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Everything Is For You⑨

現場付近の防犯カメラは全て破壊されており、警察の必死の現場検証からも、有力な手掛かりは何一つ得られなかった。唯一残された遺留品であるトニーの右手に刺さったナイフからも指紋は検出されず、この犯行は計画的なものであったことを示していた。

ペッパーは少しでもトニーを勇気付けれればと、片時もそばを離れようとしなかった。
事件から3日経ち、まだ予断は許さない状態ではあったが、トニーの容態も少し落ち着いてきた。それと同時にペッパーも冷静さを取り戻すことができたのだが、小声でトニーに話しかけていた彼女の脳裏に突然数年前の出来事が蘇った。
(あの時もそうだったわ…。知らせを聞いて病院へ駆けつけた時、あの人はこの世を去った後だった…)
この状況、5年前の悲劇と似ている。
「あの時と…同じ……。まさか……」
顔色を変えたペッパーは、この話をすぐにでも警察にするべきかと迷った。だが、証拠は何一つないのだ。それならば、自分の目で確かめてからでも遅くない。そう思うと居ても立っても居られなくなった。
「トニー、少し出掛けてくるわ。待ってて。犯人は必ず捕まえるから…」
トニーの耳元で囁いたペッパーは、足早に病室を出て行った。

***
数時間後、ペッパーはサンタモニカにいた。
トニーと初めてデートした桟橋からは、あの日と変わらない光景が広がっていた。
(神様……お願いします…。彼を…トニーを…奪わないで下さい…)
沈みゆく夕日を見つめながらペッパーが祈っていると、
「ヴァージニアじゃないか」
と声を掛けて来る者がいた。どうやら待ち人がようやく現れたようだ。
(やっぱり来たわね…)
ゴクリと唾を飲み込んだペッパーは、上着のポケットに忍ばせておいたボイスレコーダーのスイッチを入れると、クルリと振り返った。
「アルドリッチ。ここにいればあなたに会えると思ったわ」

アルドリッチ・キリアン。ペッパーの元彼だ。
最後に顔を合わせたのは4年前だが、目の前の男は少しも変わっておらず、笑みを浮かべながら近づいてくると、ペッパーの頬にキスをした。ぞくっと背筋が震えたが、ペッパーは平静を装った。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
馴れ馴れしくも手を握りしめたキリアンに、ペッパーは無理矢理微笑もうとしたが、トニーのことが頭を過ると引きつった笑みを浮かべた。
「何かあったのか?」
どこか芝居掛かったキリアンの口調に、ペッパーはやはり彼が今回の一件に関わっていると確信した。そこでペッパーは、キリアンが自ら語り出すよう仕向けてみることにした。
「…あなたには関係ないわ」
顔を背けたペッパーの背中を撫でたキリアンは、ニンマリと微笑んだ。
「そうか、辛いよな。恋人が意識不明の重体だもんな」
トニーが重体ということは、まだ報道されていない。それなのに、なぜキリアンが知っているのだろうか…。答えは明白だった。
「どうして知ってるの?」
眉を吊り上げたペッパーだが、キリアンの方もペッパーが勘付いていることを分かっているのか、彼女の言葉を無視すると、視線を反らせた。
「あいつは死んだか?それともまだ生きてるのか?生きていたとしても、あの状態じゃあ、一生眠ったままだろうけどな」
勘は当たっていた。目の前の男が、トニーを半殺しにした犯人だ。
「…やっぱり…。あなたがトニーを…」
体を捻り距離を取ったペッパーは、唇を噛み締めた。
「君を取り戻すためなら、多少の犠牲は仕方ないさ」
憎々しげに見つめてくるペッパーに肩を竦めたキリアンは、せせら笑うように口の端を上げた。
「それにしても、あのガキ、なかなかしぶとかったぞ。君と別れたら命は助けてやると言ったのに、何度も拒否しやがった。本当はあいつを陵辱してやるつもりだったんだ。部下に順番に犯させて、2度と君と会えないように心を壊してやるつもりだった。さすがにこの俺も、あんな子供を殺そうと思うほど非道な男じゃないからな。だが、あのガキの目を見て思った。そんなことをしてもあいつは君のことを絶対に諦めないだろうって。だから痛めつけることにした。1時間くらい暴行してやった。それなのに、あいつはまだ君のことを諦めなかった。だからナイフでめった刺しにして…。そうそう、頭も相当殴ったから、例え命を繋いだとしても、あれじゃあ意識は戻らないだろうな。もし戻ったとしても、五体満足じゃあ……」

