9月になり、モーガンがキンダーガーデンに入園する日がやって来た。真新しい制服に身を包んだモーガンは可愛らしく、朝からトニーは必死で写真を撮っている。
「モーグーナ!今度は椅子に座ってみようか!」
何回もポーズを取らせ、パパラッチのようにカメラを向ける父親に、少々飽きたモーガンは、立ち上がると、まるで母親のように腰に手を当てた。
「パパ!もうおしまい!おくれちゃうわ!」
頬を膨らませた娘に、トニーは渋々カメラを引っ込めた。
「そんなこと言うな。パパの可愛いお姫様の姿を後世に残さないといけないだろ?」
ぶつぶつ言うトニーだが、肩を竦めたモーガンに右手を握られると、彼女のリュックを持ち、苦笑しているペッパーと共に車へと向かった。
学校に到着すると、駐車場は大賑わいだった。
「トニー!あれって…」
ペッパーが指差す方向を見ると、そこにいたのは、今大ヒットしている映画の主演を務める俳優とその家族ではないか。よく見ると、あちこちに有名な顔ぶれが揃っており、それを写真に収めようとしているパパラッチも大勢押し寄せている。
「よし。マスコミがあいつらに気を取られている隙に行くぞ」
頷きあったトニーとペッパーは、モーガンを車から下ろすと、歩き始めた。が…。
「あ!アイアンマンだ!」
何処からともなく子供の声が聞こえたと思った次の瞬間、トニーは大勢の子供たちに囲まれてしまった。流石に大人は駆け寄ることはしなかったが、母親たちは目をハートにして写真を撮りまくっているではないか。
「結局こうなるのか…」
ガクッと頭を垂れたトニーに、モーガンは神妙な顔をして頷いた。
「だってパパはアイアンマンだから、しかたないよ」
***
1週間も経つと、モーガンには大勢の友達が出来たようで、彼女は帰りの車の中で、トニーに機関銃のように学校での出来事を語った。娘の楽しい話に相槌を打っていたトニーだが、後部座席のチャイルドシートからモーガンが身を乗り出した。
「でね、お友達がね、アイアンマンに会いたいって言ってるの」
「モーガン、アイアンマンはもう引退したんだ。だから…」
目をくるりと回したトニーに、娘は頷いた。
「うん。あたしもね、そう言ったの。パパはもうアイアンマンにならないのよって。そしたらね、アイアンマンじゃなくて、パパとお話ししたいって言うの。だからね、明日の帰りのお迎えの時に、お友達とお話ししてくれる?」
上目遣いで見つめてくる姿は母親であるペッパーそっくりで、トニーも笑顔で頷いた。
「あぁ、いいぞ」
翌日。
「モーガンちゃんのパパに会うの、楽しみだね!」
モーガンの周りには大勢の子供が集まっていた。そしてその母親たちも…。
どうして『お友達の母親』までいるのか理解できなかったが、パパはヒーローだから写真を撮りたいのだろうと、モーガンは思うことにした。
すると、朝とは違う…しかも家にはない車が目の前に止まった。そして、派手なスーツとサングラスでビシッと決めたトニーが、運転席から颯爽と降りてきた。まるでパーティーにでも行くのかというような格好をした父親に、パパはこれから何処かにお出掛けするのかしら…と、モーガンはポカンとした。が、母親たちの間から、黄色い悲鳴が上がり、驚いたモーガンは飛び上がった。そしてそれを合図とするかのように、モーガンの友達が駆け寄った。
「アイアンマンだ!」
「すごい!トニー・スタークだ!」
子供たちに囲まれたトニーは、一人一人と握手をし始めた。すると、母親たちもトニーに向かって突進し、握手をしたり写真を撮ったりし始めたではないか。中にはどさくさに紛れて抱きついている者もいる。
自分のお友達が喜んでいるのは分かるが、どうして彼女の母親たちまで喜んでおり、しかも抱きつこうとしているのか、モーガンはさっぱり理解できなかった。が、母親以外の女の人が父親に抱きついているのは喜ばしいことではないし、父親も困った顔をしているのだ。これは帰ったら母親に報告しなければ…と考えたモーガンだが、あいにくその日は母親は帰宅が遅く、結局話すことが出来ずに終わってしまった。
その翌日。
「モーガン!」
迎えに来た父親は、いつもと同じ車の横で手を振っていた。が、またしてもお洒落をしているのだ。今日は昨日とは別のお友達もトニーと話したいと付いてきており、そして同伴する母親の数は、昨日の倍以上になっていた。トニーの登場に、母親たちは色めきだった。そんな『よそのおばちゃん』を冷めた目で見つめたモーガンは、助手席から母親が現れたのに気付くと、目を丸くした。
「あれ?ママ!」
珍しく母親も迎えに来てくれたようだが、彼女もまたいつも以上にお洒落をしているではないか。そしてトニーの元に歩み寄ったペッパーは、夫の腰に腕を回すとキスをした。
昨日の噂を聞き、トニーと話をしようと張り切ってめかしこんで来ていた母親たちは、がっくりと肩を落とした。流石に妻であるペッパーがいるのだから、トニーの元に押しかける訳にもいかず、自分の子供たちを連れ、そそくさとその場を後にし始めた。その様子を眺めながら、モーガンは両親の元に向かったが、やっぱり母親は父親を守るヒーローだと思ったとか…。
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