On Your Side Forever おまけ

10年振りの再会から3日後。
『ポッツ様、おはようございます』
ジャーヴィスの声に叩き起されたヴァージニアは、目を擦りながら大あくび。ちなみにジャーヴィスとは、トニーが開発したA.I.。9年前に亡くなった執事に因んで名付けられたらしい。家が喋り始めたため最初は驚いたヴァージニアだが、A.I.とはいえ、英国紳士なジャーヴィスに1日経つと彼女もすっかり慣れていた。
時計を見ると5時。本当は昨夜LAに戻る予定だったが、トニーと離れたくないという気持ちの方が勝ってしまい、今朝6時に出発するように変更したのだ。今朝は10時から会議があるため、絶対に戻らなければならない。それに彼も9時から会議だと言っていたはず…。
「トニー…起きて…」
腕の中に閉じ込められ身動き取れないのだから、何が何でもトニーを起こさなければならない。
「おはよ…ハニー…」
寝ぼけた声を出したトニーだが、ぎゅうぎゅうとヴァージニアを抱きしめると、首筋にキスをし始めた。この3日間、ずっと抱かれていたヴァージニアは、首筋を擽る彼の唇の感触に小さく呻いた。
「あん…ダメ。LAに戻らなきゃ…」
身体を捩り抵抗するヴァージニアに、トニーは不機嫌そうに唸った。
「戻るな。ずっとこっちにいろ」
「無理よ。会社があるもの…。それに、6時には飛行機に乗らないと…」
時間を確認するように時計を見上げたトニーは、ニンマリ笑うとヴァージニアをベッドに押し倒した。
「5時半に出れば間に合う。あと30分あるな…」
確かに空港までは30分あれば十分だし、何よりもプライベートジェットなので多少の遅れは何とかなるが、シャワーを浴びて身支度も整えなければならないのにと、ヴァージニアは焦った。
「え?!ちょ、ちょっと!トニーったら!」
非難めいた声を上げたヴァージニアだが、結局のところ彼女も1秒でも長くトニーと共にいたいのだから、彼の身体にしがみつくと甘い声を上げ始めた。

***
「来週末は俺がLAに行くよ」
空港まで猛スピードで車を走らせながら、トニーはヴァージニアに告げた。

結婚式はお互いスケジュールが詰まっており、半年以上先になりそうだが、せめて共に暮らしたい…。だが、スターク・インダストリーズの本社はNY。一方、ポッツ・インダストリーズの本社はLA。という訳で、今度はどちらに住むかという問題が出てくる。
結局結論は出ず、当面は週末をどちらかの家で過ごすことになったのだが…。

空港へ到着しても、ヴァージニアはなかなか車を降りようとしない。そればかりか、甘えたようにトニーに抱きつくとキスをねだるように目を閉じた。真っ赤なルージュの引かれた唇を奪うと、彼女はトニーの胸元に顔を押し付けた。
「毎日電話していい?」
様子を伺うように見上げてくるヴァージニアはまるで10代の少女のように可愛らしく、頭にキスをしたトニーは悪戯めいた笑みを浮かべた。
「もちろんだ。知ってるか?電話でもセックスできるんだぞ?早速今日の夜、試してみるか?」
あっけに取られるヴァージニアに、ご丁寧にウインクまでしてきたトニーだが…。
「…ホント、あなたって性格変わったわよね…」
ため息をついたヴァージニアは、もう1度キスをすると今度こそ車を降り飛行機へと向かった。

「おはよう!」
会議室へ向かう途中も鼻歌を歌いながら歩くトニーに、社員たちは目を疑った。あんなに機嫌のいい社長は久しく見たことがない。

10年間女気一つなく、実は男好きでホーガンとデキていると噂のあったトニー・スタークに、ついに恋人ができたらしい。それも10年前に別れた女性と再会し、よりを戻すというロマンチックな展開になったらしい…。

