「未来編」カテゴリーアーカイブ

A sunny place

旅行から帰って来ると、マリブの家は様変わりしていた。
リビングやキッチンにあった段差や装飾品…つまり大人なら何ともないが子供にとって危険な物は撤去され、室内はシンプルになっていたのだった。
「どうしたの?」
目を丸くして立ち尽くすペッパーに、トニーは照れ臭そうに笑った。
「留守の間にリフォームした。ほら、この子のために…」
そう言いながら、トニーはペッパーの少しふっくらしたお腹に手を当てた。
「そういえば、この子の部屋、どこにするの?」
今まではつわりが酷くそれどころではなかったが、少しずつ準備していかなければならない。ペッパーの手を取ったトニーは二階に向かって歩き出した。
「ここがいいんじゃないかと思って…」
向かった先は、二人の寝室からも近い南向きの日当たりのいい部屋。元はトニーの書斎だった部屋だ。
ドアを開けると、大量の本で雑然としていた部屋は淡い白の壁紙が貼られ、空っぽになっていた。
太陽がほどよく降り注ぐ部屋に入ったペッパーは、部屋を見渡した。
「ここは海もよく見えるし、最高ね。でも、あなたの書斎は…」
「あぁ、寝室の隣に使っていなかったゲストルームがあったろ?あそこにした」
確かにその部屋は全くと言っていいほど使っていなかった。特に二人が恋人になってからは…。と言うのも、二人のあの声が大きすぎて、ゲストルームに筒抜けなのだ。一度酔っ払ったスティーブが自分に用意されていた部屋と間違えて寝てしまったことがあるのだが、翌朝真っ赤な顔をして出てきたことがあった。
と言うわけで、寝室の隣の部屋は無事にトニーの書斎に落ち着いた。(ちなみに書斎とは反対側の隣はクローゼットのため、声が漏れ聞こえても平気だ)
「部屋の内装は二人で決めよう。壁紙や家具や…。明日は検診だろ?帰りにいろいろ見に行かないか?」
「えぇ。楽しみね」
トニーを見上げたペッパーはにっこり笑うとお腹にそっと手を当てた。

翌日、検診にやって来た二人。
「今日は4Dで見てみましょうか?」
ベッドに横たわったペッパーの腹部に当たられた機器。先月よりも大きく育っている胎児は、顔をこちらに向けていた。
「見て!トニー!あなたにそっくりよ!」
鼻筋が通った大きめの瞳をした胎児は、起きているのだろう、手足を動かしていた。
「君にも似てるぞ?かわいいな」
「でも、しっかりこっちに顔を向けてるわ…。カメラ目線だし…。そういうところもあなたに似てるわ」
モニターを見ながら楽しそうに話をする二人に医師は声を掛けた。
「あらあら、足を開いてるから…性別も分かっちゃいますねぇ。先月のお話だと生まれるまで秘密ということですけど…どうされます?」
顔を見合わせた二人。先月はそう言ったものの、やはり知りたい気持ちもある。そっとトニーの手を握りしめたペッパーは彼に向かって頷くと医師に告げた。
「教えて頂いていいですか?」
トニーとペッパーの顔を交互に見つめた医師はにっこり笑った。
「えぇ。間違いなく女の子ですよ」

「女の子…」
ペッパーの脳裏には、あの夢に出てきた娘の姿がよぎった。『またパパとママの子供になるから』と笑っていたあの娘が…。それはトニーも同じだった。
「やっと会えるな…」
ポツリとつぶやかれたその言葉にペッパーは顔を上げた。見るとトニーの目は僅かに潤んでいるではないか。
「ねぇ、トニー。この子は約束を守ってくれたのね」
「あぁ…律儀だな。君にそっくりだ」
笑いあった二人がモニターを見ると、そこに映る小さな娘もにっこりと笑った気がした。

病院を出た二人は、途中ショッピングモールへ向かった。
二人が向かったのはベビー用品なら何でもある店。
「かわいいわね」
小さな家具や洋服などをキョロキョロと眺めていたペッパーだったが、大きなカートの中におもちゃや女の子用の服や靴を次々と入れているトニーのジャケットの裾を引っ張った。
「ねぇ、赤ちゃんの部屋、あれでいいでしょ?」
「あれ?」
何のことだ?と首を傾げるトニーにペッパーは頬を膨らませた。
「もう!この間話をしたでしょ!男の子だったら、ラボ風にしたいって言ってたのは、あなたじゃないの!」
プリプリ怒るペッパーにトニーは思い出した。息子だったら小さなラボにしたい。子供用のアーム型ロボットも作るんだと意気込んでいたのは自分だった。
(確かペッパーは言ってたな。娘だったら…)
「思い出した。お姫様のような部屋にしたいと言っていたな」
ようやく思い出したトニーが口を開くと、ペッパーは顔を輝かせた。
「そう!それでね…こんな感じにしたいの」
携帯をゴソゴソと弄り始めたペッパーは、画面をトニーに向けた。そこに写っていたのは、淡いペパーミントグリーンの壁紙に木目調の家具の置かれた可愛らしい部屋。ベビーベッドの上からは天蓋が吊るされ、まるで絵本に出てくるような部屋だった。想像していた豪勢な部屋とは違うがかわいらしい部屋に、トニーは思わず頬を緩めた。
「いいんじゃないか?気に入ったよ」
頬に音をたててキスをすると、くすぐったそうに笑ったペッパーはお腹に手を触れた。
「この子も気に入ってくれるかしら?ねぇ?どうかしら?」
だが、いつもは元気良くお腹を蹴るのに返事がない。
「もう…肝心な時に聞いてくれないんだから…」
しょんぼりと口を尖らせたペッパーにトニーは苦笑い。
「寝てるんじゃないのか?まぁ、いいじゃないか。生まれてくるまでのお楽しみだ。ほら、家具はあっちにある。早速選びに行こう」
まだショボくれているペッパーにキスをすると、トニーは彼女を抱き寄せ歩き始めた。

