきた人物がトニー・スタークだと気付いた若者は、悪態を吐きながらその場を後にした。
「大丈夫か?」
咳き込みながら座り込んだ男にトニーはハンカチを渡した。すると男は小さく頷くとトニーに礼を言った。
「一杯奢るぞ?」
男の腕を掴み立ち上がらせたトニーは、彼を連れて席へと戻った。

男はハロルド・ホーガンと名乗った。ボコボコに殴られていたのに元ボクサーだと言うのだから、トニーは思わず目をくるりと回した。が、話をしているうちに、ハロルド・ホーガンはとても優しく気のいい男だと分かった。職を探しているというホーガンに、トニーは自分の名刺を渡した。
「良ければ連絡してくれ。力になる」
そう告げ別れた数日後、ホーガンから電話が掛かってきた。助けてもらったお礼に、是非働かせて欲しいと言われ、トニーはホーガンを運転手兼ボディーガードとして雇うことにした。いつもしかめ面をしているため『ハッピー』という愛称を付けたホーガンは、いつしかトニーにとって絶対なる信頼を寄せる親友となっていた…。

「…ハッピー、ありがとう」
突然礼を言われ、ハッピーは食べかけのピザを落としてしまった。
「どうしたんです?急に…」
目をパチクリさせているハッピーに、トニーは照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
「いや…お前には色々と苦労をかけた。今でもかけっぱなしだ。だが…お前がそばにいてくれたから、今までやってこれたんだ」
「トニー…」
瞬きをしたハッピーは目を潤ませた。彼の涙にトニーはハッピーの肩をポンッと叩いた。
「だからな、ハッピー。そろそろ自分の幸せも考えてくれ。お前にも幸せになって欲しいんだ」
ハッピーにも幸せになって欲しい…。
これは、トニーだけではなくペッパーの願いでもあった。何十年にも渡り、自分たちのために散々尽くしてくれたハッピーなのだから、そろそろ自分のことを考えて欲しかったのだ。それはトニーがタイムスリップした先で出会った父親に『大義のために個人の幸せを諦める必要はない』と言われたことも少なからず関係しているのだが…。
「つまり?」
話が見えず首を傾げたハッピーに、トニーは眉をつりあげた。
「誰かいい人はいないのかって話だ」
と、ハッピーが顔を真っ赤にして飛び上がった。その態度にトニーはピンときた。自分たちが知らないだけで、ハッピーにはちゃんとお相手がいるのだということに…。
「おい、まさか…もういるのか?!」
目を見開いたトニーに、ハッピーはブンブンと首を乱暴に振った。
「ち、違いますよ!彼女とは…」
名前は言わなかったが、間違いなく誰かいるのだ。飛び上がったトニーは、ハッピーに詰め寄った。
「ハッピー、洗いざらい、白状しろ」
大きな目を見開いて見つめてくるトニーに、身体を縮こまらせたハッピーはボソボソと告げた。
「じ、実は……ボスの入院中に…」
「その女性とヤッたのか?」
小さく頷いたハッピーに、自分の入院中ということは、相手は病院関係者なのか?と首を捻った。
「で、その女性とは付き合ってるのか?」
「付き合っているというか…」
ごにょごにょと口籠ったハッピーに、もう一息だと詰め寄ろうとしたトニーだが、携帯が鳴った。
画面を見たトニーは、メールを見ると目を輝かせた。
「ハッピー!その話は後だ。病院へ行ってくる!」
後ろでハッピーが何やら言っているが、トニーは転がるようにガレージへと向かった。

㉗へ…

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I love you 3000… Ⅱ㉕

9月になり、モーガンがキンダーガーデンに入園する日がやって来た。真新しい制服に身を包んだモーガンは可愛らしく、朝からトニーは必死で写真を撮っている。
「モーグーナ!今度は椅子に座ってみようか!」
何回もポーズを取らせ、パパラッチのようにカメラを向ける父親に、少々飽きたモーガンは、立ち上がると、まるで母親のように腰に手を当てた。
「パパ!もうおしまい!おくれちゃうわ!」
頬を膨らませた娘に、トニーは渋々カメラを引っ込めた。
「そんなこと言うな。パパの可愛いお姫様の姿を後世に残さないといけないだろ?」
ぶつぶつ言うトニーだが、肩を竦めたモーガンに右手を握られると、彼女のリュックを持ち、苦笑しているペッパーと共に車へと向かった。

学校に到着すると、駐車場は大賑わいだった。
「トニー!あれって…」
ペッパーが指差す方向を見ると、そこにいたのは、今大ヒットしている映画の主演を務める俳優とその家族ではないか。よく見ると、あちこちに有名な顔ぶれが揃っており、それを写真に収めようとしているパパラッチも大勢押し寄せている。
「よし。マスコミがあいつらに気を取られている隙に行くぞ」
頷きあったトニーとペッパーは、モーガンを車から下ろすと、歩き始めた。が…。
「あ!アイアンマンだ!」
何処からともなく子供の声が聞こえたと思った次の瞬間、トニーは大勢の子供たちに囲まれてしまった。流石に大人は駆け寄ることはしなかったが、母親たちは目をハートにして写真を撮りまくっているではないか。
「結局こうなるのか…」
ガクッと頭を垂れたトニーに、モーガンは神妙な顔をして頷いた。
「だってパパはアイアンマンだから、しかたないよ」

