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The Best Day

「…トニー……トニー!」
深夜…出産間近で大きなお腹をしたペッパーを抱きしめるように寝ていたトニーは、その声で飛び起きた。
「!!どうした!!」
「始まったの!そろそろかも…」
ぐっすり眠りすぎていて気付かなかったが、破水したのだろう。シーツは濡れている。
お腹を押さえ顔をしかめるペッパーを見たトニーは、慌てて転がっている服を着ると、荷物を取りに走った。
「トニー、そんなに急がなくても…」
ベッドからゆっくりと起き上がり、着替えていたペッパーの耳に、トニーの叫び声と何かが盛大に転倒する音が聞こえてきた。

いつになく安全運転なトニーの車で病院へ到着した頃には、ペッパーの陣痛の間隔はかなり狭まっていた。
「ペッパー!着いたぞ!だ、大丈夫か?!」
脂汗をかいているペッパーを見たトニーは、車から飛び出ると助手席のドアを開けた。
「トニー…大丈夫だから…」
連絡を受けていた病院のスタッフが車椅子を押して駆け寄って来た。ペッパーに陣痛の間隔など状況を聞いたスタッフは、
「このまま分娩室に行きましょうね。ご主人も入られますか?」
と、トニーに向かって尋ねた。
「え?!」
思わず持っていた荷物を地面に落としたトニーだが、ペッパーに
「お願い…そばにいて…」
と言われると、
「よし!私に任しておけ!」
と、胸を張って言ったのだった…。

分娩室に入り30分…
申し分ないほど超順調だと言われるが、ペッパーは必死だった。トニーは手を握りしめ、背中をさすって励ましてくれるのだが…。
「ペッパー!もうすぐだからな!!頑張れ!!ほら!いきんで!!….違うだろ!ほら!こうやって…」
ペッパーの手を力一杯握りしめ、額に大汗をかきながら励ましてくれている。ありがたいし勇気づけられるに間違いないのだが、問題はその声量。
「トニー!静かにして!」
人一倍大きな声で…しかも部屋に入ってから耳元でずっとこの調子なのだから…。ペッパーは我慢できずに叫んだ。
さすがに言葉には出さないが、励ましているのになぜ怒るんだ!とムッとした顔のトニー。
(いつまでたってもホント子供みたいなんだから…)
ペッパーは内心呆れつつも、
「トニー…抱きしめてくれる?それだけで頑張れるわ…」
とトニーにまで気を配る羽目になったのだった。

数十分後…
元気な産声とともに、一人の女の子が産まれた。
父親譲りの栗毛色のややカールした髪の毛、母親譲りの透き通るような白い肌とオーシャンブルーの目の周りは、父親譲りの長い睫毛で縁取られていた。

「見て…トニー。世界一カワイイ赤ちゃん…。あなたにそっくりよ…」
産まれたばかりの我が子を、涙を浮かべ嬉しそうに抱きしめるペッパーはとても神々しく、トニーは思わず目を細めた。
「ペッパー…よく頑張ってくれたな…ありがとう…」
ペッパーの頬にキスをしながら、我が子の頬を優しく撫でるトニーの目にも涙が浮かんでいた。
「トニー…抱いてあげて…」
ペッパーから恐る恐る受け取ると、小さな我が子は自分の手にすっぽりと収まった。小さな命だが、大きな声で泣き、自分の存在を必死で主張するその姿に、トニーの目から涙が零れ落ちた。
「やあ、初めまして。君のパパだよ」
嬉しそうに話しかけるトニーの姿に、ペッパーはこの人と結婚して子供を産んで本当によかったと思ったのだった。