「やめて!」
あの時のことを生々しく、そして楽しそうに語るキリアンに堪らなくなったペッパーは耳を塞いだ。そして拳を握りしめたペッパーは、キリアンを睨み付けた。
「彼を傷つけるなんて、私が絶対に許さないわ!」
これだけ証拠があれば十分だ。そう思ったペッパーは、その場を立ち去ろうとしたが、キリアンはペッパーの手を引っ張ると腰を抱き寄せた。
「は、離して!!」
抵抗するペッパーに、キリアンは先程までの態度を一変させると、ドスの効いた声で囁いた。
「おい、待て。4年ぶりなんだぞ?もう少し話をしてもいいじゃないか。お前だって少しは期待してるんだろ?5年前、ここで再会し、それから何度もデートした思い出の場所だから、俺が現れると思って来たんだろ?恋人が意識不明だから、俺に慰めてもらいに来たんだろ?結局君は俺の元に戻ってくる運命なんだよ、ヴァージニア」
くくっと笑ったキリアンは胸元からスマートフォンを取り出した。
「嫌なら逃げてもいいぞ?だが、この映像を大音量で流されたくなかったら、もう少しこうやって俺に抱かれてろ」
モニターに視線をやったペッパーは言葉を失った。昔のものだが、拘束されキリアンに弄ばれる自分の姿がどうして残っているのだろうか…。身体を震わせたペッパーの尻を撫でながら、キリアンは勝ち誇ったように告げた。
「お前との行為は全て映像に残してある。お前が奴隷のように俺に服従する映像もな。美しいな、ヴァージニア。俺のモノを欲しがって泣いてたのはどこの誰だ?」
(そうよ、この男…欲しいものを手に入れるためなら、どんな手段も選ばない男なのよ…)

アルドリッチ・キリアン。ハイスクールで出会った彼は、今のトニーのように人気者だった。一方ペッパーは、地味で真面目で目立たない存在。そんなペッパーに興味を持ったのか、キリアンが告白してきた。誰にも告白されたことのなかったペッパーは舞い上がり、二つ返事で付き合い始めた。最初は彼も優しかった。だが、徐々に本性を表していった。ペッパーを束縛し、気に入らないと暴力をふるった。人には言えないような酷いこともたくさんされた。恐怖で震える毎日だったが、両親を早くに亡くし親戚の家で育っていたペッパーは、迷惑をかけまいとただひたすら我慢するしかなかった。だが、とうとう我慢できなくなり、大学進学と同時にキリアンから逃げるようにLAへ来た。すっかり人間不信に陥っていたペッパーは、黙々と勉学をこなすだけの大学生活を送った。そして卒業すると同時に入社した会社で、一人の男性に出会った。彼は優しく、そしてペッパーの苦しみを理解してくれた。程なくして二人は恋愛関係になり、結婚の約束をした。が、ある日突然事故でこの世を去った。悲しみに暮れるペッパーの前に、キリアンが現れた。慰めてもらううちに、懐かしさからか、それとも虚無感を埋めるためか、身体を許してしまった。だが同じだった。結局彼の暴力に怯え、再び逃げ出した。
そして、もう二度と恋はしないと誓ったのに、トニーと出会い恋に落ちた…。

「俺は君の全てだろ?何も知らなかった君に教えたのは誰だ?俺だろ?君の身体中に俺を刻みつけてやったのを忘れたのか?俺ではないと満足するなと、散々教え込んだのに、君は忘れているようだ。あのガキに抱かれる君は確かに美しい。どうして俺にはあんな姿一度も見せてくれなかったんだ?恥ずかしいからか?それなら俺もあのガキみたいにお前に優しくしよう。それからもう一つ。一度覚えたことを人間は忘れないんだ。いつか恋しくなるんだ。満足できなくなって辛い思いをする前に、俺が迎えに来てあげてるんだ。ヴァージニア、俺の優しさが分からないか?」
キリアンの言っていることはめちゃくちゃだった。だが、彼はペッパーが逃げられないように腕の中に閉じ込めると、ペッパーの唇を撫でた。そして彼女が反論できないように、唇を奪った。身を捩り逃げようとしたが、キリアンは唇の隙間から舌を入れた。逃げ惑うペッパーを捉えたキリアンは、ペッパーの頭を抱え込むと、一層深く口づけした。
キリアンとのキスは、嫌悪感しか感じなかった。吐き気すらもよおしたペッパーは、何とかキリアンを突き放すと、思いっきり平手打ちした。
「どうして私が幸せになろうとすると邪魔するの!!」
赤くなった頬を押さえたキリアンは、ニンマリと嫌な笑みを浮かべた。
「君は俺と結ばれる運命なんだよ、ヴァージニア。君がいくら逃げても同じさ。君が逃げれば捕まえる…それだけだ。邪魔するやつは容赦なく殺す。何度でもあいつを半殺しにしてやる。生きていても二度と社会復帰できなくしてやる。それともあいつが君を嫌うように仕向けてやろうか?それに君はいつだって最後は俺の元へ帰ってくる。そうだ。スタークが死んだら、戻って来い。慰めてやるよ」
狂気に満ちた瞳に、もう何を言っても無駄だとペッパーは感じた。
「もうあの時の私とは違うの。私の描く未来にはね、あなたではない、トニーが必要なの。だから二度と私の目の前に現れないで。それと、もしトニーに何かしてみなさい。私があなたを殺してやるわ。トニーのことは私が守るから」
その場に凛とした彼女の声が響き渡り、辺りは一瞬静寂に包まれた。どう反論しようかと考えているのか、黙ったままのキリアンを残すと、ペッパーは振り返ることなくその場を後にした。

