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On Your Side Forever おまけ

10年振りの再会から3日後。
『ポッツ様、おはようございます』
ジャーヴィスの声に叩き起されたヴァージニアは、目を擦りながら大あくび。ちなみにジャーヴィスとは、トニーが開発したA.I.。9年前に亡くなった執事に因んで名付けられたらしい。家が喋り始めたため最初は驚いたヴァージニアだが、A.I.とはいえ、英国紳士なジャーヴィスに1日経つと彼女もすっかり慣れていた。
時計を見ると5時。本当は昨夜LAに戻る予定だったが、トニーと離れたくないという気持ちの方が勝ってしまい、今朝6時に出発するように変更したのだ。今朝は10時から会議があるため、絶対に戻らなければならない。それに彼も9時から会議だと言っていたはず…。
「トニー…起きて…」
腕の中に閉じ込められ身動き取れないのだから、何が何でもトニーを起こさなければならない。
「おはよ…ハニー…」
寝ぼけた声を出したトニーだが、ぎゅうぎゅうとヴァージニアを抱きしめると、首筋にキスをし始めた。この3日間、ずっと抱かれていたヴァージニアは、首筋を擽る彼の唇の感触に小さく呻いた。
「あん…ダメ。LAに戻らなきゃ…」
身体を捩り抵抗するヴァージニアに、トニーは不機嫌そうに唸った。
「戻るな。ずっとこっちにいろ」
「無理よ。会社があるもの…。それに、6時には飛行機に乗らないと…」
時間を確認するように時計を見上げたトニーは、ニンマリ笑うとヴァージニアをベッドに押し倒した。
「5時半に出れば間に合う。あと30分あるな…」
確かに空港までは30分あれば十分だし、何よりもプライベートジェットなので多少の遅れは何とかなるが、シャワーを浴びて身支度も整えなければならないのにと、ヴァージニアは焦った。
「え?!ちょ、ちょっと!トニーったら!」
非難めいた声を上げたヴァージニアだが、結局のところ彼女も1秒でも長くトニーと共にいたいのだから、彼の身体にしがみつくと甘い声を上げ始めた。

***
「来週末は俺がLAに行くよ」
空港まで猛スピードで車を走らせながら、トニーはヴァージニアに告げた。

結婚式はお互いスケジュールが詰まっており、半年以上先になりそうだが、せめて共に暮らしたい…。だが、スターク・インダストリーズの本社はNY。一方、ポッツ・インダストリーズの本社はLA。という訳で、今度はどちらに住むかという問題が出てくる。
結局結論は出ず、当面は週末をどちらかの家で過ごすことになったのだが…。

空港へ到着しても、ヴァージニアはなかなか車を降りようとしない。そればかりか、甘えたようにトニーに抱きつくとキスをねだるように目を閉じた。真っ赤なルージュの引かれた唇を奪うと、彼女はトニーの胸元に顔を押し付けた。
「毎日電話していい?」
様子を伺うように見上げてくるヴァージニアはまるで10代の少女のように可愛らしく、頭にキスをしたトニーは悪戯めいた笑みを浮かべた。
「もちろんだ。知ってるか?電話でもセックスできるんだぞ?早速今日の夜、試してみるか?」
あっけに取られるヴァージニアに、ご丁寧にウインクまでしてきたトニーだが…。
「…ホント、あなたって性格変わったわよね…」
ため息をついたヴァージニアは、もう1度キスをすると今度こそ車を降り飛行機へと向かった。

「おはよう!」
会議室へ向かう途中も鼻歌を歌いながら歩くトニーに、社員たちは目を疑った。あんなに機嫌のいい社長は久しく見たことがない。

10年間女気一つなく、実は男好きでホーガンとデキていると噂のあったトニー・スタークに、ついに恋人ができたらしい。それも10年前に別れた女性と再会し、よりを戻すというロマンチックな展開になったらしい…。