病室のベッドの上に起き上がったペッパーは、産着を着て綺麗に身づくろいしてもらった娘を抱き、話しかけていた。
あちこちに電話をかけ戻ってきたトニーは、ペッパーが話しているのに気づき、ドアの前で立ち止まった。
「あなたのこと、パパとママはずっと待ってたのよ…。あなたのパパはすごい人なのよ。世界中の困ってる人を助けてるし、悪い人をやっつけるのよ。それにママのことを大事にしてくれるし、いつも守ってくれるの。ママにいつもありったけの愛をくれるのよ。あなたのことも同じように大切に守ってくれるわ。だから安心して大きくなってね…」
そんな風に思ってくれていたのか…。トニーは目にじわっと浮かんだものを袖で拭き取ると、ドアをノックして部屋に入った。
「やぁ、ハニー。気分はどうだい?」
トニーはペッパーにキスをすると、ベッドサイドの椅子に座った。
「何だか興奮しちゃって…疲れたんだけど、眠れそうにないわ」
腕に抱いた子供の頬をくすぐりながら答えるペッパーの顔は、トニーだけが知っている女の顔ではなく、すっかり母親の顔だった。
トニーはペッパーの腕の中で眠る娘の頬を触ると微笑んだ。
「みんな大喜びだ。君のご両親の飛行機の手配もしておいた。明日にでも来られるそうだよ」
LAに出てきて以来、疎遠になっていた両親ともトニーは頻繁に連絡を取ってくれていた。
「ありがとう、トニー」
さすがに疲れたのだろう。ペッパーが大きなあくびをしたのを見たトニーは、
「ほら…少し眠れ。私がそばにいるから…」
「じゃあ…少し眠るわね…」
トニーに子供を手渡すと、ペッパーはシーツの中に潜った。
子供を抱いたトニーは窓際のソファに座ると静かに語りかけ始めた。
「やあ、もう覚えたか?私が君のパパだ。トニー・スタークだ。君を産んでくれたあのゴージャスな女性が君のママのヴァージニアだ。みんなはペッパーと呼ぶんだ。君のママは最高だぞ。優しいし、強い心を持っているし、スタイルも抜群だし、そして何より美人だ。そうだ、料理はすごく美味いぞ。パパは…料理は全くダメだから、期待しないでくれ。パパとママは君と会えるのをずっと楽しみにしてたんだ。これから楽しいことばかりじゃない、悲しいことも辛いこともあるだろう。でも、君のことはパパとママが全力で守るからな。そしてママみたいな素敵な女性になってくれよ。…いや、ママのような素敵な女性になったら、嫁に行くといって知らない男を連れて来て…。ダメだ!大事な娘を知らない奴に取られるのは…」

「トニー…気が早いわよ」
振り返ると、眠っていたはずのペッパーがクスクス笑いながら2人を見ていた。
バツが悪そうな顔をして振り返ったトニーは、再びベッドサイドの椅子に腰かけた。
「何だ…聞いてたのか」
「えぇ。素敵なスピーチだったわ…」
目を潤ませ、鼻をすするペッパーに、トニーは愛おしそうにキスを落とした。

「そうだ、この子の名前を決めないと」
「そうね…ねぇ、前話してた名前は?」
「…エステファニア・マリア・スタークか…」
「ええ。それがいいわ。よろしくね…エスト…」

トニーとペッパーが柔らかい頬をつつくと、エステファニアはまるで「パパ、ママ、よろしくね」と言うように、小さな口を開けてあくびをした。

***
エステファニア:某海外名前付けサイトで、アンソニー&ヴァージニアで入力したらこの名前を勧められたんで、そのまま採用w スペイン語らしいです。ペッパーの中の人がスペイン語喋れるし、社長も喋れる設定なんでいいかなぁ…と。

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Love I’ve Found In You

「トニー。あなたのお父様とお母様にお会いしたかったわ…」
ベッドの上で甘い時間を過ごした後、密接した身体を離したペッパーがキスをしながら突然言った。
「何だ、急に?」
「だって、あなたが私の隣にいるのも、お父様とお母様がいらっしゃったからでしょ?だからお会いしてお礼を言いたかったわ」
「そういうものなのか?」
首筋にキスをすると、クスクスとくすぐったそうに笑うペッパー。
「そうよ。あなたのご両親ですもの。きっと素敵な夫婦だったんでしょうね…。ねぇ、お父様とお母様、どうやって出会ったのかしら?何か知ってる?」

改めて言われると、自分の両親の出会いなど知らない。聞いたこともなければ、当時の自分は知ろうと思ったこともなかった。ただ、母親には何度も聞かされたことがある。「お父様は、あなたが産まれるのを本当に楽しみにしてたのよ」と。