⑩へ…

毎回毎回、キリアンが酷い男ですみません…(;´Д`)

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Everything Is For You⑧

ゴミ出しに出て来た住人によって発見されたトニーは、すぐさま病院へと運び込まれた。
スティーブたちから連絡を受けたペッパーは、すぐに飛行機に飛び乗りLAへ戻って来たのだが、彼女が駆けつけた時には、トニーは何時間にも及ぶ手術をようやく終え、ICUに運び込まれていた。
ガラス越しに見えるトニーは、全身包帯で覆われており、ペッパーはショックのあまりその場に泣き崩れた。
と、頭上から優しい声が聞こえた。
「ペッパー・ポッツ様ですか?」
顔を上げると、初老の紳士が微かに笑みを浮かべ立っていた。
「は、はい…」
頷いたペッパーの手を取り立ち上がらせたイギリス訛りの紳士は、ポケットからハンカチを取り出すとペッパーに渡した。
「初めてお目にかかります。私、スターク家の執事をしております、エドウィン・ジャーヴィスと申します」
スターク家は指折りの金持ちなのだから、執事の1人や2人いても不思議ではないが、初めて会うスターク家の関係者にペッパーは慌てて頭を下げた。
執事の方が来られたということは、彼のご両親も来られたのかしら…と思ったペッパーは、こんな状況だけれどもきちんとご挨拶しなければと慌てて身だしなみを整えた。
と、その時、医師が部屋の外から出てきた。
「先生。トニー様は…」
ジャーヴィスと医師は顔見知りだったのだろう。ジャーヴィスに何事か話そうとした医師だったが、横に見知らぬ女性がいることに気付くと、眉を潜めた。
「こちらは…」
「トニー様の婚約者のペッパー様です」
ペッパーの身元が分かり安心したのだろう。表情を少しだけ緩めた医師は、トニーの状態を説明すると、2人を別室へと案内した。

2人がしっかりと腰を下ろしたのを確認すると、医師は何枚ものモノクロの画像を示し説明し始めた。
「スタークさんはかなり危険な状態です。身体中の骨が砕けて、内臓も酷く損傷しています。それから頭部も鈍器のような物で何度も殴られていました。かなりの殺意を持った相手に暴行されていたようです。脳内に出血があり、このままずっと意識が戻られない可能性もあります…。全力を尽くしますが…」
言葉を濁した医師にペッパーは何と言っていいのか分からなかった。
(覚悟しろってこと…よね…)
トニーを失う…そんなことは一度も考えたことはなかった。彼の方が10歳近く年下であるし、まさか今回のようなことが起こるなんて想像もしていなかったからだ。
しばらく呆然としていたペッパーだったが、ジャーヴィスと医師の話し声に我に返ると、ずっと気になっていたことを口に出した。
「あ、あの…彼のご両親は…」
息子が生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、彼の両親はまだ姿を見せないのだ。いくら何でもおかしい。それなのに、そのことについて医師は何も言わないのだ。
だが、ペッパーの言葉に話を中断した医師は、怪訝そうな顔をしているではないか。
「ご存じないのですか?スタークさんのご両親は、1年前に事故で他界されたではありませんか」
「え…」
一体どういうことなのだろう。トニーはそんなこと、一言も言ったことはない。いや、彼は両親の話をペッパーに一度もしたことがなかった。
困惑するペッパーは、もうどうしていいのか分からず、頭を抱え込んでしまった。