会議が終わる頃には、そんな噂が社内を駆け巡っており、上機嫌なトニーを社員は微笑ましいと見守っていた。

「どうでしたか?久しぶりの逢瀬は」
社長室へ戻ると、ハッピーがニヤニヤと出迎えてくれた。『ヴァージニアと再会して、よりを戻した。だから明日明後日の予定は全てキャンセルしろ』と電話を受けたハッピーは、ついにこの日がやって来たのだと自分のことのように喜んでいた。
「ジニーは相変わらずジニーだった。つまり、彼女は最高のオンナだ」
鼻の下を伸ばしたトニーの肩をハッピーは祝うようにポンッと叩いた。
と、そこへやって来たのはトニーの秘書であるバンビ。
「バンビ、来週末はLAへ向かう」
秘書に向かってそう言い放ったトニーだが、バンビは眉を吊り上げた。
「社長、来週末はアトランタで展示会があります」
そういえばそうだったと思い出したトニーだが、今は展示会よりもヴァージニアの方が大事だ。
「キャンセルしろ」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーにバンビは眉間に皺を寄せた。
「無理です」
腕を組んだトニーは不機嫌そうに唸ったが、仕事は仕事だし、何よりバンビに逆らうと後が怖い。それに、2日連続で急遽休みをもぎ取った一件もある。確か山ほど予定が入っていたはずなのに、文句の一つも言わず調整してくれた彼女には土下座して礼を言うべきなのかもしれない…。
結局、来週末LAへ行くことを諦めたトニーは、夜にでもヴァージニアに電話で知らせようと、すごすごとデスクへ座り書類を見始めた。

「…ということで、来週末は会えなくなった…。すまない」
しょんぼりと告げると、ヴァージニアはトニーを宥めるように話し始めた。
『仕方ないわ。仕事ですもの。その代わり、再来週は会えるでしょ?』
「あぁ。俺がそっちへ行く。君の手料理を食べさせてくれ」
『えぇ。あなたが好きな物をたくさん作るわね』

…と、2週後の再会を約束した2人だが、現実はそう甘くなかった。

「ダメだ…もう限界…」
毎日でも顔が見たいのに、毎週のようにどちらかに仕事が入り、結局1か月も顔を見ていない。
毎日電話はしているし、時折電話越しに愛しあってはいるが、いい加減本物の彼女に触れないと気が狂いそうだ。
デスクに倒れ込んだトニーに、ハッピーはため息を付いた。
10年会っていなかったことを思えば1か月くらい我慢しろ、それに2日後には今度こそ会えるだろと告げると、トニーは頬を膨らませハッピーを睨み付けた。
「おい、ハッピー。思いが通じ合っているのに会えないんだぞ?1か月くらい?俺には100年の長さに感じる。それに俺がどんな思いで毎日一人で慰めてるか分かってるのか?電話の画面の向こうでは彼女がエロい顔を見せつけてイってるのに、キスすることもできないんだぞ?」
えらく卑猥なことを言っているが、トニーが喚くとそうは聞こえないから不思議だと、いつもの文句を適当に聞き流していると、名案でも思い付いたのか、トニーが顔を輝かせた。
「よし!決めた!やはり本社をLAに移すぞ!」
偶然かまたは運命なのか…、東海岸にある工場と研究所が手狭になってきたため、実は1年前からLAの郊外へ第二工場と研究所を建設中だったのだ。現施設よりも最新機器が揃っており広大な敷地を持つ新施設は、確かに新本社としては最適かもしれない。
「そうと決まれば、早速役員会を招集しろ!」
今にも飛び出していきそうなトニーを制したハッピーは、まずはトニーの秘書であるバンビに状況を報告しようと部屋を後にした。

翌日、緊急事態だと招集された役員たちは何事かと慌てて集まってきた。
彼らの前に立ったトニーは大事な報告があると咳ばらいをし話し始めた。
ポッツ・インダストリーズのCEOであるヴァージニア・ポッツと婚約したこと、LAの新施設は2か月後に完成するが、それを機に本社をLAへ移転すること…。
本社の話は兎も角、ヴァージニアとの結婚の件は相談もなく…と反対意見も出るかと思っていたが、トニーの予想に反して役員たちは満場一致で大賛成。というのも、この10年間、浮いた話一つなく、スターク・インダストリーズの後継ぎは一体どうなるのかと、皆が気を揉んでいたのだ。そのため、2か月後の新施設完成を機に、スターク・インダストリーズは本社をLAへ移転することに決まった。