会議が終わる頃には、そんな噂が社内を駆け巡っており、上機嫌なトニーを社員は微笑ましいと見守っていた。

「どうでしたか?久しぶりの逢瀬は」
社長室へ戻ると、ハッピーがニヤニヤと出迎えてくれた。『ヴァージニアと再会して、よりを戻した。だから明日明後日の予定は全てキャンセルしろ』と電話を受けたハッピーは、ついにこの日がやって来たのだと自分のことのように喜んでいた。
「ジニーは相変わらずジニーだった。つまり、彼女は最高のオンナだ」
鼻の下を伸ばしたトニーの肩をハッピーは祝うようにポンッと叩いた。
と、そこへやって来たのはトニーの秘書であるバンビ。
「バンビ、来週末はLAへ向かう」
秘書に向かってそう言い放ったトニーだが、バンビは眉を吊り上げた。
「社長、来週末はアトランタで展示会があります」
そういえばそうだったと思い出したトニーだが、今は展示会よりもヴァージニアの方が大事だ。
「キャンセルしろ」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーにバンビは眉間に皺を寄せた。
「無理です」
腕を組んだトニーは不機嫌そうに唸ったが、仕事は仕事だし、何よりバンビに逆らうと後が怖い。それに、2日連続で急遽休みをもぎ取った一件もある。確か山ほど予定が入っていたはずなのに、文句の一つも言わず調整してくれた彼女には土下座して礼を言うべきなのかもしれない…。
結局、来週末LAへ行くことを諦めたトニーは、夜にでもヴァージニアに電話で知らせようと、すごすごとデスクへ座り書類を見始めた。

「…ということで、来週末は会えなくなった…。すまない」
しょんぼりと告げると、ヴァージニアはトニーを宥めるように話し始めた。
『仕方ないわ。仕事ですもの。その代わり、再来週は会えるでしょ?』
「あぁ。俺がそっちへ行く。君の手料理を食べさせてくれ」
『えぇ。あなたが好きな物をたくさん作るわね』

…と、2週後の再会を約束した2人だが、現実はそう甘くなかった。

「ダメだ…もう限界…」
毎日でも顔が見たいのに、毎週のようにどちらかに仕事が入り、結局1か月も顔を見ていない。
毎日電話はしているし、時折電話越しに愛しあってはいるが、いい加減本物の彼女に触れないと気が狂いそうだ。
デスクに倒れ込んだトニーに、ハッピーはため息を付いた。
10年会っていなかったことを思えば1か月くらい我慢しろ、それに2日後には今度こそ会えるだろと告げると、トニーは頬を膨らませハッピーを睨み付けた。
「おい、ハッピー。思いが通じ合っているのに会えないんだぞ?1か月くらい?俺には100年の長さに感じる。それに俺がどんな思いで毎日一人で慰めてるか分かってるのか?電話の画面の向こうでは彼女がエロい顔を見せつけてイってるのに、キスすることもできないんだぞ?」
えらく卑猥なことを言っているが、トニーが喚くとそうは聞こえないから不思議だと、いつもの文句を適当に聞き流していると、名案でも思い付いたのか、トニーが顔を輝かせた。
「よし!決めた!やはり本社をLAに移すぞ!」
偶然かまたは運命なのか…、東海岸にある工場と研究所が手狭になってきたため、実は1年前からLAの郊外へ第二工場と研究所を建設中だったのだ。現施設よりも最新機器が揃っており広大な敷地を持つ新施設は、確かに新本社としては最適かもしれない。
「そうと決まれば、早速役員会を招集しろ!」
今にも飛び出していきそうなトニーを制したハッピーは、まずはトニーの秘書であるバンビに状況を報告しようと部屋を後にした。

翌日、緊急事態だと招集された役員たちは何事かと慌てて集まってきた。
彼らの前に立ったトニーは大事な報告があると咳ばらいをし話し始めた。
ポッツ・インダストリーズのCEOであるヴァージニア・ポッツと婚約したこと、LAの新施設は2か月後に完成するが、それを機に本社をLAへ移転すること…。
本社の話は兎も角、ヴァージニアとの結婚の件は相談もなく…と反対意見も出るかと思っていたが、トニーの予想に反して役員たちは満場一致で大賛成。というのも、この10年間、浮いた話一つなく、スターク・インダストリーズの後継ぎは一体どうなるのかと、皆が気を揉んでいたのだ。そのため、2か月後の新施設完成を機に、スターク・インダストリーズは本社をLAへ移転することに決まった。

一方のヴァージニアは…。
彼女も役員会でトニーと結婚することを報告していた。が、こちらはトニーと事情が違った。大多数の役員は、10年越しの恋が成就したと喜んでくれたのだが、一部の人間はトニーは裏切り者だと反対したのだ。全員に祝福してもらえるとは思っていなかったヴァージニアだが、反対派はトニーを罵倒し続けている。彼らの言葉にしばらく耳を傾けていたヴァージニアだが、我慢できなくなり机をバンっと叩くと立ち上がった。シーンと静まり返った室内を見渡したヴァージニアは、怒りを抑え努めて冷静に語り始めた。
「あなたたちは彼が成功したから嫉妬してるんでしょ?何もない所から1から会社を立ち上げ、毎日頭を下げ続けて…。彼はひた向きに努力し続けたから、今の彼があるのよ?では、あなたたちも彼と同じことをしてご覧なさい?あなたたちは安泰な身分を捨ててまで辛抱出来ないでしょ?だったら、彼のことを悪く言うのはやめなさい!」
役員会でヴァージニアがここまではっきり言ったのは初めてのことだった。一段と静まり返った室内をもう一度見渡したヴァージニアは、手元の資料をかき集め、出口へと向かった。
と、彼女が足を止めた。そして先ほどよりも表情を緩めたヴァージニアは、静かに告げた。
「それから、彼は私の夫になるの。私のことを悪く言うのはいいわ。でも彼のことを傷つけようとしてみなさい。私が絶対に許さないから…」