「ポッツ様、私が説明させていただきます」
ペッパーの肩にそっと触れたジャーヴィスは、気を利かせた医師が退室するのを見届けると、静かに語り始めた。
「まず、初めにお詫びしておきます。トニー様がご両親のことを話されなかったのは、トニー様が大学を卒業しCEOに就任されるまで誰一人公言してはならないという契約があるからなのです。ですから、トニー様のご両親であられますハワード様とマリア様の死は、世間から隠されております。この病院の一部の人間、それからスターク・インダストリーズのほんの一部の重役のみしか知らない事実なのです。スターク・インダストリーズは世界屈指の企業です。そのCEOでいらっしゃいますハワード様が突然亡くなられたと分かれば、CEOの座を狙い争いが起こる…死の間際、ハワード様はトニー様を守るために自分たちの死を隠すよう言い残され亡くなられたのです」
その時のことを思い出したのか、目に涙を浮かべたジャーヴィスは小さく息を吸うと、再び話し始めた。
「トニー様は御両親と疎遠でした。母親でいらっしゃるマリア様とは頻繁に連絡を取られていましたが、父親であるハワード様とは…。幼い頃からハワード様はトニー様に大変厳しく接していらっしゃいました。それも全て立派な後継ぎになって欲しい…その想いからでしたが…。ハワード様はトニー様のことを愛しておられました。言葉や態度では示されたことはありませんので、幼ないトニー様に通じるはずはありません。それにハワード様もマリア様も仕事がお忙しく、世界中を飛び回っておいででしたから、私と妻がトニー様の親代わりをしておりましたし、私と妻にだけはトニー様も心を開いておいででした。トニー様は自分はご両親を含め、誰からも愛されてないとずっと思っていらっしゃいました。そんな中、トニー様とご両親の唯一の繋がりがプレゼントでした。旅先からハワード様とマリア様は、トニー様がお喜びになりそうな物を必ず送ってこられました。その時ばかりはトニー様も大変嬉しそうで…。トニー様にとってプレゼントとは、ご両親の愛情を確認する唯一の物だったのです」
『プレゼント』と聞き、ペッパーははっと顔を上げた。初めて結ばれた翌朝のやり取りを思い出したペッパーは、そんな悲しい事情があったなんてと顔を歪めた。
「だからトニーは…」
「はい。そういえば、ペッパー様はトニー様のプレゼント攻撃を交わされたそうですね。トニー様から聞いておりますよ」
小さく笑みを浮かべたジャーヴィスは、いよいよ本題に入るつもりなのか、両手を机の上で組み直した。
「ハワード様とマリア様が亡くなられたのは、1年前の12月です。あの日、お2人は慈善パーティーに向かわれてました。実はそのパーティー、当初はハワード様とトニー様が出席される予定でした。ですが、前日からトニー様は風邪を引かれ、熱を出し、寝込まれていたのです。そこでハワード様はマリア様を連れてパーティーへ向かわれました。その途中です。お2人が事故に遭われたのは…。本来なら、自分が向かうはずだった…。だから死ぬのは自分だったはず…。トニー様は後悔されました。それに、どんなに疎まれていても、やはりトニー様もご両親を愛しておいででした。そのことにトニー様はその時ようやく気付かれたのです。ですが、お2人の死は隠さなければなりません。そのため、秘密裏に葬儀を行い、何事もなかったかのように過ごさなければならなかったのです。あの時のトニー様は、見ていて本当にお労しかったです。寂しさと悔しさを誰にも打ち上げることができず、相談する相手もそれを受け止めてくれる相手もおりません。私も妻も出来る限りのことをしました。ですが、それ以上にトニー様の心は壊れてしまっていたのです。トニー様は虚しさを紛らわせるかのように、お酒と女性に溺れました。薬にまで手を出さなかったのは、今思えば幸いでした。毎日飲み歩き、別の女性を何人も連れて帰って来られました。他の女の方のお話はペッパー様にはするべきではないですね。失礼しました」
小さく頭を下げたジャーヴィスだが、その表情からトニーは相当荒れた生活をしていたのだとペッパーは悟った。ペッパーの視線に気付いたジャーヴィスは軽く頭を振ると、ふぅと大きく息を吐いた。
「アカデミーに行くよう勧めたのは私です。家を離れ同年代の方と過ごされれば、心の傷も少しは癒えて下さるかと思ったのです。おかげでトニー様はペッパー様と出会えたのですから、私の読みは当たっていたようでございますね」
優しい瞳をしたジャーヴィスは、唇を震わせ黙ったままのペッパーの手をそっと取った。
「ペッパー様、あなた様のことはトニー様がアカデミーに入学されてから、ずっと聞いておりました。結婚したい女性がいると…。トニー様はいつも孤独でした。ご両親が亡くなられて天涯孤独になられたトニー様でしたが、ペッパー様、あなたが現れ救って下さったのです。ですからトニー様にとってペッパー様は何よりも大切で守りたいお方なのです。もう二度とご両親のような悲劇を起こしたくない…そのためにはペッパー様が常にご自分のそばにいて頂かないと、トニー様は不安なのです」
ジャーヴィスの話に、ペッパーはようやく今までのこと全てに合点がいった気がした。恋人になってから今に至るまでが早足だったのも、トニーは自分と形に残る繋がりが欲しかったためなのかもしれない…。
(そんなことしなくても、私はあなたの側からいなくなったりしないわよ)

***
『ペッパー様、トニー様のこと…よろしくお願い致します』
頭を何度も下げるジャーヴィスの姿を思い出しながら、ペッパーはようやく面会を許されたトニーの枕元に座っていた。
腫れ上がり、痣だらけの頬をそっと撫でたペッパーは、トニーの手を握りしめた。
「トニー…聞こえる?ジャーヴィスさんから聞いたわ…。ご両親のことも、今までのことも…。ごめんなさい。気付いてあげれなくて…。あなたが16年間苦しんできたのを気付いてあげれなくてごめんなさい…。でもね、トニー、安心して。私はあなたの側を絶対に離れないわ…。絶対に…何があっても、あなたのこと、守るから…。だからお願い…。ゆっくり休んだ後でいいから…私を置いて遠くへ行ったりしないで…。あなたがいないと生きていけないのは…私も同じだから…」
チューブの入れられた唇の隙間にそっとキスをしたペッパーは、祈るように頭を垂れた。

