On Your Side Forever㉒

5日後。
一人の間、トニーは今後のことを真剣に考えた。そして考えに考え抜いた挙句出した答えは『ヴァージニアのそばにいる』ということだった。
確かにスターク・インダストリーズを再興させたいという思いもある。だが、これからの人生において何よりも大切にしたいのは、ヴァージニアの存在だった。彼女を支え、共にポッツ・インダストリーズを盛り上げていくことが、今の自分にとって大切なことだとトニーは考えたのだ。

が、ヴァージニアは違った。
彼女はトニーへの思いを封印し、夢を応援しようと決めた。そのためには、自分が悪者になろうとも…。

そのため、出張から戻って来たヴァージニアは、社長室でトニーと顔を合わせるなり冷たい声で彼に告げたのだ。
「トニー、別れましょ」
突然別れを切り出され、トニーは面食らった。
理由がさっぱり分からない彼は、震える声で彼女の名を囁いた。
「ジニー…どうして…」
腕を伸ばし抱きしめようとすると、ヴァージニアは身を捩った。
「DCでのパーティーで、凄く有能な人に出会ったの。彼とは意気投合しちゃって…寝たわ。彼と比べると…あなたは真面目すぎて…面白みがないの。飽きちゃったの。あなたといることが…。だから、婚約は破棄させて…」
唐突すぎる話にトニーは目を細めた。ヴァージニアは、目を合わせようとしない。それに先程からずっと親指の爪をいじっている。それは嘘をつくときにする彼女の癖。
ヴァージニアは明らかに嘘をついている。どうしてだか分からないが、自分を突き放そうとしている。
「彼を秘書にすることにしたの。だからあなたはクビ。出て行って頂戴。会社からも…」
目を潤ませたヴァージニアは、トニーの視線から逃げるように顔を背けた。

トニーは何も言えなかった。彼女の下した結論を尊重したかったから…。
ぐっと拳を握りしめたトニーは、寂しそうにポツリと呟いた。
「…そうか……」
零れ落ちそうな涙をぐっと堪えたトニーは、ヴァージニアに向かって頭を下げた。
「ジニー…。つまらない男ですまなかった……。それから…ミス・ポッツ…15年間、ありがとうございました」

深々と頭を下げたトニーは、荷物をまとめると何も言わず部屋を出て行った。

「ポッツ様…」
トニーが出て行った後、ヴァージニアの右腕であるリンダが部屋に飛び込んで来た。
昨日事情を聞いていた彼女は心配で部屋の外で様子を伺っていたのだ。
リンダの姿を見たヴァージニアは涙を拭うと無理矢理笑みを浮かべた。
「いいの…。こうすれば、トニーは心置きなく辞めれるでしょ?私が悪者になれば…彼は…」
文句を言いたげなリンダを制したヴァージニアは、デスクに座るとふぅっと息を吐いた。
「彼はずっと私たちに尽くしてくれました。文句の一つも言わずに…。だから、快く送り出してあげて下さい…。彼の夢を叶えるために…」

***
その夜、自宅に帰ったヴァージニアは静まり返った部屋を見渡した。
自分以外誰もいない自宅は、今の彼女には広すぎた。
トニーはすでに荷物を引き取りにきたのだろう。家のどこにも彼の痕跡は一つもなかった。

と、寝室に入ったヴァージニアはベッドにころんと横になった。トニーが眠っていた側へ転がり枕に顔を付けると、枕からは彼の匂いがした。
「トニー……」
もう二度と彼は戻って来ないのだ。自分から突き放したのだから、仕方ない。
今となっては遅いが、ハッピーから聞いた話をトニーに問い詰めればよかったのかもしれない。
でも彼は自分の気持ちを犠牲にしてでも共にいる道を選んだだろう…。これ以上、彼に犠牲になって欲しくなかった。15年間縛り付けていたのだから、彼を自由にしてあげたかった。
それでもこれから先、彼のいない人生に耐えきれるだろうか…。2人で夢見ていたことが全て消え去ってしまったのだから、これから先、何を支えに生きて行けばいいのだろうか…。

「やっぱり…無理……。あなたがいないと……。トニー…ごめんなさい…ごめんなさい…」
トニーの枕を抱きしめたヴァージニアは、その日一晩中泣き続けた。

***
数週間後。
トニーの姿はNYにあった。
真新しいオフィスはセントラルパーク近くのビルの一室にあった。
ジャーヴィスや15年前父親と共に働いていた社員たちが忙しそうに動き回るのを見ていたトニーは『スターク・インダストリーズ』というロゴの輝くフレームをそっと撫でた。
と、隣に誰かやって来た。
ハッピーだった。彼は『ヴァージニアのそばにいろ』というトニーの制止を振り切って、彼についてNYまでやって来たのだ。
「よかったのか?俺に付いてきて…」
ハッピーに尋ねると、彼はトニーの肩をポンと叩いた。
「トニー…いや、ボス。あんたは俺の友達だろ?」
「ボス…か……」
呼びなれない名に照れくさそうに鼻を擦ったトニーは、腕時計に目をやった。
それはキリアンの事件の際、退院祝いにと彼女がプレゼントしてくれたものだった。

もしかしたら、彼女は自分を独立させるためにああいう態度をとったのかもしれない。
もしそうならば、いつか彼女に胸を張って会えるよう、必死で頑張らなければならない。それが苦渋の決断をし送り出してくれた彼女の気持ちに応えることになるだろうから…。

(ジニー…いつかまた君に会える日が来るだろうか…)

彼女のいる西の方向を窓から眺めながら、トニーは絶対に成功してみせると心に誓った。

㉓へ…

2 人がいいねと言っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。