ハワード・アンソニー・スターク。

ろくに話もしたこともなければ、一緒に遊んだ思い出すらない。
愛していると言われた記憶は一度もない。
晩年の父親は酒に溺れ、反発する自分は寄宿学校に送られ、ますます距離を置くようになった。
そして何も語ることなく、両親は交通事故で他界した。

どうしてあの厳格な父親があの優しい母親と一緒になったのかいつも疑問に思っていた。
だが、父親が託してくれた時を超えたメッセージ…そして自分のために遺したあのエキスポで命を救われてから、トニーは不器用な父親の愛情をようやく理解することができたのだった。

もうすぐ自分も親になる。
子供には父親が表しきれなかった分まで、愛情を思いっきり伝えるつもりだ。

トニーはペッパーを抱きしめ、大きくなったお腹を両腕で包み込むと眠りについた。

***
あの世界中を巻き込んだ戦争も終わった。
それと引き換えにハワードは友人を失った。
同じ年ということもあり、出会ってすぐに意気投合した友人。
真っ直ぐで恐れを知らない瞳をした友人。
極寒の海に消えた友人。
自分の命と引き換えに世界を救った友人。

ハワードは友人を探すため必死に捜索を続けた。
だが、キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースを見つけることはできなかった。

奇しくも国家は軍事力を必要としており、スターク社はますます繁栄していった。
無数の命と引き換えに私腹を肥やしている成金と陰で言われていることは知っていた。
仕事に打ち込み会社が全米屈指の企業へと発展していくのと引き換えに、ハワードは虚無感を埋めるように酒と女に溺れていった。

***
マリア・コリンズ・カーボネルと出会ったのは、ベトナム戦争が始まった頃だった。
「社長、そろそろ跡継ぎを…」
言われ続けて数十年。
一夜を共にする女性は無数にいても、一生を共にしたいという女性は現れない。所詮近寄ってくる女性は、自分の名声と財産目当てなのだから…。心の隙間を埋めてくれる女性に巡り会えるはずがない。
気が付けば、ハワードは50代に差し掛かろうとしていた。

ある日、ハワードが帰り支度をしていると、社長室のドアを叩く者がいた。
「こんな時間に誰だ?…どうぞ」
遠慮がちに入ってきたのは、見覚えのない若い女性だった。
「あの…社長。お帰りになるところをすいません…」
「何だ?」
「この書類なんですが…こちらに社長のサインを頂かないといけなかったんですが…。申し訳ありません。こちらの手違いで頂いていなかったんです…」
おずおずと差し出された書類を見ると、今朝、技術部の人間が持ってきた書類だった。
さては、私に怒られるのが嫌で、この入社したばかりのような若い女性に押し付けたんだな…。
「君は?」
「今年入社しました。マリア・カーボネルです…」
俯いたままのマリアと名乗った女性は、小さく震えハワードの方を見ようともしない。
いつの間にか気難しく手厳しいと社内で言われるようになったハワード。
書類にサインをし、雷を落とされるのではないかとビクついているマリアの肩を軽く叩きニッコリと微笑むと、マリアは真っ赤になりうつむいた。

その新鮮な反応…色目を使って近寄る女性たちとは全く正反対な態度のマリアにハワードは興味を覚えた。
「カーボネルくん、よかったら食事でも行かないか?」

***
行きつけのお洒落なレストランにマリアを連れて行ったハワード。
最初は何をされるのかと怯えていたマリアだが、優しくユーモアのあるハワードの話に次第に引き込まれ、いつしか二人のテーブルは笑顔で溢れていた。

20歳以上も違うマリアは、今までハワードが出会った金と名声目当ての女性とは違い、ハワードは心からマリアに惹かれ始めていた。

それから二人は頻繁に会うようになり、いつしか将来を誓い合う仲になった。
そして出会ってから2年後…二人は夫婦となった。

毎晩のようにハワードの愛を受け取るのに、いい知らせはやって来ない。
「仲が良すぎるとなかなかできないのよ」
親子ほど年の離れた二人は、どこへ行くのも一緒だった。いつもしかめ面のハワードもマリアがそばにいると別人のようだった。仲睦まじい二人はどこへ行っても注目の的だった。