一方のヴァージニアは…。
彼女も役員会でトニーと結婚することを報告していた。が、こちらはトニーと事情が違った。大多数の役員は、10年越しの恋が成就したと喜んでくれたのだが、一部の人間はトニーは裏切り者だと反対したのだ。全員に祝福してもらえるとは思っていなかったヴァージニアだが、反対派はトニーを罵倒し続けている。彼らの言葉にしばらく耳を傾けていたヴァージニアだが、我慢できなくなり机をバンっと叩くと立ち上がった。シーンと静まり返った室内を見渡したヴァージニアは、怒りを抑え努めて冷静に語り始めた。
「あなたたちは彼が成功したから嫉妬してるんでしょ?何もない所から1から会社を立ち上げ、毎日頭を下げ続けて…。彼はひた向きに努力し続けたから、今の彼があるのよ?では、あなたたちも彼と同じことをしてご覧なさい?あなたたちは安泰な身分を捨ててまで辛抱出来ないでしょ?だったら、彼のことを悪く言うのはやめなさい!」
役員会でヴァージニアがここまではっきり言ったのは初めてのことだった。一段と静まり返った室内をもう一度見渡したヴァージニアは、手元の資料をかき集め、出口へと向かった。
と、彼女が足を止めた。そして先ほどよりも表情を緩めたヴァージニアは、静かに告げた。
「それから、彼は私の夫になるの。私のことを悪く言うのはいいわ。でも彼のことを傷つけようとしてみなさい。私が絶対に許さないから…」

***
役員会で啖呵を切ってしまったヴァージニアは、疲労困憊で家へと戻って来た。
確か今日はトニーがこちらに来る日だ。
何時になるか連絡はまだないが、おそらく仕事が終わって来るだろうから夜遅くだろう。彼が来るまでに美味しいものを作って待っていよう…。
そんなことを考えながら玄関を開けたヴァージニアだが、誰もいないはずの室内には電気が煌々と灯っており、何やら美味しそうな匂いもするではないか。
(トニーが来てる!)
慌ててダイニングへ駆け込むと、自分の花柄エプロンを付けたトニーは、テーブルの中央に真っ赤なバラを飾りながら一人ブツブツと言っているではないか。
「…だからな、ジニー。お前との結婚も報告してきた。新施設も2か月後には完成する。それを機に本社もこっちへ移す。だから後2か月待ってくれ。一緒に暮らせるようになるから…。そしたら結婚式を挙げよう…。と言うと、きっとジニーは俺に飛びついてキスしてくるぞ?いや、待てよ。準備のためだからと早めに俺だけこっちに引っ越せばいいのか。それなら今月中に引っ越して…」
そっと聞き耳を立てていたヴァージニアだが、予行演習でもしているのか一人で劇をしているトニーに可笑しさがこみあげて来た彼女は、とうとう声を出して笑い始めた。
まさか帰ってきてるとは思いもしなかったのだろう。飛び上がったトニーは背後にヴァージニアがいることに気付くと、バツが悪そうに頭を掻いた。
「帰ってたのか」
「えぇ、さっきね。あなたこそ、連絡ないから今日は遅いのかと思ってた」
まだクスクス笑っているヴァージニアは、ヒールを脱ぐとトニーに抱きついた。
「いや、驚かせようと思って連絡しなかったんだ」
ヴァージニアの額にキスをしたトニーは、悪戯めいた笑顔でウインクした。
1か月ぶりに会ったトニーは相変わらずカッコよく、何万回か目の恋に落ちたヴァージニアは彼の胸元に顔を付けた。
「ねぇ、さっきの話、ホント?」
「本当だ。君と結婚すると言ったら、満場一致で大賛成された。10年もオンナの影がなかったから、俺はハッピーとデキてると思われていたらしいし…」
声を上げて笑い出したヴァージニアに、トニーは先ほどの話の続きをし始めた。
「で、家なんだが…。実はマリブに土地がある。海沿いの岸壁に。そこに家を建てようと思ってる。だけど時間がかかるだろ?それまではここに住んでいいか?」
「もちろんよ。家の問題は片付いたわね」
頷いたヴァージニアは首を伸ばし、トニーの顎下にキスをした。
「ねぇ、トニー。私をいつ正式なミセス・スタークにしてくれるの?」
問題が一つずつ片付いていくと、彼が自分のものだと世間に言いたくなってきた。それはトニーも同じだったようで、ヴァージニアの尻を掴んだトニーは唇を奪うと笑みを浮かべた。
「そのことだが…。明日、ベガスに行かないか?2人だけの式を挙げよう。一応、式場は抑えてあるんだ。いや、ハッピーだけは連れて行ってやろう。あいつは俺たちの事、誰よりも近くで見守ってくれたから…。本社を移転したら暫く忙しくなると思う。落ち着いたらこっちで2回目の結婚式を挙げよう。盛大な結婚式をだ。ジニーは俺のものだと全世界にアピールしないといけないだろ?ハネムーンはそれからになりそうだけど…いいか?」
いいも何も、彼がここまで考えてくれていたことが嬉しくて堪らない。
顔を輝かせたヴァージニアは大きく頷くと再びぎゅっと抱き付いた。
「じゃあ、今日はミス・ポッツとしての最後の夜なのね?よかったわ。最後の夜にあなたがいて…」
自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、真っ赤に頬を染めたヴァージニアはそれを隠すようにトニーの肩に顔を埋めた。
「では、その栄誉ある最後の夜を、共に過ごさせて頂きます」
おどけた様に顔を作ったトニーは、ヴァージニアを抱き上げると歩き始めた。
「…明日、ドレスが着れるようにしてね?」
「努力するよ、ジニー」
甘いキスを顔中に受けながら、ヴァージニアは何があっても絶対に彼の手を離さないと、トニーに身体を預けたのだった。