五日後。
ペッパーは、朝から子供部屋の掃除をしていた。昨日貼られたばかりのペパーミントグリーンの壁紙は、降り注ぐ太陽の光が反射し、キラキラと光っている。午 後からは先日購入した家具が運び込まれる予定となっており、どのように配置しようかとペッパーが考えていると、トニーの声が聞こえて来た。
『ペッパー、降りてこられるか?』
トニーは朝からラボにこもっており、何をしているのかペッパーは知らなかった。
「どうしたの?」
ラボに向かうと、トニーは部屋の隅のソファーを指差した。
「まぁ、いいから。そこに横になれ」
ソファーに横たわったペッパーのTシャツをめくったトニーは何やら腹部に機器を当てた。見覚えのある形の機器にペッパーは目を白黒させた。
「トニー、それって…」
何か言おうとしているペッパーの言葉を遮るように、トニーはジャーヴィスに声をかけた。
「ジャーヴィス、いいぞ」
照明が落ち薄暗くなった室内。すると二人の目の前に何かが浮かび出た。
「これって…」
「そうだ。私たちの娘だ。これがあれば毎日顔を見れるぞ?」
要するに、トニーが手に持っているのは、先月検診で使った4Dのエコーのような物。医療機器なのでそう簡単には手に入るはずはない…。いや、トニー・スタークに不可能はないのかもしれないが…。
「買ったの?!」
思いもよらないトニーの行動に、ペッパーはソファーの上で飛び上がった。だが、当の本人は涼しい顔。
「いや、私が作った。原理は分かっている。私は天才だからな。こんなもの作るのは朝飯前だ」
得意げに言うトニーに、ペッパーはクスッと笑った。と同時に、小さな娘は手足をばたつかせた。娘のリアクションにトニーは目を見張った。
「おい、こいつ、聞いてるのか?」
父親に『こいつ』と呼ばれ、彼女は文句を言うようにペッパーのお腹を蹴った。
「トニーったら…『こいつ』はかわいそうよ」
宥めるようにお腹をさすったペッパーと、目の前に映る娘を見比べていたトニーは、目をくるりと回した。
「一人前だな。なぁ、パパのかわいいお姫様。君のかわいい寝顔を毎日盗み見しても怒らないでくれよ?」
ペッパーのお腹にトニーが手を触れると、娘は笑った気がした。

『ペッパー様、ミス・スタークはトニー様にそっくりですね』
微笑ましい光景にジャーヴィスが声をかけると、彼女はジャーヴィスの声にも反応した。
『私の声にもミス・スタークは反応してくださるんですか?』
驚いたジャーヴィスにペッパーは笑いかけた。
「そうよ、ジャーヴィス。あなたの声も毎日聞いているんですもの。あなたの事も大好きになるわよ」
ペッパーのその言葉に、ジャーヴィスは照れ臭そうに答えたのだった。
『さようでございますか。ミス・スタークにお会いするのが楽しみです』

スターク邸からは一日中、二人の楽しそうな声が聞こえていた。
スターク家に新しい家族が加わるまで、後4ヶ月。

そういえば、某ハリウッドスターがお腹の娘の姿を見るために、エコーを購入しようとしていたという話がありましたね…(汗)女の子と聞いて二人が思い出したのは、”I stand up again and again.”の子供です。

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An Agile Mind

「ボス、今日は楽しみですね」
後部座席で書類に目を通していたトニーは、ハッピーの声に顔をあげた。今日は初めての結婚記念日。先日までつわりで苦しんでいたペッパーも元気を取り戻しており、トニーは彼女を喜ばせようとハッピーに手伝ってもらい、いろいろと計画を練っていた。
彼女が前から見たいと言っていた映画を見て、夜景の見えるレストランで食事をし、それから…。胸ポケットに忍ばせた小さな箱にそっと触れたトニーは頬を緩めた。
「あぁ。計画は…分かってるな?頼むぞ、ハッピー?」
「まかせて下さい!ボス!」
バックミラー越しに視線を合わせると、ハッピーは胸を叩いた。