⑨へ…

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Everything Is For You⑦

それから数日後。
昨日からペッパーはフューリー校長のお供で出張のため不在。そこでトニーはスティーブたちと飲みに来ていた。
仲間内で飲むのは思いの他楽しく、気が付けば日付を超えそうな時間帯になっていた。
トニーだけが寮暮らしではないので、帰る方向は別だ。いつもなら何とも思わないのだが、今日に限ってやけに胸騒ぎがしたブルースは、手を振り歩き出したトニーに向かって声を掛けた。
「トニー、気を付けて帰れよ」
「大丈夫さ。それより、ソー、明日寝過ごすなよ」
ははっと笑ったトニーは「じゃあな!」と叫ぶと、小走りで家路を急いだ。

皆と別れてすぐに、頭上からはポツリポツリと雨が落ち始めた。このままのルートで家へ帰ると遠回りになってしまう。雨は本降りになりそうだと思ったトニーは、近道をしようと薄暗い路地へと入った。
雨が降っていることもあり、辺りはいつも以上に薄暗く、猫の子一匹いない。少々のことでは怖がらないトニーだが、今日は遠回りでも大通りを通ればよかったかもなと小さく舌打ちした時だった。
「おい、トニー・スターク。止まれ」
こんな路地で声を掛けてくるなんて、ロクな奴ではないだろう。やはりこの道は失敗だったなと、声を無視しその場から走り去ろうとした。が、正面は暗がりから出て来た数人の男たちに塞がれてしまった。
「誰だよ」
ぐるりと周りを取り囲まれ、もはや逃げ場はない。
十人はいる男達は、皆20代から40代くらいだろうか。自分よりも数段体格の良い彼らは、手に鉄パイプなど武器になりそうなものを持っている。
「金が目的か?お前ら良かったな。俺は金持ちなんだ。いくらでも持っていけ」
金を取られる方が痛めつけられるよりはマシだ。そう考えたトニーだが、男達は嘲笑うばかり。こいつらの目的は金ではない。そうなると、ただ単に暴行目的なのかと、トニーはゴクリと唾を飲み込んだ。
その時、1人の男が前に進み出た。
30すぎくらいだろうか。スーツに身を包んだ男は、深めに帽子を被っており顔は見えないが、男から醸し出される異様な雰囲気に、トニーは1歩後ずさりした。
「トニー・スタークよ。お前に忠告しておこう。お前が付き合ってるオンナ、あれは俺のオンナだ。だから別れろ」
(え……ペッパーのこと?)
「は?何言ってるんだよ」
別れろと言われても、今彼女と付き合い、結婚の約束までしているのは自分なのだ。脅されたからと言って、はいそうですかと言うはずがない。睨みつけてくるトニーを男は感情のない瞳で見つめた。
「何度も言わせるな。痛い目に合いたくなければ、ヴァージニアと別れると言え」
理由も語らない理不尽な男の言葉に、トニーは大げさにため息をついた。
「嫌だと言ったらどうする?大体、こんな時間にこんな所で…お前達、大人のくせして恥ずかしくないのか?正々堂々と…」
ベラベラと喋りながら、トニーは何とか逃げ出せないかと辺りを伺った。だが、自分を取り囲んでいる男達に隙はなく、こいつらは殺しのプロなのかもしれないと、背中を嫌な汗が流れ落ちた時だった。トニーの言葉を遮った男は、ニヤーっと笑みを浮かべた。
「どうしても別れないと言うなら、仕方ない。それと予定変更だ。思う存分、殴ってやれ」
背後から鉄の棒で頭を殴られたトニーは、不意打ちによろけた。あまりの痛さに頭を押さえると、ヌルッとした感触がした。手のひらは真っ赤に染まっている。何をするんだと言おうとしたトニーだが、別の男に背中を思いっきり蹴られ、壁に激突した。
「うぅぅ…」
地面に倒れ込んだトニーの頭を掴み起こすと、ポケットから携帯を取り出した。
「助けを呼ばれたら困るんだよな」
帽子を被った男…リーダー格の男は、携帯を踏みつぶすと、無言で頷いた。それを合図とするように、惨劇が始まった。
身体中を殴られ、そして蹴られ、トニーは悲鳴を上げたが、いつの間にか大降りになった雨の音で助けを呼ぶ声はかき消された。
容赦なく痛めつけれる身体からは、骨の折れる鈍い音が響き渡り、くぐもった声と共に噴き出る血は雨と混じり、辺り一面真っ赤に染まっている。
初めは身体を丸め必死で抵抗していたトニーだったが、しばらくするとグッタリとし動かなくなってしまった。