***
役員会で啖呵を切ってしまったヴァージニアは、疲労困憊で家へと戻って来た。
確か今日はトニーがこちらに来る日だ。
何時になるか連絡はまだないが、おそらく仕事が終わって来るだろうから夜遅くだろう。彼が来るまでに美味しいものを作って待っていよう…。
そんなことを考えながら玄関を開けたヴァージニアだが、誰もいないはずの室内には電気が煌々と灯っており、何やら美味しそうな匂いもするではないか。
(トニーが来てる!)
慌ててダイニングへ駆け込むと、自分の花柄エプロンを付けたトニーは、テーブルの中央に真っ赤なバラを飾りながら一人ブツブツと言っているではないか。
「…だからな、ジニー。お前との結婚も報告してきた。新施設も2か月後には完成する。それを機に本社もこっちへ移す。だから後2か月待ってくれ。一緒に暮らせるようになるから…。そしたら結婚式を挙げよう…。と言うと、きっとジニーは俺に飛びついてキスしてくるぞ?いや、待てよ。準備のためだからと早めに俺だけこっちに引っ越せばいいのか。それなら今月中に引っ越して…」
そっと聞き耳を立てていたヴァージニアだが、予行演習でもしているのか一人で劇をしているトニーに可笑しさがこみあげて来た彼女は、とうとう声を出して笑い始めた。
まさか帰ってきてるとは思いもしなかったのだろう。飛び上がったトニーは背後にヴァージニアがいることに気付くと、バツが悪そうに頭を掻いた。
「帰ってたのか」
「えぇ、さっきね。あなたこそ、連絡ないから今日は遅いのかと思ってた」
まだクスクス笑っているヴァージニアは、ヒールを脱ぐとトニーに抱きついた。
「いや、驚かせようと思って連絡しなかったんだ」
ヴァージニアの額にキスをしたトニーは、悪戯めいた笑顔でウインクした。
1か月ぶりに会ったトニーは相変わらずカッコよく、何万回か目の恋に落ちたヴァージニアは彼の胸元に顔を付けた。
「ねぇ、さっきの話、ホント?」
「本当だ。君と結婚すると言ったら、満場一致で大賛成された。10年もオンナの影がなかったから、俺はハッピーとデキてると思われていたらしいし…」
声を上げて笑い出したヴァージニアに、トニーは先ほどの話の続きをし始めた。
「で、家なんだが…。実はマリブに土地がある。海沿いの岸壁に。そこに家を建てようと思ってる。だけど時間がかかるだろ?それまではここに住んでいいか?」
「もちろんよ。家の問題は片付いたわね」
頷いたヴァージニアは首を伸ばし、トニーの顎下にキスをした。
「ねぇ、トニー。私をいつ正式なミセス・スタークにしてくれるの?」
問題が一つずつ片付いていくと、彼が自分のものだと世間に言いたくなってきた。それはトニーも同じだったようで、ヴァージニアの尻を掴んだトニーは唇を奪うと笑みを浮かべた。
「そのことだが…。明日、ベガスに行かないか?2人だけの式を挙げよう。一応、式場は抑えてあるんだ。いや、ハッピーだけは連れて行ってやろう。あいつは俺たちの事、誰よりも近くで見守ってくれたから…。本社を移転したら暫く忙しくなると思う。落ち着いたらこっちで2回目の結婚式を挙げよう。盛大な結婚式をだ。ジニーは俺のものだと全世界にアピールしないといけないだろ?ハネムーンはそれからになりそうだけど…いいか?」
いいも何も、彼がここまで考えてくれていたことが嬉しくて堪らない。
顔を輝かせたヴァージニアは大きく頷くと再びぎゅっと抱き付いた。
「じゃあ、今日はミス・ポッツとしての最後の夜なのね?よかったわ。最後の夜にあなたがいて…」
自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、真っ赤に頬を染めたヴァージニアはそれを隠すようにトニーの肩に顔を埋めた。
「では、その栄誉ある最後の夜を、共に過ごさせて頂きます」
おどけた様に顔を作ったトニーは、ヴァージニアを抱き上げると歩き始めた。
「…明日、ドレスが着れるようにしてね?」
「努力するよ、ジニー」
甘いキスを顔中に受けながら、ヴァージニアは何があっても絶対に彼の手を離さないと、トニーに身体を預けたのだった。

6 人がいいねと言っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。