「マリア…愛してる…」
結婚して1年…。
今日もハワードの甘い言葉を聞きながら、力強い腕の中でマリアは意識を手放した。

マリアは夢を見ていた。
ハワードと自分の周りを走り回る小さな男の子。ぐるぐると駆け回っていた男の子はやがて自分たちの足元を離れ走り出した。そして男の子は成長し、手を差し伸ばした女性と寄り添うように青い光へ向かって歩き出した…。

「マリア?」
自分を呼ぶ声で目を開けると、ハワードが心配そうな顔をして覗き込んでいた。
「マリア?なぜ泣いているんだ?怖い夢でも見たのか?」
頬に流れ落ちた涙を唇で拭いながら、ハワードはマリアを抱きしめた。
「いいえ、ハワード。これは嬉し涙よ…。きっとすぐにいい知らせがくるわ…」
「いい知らせ?」
不思議な顔をして見つめるハワードの頬を撫でると、マリアは口づけをした。
「えぇ、きっともうすぐ会えるわ…。私たちの大事な宝物に…」
「宝物?」
「えぇ…きっと男の子よ…」
「そうか…。男なら…アンソニー…トニーと名付けたい…。きっと君に似て、優しくて強い子だぞ…」
「あなたに似て、きっと頭のいい魅力的な子よ…」
「それは、将来が心配だな…」
顔を見合わせ笑いあった二人は、どちらともなくキスを始め、シーツの海へ溺れていった…。

***
そして1970年5月29日。
ハワードは腕の中にすっぽりと収まった小さな命に語りかけていた。
「アンソニー…トニー。お前に会えるのを私はずっと待っていたんだ…。お前もいつか分かるだろう…。お前は私にとって最高の宝物だと…」

大きな瞳でじっと自分を見つめるトニーをハワードは優しく抱きしめた。そしてマリアは、二人の姿をいつまでも見つめ続けた…。

***
アベンジャーズに登場した資料によると…
ハワードパパの誕生日1917年8月15日、死んだ日1991年12月17日。
トニー誕生日1970年5月29日。
ということで、トニーはハワードが52歳の時に産まれた子供もいう計算に…。
さすがにマリアママはもうちょっと若いだろう…ということで、ママ30歳の時の子供設定にさせて頂きました。
一応勝手な設定としては…
65年に出会う(ハワード48歳、マリア25歳)
67年に結婚(ハワード50歳、マリア27歳)
70年にトニー誕生(ハワード52歳、マリア30歳)

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Only You

「ねぇ、トニー…目立たないわよね?」
少し大きくなったお腹を隠すよう、ふわっと広がった黒のドレスを着たペッパー。
「とても似合ってはいるが…なぁ、いいじゃないか、目立っても…。ダメなのか?」
なぜ妊娠していることが目立つのが嫌なのか…。
不思議そうな顔をしているトニーにペッパーは苦笑い。
「いろいろあるのよ…」

今日は取引相手であるB社主催の慈善パーティー。
今までも何度も招待されてはいたが、アメリカ国外であったり予定が合わなかったりと、参加するのは今回が初めて。
今回もロンドンで開催だったのだが、旅行がてら行ってみないか?とトニーに誘われて、ペッパーも参加することになったのだ。

トニーはもてる。
昔からパーティーなど行けば、あっという間に女性が群がってくる。ペッパーと恋人になる前はそれなりに楽しんでいたが、ペッパーが恋人にしかも今では妻になり子供までできれば、他の女性に見向きもしないことなど分かってはいるのだが…。実は、スターク社主催のもの以外では、夫婦として参加するのは初めてのパーティー。もし私たちのことを知らない人ばかりだったら…いきなり妻です、しかも妊娠していますと言われれば、トニーに好意を寄せている女性はやっかむかもしれない…。トニーに聞けば「そんな馬鹿なこと考えるな」と怒られるだろうけど…。妊娠して少し弱気になっているのか、なぜか最悪のパターン…トニーを巡って女たちの修羅場…まで考えて彼女なりに出した答えは、妊娠していることは隠しておく、というものだった。

