On Your Side Forever㉓

それから10年の月日が経った。
トニーはあの日誓ったように、兎に角、朝から晩までがむしゃらに働いた。
ポッツ・インダストリーズとは別分野でと、父親の開発していたアークリアクターを利用したクリーンエネルギー事業に参入したのだが、最初の2年は大変だった。ポッツ社長を裏切ったと後ろ指を指され、最初は全く相手にされなかった。が、トニー・スタークはやはり天才だった。リアクターの小型化に成功したトニーは、次々と事業を成功させていき、スターク・インダストリーズは今や世界一の企業へと成長していた。
若く才能溢れるトニーの元には、数多くの女性が近づいてきた。が、トニーはどんな女性にも靡かなかった。彼の心には、たった一人の女性が住んでいるのだから…。

一方のポッツ・インダストリーズは…。
トニーが去った後、ヴァージニアは人が変わったように仕事に打ち込み始めた。周囲の人々は、トニーのことを忘れようとしているのだと思っていたが、ヴァージニアはトニーに見せたかったのだ。一人でも頑張っている姿を…。だから心配しないでと、伝えたかったのだ。結果、ポッツ・インダストリーズは軍への武器の納入を一手に引き受けるようになり、ヴァージニアも毎日忙しい日々を送っていた。が、ヴァージニアは孤独だった。彼女も彼のことを忘れることが出来なかったのだ。

***
その日、NYではとあるチャリティーパーティーが行われていた。
いつものように近づいてくる女性を適当にあしらっていたトニーだが、取引先の社長が一人の女性を連れて向かってくるのに気付くと小さく舌打ちした。
40過ぎても独身の彼に、知り合いは毎回のように女性を紹介してくるのだ。そのため、今日も気の進まないオンナと話をしないといけないのかと思ったトニーだが、仕事上嫌な顔ができるはずもなく、無理矢理笑みを作った。
「ご紹介したい女性がいるんです。彼女、こういうパーティーにはなかなか来ないんですが、今回はあなたに会わせようと無理矢理連れてきたんです」
取引先の社長は、背後にいた女性をトニーの前に引っ張り出した。
美しい赤毛を持つ女性は、彼の心に永遠に住み続ける女性を彷彿させた。
と、女性が顔を上げた。トニーと彼女の瞳が交錯した瞬間、2人の周りは時が止まった。
それは、10年間恋い焦がれていたヴァージニアだったのだ。
彼女もまさか紹介したいと言われた男性がトニーだとは思わなかったのだろう。目を見開いた彼女は唇を震わせながらも、消え入りそうな声で彼の名を囁いた。
「トニー…」
「ジニー…」
見つめあったまま固まる2人に、事情を何も知らない取引先の社長は、ハハッと楽しそうに笑った。
「おや、お知り合いでしたか!それなら話は早いですね。彼女も独身なんです。お2人とも、お似合いですよ」

しばらくして、トニーがようやく口を開いた。
「…元気だったか?」
何度か瞬きしたヴァージニアはトニーをじっと見つめた。彼の琥珀色の瞳は10年前と変わっていなかった。変わったことといえば、髭を生やしていることだろうか…。加えて、微かに笑った彼の目元には皺が見え隠れしており、それだけが、10年という月日の長さを物語っていた。
「ええ。あなたは?」
小さく頷いたヴァージニアに、トニーは髭を撫で付けた。
「まぁまぁだ…」
何を話したらいいのか分からない。10年前、あんな別れ方をしてしまったが、久しぶりに再会するとお互いへの思いが溢れ出してきた。だが、それを口にしていいのか、2人は迷っていたのだ。
「まだ結婚してなかったのか?」
何とか会話の糸口を探ろうと、トニーは先程の紹介主の言葉を思い出しそう告げたが、
「お互い様でしょ?」
と、ヴァージニアは肩をすくめた。

本当は言いたかった。あなたのこと…忘れられなかったと。あの時、あなた以外の男性とは結婚しないと誓ったのだから…。

言葉に出そうかヴァージニアは迷った。
だが、10年という歳月は長すぎた。今更あの日のことを蒸し返しても、きっと彼は受け入れてくれないだろう…。

「ジニー……」
何か言いたげにトニーが名を囁いた。久しく聞いていない呼び名にヴァージニアは心が揺らいだが、それを振り切るようにトニーに手を差し出した。
「会えてよかったわ、トニー」
だが、トニーはその手を握ろうとしなかった。