ちょうどトンネルに差し掛かった時だった。横から強い衝撃を受け、トニーは座席に叩きつけられた。何が起こったか確認する暇もなく、車はトンネルの壁に激突した。

「…ハッピー?」
前方に倒れこんだハッピーに声をかけると、小さく唸り声が聞こえた。彼の生存を確認したトニーは、自分の状態を確認しようと上半身を起こした。頭がクラクラし、眩暈がする。額を切ったのだろう、生温い物が顔を流れ落ち、止まる気配すらない。ポケットからハンカチを取り出したトニーは、額を押さえると大きく深呼吸した。
(早く車から出なければ…)
だが、身体を動かそうとするも、両足がシートと潰れた車体に挟まれており動けない。
「くそっ!」
何とか引っ張り出そうと奮闘していると、壊れたドアが開いた。
(助かった!)
顔を輝かせたトニーだが、ドアの外を見ると恐怖で顔を引きつらせた……。

***
知らせを受けたペッパーが現場へ到着すると、ハッピーが救急車へ乗せられるところだった。
「ハッピー!」
慌てた駆け寄ったペッパーに気づいたハッピーは、身体を起こそうとした。青い顔をしたペッパーだが、起き上がろうとしたハッピーを制すると、腕を優しくさすった。
「そのままでいいわ。トニーは…」
あの時、意識は朦朧としていたが、ハッピーの耳には届いていた。銃声とそしてトニーの「助けて…」というくぐもった声が…。自分がいながらトニーは連れ去られた。守れなかった…。ボスであり、20年以上付き合いのある大切な友人を…。情けなくなったハッピーの目から涙がポロリと零れ落ちた。
「ペッパー…すみません…。ボスのこと…守れなかった…」

血塗れの後部座席を見たペッパーは、ショックのあまり倒れそうになった。トニーは酷い怪我をしているに違いない…。
(トニー…)
震えを抑えるように身体を抱きしめたペッパーに、警官が声をかけた。
「ミセス・スターク…これを…」
それは血に塗れた小さな箱だった。中にはブルーのサファイアの光る指輪と、そして『ペッパーへ』とトニーの字で書かれた小さな紙が入っていた。指輪をはめたペッパーは、震える手でトニーからの手紙を開いた。
『共に歩き始めて一年。ありがとう。いつも支え、無償の愛を与えてくれる大切な君へ贈る。愛してる。これからも永遠にそばにいてくれ…』
(トニー…お願い…どうか、無事でいて…)
子供を守るようにそっとお腹に手を当てたペッパー。警官に呼ばれたペッパーは、涙をぐっと堪えると深呼吸をし、彼らの方へ足を向けた。

トニーが拉致されたというニュースは、犯人を刺激しないようにと報道規制が引かれた。おそらく身代金目的の誘拐だろうというのが警察の見解だった。だが、犯人からの連絡はなく、時間ばかりが過ぎていった。

知らせを聞き駆けつけたアベンジャーズのメンバーの顔を見た瞬間、それまで必死に堪えていたペッパーの目からは涙が止まることなく零れ始めた。
「大丈夫よ。スタークは必ず見つける。だから、安心して…」
ペッパーを抱きしめたナターシャは、彼女が泣き止むまで背中をさすり続けた。

その頃…。
「ん…」
頬を伝わる冷たい感触にトニーは目を開けた。頭がズキズキと痛み、目の前は霞んで見える。朦朧とする頭を振ったトニーは、身動きが取れないことに気づいた。古いベッドのフレームだろうか、両手両足は拘束されており、先ほど車から引きずりだされる時に撃たれた左太腿には包帯が巻かれているが、白いはずの包帯は真っ赤に染まり、流れ落ちた血で床には血溜まりができている。ジャケットとワイシャツは脱がされており、足元には無数の機械とケーブルが置いてあるのに気づいたトニーは、小さく舌打ちした。

「目が覚めたか?」
顔を上げると、覆面をした複数の男が立っていた。手には銃―少なくともSIのではないようだ―を持った男が五人、ぐるりとトニーを囲んでいた。
「君たちは私のファンか?その割には手荒い歓迎だな?」
何か手がかりを掴もうと軽口を叩くトニーの言葉を男たちは無視すると、正面にいたリーダーらしき男が銃口をリアクターへ向けた。
「君のファンと言うよりも…君のこのリアクターのファンだ。君は、素晴らしいものを発明した。利用させてもらおうと思ってね?だが、君はこれがないと死んでしまう。私たちは君を殺すなんて非道なことはしない」
リーダーの男が合図をすると、周りにいた男たちがリアクターにケーブルを取り付け始めた。
「おい!やめろ!触るな!」
動かない身体を動かし、必死に抵抗するトニーだが、男たちはトニーの顔や腹を何度も殴りつけた。
ゴホゴホと咳き込むトニーの顔を掴んだリーダーの男は、リアクターの真ん中に太いケーブルを差し込んだ。
「どれほどのパワーなのか試させてもらうよ…」
舌を噛み切らないようにと、トニーにタオルを噛ませると口元をガムテープで覆い、男はトニーの頬を軽く叩いた。それを合図としたかのように、部屋の反対側に置かれた装置が大きな音をたて始めた。
リアクターが光り始め、トニーの身体を電気のようなものが突き抜けた。
「んんっ!!!」
目を見開いたトニーは、身体を痙攣させた。
「すごいパワーだな。さてと、思う存分活用させてもらおう」
苦痛に顔を歪めるトニーを男たちは嘲り笑った。