6 人がいいねと言っています。

On Your Side Forever㉕【END】

翌朝、一足先に目覚めたヴァージニアは、ぐっすり眠っているトニーを起こさないよう起き上がった。
床に落ちているトニーのシャツだけを羽織ると、ヴァージニアはキッチンへと向かった。
昔から料理上手なトニーのキッチンは、さながらレストランの厨房のようにありとあらゆる物が揃っていた。
「何がいいかしら…」
冷蔵庫や戸棚などをしばらく物色していたヴァージニアは、彼の好きな物を沢山作ろうと腕まくりをした。

朝食の準備が整ったが、トニーはまだ起きてこない。
そろそろ起こしに行こうかと考えていると、ようやくトニーがキッチンに姿を現した。
「おはよ、トニー」
「おはよう、ジニー」
軽くキスをしたトニーは、新聞を取ると椅子に座った。そしてテーブルに並んだ豪華な朝食に目をやると、ポカンと口を開けたままヴァージニアを見つめた。
「これ…ジニーが作ったのか?!」
ワッフルにパンケーキ、クルミパン、サラダにスクランブルエッグ、ウインナーに果物、そしてスムージーなどなど、大きなテーブルの上いっぱいに並んだ料理にトニーは本気で驚いているようだ。
「そうよ、私が作ったの。一人で作ったのよ。言ったでしょ?あれからずっと料理は習いに行ってたって。だから10年間の成果をしっかり堪能して!」
ぷぅっと頬を膨らませたヴァージニアの姿はちっとも変わりなく
「その顔、変わらないな。可愛い」
と苦笑したトニーは、美味しいと連発しながら朝食を食べ始めた。

2人とも空腹だったのだろう。あっという間に朝食は姿を消してしまった。
「コーヒーのお代わり、いる?」
「あぁ、頼む」
立ち上がったヴァージニアは腰を振りながらカウンターへと向かったのだが、むっちりとした尻はさらけ出されており、トニーはひゅぅと口笛を吹いた。
「下着なしか?いい眺め」
コーヒー片手に戻って来たヴァージニアの腰を抱き寄せたトニーは、尻を軽く叩いた。
「あんっ。トニーったら…」
叩かれると同時に秘部に触れられ、数時間前までの情事を思い出したヴァージニアは小さく呻いた。
そのまま向かい合うようにヴァージニアを膝の上に座らせたトニーは、尻を撫でながらシャツの上から胸の先端を甘噛みした。
「ん…」
秘部から蜜がこぽっと溢れだした。トニーのバスローブの紐を引っ張ったヴァージニアは、前を肌蹴させると彼の胸板に指を滑らせた。
「このままここでセックスする?」
今日も、そして明日も休みを取ったのだから、愛し合う時間はたっぷりある。キッチンでした後は、バスルームで…と思い描いたヴァージニアは、トニーの咳払いで現実へと引き戻された。