会場となっている18世紀の建造物には色とりどりの花で飾られた庭もあり、家では見ることのない景色にペッパーは夢中だった。
楽しそうにはしゃぐペッパーをトニーは嬉しそうに見つめた。
車から降り、会場に入る時もペッパーを見るトニーの目は優しい。どこから見ても仲睦まじい2人の姿は否応がなしに注目を集めた。

「あら?珍しい。スタークが来てる」
「隣の女性は?」
「スタークがあんな顔をするなんて…」

トニーがホールに入ると、主催者であるB社の社長がすぐに駆け寄ってきた。
「スタークさん!遠いところをようこそおいでくださいました」
「こちらこそ。毎回招待頂いていたのに、なかなか来られず申し訳ありません」
2人が握手をするのを1歩下がってニコニコと見つめていたペッパーに、B社の社長が気付いた。
「おや、こちらは…もしかして…」
「紹介します。妻のヴァージニア・スタークです」
「社長、お久しぶりです」
トニーに腰を引き寄せられ隣に並んだペッパーは、B社の社長に頭をさげた。以前から取引時に秘書としてトニーに同行していたため、顔見知りなのだ。
トニーとペッパーの姿を口をポカンと開けて見ていたB社の社長だが、突然歓声をあげてトニーに抱きついた。
「いや!スタークさん!ご結婚されたとは風の噂で聞きましたが…やはりお相手はミス・ポッツだったんですね!いやはや、他人事ながら、お二人はいつ結婚なさるのかとヤキモキしていたんですよ!いや~よかった、よかった。私も一安心ですよ、ガハハハ」
抱きついたままのB社の社長をトニーは引き剥がすと、引きつった笑みを浮かべ
「ありがとうございます、社長…」
とお礼を言った。
「ところで…お子様はまだですか?」
嬉しそうにいろいろ尋ねてくるB社の社長に、トニーは真っ赤になったペッパーのお腹に手を当てて
「実は…」
とニヤリとすると、B社の社長はますます大喜びし、
「今日は盛大にお祝いしましょう!」
と祝杯をあげたのだった。

その後トニーの周りには、取引がある会社の関係者から今後関わりを持っておきたいと願う者まで、男女問わずたくさんの人が集まってきた。
仕事の話となり出したので、輪から少し離れてジュースを飲んだり軽くつまんだりしていたペッパーだったが、お腹の子がゴソゴソと動き始めたため、どこか座 れる場所がないかとあちこち探し始めた。するとバルコニーの片隅…会場からは死角となる場所だが…に、ベンチがあるのを見つけたペッパーは、ゆっくりと腰をおろした。

仕方ないわよね…パーティーと言っても半分は仕事だもの…。
「ここでパパのお仕事が終わるのを待ちましょうね…」
お腹に手を当てて優しく撫でていると、賑やかな数名の女性の声が聞こえてきた。
聞く気はなかったペッパーだが、彼女たちの会話にトニーの名前が出てきたので、つい耳をそばだててしまった。

「それにしても、あのトニー・スタークが結婚していたなんて!」
「あ~ん!私、妻の座狙ってたのに!」
「大丈夫よ!まだ愛人の座は狙えるわ!」
「でも、結婚したのよ?」
「きっとたいしたことのない妻なのよ?今も隣にいないじゃないの」
「そうよね!愛人は何人いても大丈夫だし。それに、あれだけ遊んでた男なのよ?結婚しても遊びまくっているに決まってるわよ」
「そうよね~。じゃぁ、早速アプローチしに行かなきゃ♡」

聞くんじゃなかった…。トニーの愛は揺るぎないものだと分かっている。だけど…。
一人沈み込むペッパーに追い打ちをかけるような会話が聞こえてきた。

「でも、結婚相手って誰なの?」
「知らないわよ。だって結婚したことすら知らなかったのよ?」
「そういえば!あの秘書!いつもまとわりついていた秘書がいたじゃない?もしかして、あの娘?」
「え~、何年も前に見た時は、そんなそぶりなかったじゃないの?」
「もしかして、うっかり手を出して、できちゃったとか?」
「ありえる!そうだったら、愛はないからそのうち捨てられるわね!チャンスよ!」
酔った勢いもあるのだろう。人を不幸に陥れるような会話が…しかもその当事者である本人の目の前で繰り広げられている。

そんなことない…私たちのこと何も知らないのに…勝手に面白おかしく話さないで!