どれくらい時間がたったのだろう。まるでリアクターのパワーを吸い取るかのように機械が唸りをあげるたび、身体を雷で打たれたようにトニーの身体が跳ね上がった。
膨大なエネルギーを生み出すとはいえ、このような使い方をするとは想定していないため、リアクターの限界はトニーにも分からなかった。もし、途中でパワーが切れるようなことになれば、あの忌まわしい破片は10分もしないうちに心臓に到達するだろう。そうなれば、トニーは一巻の終わりだ。
(どうすれば…)
両手を動かすも、繋がれた鎖とロープで皮膚が擦り切れ自分が傷つくばかり。段々と息苦しくなり始めたトニーから力が抜けると同時に、リアクターの光が弱まり始めた。
「そろそろ限界か?まだいけるだろ?」
男が指を鳴らすと、機械の音がさらに大きくなり、トニーは身体を硬直させた。目を見開き身体を痙攣させるトニー。心臓の鼓動が一層早くなり、息が吸えなくなったトニーは、声にならない悲鳴をあげた。

(もはや…ここまでか…)
ペッパーの悲しそうな顔が…そして彼女の腕に抱かれた子供の姿が脳裏をよぎり、トニーの目から涙が零れ落ちた。

トニーが諦め掛けたその時…。
「そこまでだ!」
聞き覚えのある声が聞こえ、トニーはほとんど閉じかけた目を声の方へ向けた。部屋の入り口には、お馴染みのアベンジャーズの面々。
(やっと…来た…)
襲いかかる男たちをキャプテンとハルクとソーが次々と倒す間に、ナターシャとクリントが駆け寄って来た。リアクターからケーブルを抜き取ったクリントは、手足の拘束を解くとトニーを床に下ろした。
「スターク!しっかりしろ!」
口元のガムテープを剥がすと、トニーは血を吐きながらむせ込んだ。
「…遅い…」
小さく震えるトニーの身体を毛布で包み込んだナターシャは
「目標確保。至急搬送します」
と、インカムに向かい言った。

「すぐにヘリが来るから、もう少し頑張って…」
両足を負傷し歩けないトニー。ハルクが抱きかかえ外まで連れて出たが、トニーは真っ青な顔をしており息苦しそうだ。
「あぁ…」
かろうじて答えたトニーだが、実際は意識が朦朧としており、自分が今どこにいるのかさえ分かっていなかった。
「スターク?ペッパーと話すか?」
気を利かせたスティーブが携帯を取り出した。
「…」
だが、トニーからは返事がなく、異変に気づいたスティーブが顔を覗き込んだ。
「スターク?」
汗をかきぐったりと胸元を押さえていたトニーだが、身体を痙攣させ息を詰まらせた。その瞬間リアクターの光が消えた。
「おい!大変だ!」
リアクターが動かないことは、すなわちトニーの死を意味する。
「あと何分だ?おい!スターク!リアクターなしで、どれくらいもつんだ!」
視線が合っていないトニーの頬をスティーブが叩き、意識を呼び戻そうとした。
「…5ふん…」
朦朧とした意識の下で、トニーがポツリとつぶやいた。

救援ヘリはまだ来ない。トニーの家には予備のリアクターがあるだろうが、5分で行ける距離ではない。
「そんな…無理よ!」
悲鳴をあげそうになったナターシャが口元を押さえた。
「どけ!」
ソーがムジョルニアを取り出し雷を集めた。ソーの意図を理解したハルクは、トニーを地面に横たえると、皆をトニーから引き離した。

「おい!ソー!やめろ!スタークが死ぬぞ!」
「このままでも死ぬだろ?一か八かだ!」
小さな雷がリアクターに直撃し、トニーの身体が何度も跳ね上がった。
すると、かすかな音をたてリアクターが再び青白く光り始めた。
「やったぞ!」
手を叩き合い喜んだが、トニーは目を閉じたままだ。
「おい…スターク?」
スティーブが頬を叩いたが反応がない。
遅かったか…と、誰もが思ったその時、ハルクが耳元で大声を上げた。すると、あの時…NYでの決戦後の時のように、驚いたトニーが目を開いた。