「いや、その前に…」
と、真剣な瞳をしたトニーはバスローブのポケットを探ると、小さな箱を取り出した。そして何事かと目をぱちくりさせるヴァージニアの目の前でトニーは箱を開いた。
そこにあったのは、指輪だった。
「これ…」
状況が把握できていないのか、ヴァージニアはうろたえている。彼女を安心させるようにキスをしたトニーは、指輪を取り出すと10年越しの言葉を告げた。
「ジニー、俺と結婚して下さい」
指輪を手渡されたヴァージニアは、指輪に文字が刻まれていることに気付いた。
“On Your Side Forever…”
『永遠に君のそばにいる…』。その言葉には聞き覚えがあった。アンギラでの休暇中、愛し合いながら彼は何度もその言葉を囁いてくれたのだから…。

「いつ用意したの…」
目に涙を溜めたヴァージニアは、震える声で囁いた。
「10年前。君の誕生日に渡そうと用意してた。だけどああいう別れ方をして、結局渡せなかった。ようやく渡せたよ」
ふぅと息を吐いたトニーは嬉しそうに笑ったが、ヴァージニアは大粒の涙を流したまま何も言わないではないか。
「で、俺の10年越しのプロポーズの返事、聞かせてくれないか?」
こつんと額を軽くぶつけると、顔を歪めたヴァージニアはトニーにぎゅっと抱き付いた。
「トニー…永遠に…何があってもあなたのことを愛し支えていくわ…。だからお願い…。ずっとそばにいてね」
しくしく嗚咽を漏らしながらもそう答えたヴァージニアは、トニーの唇に貪りついた。

(これでようやくジニーを俺だけのものにできる…)

キスに応えながらもヴァージニアを抱きかかえたトニーは立ち上がった。そしてそのまま彼女をカウンターの上に座らせると、ニッコリと微笑んだ。
「さぁ、リクエストにお答えして…続きをしようか、ミセス・スターク?」

【END】
トニーとペッパーの立場が逆転したら…というお話です。
長々と読んで頂き、ありがとうございました♪
後程、おまけもupします♪

おまけへ…

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On Your Side Forever㉓

それから10年の月日が経った。
トニーはあの日誓ったように、兎に角、朝から晩までがむしゃらに働いた。
ポッツ・インダストリーズとは別分野でと、父親の開発していたアークリアクターを利用したクリーンエネルギー事業に参入したのだが、最初の2年は大変だった。ポッツ社長を裏切ったと後ろ指を指され、最初は全く相手にされなかった。が、トニー・スタークはやはり天才だった。リアクターの小型化に成功したトニーは、次々と事業を成功させていき、スターク・インダストリーズは今や世界一の企業へと成長していた。
若く才能溢れるトニーの元には、数多くの女性が近づいてきた。が、トニーはどんな女性にも靡かなかった。彼の心には、たった一人の女性が住んでいるのだから…。

一方のポッツ・インダストリーズは…。
トニーが去った後、ヴァージニアは人が変わったように仕事に打ち込み始めた。周囲の人々は、トニーのことを忘れようとしているのだと思っていたが、ヴァージニアはトニーに見せたかったのだ。一人でも頑張っている姿を…。だから心配しないでと、伝えたかったのだ。結果、ポッツ・インダストリーズは軍への武器の納入を一手に引き受けるようになり、ヴァージニアも毎日忙しい日々を送っていた。が、ヴァージニアは孤独だった。彼女も彼のことを忘れることが出来なかったのだ。