***

1週間も経つと、モーガンには大勢の友達が出来たようで、彼女は帰りの車の中で、トニーに機関銃のように学校での出来事を語った。娘の楽しい話に相槌を打っていたトニーだが、後部座席のチャイルドシートからモーガンが身を乗り出した。
「でね、お友達がね、アイアンマンに会いたいって言ってるの」
「モーガン、アイアンマンはもう引退したんだ。だから…」
目をくるりと回したトニーに、娘は頷いた。
「うん。あたしもね、そう言ったの。パパはもうアイアンマンにならないのよって。そしたらね、アイアンマンじゃなくて、パパとお話ししたいって言うの。だからね、明日の帰りのお迎えの時に、お友達とお話ししてくれる?」
上目遣いで見つめてくる姿は母親であるペッパーそっくりで、トニーも笑顔で頷いた。
「あぁ、いいぞ」

翌日。
「モーガンちゃんのパパに会うの、楽しみだね!」
モーガンの周りには大勢の子供が集まっていた。そしてその母親たちも…。
どうして『お友達の母親』までいるのか理解できなかったが、パパはヒーローだから写真を撮りたいのだろうと、モーガンは思うことにした。
すると、朝とは違う…しかも家にはない車が目の前に止まった。そして、派手なスーツとサングラスでビシッと決めたトニーが、運転席から颯爽と降りてきた。まるでパーティーにでも行くのかというような格好をした父親に、パパはこれから何処かにお出掛けするのかしら…と、モーガンはポカンとした。が、母親たちの間から、黄色い悲鳴が上がり、驚いたモーガンは飛び上がった。そしてそれを合図とするかのように、モーガンの友達が駆け寄った。
「アイアンマンだ!」
「すごい!トニー・スタークだ!」
子供たちに囲まれたトニーは、一人一人と握手をし始めた。すると、母親たちもトニーに向かって突進し、握手をしたり写真を撮ったりし始めたではないか。中にはどさくさに紛れて抱きついている者もいる。
自分のお友達が喜んでいるのは分かるが、どうして彼女の母親たちまで喜んでおり、しかも抱きつこうとしているのか、モーガンはさっぱり理解できなかった。が、母親以外の女の人が父親に抱きついているのは喜ばしいことではないし、父親も困った顔をしているのだ。これは帰ったら母親に報告しなければ…と考えたモーガンだが、あいにくその日は母親は帰宅が遅く、結局話すことが出来ずに終わってしまった。

その翌日。
「モーガン!」
迎えに来た父親は、いつもと同じ車の横で手を振っていた。が、またしてもお洒落をしているのだ。今日は昨日とは別のお友達もトニーと話したいと付いてきており、そして同伴する母親の数は、昨日の倍以上になっていた。トニーの登場に、母親たちは色めきだった。そんな『よそのおばちゃん』を冷めた目で見つめたモーガンは、助手席から母親が現れたのに気付くと、目を丸くした。
「あれ?ママ!」
珍しく母親も迎えに来てくれたようだが、彼女もまたいつも以上にお洒落をしているではないか。そしてトニーの元に歩み寄ったペッパーは、夫の腰に腕を回すとキスをした。
昨日の噂を聞き、トニーと話をしようと張り切ってめかしこんで来ていた母親たちは、がっくりと肩を落とした。流石に妻であるペッパーがいるのだから、トニーの元に押しかける訳にもいかず、自分の子供たちを連れ、そそくさとその場を後にし始めた。その様子を眺めながら、モーガンは両親の元に向かったが、やっぱり母親は父親を守るヒーローだと思ったとか…。

㉖へ…

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I love you 3000… Ⅱ㉔

その日の夕方のトップニュースは勿論トニー・スタークのことだった。どこの局もトニーの会見のノーカットで放送し、そして彼がアイアンマンを引退することを大々的に伝えた。アイアンマンの活躍を描いた特別番組も放送され、数年前に公開されたトニー・スタークの映画も繰り返し放映された。
スターク・インダストリーズの前には大勢の人が押し寄せ、感謝の手紙やプレゼントを置いて行った。会社には世界中からも続々と手紙などが届いた。

が、トニーは勿論だが、ペッパーもモーガンもその騒動は知らなかった。
会見後は大騒動になると分かっていたので、3人は湖畔の家に1週間程篭ることにしていたのだ。

会見の2日後、ローディがやって来た。
モーガンが考えた自動水やりドローンの試作機を彼女と共に飛ばしていたトニーは、ローディに気づくと、空を見上げている娘に声を掛けた。
父親に言われローディに気づいたモーガンは、パッと顔を輝かせた。
「ローディおじちゃん!」
駆け寄ってきたモーガンを抱き上げたローディは、わざとらしく悲鳴を上げた。
「おいおい、モー。また大きくなったのか?」
「うん!だって、あたし、おねえちゃんだもん!」
モーガンの頬にキスをしたローディは、ゆっくり近づいてきたトニーの肩をポンっと叩いた。
「トニー、お疲れ様」
引退する話自体は、1年前に聞いていた。だが、ああやって彼自身の口から改めて聞くと、本当にそうなのだと、ローディは寂しさも覚えていた。
「もうお前と飛べないと思うと寂しいな…」
しんみりと告げたローディの肩を抱き寄せたトニーは黙って頷いた。
父親とその親友の会話を黙って聞いていたモーガンだったが、2人が寂しそうな顔をしているのに気づくと、わざと明るい声で告げた。
「ローディおじちゃん、あたしがいっしょにとんであげるよ!あたしね、おとなになったら、アイアンマンになるのよ!」
笑みを浮かべそう告げたモーガンはトニーそっくりで、ローディは自然と頬を緩めた。
「そうか、それは楽しみだな」
髪をくしゃっと撫でたローディはモーガンを降ろした。
「折角だ。昼飯、食っていけよ」
モーガンと手を繋いだトニーは、親友の肩を抱き寄せると家へと向かった。

㉕へ…

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