ぼんやりとした目のトニーは、何度か瞬きすると、
「…全く…乱暴だな…」
と小さく笑うと目を閉じた

「しかし、よく思いついたな?」
3日後、ジェーンと共に見舞いに来たソーに、病院のベッドの上でチーズバーガーを食べながらトニーは尋ねた。
「でも、一歩間違えたら、スタークさんは死んでいたかもしれないのよ。ソーったら、加減を知らないから…。よかったです、無事で」
「ははは…」
恥ずかしそうに頭を掻くソーをジェーンは苦笑いしながら肘で突ついた。
「お前と初めて顔を合わせた時、ムジョルニアの力を己の力としていただろ?あれを思い出した」
ソーに言われたトニーは、あの森の中で初めて闘った時のことを思い出した。
ジェーンの言うとおり、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。だが運がいいと言うべきか、ソーの機転がなければこうやってチーズバーガーを食べることもできなかったのだ。
「あれとは違うんだが…まあ、いいか…」
髭に付いたソースをタオルで拭ったトニーは、大きく伸びをした。

「ソーは私の命の恩人ということになるのか…」
ボソッと呟いたはずのその言葉は、神様ソーの耳にちゃんと届いていた。
「スターク、礼には及ばんぞ。お前たちには助けられた。その礼だと思ってくれ。だが、どうしても礼がしたいと言うなら…」
「ソーったら!厚かましいわよ!」
慌てたジェーンがソーの口を手で塞いだが、ソーの狙いが分かっているトニーは大笑いした。
「Veniero’sのチーズケーキだろ?店ごと貸し切ってやる。ペッパーも食べたいとずっと言っているんだ。結婚記念日を台無しにしてしまった償いをしようと考えていたところなんだ。ソー、お前も来い。思う存分食べさせてやるよ」

***
拘束ネタは、コラ画のある海外某R-18サイト様の絵からです。リアクターにケーブルを差し込まれている絵だっ たんですが、果たしてこういう使い方ができるのか&ソーの雷で復活する下りなどは完全に捏造ですので…。ちなみに、Veniero’sはNYにある世界一 美味しいと評判で並んで整理券がないと食べられないチーズケーキのお店らしいです。

2 人がいいねと言っています。

I can’t take it.

「スタークさん、順調ですよ」

妊娠4ヶ月目の検診。
トニーを巻き込んで大騒動だったつわりも落ち着き、そろそろ仕事に復帰しようかと考えていたペッパーは、その言葉を聞きホッとした。
一方検診には毎回付き添っているトニーは、目を皿のようにしてエコーを見ていた。
「性別って、まだ分からないんですか?」
「5ヶ月くらいで分かる方もいらっしゃいますよ。来月の検診で分かれば、お教えしますよ」
「どうする?ペッパー?」
身なりを整えていたペッパーを見つめるトニー。
「産まれるまで楽しみにしときたいわ…」
「そうだな」
見つめ合う二人をペッパーの担当医である年配の女医は微笑ましく見守った。

「では、また来月…」
「ありがとうございます」

頭を下げ診察室から出ようとするペッパーだが、トニーはまだ話があるのか、医師の方へ振り返った。
「ぺ、ペッパー…先生に聞きたいことがあるんだ…。廊下で待っていてくれ…」
「?…分かったわ…」
頭にクエスチョンマークを付けながらペッパーが出て行ったのを確認したトニーは、咳払いをして医師に尋ねた。

「せ、先生…あの…その…」
顔を赤らめながら照れ臭そうに尋ねるトニーに、医師はピンとくるものがあったのだろう。
「…まだダメですからね…」
クスクスと笑いながら答えた。
「え?!」
なぜ分かったんだ!と言わんばかりのトニーに向かい医師は、
「スタークさん。奥様、つわりもひどかったですし…。もう少し我慢して下さいね。来月には…ね」
ますます顔を真っ赤にするトニーにウインクして答えたのだった。

「ねぇ、トニー。何の話だったの?」
病院を出て車に向かう途中、腕を絡めてピッタリと寄り添うペッパーに尋ねられ、思わずビクっとするトニー。
「い、いや…。何でもない…」
目を合わそうとしないトニーを不思議そうに見つめていたペッパーだが、車に乗り込むといつの間にか眠ってしまった。

「ペッパー…着いたぞ」
すっかり眠りこけているペッパー。トニーがいくら肩を揺すっても目を覚ます気配すらない。
しょうがないな…とトニーはつぶやくと、ペッパーを抱きかかえ寝室へと連れて行った。

ペッパーをベッドに寝かし、ベッドサイドに座るトニー。
頬を優しく撫でていると、寝言だろうか、
「トニー…」
とペッパーが嬉しそうに微笑んだ。

「夢の中まで私か?」
苦笑しながら彼女の横に寝そべり抱きしめる。柔らかな頬に何度もキスを落としていると、眠っているため無意識なのだろうが、ペッパーがトニーの胸元に顔をすり寄せてきた。トニーはペッパーの髪の毛を弄びながら、頭に口づけをした。

頬や首筋に何度か口づけをしていると、ペッパーが
「トニー…もっと…」
と舌足らずな声で囁いた。
一瞬目を覚ましたのかと驚いたトニーだが、寝息が聞こえるため寝言だったようだ。