***
その日、NYではとあるチャリティーパーティーが行われていた。
いつものように近づいてくる女性を適当にあしらっていたトニーだが、取引先の社長が一人の女性を連れて向かってくるのに気付くと小さく舌打ちした。
40過ぎても独身の彼に、知り合いは毎回のように女性を紹介してくるのだ。そのため、今日も気の進まないオンナと話をしないといけないのかと思ったトニーだが、仕事上嫌な顔ができるはずもなく、無理矢理笑みを作った。
「ご紹介したい女性がいるんです。彼女、こういうパーティーにはなかなか来ないんですが、今回はあなたに会わせようと無理矢理連れてきたんです」
取引先の社長は、背後にいた女性をトニーの前に引っ張り出した。
美しい赤毛を持つ女性は、彼の心に永遠に住み続ける女性を彷彿させた。
と、女性が顔を上げた。トニーと彼女の瞳が交錯した瞬間、2人の周りは時が止まった。
それは、10年間恋い焦がれていたヴァージニアだったのだ。
彼女もまさか紹介したいと言われた男性がトニーだとは思わなかったのだろう。目を見開いた彼女は唇を震わせながらも、消え入りそうな声で彼の名を囁いた。
「トニー…」
「ジニー…」
見つめあったまま固まる2人に、事情を何も知らない取引先の社長は、ハハッと楽しそうに笑った。
「おや、お知り合いでしたか!それなら話は早いですね。彼女も独身なんです。お2人とも、お似合いですよ」

しばらくして、トニーがようやく口を開いた。
「…元気だったか?」
何度か瞬きしたヴァージニアはトニーをじっと見つめた。彼の琥珀色の瞳は10年前と変わっていなかった。変わったことといえば、髭を生やしていることだろうか…。加えて、微かに笑った彼の目元には皺が見え隠れしており、それだけが、10年という月日の長さを物語っていた。
「ええ。あなたは?」
小さく頷いたヴァージニアに、トニーは髭を撫で付けた。
「まぁまぁだ…」
何を話したらいいのか分からない。10年前、あんな別れ方をしてしまったが、久しぶりに再会するとお互いへの思いが溢れ出してきた。だが、それを口にしていいのか、2人は迷っていたのだ。
「まだ結婚してなかったのか?」
何とか会話の糸口を探ろうと、トニーは先程の紹介主の言葉を思い出しそう告げたが、
「お互い様でしょ?」
と、ヴァージニアは肩をすくめた。

本当は言いたかった。あなたのこと…忘れられなかったと。あの時、あなた以外の男性とは結婚しないと誓ったのだから…。

言葉に出そうかヴァージニアは迷った。
だが、10年という歳月は長すぎた。今更あの日のことを蒸し返しても、きっと彼は受け入れてくれないだろう…。

「ジニー……」
何か言いたげにトニーが名を囁いた。久しく聞いていない呼び名にヴァージニアは心が揺らいだが、それを振り切るようにトニーに手を差し出した。
「会えてよかったわ、トニー」
だが、トニーはその手を握ろうとしなかった。

(やっぱり…遅すぎたのよね…)

目に見えて動揺しているトニーに、ヴァージニアの胸はチクリと傷んだ。
「さよなら…」

零れ落ちそうな涙を堪えたヴァージニアは、クルリと向きを変えるとトニーの元から足早に立ち去った。

頭の中は混乱している。
あの日、別れを告げてきたのは彼女の方だった。きっと彼女なりの考えがあり別れを決断したのだと思い、必死で彼女への思いを見せないように封印していた。だが、実際に再会してみると、彼女への思いは募る一方。
遠ざかって行くヴァージニアに、トニーは自問した。

このままでいいのか?
このままだともう2度と会えないんだぞ?
10年間、ずっと後悔し続けたじゃないか…。何も言わず彼女の決断を受け入れたことを…。

それに…彼女の指にあった指輪…。それは10年前に自分がプレゼントしたものだった。
つまり…彼女も、この10年間、自分を思い続けてくれていたということじゃないのか?

