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095.唇の隙間(アベアカ)

081.全てを貪り尽くして… の続きです。

「で、どうしてポッツくんがここにいるんだ?」
謹慎処分を言い渡して10日。
そろそろ許してやろうとタワーへやって来たフューリーだが、出迎えてくれたのはトニー・スターク1人ではなかった。彼の隣にはペッパー・ポッツがいたのだから…。
が、やけにハツラツとしたトニーとは対照的にペッパーはどこかぼんやりとした表情をしている。しかも、首筋は赤い花で埋め尽くされ、手首には縛られた跡のようなものがあるではないか。
この1週間、2人が何をしていたのか分かりそうなものだが、フューリーも大人だ。敢えてそこには触れまいと先程のように切り出したのだが…。

「言ってませんでしたっけ?ペッパーは1週間前にここに引っ越してきたんです。あ、言っておきますけど、謹慎処分になる前に、引っ越しの日程は決まっていたんです。だから今はここがペッパーの家。部屋から出るなと言われたので、俺たちはずーーっと2人きりで部屋に引きこもってました」
そんな話は嘘に決まっている。ここへ来る前に女子寮へ向かうと、ペッパー・ポッツは1週間前から行方不明だと言われたのだから…。だが平然と言ってのけるトニーに今更何を言っても無駄だと分かっているフューリーは、やれやれと首を振ると溜息をついた。
「まぁ、いい。スタークを上手く操作できるのはポッツくんしかいないからな」
そのポッツくんは、逆にトニーに上手く操作されているようだが、そんなことを言いに来た訳ではない。ゴホンと咳払いしたフューリーは、本題に入ろうと姿勢を正した。
「謹慎期間は終了だ。スターク、一仕事して来い」
「は?」
一仕事させるために謹慎処分を解いたのだろうかと、訝しげにフューリーを見つめたトニーだが、フューリーが現状を説明し始めると真剣な面持ちになり話を聞き始めた。
フューリーの話によると、A.I.M.が妙な兵器を開発しており、それに乗じてヒドラの動きも怪しいらしい。そしてA.I.M.とヒドラが協力しアベンジャーズ・アカデミーを襲撃しようとしているらしい…。
「スターク、お前にはA.I.M.に潜入し、開発プログラムをハッキングしてきてもらいたい」
「確かにそれは俺の仕事ですね」
面倒臭そうに欠伸をしたトニーだが、その瞳は煌めいているのだから、明らかにこの任務が楽しみで仕方ないようだ。だが、黙って聞いているペッパーは今にも泣き出しそうな顔をしている。恋人になってから、トニーは何度も任務に向かったことはある。だが、それはいつもチームとしての任務だった。が、今回はトニー1人きりの任務。即ち、誰の手助けもない…何かあっても誰も直ぐには助けに行かれないということ…。ペッパーは不安でたまらなかった。彼が無事に戻ってくるまで、彼女には祈ることしか出来ないのだから…。
ペッパーが小さく震えだした。そんな彼女の様子に気づいたトニーはチラリと恋人に視線を向けると、フューリーに尋ねた。
「で、いつから?」
「今すぐだ」
大きく頷いたフューリーと、ペッパーを見比べていたトニーだが、やれやれと首を振ると、ペッパーの方へクルリと向きを変えた。
「ハニー、一仕事してくる。デートの約束は帰って来てからでいいか?」
小さく頷いたペッパーの頬を両手で挟みんだトニーは、彼女の唇にチュッと音を立ててキスをした。
「トニー…お願いだから無理しないで…」
絞り出すように囁いたペッパーの目から大粒の涙が零れ落ちた。その涙を拭ったトニーは、彼女を安心させるように力強く抱きしめた。
「大丈夫さ、ペッパー。すぐに戻ってくるから…」

***
が、5日経ってもトニーは戻って来なかった。何の音沙汰もなく、予定の日を過ぎても戻って来ないのだから、これは何かあったに違いないと、ペッパーは慌ててフューリーの元へ向かった。

「ポッツくん、落ち着いて聞いてくれ」
そろそろペッパーがやって来ると分かっていたのだろうか。ペッパーをソファーに座らせたフューリーは、大きく深呼吸すると口を開いた。
「スタークが行方不明だ」
「え……」
トニーが行方不明とは、一体どういうことなのだろうか…。つまり、トニーは消息を絶ち、生死すらも不明ということなのだろうか…。
目の前が真っ暗になったペッパーは、その場で卒倒しそうになったが、何とか気持ちを奮い立たせると、絞り出すように言葉を続けた。
「どういう…こと…ですか…」
ペッパーのギュッと握りしめた拳は膝の上で震えている。今にも泣き出しそうなのに、気丈にも涙を堪え冷静さを保とうとしているペッパーの姿に、もっと早く知らせるべきだったかとフューリーの胸はチクリと痛んだ。だがこれは任務なのだ。世界の秩序と平和を守るためなら、多少の犠牲も厭わないのだ。アベンジャーズの一員であるトニー・スタークとこれからも共に歩み続けるのなら、ペッパー・ポッツにもその覚悟を持っていて貰わねばならぬのだ。
私情を心の奥底に隠したフューリーは、努めて冷静に現状を伝えようと口を開いた。
「敵に捕まったらしい。それがA.I.M.の仕業なのかヒドラの仕業なのかは分からん。兎に角スタークとは連絡が一切取れない。2日前、太平洋沖で破壊されたアーマーが見つかった。ポッツくん…君は…………」