どんな夢を見ているんだ…と思いつつも、そのペッパーの囁きに、この数ヶ月必死で我慢してきたトニーの中で何かが爆発した。

「悪い、ペッパー…少しだけだから…」
ペッパーの頬を優しく撫でると、唇を奪った。
半開きになっていた口を塞ぎ、彼女の舌を味わうように絡めると、ペッパーも小さな舌で応えてきた。
起きてるのか?と思ったトニーだが、ペッパーはまだ眠っている。

頭の中では、もう一人の自分がいい加減にしておけと警鐘を鳴らしているが、一度火がついてしまった身体はもう止められない。

ペッパーの首筋に何度も唇を押し付けながら、シャツのボタンを一つ二つと外すと、胸の谷間がチラリと見えた。
その胸の谷間に唇を寄せると、
「ん…ぁあ…」
ペッパーの口から甘い吐息が漏れた。
久しぶりに味わうその柔らかい感触と甘い匂いにトニーは胸の高まりを抑えることができず、シャツの間から覗く胸元に手を添えると顔を寄せた。

一方、夢の中でトニーと戯れていたペッパーだが、夢心地だった感触が段々とリアルなものとなってきたため、違和感を覚えパチリと目を開けた。

すると…
「トニー!何してるのよ?!」
眼下にはなぜかトニーの頭があり、そして胸元に顔を埋めているではないか。

ペッパーは思わず自分の上に覆いかぶさっていたトニーを突き飛ばした。
するとトニーは「わっ!」と叫びベッドから転がり落ちた。

ベッドから飛び起きたペッパーがそばにあった鏡を見ると、首筋には無数の赤い花が散っていた。

「ちょっと!トニー!何してたのよ!!」
まさか寝ている間に襲われるとは…。
顔を真っ赤にし、肩を震わせるペッパーの前にトニーは飛んでくると、土下座をし弁明を始めた
「すまない、ペッパー…。君にキスをしていたら、止まらなくなってしまって…。その…つまり…」

目を逸らしシーツの端を掴んで弄ぶトニー。こんなにいじけるトニーの姿は、あまり見られるものではなく…つまり甘えてくれているからで、とても可愛らしいのだが…。要はこの数ヶ月の彼の我慢も限界ってことね…。
さすがはペッパーと言うべきか、病院でのことも何となく想像がついたペッパーは、小さくため息をつくと、背中を丸めしょんぼりと座り込むトニーの背後に回りこみ、後ろからギュッと抱きしめた。

「ねぇ、トニー…」
甘えた声で囁くと、トニーはビクッと肩を震わせた。
「な、なんだ?!」
耳まで真っ赤になっているトニー。その耳元で
「私も…ね…。だけど…もう少し待って…。お願い…」
と、ささやき、耳たぶを甘噛みすると、トニーは
「そ、そうだな!来月には…と先生も言っていたし…。君の身体のためだ…」
と、うわずんだ声で叫んだ。

予想通りの反応にペッパーはニヤリとすると、トニーの正面に回り込み、頬を優しく撫でた。
「その代わり…ね…」
そう言うと、ペッパーはトニーの膝の上に乗ると、首の後ろに腕を回し、頭を抱えるようにして、キスをし始めた。まるで先ほどの仕返しと言わんばかりの熱い キス。トニーもペッパーの背中に手を回し、しばらくキスに夢中になっていた二人だが、突然甘い吐息を吐き出しながらペッパーがトニーから離れた。
自分から仕掛けたとはいえ…これ以上はマズイはね…。ペッパーはやや潤んだ目でトニーを見つめると、
「トニー…続きはまたね…」
おでこにキスを落とし、膝の上から降りた。
「へ?」

ポカンと口を開けてペッパーを見つめていたトニーだが、みるみるうちに顔が真っ赤になり、立ち上がるとものすごい勢いで寝室から飛び出して行った。

「もう!寝てる私にあんなことした罰よ…」
クスクスとおかしそうに笑ったペッパーは、イジメすぎたお詫びに…と、特性のチーズバーガーを作るためキッチンへと向かった。

絶対途中で我慢できなくなってそうですもん・・・

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Always On My Mind

「大丈夫か…」
トイレに座り込んで早30分。
私に出来ることと言えば、立ち上がる気配のない彼女の背中をさすることくらいだ。

ペッパーの妊娠が分かったのはつい先日。それと同時に彼女を襲ったのは、いわゆる「つわり」。
彼女の場合は相当酷いらしく、3ヶ月目に入った頃にはつわりはピークに達していた。
食欲もほとんどなく、寝込むことも多くなった。もちろん仕事は休業中。以前は彼女が先に帰宅していると、必ず笑顔で出迎えてくれていたが、最近はリビングのソファーの上で横になっているか、トイレにこもっているかのどちらかだ。
青白い顔をしている彼女を見るのは痛々しく、彼女が欲しいと言ったものは何でも買ってくるが、口に入れるとすぐにもどしてしまう。それでも、お腹の子のために栄養をつけなきゃ!と無理に食べているようなのだが…。