小一時間程して、ようやく男は納得したのか、手下たちを制した。
「お前達、相手は子供なんだ。加減してやれと言っただろ?可哀想に…。顔の骨も鼻も折れていい男が台無しだ」
トニーの横に腰を下ろした男は、荒い息をし天を仰いでいるトニーの頬を軽く叩いた。
「ヴァージニアのこと、諦めるか?」
意識朦朧としているトニーなのに、彼は男を睨み付けると、ハッキリとした声で告げた。
「い、いやだ…」
息絶え絶えなのにまだ抵抗しようとするトニー。そんな彼の態度はリーダー格の男の癪に障ったのだろうか。それまでと表情を一変させた男はトニーの胸倉を掴むと、血塗れの顔面を何度も殴りつけた。そして持っていたナイフをトニーの腹に突き刺した。何度も何度も全身を刺す男は、返り血を浴び、全身を真っ赤に染めた。狂気に満ちた光景に仲間の男たちは呆然と立ち竦んだが、我に返ったスキンヘッドの男が慌てて駆け寄った。
「いい加減にしないと、本当に死ぬぞ!」
肩で息をした男は顔を袖口で拭った。真っ赤に燃え上がった瞳は徐々に平穏を取り戻したが、血の海に浮かぶトニーはピクリとも動かなくなった。
「死んだか?」
スキンヘッドの男がトニーの首筋に指を当てた。僅かに脈打っているのを確認すると、彼はトニーの身体を引きずり近くのごみ置き場に投げ捨てた。
「運が良ければ誰かに見つけてもらえるぞ?」
ゴミの中にうつ伏せに倒れ込んだトニーの頭を軽く叩くとリーダー格の男は何事か囁いた。
と、トニーが男の右足首を掴んだ。
「ま…まて…よ…」
気を失っていると思っていたのに、まだ抵抗するのかと舌打ちした男は、再びナイフを握り直した。
「しつこいガキだな?」
と言うと、男はナイフをトニーの右手の甲に刺し、背中を何度か踏み付けると、仲間を連れてその場を立ち去った。

去り際に囁かれた『ヴァージニアは永遠に俺の物だ…』という言葉。もはや意識どころか、命まで潰えそうなトニーを辛うじて生かしていたのは、その言葉だけだった。
彼女に危険が迫っている…。彼女を守れるのは自分しかいない…。そう思うと、いても立ってもいられなかった。
まずは助けを呼ぼうと這うようにして手を伸ばしたトニーだが、身体は言うことを聞かない。刺された腹部からはどす黒い血が溢れ出し、周りは血の海と化している。必死に立ち上がろうとするが、雨と血で濡れた手は滑り、ナイフの刺さったままの右手は感覚すらない。そして、全身の骨が砕けているのか、指先を動かそうとしても身体中に猛烈な痛みが走り、頭はハンマーで殴られ続けているように酷く痛む。携帯は破壊されてしまったし、声を出そうにも息をすることすらできない。
こんな路地裏では誰にも気付いてもらえないだろう。どうすることも出来ず、トニーは頭を持ち上げることを諦め、頬を地面にぺたりと付けた。
(ペッパー…)
声に出したつもりが、口からは息の漏れる音しかしない。
(くそ……どうして俺は…いつも…大切な人を…守れないんだよ…)
痛みとそして悔しさから、トニーの目からは涙が零れ落ちた。と、ぼんやりとし始めた視線の先に女性の姿が現れた。

ペッパーだ。ペッパーが来てくれた。
いや、幻影に決まってる。彼女はLAから遠く離れた地にいるのだから。
それでも最期に最愛の女性の姿を見ることができた…。
(ペッパー……ごめん……)

キャーという悲鳴と、助けを呼ぶ声は、トニーの耳には入っていなかった。
ふぅと大きく息を吐いたトニーは、ゆっくりと目を閉じると意識を手放した。

⑧へ…

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Everything Is For You⑥

3週間後、2人は同じ家で暮らし始めた。庭にプールまである、学生が住むにしては立派すぎる家に初めは面食らったペッパーだが、大きなキッチンを見ると、美味しい物を沢山作ってあげれるわと目を輝かせた。
家に帰ると温もりがある…それはトニーもペッパーもずっと求めていたことだった。
そして2人きりの生活の中で、お互いのことをもっと良く知ることができた。
例えばトニーは朝が苦手だった。なかなか目を覚まさない彼を、ペッパーは毎日あれこれ手を使って起こすのが日課となっていた。