(トニーが敵に捕まった…)

フューリーが何やら言っているが、ペッパーの耳には彼の言葉は入ってこなかった。

(トニー……。トニー…。どうしよう…。トニーが…トニーが…!)

泣き叫びたかった。トニーを返してくれとフューリーに向かって喚きたかった。だが、これは彼の仕事なのだ。アイアンマンとしての彼の任務なのだ。
トニーのそばにいると誓った時、心に決めていた。アイアンマンであるトニーを何があっても信じ支えていくと…。だからこのような事態になっても、取り乱さず、受け入れてみせると決めていたのに…。が、実際に直面してみると、その決意は脆くも崩れ去ってしまった。

(神様…お願いします…。トニーを…トニーを返して下さい…)

目をキュッと閉じたペッパーだが、ふと数日前のトニーとの会話を思い出した。
トニーが任務へと向かったあの日の朝、彼は見せたいものがあると自分をラボへと連れて行ったのだ。
ラボには沢山のアーマーがあった。いつもトニーが着ているアーマーと同じような物から、巨大な物まで…。
そんな中、一つだけやけに細身の物があった。色合いも他のアーマーと微妙に違う。ピンクがかった赤色にシルバーのアーマーが…。
そっと近づき並んでみると、何故か自分と同じくらいの背格好をしていた。
「それは、君のだよ。Mk.1616さ」
隣に並んだトニーに肩を抱き寄せられながらそう告げられ、ペッパーは飛び上がった。
「私の?!」
アーマーとトニーの顔を何度も見比べていると、鼻の頭を掻いたトニーは目をくるりと回した。
「あぁ。いらないって言うかもしれないけど…」
何ということだろう。トニーが専用のアーマーを作ってくれていたのだ。
ポカンとトニーを見上げていたペッパーだが、みるみるうちに満面の笑みを浮かべると、歓声を上げてトニーに抱きついた。
「ううん!嬉しい!私ね、あなた達みたいにヒーローになってみたかったの!」
もしかしたら嫌がるかもしれないと内心ビクビクしていたトニーは、予想以上に喜んでいるペッパーの様子に安堵したように息を吐いた。
「じゃあ、早速、飛ぶ練習してみるか?いや、その前に…」
悪戯めいた笑みを浮かべたトニーは、あっという間にペッパーを抱き上げると、ラボの隅にあるソファーへと向かった。
「ご褒美もらっていいか?」
小さく頷いたペッパーの唇の隙間から、トニーの舌が入り込んできた。トニーの頭を抱え込んだペッパーは、彼を迎え入れるように自ら舌を絡めた。タワーに来て以来、ずっと彼と愛を交わしているのに、彼が欲しくて堪らなかった。少しの間でも離れていると不安だった。
トニーの存在を確かめるように、ペッパーは彼との快楽の世界へ溺れていった。

***
結局トニーはそのまま任務へと向かったため、ペッパーはアーマーを一度も装着していなかった。
どうしてあのタイミングでトニーがアーマーを披露したのかは分からない。彼はこの事態を予測していたのだろうか…。
だからこそペッパーは感じた。
きっと彼は私のことを待っている…と。

「……ということで、どうやらここにスタークは監禁されているらしい。聞いてるか?ポッツくん?」
ハッと我に返ったペッパーは、拳を握り締めると立ち上がった。
「私も行きます!」
ポッツくんは一体何を言っているんだというように、口をあんぐり開けたフューリーだったが、咳払いをした彼は眉を吊り上げた。
「ポッツくん、スタークのことが心配なのは分かる。だが、遊びではないんだ。君は大人しく…」
「私にもアーマーがあります!トニーが作ってくれました!早速向かいます!」
ポカンと口を開けたままのフューリーに頭を下げたペッパーは、彼の返事を聞かぬまま部屋を後にした。

129.猿轡

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A Man Of Her Type.