今日も季節外れのイチゴが…アレルギーだと決して口にしなかったはずなのに…食べたいと電話かあったので、街中探し回って買って帰ったのだが…。
「トニー…せっかく買ってきてくれたのに…ごめんね…」
青い顔をし、涙を浮かべる彼女を後ろから抱きしめる。ここ数週間、忙しくほとんどかまってやれなかったんだが…。何時の間にこんなに細くなってしまったんだろう…。

社内でもペッパーのことは皆気になっているらしく、「奥様、大丈夫ですか?」とよく聞かれるが、出産経験豊富な女性陣から「社長、奥様のそばにいてあげて下さいね。つわりって辛いんですよ。精神的にも不安定な時期ですから…」とアドバイスされたことを思い出した。
「いいんだ、ペッパー。それよりも何か欲しいものとか、やりたいことあるか?何でも言ってくれ。私にはそれくらいしかできないから…」

***

トニーは優しい。前から優しいけど、つわりで苦しむ私を忙しいのに彼なりに精一杯サポートしてくれる。
一度、
「私ばかり辛くて…もういや!」
と彼に泣いて当たり散らしたことがあった。今思えば彼に当たるなんて間違っている。
だけど彼は困った顔をしながらも
「君だけに辛い思いをさせてすまない。できることなら変わってやりたいんだが…」
と、一晩中私を抱きしめてくれた。

彼がそばにいてくれると、心が休まる…。でもここ最近、仕事とヒーロー活動で忙しく、すれ違いが多かったからか、私の気持ちも乱れ気味…。とにかく四六時中そばにいて抱きしめて欲しかった。彼にはやるべき仕事があるのは分かっている…。
でも…。

さっきからずっと私を抱きしめてくれている腕をそっと掴む。
「…ずっと…ずっとそばにいてくれる?」
私はずるい。この状況でお願いしたら、彼はイヤと言わないはず…。
案の定、彼から出た言葉は…
「あぁ、君が望むだけ…いくらでもそばにいるよ…」

その夜、彼に抱きしめられて眠った私は、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。

その日から、彼は定時には必ず帰宅し、出張にもほとんど行かなくなった。ヒーローとしての活動はやむを得ないけれど…それでも以前よりもずっと早く帰宅するようになった。料理のにおいですらダメな私の代わりに食事も一生懸命作ってくれるし、家事も進んで手伝ってくれた。夜は私が眠るまでずっと抱きしめてくれ、そして朝私が目覚めると目の前にいて「おはよう」とキスをしてくれた。

そんな生活が2週間ほど続き、もうすぐ4ヶ月目に入ろうとした頃。
私もだいぶ精神的に落ち着いたのか、食欲も戻ってきた。そして自分が落ち着いたおかげで、彼に心配りする余裕も出てきた。

そんなある日、目を覚ますと珍しく隣に彼はいなかった。
キッチンへ向かうと、一足先に起きていた彼がコーヒーを飲みながら新聞を広げていた。
「おはよう、ハニー。気分はどうだ?」
「おはよう、トニー。今日は大丈夫みたい」
彼の前には食べかけのトースト1枚。しかもほとんど食べてない。
「トニー、何か作るわ…リクエストある?」
「いや、ペッパー。もう行かないと…」
コーヒーを流し込み立ち上がった彼に、いってらっしゃい…とキスをする。
久しぶりに落ち着いて彼の顔を見た気がするけど、彼は目の下に隈を作り顔色も悪い。
「トニー、大丈夫?」
顔を覗き込んで言うと、
「大丈夫だ。行ってくるよ…」
そう言うと、彼は私のお腹を撫でキスをすると、玄関へと向かった。

つわりがひどくて料理のにおいすらダメだったけど、今日は大丈夫そう。
彼も疲れているみたいだし、彼の大好きな料理を作ってお昼に差し入れしよう…。
1ヶ月ぶりに会社に足を運んだ私をみんな歓迎してくれた。

彼のいる社長室を覗くと、会議中なのだろうか、部屋にはいなかった。ただ、いつもキレイに片付いている机の上は書類の山。その山の中に、育児書が数冊混ざっているのを見つけた私は嬉しくなり、なぜそんなに書類が散乱しているのかまでは気が回らなかった。

結婚後、副社長になった私だけど彼の秘書も兼任している。それは彼のことを他の女性に任せたくないという思いもあるのだけど…。
彼のスケジュールを把握するため秘書室に向かうと、同僚が歓迎してくれた。
「ペッパー!大丈夫なの?つわりがひどくて、起き上がれないって聞いたけど…」
「うん、だいぶ落ち着いてきたから…。今日は彼にお弁当持ってきたの」
「ちゃんと奥さんしてるのね!」
「それより、すっかりママの顔ね~」
「そうそう、社長が…あのトニー・スタークもすっかりパパの顔なのよ!社内じゃあなたたち2人の話でもちきりよ」

