子供たちにせがまれ、この日スターク一家はキャンプ場へやって来た。
はしゃぎ回る子供たちだが、トニー・スタークは内心焦っていた。というのも、彼はキャンプなどしたことなかったのだから…。
子供たちは父親が『何でも出来るスーパーヒーロー』だと思っている(と、トニーは少なくとも思っている)。そのため、ここでメンツが潰れるようなことがあれば、今後の父と子の関係にヒビが入ってしまうと、トニーは勝手に考えていたのだ。
車から荷物を下ろしたトニーだが、次は何をすればいいのかと、辺りをこっそりと見渡した。すると皆一様にテントを立てているではないか。
(テントを立てればいいんだな!)
そうと分かれば早速…と、トニーはテントを取り出した。
5分もあれば余裕で組み立てられると店員に勧められたのだから、きっと上手くいくだろうと教わった通りに組み立て始めたものの、5分どころか10分経ってもテントは完成しない。
汗をかきつつ奮闘するトニーの元へ、長男のエリオットがやって来た。
「パパ、まずはこのポールを立てるんだよ」
小声でそう告げたエリオットは、こっそりと手伝い始めた。
「何だ、エリはキャンプをしたことあるのか?」
「うん。この間、学校で行ったんだ」
そう言えば、2、3週間ほど前にそんなことを言ってたな…と思い出したトニーだが、息子の手助けもあり、テントは何とか完成した。
が、家族は6人なのに、部屋も仕切ることができ、大人が10人は寝られそうな大きなテントに、ペッパーと子供たちは絶句してしまった。
「パパ…大きすぎない?」
エストが思わずそう口に出すと、完成したテントを満足そうに眺めていたトニーは、眉を吊り上げた。
「大きいに越したことはないだろ?」
確かに狭いよりは広い方がいい。マットレスまで用意してあるのだから、寝るのも快適に違いないから…。
だが、あまりに巨大なテントは否応がなしに目立っていた。ただでさえ、『トニー・スタークがキャンプ場にいる』と辺りは騒がしくなってきたのに…。
苦笑するペッパーと、ため息を付いたエストは顔を見合わせた。
「そろそろ晩御飯の支度をしましょ?」
晩御飯はバーベキューをすることになっている。道中スーパーで購入した食材を用意し始めたペッパーを見たトニーは腕まくりをした。
「よし!パパが火を…」
先日家でバーベキューをした折に、火柱が上がるほど盛大に着火させた父親を思い出したエストとエリオットは顔色を変えた。
「僕がやりたい!」
「パパはアビーとルーカスと遊んでて!」
実に見事な長男と長女の見事な連携プレー。反論しようとしたトニーだが、ヨチヨチと近寄って来たルーカスとアビーに気づくと口を噤んだ。
「パパ!あちょぶー!」
腕を伸ばす双子を両腕に抱き上げたトニーは、ペッパーたちの邪魔にならないようにと、遊具のある広場へと向かった。
バーベキューを堪能した一家だが、はしゃぎ疲れた子供たち…特に下の双子は、早々に眠たいと愚図り始めた。
『パパとママと一緒に寝る』と聞かない子供たちを制したトニーは、部屋の仕切りを取ると、マットレスを並べた。
トニーとペッパーが両端に寝転ぶと、子供たちは2人の間の思い思いの場所に寝転び、両親にピッタリと抱きついた。が、疲れ果てた子供たちはすぐに寝息を立て眠り始めた。
「…暑い…」
双子がペッパーに抱きついているためか、トニーにはエストとエリオットが抱きついて眠っている。こんなに広いテントなのに、どうしてくっついて眠るハメになるのだと嘆くトニーに、ペッパーは楽しそうに小声で囁いた。
「みんな、嬉しいのよ。パパとキャンプに来られて。凄く楽しいって喜んでたわよ」
子供たちだけではなく、トニー自身も楽しかった。子供たちと誰の目を気にする訳ではなく、大はしゃぎしたのは、久しぶりだったから…。
娘と息子の背中を軽く撫でたトニーは、ペッパーに向かって笑みを浮かべた。
「そうか。また来ような」