トニーは走り出した。ヴァージニアの後を追い、走った。
彼女は会場を立ち去ろうとしていた。迎えに来た車に乗り込もうとする彼女の背中に、トニーは大声で叫んだ。
「ジニー!待てよ!」
彼女が肩を震わせた。立ち止まった彼女は、車のドアに手をかけたまま動かなくなった。
ようやく追いついたトニーは、少し離れた場所に立ち止まると、未だ振り返ろうとしない彼女に告げた。
「10年前…どうしてあんなこと言ったんだよ。嘘だったんだろ?どうして嘘をついてまで、俺のことを…」
彼女が嗚咽を漏らし始めた。そして振り返った彼女は、大粒の涙をボロボロと零しながら震える声ではっきりと告げた。
「あなたに自由になって欲しかった…。私の為に、あれ以上、自分を犠牲にして欲しくなかった…。だから…私…」
ヴァージニアは最後まで言うことが出来なかった。彼女はトニーの腕の中に閉じ込められていたのだ。

「俺…この10年間、ずっと考えた。あの時の選択は正しかったのかって…。君のおかげで俺はスターク・インダストリーズを再興できた。でも、ずっと虚しかった。さみしかった。君がいない人生なんて…俺にとって何の意味もないんだから…」
トニーの腕の中は温かく、そして何よりもこの10年間、ずっと胸の中に開いていた大きな穴をみるみるうちに埋めてくれた。
ギュッと力強くヴァージニアを抱きしめたトニーは、もし彼女と再会できたら言おうと思っていた言葉を告げた。
「ジニー…もし君が今でも俺のことを思ってくれていたら…そばにいてくれ…」

トニーも同じ思いだった。彼は10年間、ずっと自分のことを思ってくれていたのだ。

「トニー………」
トニーのジャケットを握りしめたヴァージニアの涙が、彼の肩を濡らしていった。
「私…ずっとあなたに会いたかった……。本当はずっとあなたのことばかり考えてた……。だって…あなたのこと…心から愛してるから…」

お互いが10年振りに素直になれた瞬間だった。
トニーは目元に浮かんだ涙をそっと拭うと、ヴァージニアの顎を持ち上げた。涙で光る彼女の瞳の中に、ようやく自分の姿が映り込んだ…。チュッと音を立てて額にキスをしたトニーは、彼女の涙を指で拭うと、ヴァージニアの手を取り指を絡めた。
「俺もだ。この10年、毎日君のことばかり考えてた…。何度も会いに行こうと思った…。だけど、怖かった。君に拒否されるかもしれないと思うと…」
「私も…」
ふふっと笑いあった2人は、手を固く握ると歩き出した。

「ジニー、俺はもう二度と君を手放さないからな…」
繋いだ手にキスをしたトニーに、我慢出来なくなったヴァージニアは、彼に抱きつくと唇を奪った。

㉔へ…(R-18です)

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On Your Side Forever㉒

5日後。
一人の間、トニーは今後のことを真剣に考えた。そして考えに考え抜いた挙句出した答えは『ヴァージニアのそばにいる』ということだった。
確かにスターク・インダストリーズを再興させたいという思いもある。だが、これからの人生において何よりも大切にしたいのは、ヴァージニアの存在だった。彼女を支え、共にポッツ・インダストリーズを盛り上げていくことが、今の自分にとって大切なことだとトニーは考えたのだ。

が、ヴァージニアは違った。
彼女はトニーへの思いを封印し、夢を応援しようと決めた。そのためには、自分が悪者になろうとも…。

そのため、出張から戻って来たヴァージニアは、社長室でトニーと顔を合わせるなり冷たい声で彼に告げたのだ。
「トニー、別れましょ」
突然別れを切り出され、トニーは面食らった。
理由がさっぱり分からない彼は、震える声で彼女の名を囁いた。
「ジニー…どうして…」
腕を伸ばし抱きしめようとすると、ヴァージニアは身を捩った。
「DCでのパーティーで、凄く有能な人に出会ったの。彼とは意気投合しちゃって…寝たわ。彼と比べると…あなたは真面目すぎて…面白みがないの。飽きちゃったの。あなたといることが…。だから、婚約は破棄させて…」
唐突すぎる話にトニーは目を細めた。ヴァージニアは、目を合わせようとしない。それに先程からずっと親指の爪をいじっている。それは嘘をつくときにする彼女の癖。
ヴァージニアは明らかに嘘をついている。どうしてだか分からないが、自分を突き放そうとしている。
「彼を秘書にすることにしたの。だからあなたはクビ。出て行って頂戴。会社からも…」
目を潤ませたヴァージニアは、トニーの視線から逃げるように顔を背けた。