1ヶ月ぶりに会った同僚との会話は弾む一方。
そんな中、
「それより、社長、最近相当無理しているみたいだけど…大丈夫?」
私が不在の間、彼の秘書を務めてくれている同僚の言葉に思わず耳を疑った。
「え?無理って?」
「あ…!ううん、ゴメン。今のは忘れて…」
そう言うなり黙り込んでしまった同僚たち。
「何?どうしたの?」
急に彼の話が出て、それもいい話ではなさそう…。声を震わせた私に彼女たちは慌てた。
「違うわよ、何でもないわよ。」
「そうそう。あなた、ご主人に相当愛されているってことよ」
目を合わさない彼女たちの様子に違和感を覚え、問いただそうとしたその時、1本の電話がかかってきた。

「はい、秘書し…え?!社長が?!分かりました。ちょうど奥様が来られているんです!すぐに向かいます」
電話を受けた同僚が青い顔をして私の方を向いた。
「ペッパー、落ち着いて聞いてね…あのね…社長が…ご主人が倒れて、病院へ運ばれたの…」

会議中、気分が悪いと立ち上がった瞬間、意識を失い倒れたトニーは、すぐに病院に運ばれた。
過労だった。
病院へ向かう間、同僚がこの2週間の彼の様子を話してくれた。

来週、大規模な展示会が控えているにもかかわらず、定時前に帰宅するために、出勤してから退社するまでの時間全てを会議や打ち合わせ、その他の業務につぎ込み、出張は日帰り(ありがたいと言うべきか…彼にはアーマーがある)。
実は家にも仕事を持ち帰り、私が眠っている間に片付け、朝になって私が起きる頃、一晩中そこにいたようにそっと私の横に戻ってきていたみたい。そしてその間には、アイアンマンとしての仕事も…。
つまり、この2週間、彼は食事も睡眠もろくに取っていなかったのだ。
彼の無茶は全て私のため…。

「ダメなママね…。ゴメンね、大事なパパをこんな目に合わせて…」
お腹に向かって話しかけると、隣にいた同僚がそっと手を握りしめてくれた。

「トニー!」
病室に駆け込むと、青い顔をした彼は、腕に点滴を受けながら、寝転んで天井をぼーっと見ていた。
「ペッパー!」
突然の私の登場に驚いたトニーは慌てて起き上がり、胸に飛び込んだ私を受け止めた。
「おい、ペッパーには絶対に知らせるなと言ったろ?」
私を抱きしめながらも、後ろに控えていた同僚を軽く睨んだ。
「申し訳ありません、社長…ちょうど…」
「彼女が悪いんじゃないの!私が偶然会社にいたのよ。それで…」
同僚の声を遮るように言うと、彼は眉毛をつりあげた。
「偶然?」
「今日は気分も良かったし、あなた疲れているみたいだったから、お弁当を作ったの。会社に持って行ったら、あなたが突然倒れたって聞いて…」
「みんな大袈裟なんだ…眩暈がして少し気を失っていただけなんだ…」
苦笑しながら私の頭を撫でているが、やはり顔色は悪い。
「トニー…ごめんなさい…あなたにばかり無理させてごめんなさい…。私、自分のことしか考えてなかった…」
こんな時でも決して私のせいにしないトニーの優しさに涙が溢れ出て、やがて私は子供みたいに大きな声をあげて泣いてしまった。

ただ泣くだけの私の背中をトニーは優しく撫でながら、狼狽える同僚にウインクして言った。
「妊婦だから、精神的に不安定なんだよ…」

いつまでも泣き止まない私を彼はギュッと抱きしめた。
「おい、泣くな。それより君の手料理はどこだ?私に食べさせてくれないのか?」
しゃくりあげる私のおでこにキスをすると、子供をあやすように顔を覗き込んで頭をポンっと軽く叩いた。
「ゴメンなさい…慌ててたから…会社に忘れてきちゃったの…」
そう言うなりまた泣き出した私をトニーは抱きしめながら
「残念だな…君の手料理も食べたいんだが…。そうだな、体調がいいようなら、気分転換にどこか食事に行かないか?」
と言い出した。
「でも、仕事は?」
彼は私の頬を伝う涙を拭き
「おい、ペッパー。私は働きすぎて倒れたんだぞ。それなのにまだ働かせる気か?今日くらいはゆっくり休ませてくれてもいいだろ?」
と苦笑い。

「ということだ。今日の仕事は…」
トニーがドア付近にいる同僚に声をかけると
「もちろん全てキャンセルしています、社長。退院許可も取ってきますね…。ペッパーのこと、お願いします…。」
同僚は嬉しそうに部屋から出て行った。

病室に2人きりとなると
「さて、どこに行こうか?君はずっと家にこもっていたから久しぶりに映画でも行くか?それともベビー用品を買いに行くのもいいな?美味いディナーを食べて…明日からまた頑張ろうな…」
トニーは優しく何度もキスをしてくれた。
「ありがとう…トニー」
背中に手を回しぎゅっと抱きつくと、彼は

「言っただろ?私にはこれくらいしかできないからな…それに正直、私もかなりペッパー不足なんだ…今夜は甘えさせてくれよ、ハニー」
真っ赤になって彼の胸に顔をうずめた私の頭に何度もキスをした…。

ペッパー妊娠三か月。

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