「トニー、起きて!」
今日も朝一から講義があるというのに、トニーはなかなか起きようとしない。
「うーん……あと5分……」
隠れるようにシーツの中に潜り込んでしまったトニーだが、いい加減起こさないと本当に遅刻してしまう。頬をふくらませたペッパーは、勢いよくシーツと毛布を剥ぎ取った。何も着ていない素肌には寒かったのだろう。くしゅんと小さなくしゃみをしたトニーは身体を丸めたが、まだ起きようとしない。
「トニー・スターク!起きなさい!!」
耳元で叫ぶと、トニーはようやく起き上がり、バスルームへと向かった。

「ふふ…新婚さんみたい」
彼の脱ぎ散らかした服を片付け、朝食の準備をし、一緒に家を出る…。ここには、ペッパーが昔から憧れていた世界があった。トニーは優しく知性に富み、ペッパーの知らない世界を沢山教えてくれた。
幸せな日々は、ペッパーの心の奥底にあった傷を癒してくれた。
だが一方でペッパーは不安だった。この幸せな世界はいつか壊されてしまうのではないかと…。
(神様、お願いします…。今度こそ…今度こそ幸せになれますように…)

夜になり食事を終えたペッパーは片付けるとシャワーを浴び始めた。すると、突然ドアが開き、トニーが入ってきたではないか。
「トニー!」
真っ赤になったペッパーは慌てて胸を隠そうとしたが、それよりもトニーの動きの方が早かった。
「何だよ、一緒に入れば時間も短縮できる」
「た、短縮って……」
背後から抱きしめられたペッパーは、胸を揉みほぐしているトニーの腕をそっと掴んだ。
「その分ベッドで過ごせるだろ?」
ニヤッと笑ったトニーは、ペッパーの耳元にふっと息を吹きかけた。告白された時はまだペッパーの方が高かった身長も、今ではトニーの方が大きくなっており、耳元で囁かれた甘い言葉に、ペッパーはすっかり酔ってしまった。
力の抜けたペッパーの身体を反転させたトニーは、キスをしながらバスルームの壁に彼女を押し付けた。そしていつものように巧みな愛撫でペッパーを高みへと導いていったのだが、シャワーから落ちる水音とペッパーの妖艶な声がバスルームに響き渡り始めると、両脚を抱え身体を潜り込ませた。
下から突き上げられ、トニーの首元にしがみついたペッパーはギュッと彼を締め付けた。小さく唸ったトニーはシャワーを止めると、彼女を抱えたままベッドへ向かった。

「あぁ…君の声…最高だ……」
もっと感じさせようと、1度身体を離したトニーはペッパーをうつ伏せにさせると、尻を持ち上げた。尻を振りながら催促する彼女は妖艶で、ペロリと唇を舐めたトニーは愛の言葉を囁きながら、ペッパーに覆いかぶさった。

その頃、2人の家から少し離れた場所に、1台の車が停まっていた。リフォーム業者のロゴ入りの車だが、窓ガラスにはスモークが張られ、中の様子を窺い知ることはできないが、もう何日も停車している車に、住人の中には不審に思う者も出始めていた。
車の中には数人の男がおり、数多く搭載されたモニターを見ていた。モニターに映っているのは、愛し合うトニー・スタークとペッパー・ポッツの姿。
2人の様子をじっと見ていた男は、手元にあるトニーの写真に目を移すと、右手で握っていたナイフを突き立てにやりと笑った。
「…もうすぐだ。すぐに会えるよ…ヴァージニア…」

⑦へ…

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Everything Is For You⑤

ダンスパーティーの効果は抜群で、週末駆け巡った噂は月曜日には学園中の生徒が知る話となっていた。
殆どの女子生徒は卒倒し泣き叫び、午前中の講義では欠席者が相次ぐ程だった。ペッパーに憧れている男子生徒も大勢いるが、相手がトニーだと引き下がらざるを得ないためか、こちらもため息ばかり付く生徒が続出だった。
だが、みんな面と向かって本人達に何か言う訳ではなく、コソコソと遠巻きに話題にするだけだった。
さすがに職員であるペッパーに物申す者はいなかったが、中には果敢にもトニーをからかう者もいた。
「お前の恋人、10も年上だろ?」
「しかし、いいなー。ポッツさん、めちゃくちゃスタイルいいし」
だが、以前から周りの野次には全く興味を示していないトニーだったから、今更何を言われても知らぬ顔だったのだが…。
むしろ、公になったのだからと、トニーは以前にも増して堂々とペッパーと人前でキスをするのだ。ランチタイムになると、カフェテリアの隅が2人の定位置となった。時折トニーの友人たち…ブルースとナターシャ、クリントとローラ、ソーと弟のロキ、そして生徒会長であるスティーブ・ロジャースも混ざるのだが、大概は2人きりでランチタイムを楽しんでいた。

そんな光景が当たり前のものとなった頃、トニーはキッチンで夕食を作るペッパーの後ろ姿を椅子に座りボンヤリ見つめていた。結局、結ばれたあの日以来、トニーはほぼ毎日ペッパーの家に入り浸っていた。次第に持ち込まれる荷物も増え、今では寮に残された荷物は殆どない程だ。
いっそのこと、一緒に住んだ方がいいかもなぁ…と考えていたトニーの思考は、ペッパーの運んできた料理で中断した。