(やっぱり…遅すぎたのよね…)

目に見えて動揺しているトニーに、ヴァージニアの胸はチクリと傷んだ。
「さよなら…」

零れ落ちそうな涙を堪えたヴァージニアは、クルリと向きを変えるとトニーの元から足早に立ち去った。

頭の中は混乱している。
あの日、別れを告げてきたのは彼女の方だった。きっと彼女なりの考えがあり別れを決断したのだと思い、必死で彼女への思いを見せないように封印していた。だが、実際に再会してみると、彼女への思いは募る一方。
遠ざかって行くヴァージニアに、トニーは自問した。

このままでいいのか?
このままだともう2度と会えないんだぞ?
10年間、ずっと後悔し続けたじゃないか…。何も言わず彼女の決断を受け入れたことを…。

それに…彼女の指にあった指輪…。それは10年前に自分がプレゼントしたものだった。
つまり…彼女も、この10年間、自分を思い続けてくれていたということじゃないのか?

トニーは走り出した。ヴァージニアの後を追い、走った。
彼女は会場を立ち去ろうとしていた。迎えに来た車に乗り込もうとする彼女の背中に、トニーは大声で叫んだ。
「ジニー!待てよ!」
彼女が肩を震わせた。立ち止まった彼女は、車のドアに手をかけたまま動かなくなった。
ようやく追いついたトニーは、少し離れた場所に立ち止まると、未だ振り返ろうとしない彼女に告げた。
「10年前…どうしてあんなこと言ったんだよ。嘘だったんだろ?どうして嘘をついてまで、俺のことを…」
彼女が嗚咽を漏らし始めた。そして振り返った彼女は、大粒の涙をボロボロと零しながら震える声ではっきりと告げた。
「あなたに自由になって欲しかった…。私の為に、あれ以上、自分を犠牲にして欲しくなかった…。だから…私…」
ヴァージニアは最後まで言うことが出来なかった。彼女はトニーの腕の中に閉じ込められていたのだ。

「俺…この10年間、ずっと考えた。あの時の選択は正しかったのかって…。君のおかげで俺はスターク・インダストリーズを再興できた。でも、ずっと虚しかった。さみしかった。君がいない人生なんて…俺にとって何の意味もないんだから…」
トニーの腕の中は温かく、そして何よりもこの10年間、ずっと胸の中に開いていた大きな穴をみるみるうちに埋めてくれた。
ギュッと力強くヴァージニアを抱きしめたトニーは、もし彼女と再会できたら言おうと思っていた言葉を告げた。
「ジニー…もし君が今でも俺のことを思ってくれていたら…そばにいてくれ…」

トニーも同じ思いだった。彼は10年間、ずっと自分のことを思ってくれていたのだ。

「トニー………」
トニーのジャケットを握りしめたヴァージニアの涙が、彼の肩を濡らしていった。
「私…ずっとあなたに会いたかった……。本当はずっとあなたのことばかり考えてた……。だって…あなたのこと…心から愛してるから…」

お互いが10年振りに素直になれた瞬間だった。
トニーは目元に浮かんだ涙をそっと拭うと、ヴァージニアの顎を持ち上げた。涙で光る彼女の瞳の中に、ようやく自分の姿が映り込んだ…。チュッと音を立てて額にキスをしたトニーは、彼女の涙を指で拭うと、ヴァージニアの手を取り指を絡めた。
「俺もだ。この10年、毎日君のことばかり考えてた…。何度も会いに行こうと思った…。だけど、怖かった。君に拒否されるかもしれないと思うと…」
「私も…」
ふふっと笑いあった2人は、手を固く握ると歩き出した。

「ジニー、俺はもう二度と君を手放さないからな…」
繋いだ手にキスをしたトニーに、我慢出来なくなったヴァージニアは、彼に抱きつくと唇を奪った。

㉔へ…(R-18です)

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