トニーは何も言えなかった。彼女の下した結論を尊重したかったから…。
ぐっと拳を握りしめたトニーは、寂しそうにポツリと呟いた。
「…そうか……」
零れ落ちそうな涙をぐっと堪えたトニーは、ヴァージニアに向かって頭を下げた。
「ジニー…。つまらない男ですまなかった……。それから…ミス・ポッツ…15年間、ありがとうございました」

深々と頭を下げたトニーは、荷物をまとめると何も言わず部屋を出て行った。

「ポッツ様…」
トニーが出て行った後、ヴァージニアの右腕であるリンダが部屋に飛び込んで来た。
昨日事情を聞いていた彼女は心配で部屋の外で様子を伺っていたのだ。
リンダの姿を見たヴァージニアは涙を拭うと無理矢理笑みを浮かべた。
「いいの…。こうすれば、トニーは心置きなく辞めれるでしょ?私が悪者になれば…彼は…」
文句を言いたげなリンダを制したヴァージニアは、デスクに座るとふぅっと息を吐いた。
「彼はずっと私たちに尽くしてくれました。文句の一つも言わずに…。だから、快く送り出してあげて下さい…。彼の夢を叶えるために…」

***
その夜、自宅に帰ったヴァージニアは静まり返った部屋を見渡した。
自分以外誰もいない自宅は、今の彼女には広すぎた。
トニーはすでに荷物を引き取りにきたのだろう。家のどこにも彼の痕跡は一つもなかった。

と、寝室に入ったヴァージニアはベッドにころんと横になった。トニーが眠っていた側へ転がり枕に顔を付けると、枕からは彼の匂いがした。
「トニー……」
もう二度と彼は戻って来ないのだ。自分から突き放したのだから、仕方ない。
今となっては遅いが、ハッピーから聞いた話をトニーに問い詰めればよかったのかもしれない。
でも彼は自分の気持ちを犠牲にしてでも共にいる道を選んだだろう…。これ以上、彼に犠牲になって欲しくなかった。15年間縛り付けていたのだから、彼を自由にしてあげたかった。
それでもこれから先、彼のいない人生に耐えきれるだろうか…。2人で夢見ていたことが全て消え去ってしまったのだから、これから先、何を支えに生きて行けばいいのだろうか…。

「やっぱり…無理……。あなたがいないと……。トニー…ごめんなさい…ごめんなさい…」
トニーの枕を抱きしめたヴァージニアは、その日一晩中泣き続けた。

***
数週間後。
トニーの姿はNYにあった。
真新しいオフィスはセントラルパーク近くのビルの一室にあった。
ジャーヴィスや15年前父親と共に働いていた社員たちが忙しそうに動き回るのを見ていたトニーは『スターク・インダストリーズ』というロゴの輝くフレームをそっと撫でた。
と、隣に誰かやって来た。
ハッピーだった。彼は『ヴァージニアのそばにいろ』というトニーの制止を振り切って、彼についてNYまでやって来たのだ。
「よかったのか?俺に付いてきて…」
ハッピーに尋ねると、彼はトニーの肩をポンと叩いた。
「トニー…いや、ボス。あんたは俺の友達だろ?」
「ボス…か……」
呼びなれない名に照れくさそうに鼻を擦ったトニーは、腕時計に目をやった。
それはキリアンの事件の際、退院祝いにと彼女がプレゼントしてくれたものだった。

もしかしたら、彼女は自分を独立させるためにああいう態度をとったのかもしれない。
もしそうならば、いつか彼女に胸を張って会えるよう、必死で頑張らなければならない。それが苦渋の決断をし送り出してくれた彼女の気持ちに応えることになるだろうから…。

(ジニー…いつかまた君に会える日が来るだろうか…)

彼女のいる西の方向を窓から眺めながら、トニーは絶対に成功してみせると心に誓った。

㉓へ…

2 人がいいねと言っています。