「なぁ、ペッパー。一緒に住まない?今でも一緒に住んでるようなものだけど…」
夕食を食べながら、トニーは思い切って尋ねてみることにした。嬉しそうな顔をしたペッパーだが、部屋に視線を移すと、顔を曇らせた。
「でも…」
ペッパーの家で同棲するには手狭だ。今のこの状態でも、トニーが毎日持ち込んだ衣類や細々した物は、置き場所がなく箱の中に押し込んであるのだ。しかも今眠っているベッドも狭すぎて、トニーはよくベッドから落ちているのだから。
ペッパーの態度から推測すると、今も半同棲状態なのだから、共に暮らすことに抵抗はないようだ。問題はどこに住むか…それだけなのだろう。となると、2人で住める家を借りればいいだけだ。
ぽんっと手を叩いたトニーは、ペッパーに向かってニッコリと笑ってみせた。
「じゃぁ、二人で家を借りよう。元々半年経ったら寮を出る予定だったんだ。だから、2人で暮らせる家を借りるよ」
家の問題が片付くと、今度は本当にいいのだろうかと思い始めたのか、ペッパーはあたふたし始めたではないか。
「で、でもトニー…。あなたはまだ学生だし…それに…」
ペッパーがもごもごと口ごもったのは、結婚もするか分からないのに正式に暮らしていいものかと、迷いが出たからだろうか…。そう気付いたトニーは、そっとジーンズのポケットを触れた。ずっと持ち歩いていた物を渡すいいチャンスかもしれない。

「結婚しよう」

前触れもなく言い過ぎたのか、ペッパーは目を丸くして穴が開きそうな程トニーを凝視したままだ。
「おーい、ペッパー・ポッツさん?戻ってきて?」
あまりに黙ったままなので痺れを切らしたトニーは、ペッパーの目の前でヒラヒラと手を動かした。ようやく我に返ったペッパーは、まるで信号機のように青くなったり赤くなったりしている。
「と、トニー、あなたはまだ16歳よ?!」
テーブルを思いっきり叩き立ち上がったペッパーは、叫ぶように告げた。あまりの声の大きさにトニーはわざとらしく耳を塞ぐとため息をついた。
「何だよ。結婚できる年齢だぞ?」
唇を尖らせたトニーを見たペッパーは、彼が本気であることを理解すると、何とか冷静になろうと胸に手を当て何度も深呼吸をした。
「トニー、一緒に暮らそうと言ってくれたのは嬉しいわ。私もあなたとずっと一緒にいたいから。でもね、結婚はまだ早いわ。今は付き合い始めたばかりよ。お互いのことをもっと良く知ってから決めても遅くないわ。それにあなたのご両親だって、お許しにならないわよ…」
トニーと付き合い始めてもうすぐ半年。思い返せばトニーの口から両親の話は聞いたことがない。おそらく自分たちのことは話してないのだろうが、10近く年上の女性が相手となると、彼のご両親はいい顔はしないだろうとペッパーは思っていたのだ。
だが、ペッパーの言葉を無視したトニーは、
「じゃあ、こうしよう」
と呟くと立ち上がった。そしてペッパーの目の前に跪いたトニーは、ジーンズのポケットから取り出した小さな箱をペッパーの目の前で開いた。

「ヴァージニア・ポッツさん。俺が高校を卒業したら結婚してください」
目の前に光る指輪…それは彼が前々から用意していた物に違いない。
「スタークくん…」
その真摯な眼差しから目が離せなくなったペッパーは、知らず知らずのうちに手を握りしめた。
「俺、もう決めてるから。結婚するならペッパー、君としか結婚しない。付き合ってまだ半年も経ってないから、早まるなという君の気持ちも分かる。でも、俺にはあなたしかいない。あなたは俺の太陽なんだ。初めてのデートで見た、あの夕日のように、あなたは俺のことをいつだって温かく包み込んでくれる。だから俺はあなたと永遠に一緒にいたい」
嘘偽りのない瞳にじっと見つめられたペッパーだが、彼女は不安だった。トニーには話したことのない、とある事情のせいで…。その不安を払拭するかのように頭を軽く振ったペッパーは、まだ跪いたままのトニーには向かって手を差し出した。
「…ずっとそばにいてくれる?」
余程ペッパーの返事が心配だったのだろうか、ほっと息を吐いたトニーは、満面の笑みを浮かべた。
「あぁ、もちろんだ。俺は死んでも君のそばから離れないよ」
一瞬顔を強張らせたペッパーだが、トニーが指輪を嵌める姿を見ながら、心の中で祈った。
(今度こそ、彼が私と永遠にいてくれる存在でありますように…)

⑥へ…

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