アベアカのこのシーンからの妄想。(画像は後ほど追加)
ある朝。いつものように、ペッパーが新入生に挨拶するのをトニーは物陰から見守っていた。
今日の相手はヘラクレス。神様だからソーやロキとも面識があるらしいが、トニーは気づいた。ヘラクレスがペッパーのことを早速『一人の女性』として見ていることに…。
ペッパーが靡くなんて絶対に思わないが、相手は神様だ。もしかしたらロキのように魔法が使えたりするかもしれない。そうなると、ペッパーに魔法をかけて…。
トニーは慌てて頭を振った。まさか初日からそんなことはしないだろうと考え直したトニーだが…。

予想的中。
ヘラクレスはペッパーのことをわざわざ「美しいペッパー」と呼んだ。そんなことは今更言わなくてもペッパーは美しいに決まっている。現にペッパーは変な顔をしているではないか。
と、ヘラクレスが口を開いた。今度は何を言うのかと、トニーは知らず知らずのうちに拳を握りしめた。
「後は誰かがキスしてくれたら…」
(おい!!何調子こいてんだよ!!)
目を見開いたトニーはその場で足を踏みならすと髪をかきむしった。
(ペッパーにキスしろだと?!ペッパーは俺のものだぞ!)
こうなったら、黙って見ている訳にはいかない。彼女に手を出そうなんて考えるなと、釘を刺しておかねばと、トニーは飛び出そうとしたのだが…。
すっと目を細めたペッパーは、唇を尖らせた。
「悪く思わないでね。私はね、ヒゲを生やした人が好きなの」
どんなに妙なことを言われても、大体は相手の機嫌を損なわないようにこやかに返答するペッパーが、初めて不機嫌そうに返答したのだ。
そして、ポカンと口を開けているヘラクレスを残すと、その場を後にした。

(ペッパー!さすが俺のペッパー!あの冷たい視線で睨まれれば、誰だって震え上がるもんな!!)
ガッツポーズをしたトニーはその場で小躍りし始めたが、はたと気づいた。自分は髭を生やしていないと…。
「…髭を生やした男が好きということは……俺じゃないのか?!」
真っ青になったトニーは、先程までの元気はどこへやら、ヘナヘナとその場に座り込んだ。

「髭…生えてるでしょ?」
と、頭上から声が聞こえた。ペッパーだった。
「え?」
目をパチクリさせるトニーに、ペッパーは恥ずかしそうにモジモジし始めた。
「だって…お昼過ぎにキスすると、いつもチクチクするもの…」
そういえば、元々髭が濃いため、朝は綺麗に剃っていくのに、昼過ぎると薄っすらとだが、無精髭になっている。
つまりペッパーが好きなのは…。
「それなら、『ハンサムで天才で金持ちな人が好き』と言えばいいだろ?」
気恥ずかしくなったトニーはわざと軽口を叩くと立ち上がったのだが、ペッパーは頬を膨らませた。
「私はあなたが天才でお金持ちだから好きになったんじゃないもの」
肩を竦めたペッパーだが、ふふっと笑うとトニーに抱きついた。胸元に顔を押し付けると、いつもよりも早い鼓動が聞こえ、ペッパーは顔を上げた。
「ねぇ、もしかして、ヘラクレスくんに口説かれるのを見て、不安だったの?」
図星だが、認めたくないトニーはふんっと鼻を鳴らしてみせた。
「俺は赤毛でソバカスの可愛い女の子が好きなんだ。それにその子は、他の男には絶対に靡かないし、俺のことだけを考えてくれている意思の強い女の子なんだぞ。だから信じてるんだ、その子のこと」
長く美しい赤毛の髪を梳いたトニーは、ペッパーの頬に手を添えた。親指の腹で頬をすっと撫でられ、キスをねだるようにペッパーは目を閉じた。

「ペッパー…」
甘く低い声と共に、唇が塞がれた。トニーのキスはいつだって言葉に表せないくらい素敵だ。今も甘く柔らかなキスにペッパーは身も心も溶けてしまいそうだった。
もっと彼を感じたいと思ったペッパーは、トニーの首元に腕を回し身体をぴったりとくっつけた。そして唇を少しだけ開くと、待ち構えていたように入ってきたトニーの舌に絡め始めた。
次第に深くなっていく口付けに、2人はそこがどこであるのか忘れ、お互いを求め合った。

「スターク、ポッツくん。その続きは人目につかない所でしろ」
突然聞こえきた野太い声に、我に返った2人は慌てて身体を離した。
見ると、腕組みしたニック・フューリーが真顔で仁王立ちしており、その背後にはゲスな笑いを浮かべた仲間たちが大勢集まっていた。
「す、すみませんっ!」
フューリーに怒られたと思ったペッパーは、真っ赤な顔してペコペコと頭を下げたが、トニーは違った。真顔なフューリーだが、その目は楽しそうに笑っていたから…。そこで、目をくるりと回したトニーは、ペッパーを抱き上げた。所謂お姫様抱っこをすると、ペッパーは勿論のこと、周りの女子生徒からも悲鳴が上がった。
「じゃあ、俺たちは人目につかない所に行きます」
そう宣言したトニーは、歓声と悲鳴が聞こえるなか、ペッパーを抱き上げたまま走り出した。

2 人がいいねと言っています。