気付くとペッパーの目からは、涙が溢れ、お腹の上にポタポタと零れ落ちていた。するとまるで「ママ、泣かないで…」と言うように、子どもがペッパーのお腹をポンっと蹴った。

「ペッパー?ここにいたのか?」
しばらくたってから、大好きな声が背後から聞こえ、ペッパーは慌てて涙を拭い振り返った。
目を赤くしたペッパーを見たトニーは顔色を変え横に座った。
「何かあったのか?!」
「何でもないわ」
さっきの女性のグループの中には、もしかしたら会社にとって重要な人物も含まれているかもしれない…。そう思ったペッパーは、本当のことを言わず嘘をついた。
「あのね…少しお腹が張ってきたの…。でも休んだから大丈夫よ。大したことないから…」
ゆっくりとお腹を撫でるペッパーを心配そうにトニーは見つめると
「そろそろひき時だな…帰ろう、ハニー」
ペッパーの唇にキスを落とすと、手を取り玄関へと向かった。

「ペッパー、ここで待っていてくれないか?帰ると挨拶してくるから…」
ホールへと小走りで向かったトニーを見届けると、ペッパーは目の前に広がる庭でも見ていようと、階段に向かった。
その時…

「ねぇ、なんであなたなのよ?」
後ろから声をかけられ振り返ったペッパーの目の前に、目を釣り上げた先ほどの女性たちが並んでいた。
「え?」
一瞬、何のことか分からずキョトンとしたペッパーに、彼女たちは嘲り笑うように次々と暴言を吐き始めた。
「だから、何であんたなの?何であんたみたいなのが、あのトニー・スタークの妻なのよ?」
「あんた、秘書だったんでしょ?どうせ色目使って迫ったんでしょ?」
「もしかしてできちゃったとか嘘ついて、責任取れって迫ったんじゃないの?あんたみたいなの、選ばれるわけないわよ!」
ヒステリックに叫び迫る彼女たちから逃れるように、ペッパーは後ろへ下がった。すると女性の一人が
「どういうことか説明しなさいよ!」
と、ペッパーの肩を押した。
よろめいたペッパーはさらに後ろに下がったが、運悪くその先は階段で…ペッパーは足を滑らし階下へと転がり落ちた。

キャー!

お腹を庇うように無意識のうちに背中から落ちたペッパーだが、うずくまったまま動けない。
お腹を触るも、先ほどまで感じられていた胎動を感じることができない。

どうしよう…赤ちゃんが…。

「ペッパー!!」
騒ぎに気付いたトニーが、顔を真っ青にして飛んできた。
「大丈夫か?!怪我は?」
慌てふためくトニーに抱き起こされたペッパーは、転落したショックで混乱しており、
「トニー…ごめんなさい…赤ちゃん…ごめんなさい…」
と、うわ言のように繰り返した。

「大丈夫だ…ペッパー…。大丈夫。心配するな…私がついている」
ペッパーを抱きしめ、頬を撫で唇にキスを落とすと、ペッパーはトニーにしがみつき、安心したように目を閉じた。

「スタークさん!救急車呼びましたから。奥様をすぐ病院へ…」
B社の社長が持って来てくれた毛布をペッパーに掛け、救急車の到着を待っているトニーに先程の騒ぎの根源である女性たちが声を掛けた。
「あ、あの…」
「何だ?」
振り返ったトニーの目は怒りに燃えていた。
「申し訳ありません…。私たち…あの…彼女がまさか…」

顔を真っ赤にし激昂したトニーは、こういう場では滅多にそうすることのないトニーが…声を荒げた。
「どういうことか説明しろ!君たちは、私の大事な妻と子どもに何をしたんだ!謝罪してすむ問題じゃないだろう!」
トニーの怒りに触れ、言葉を失い何も喋れない女性たち。
トニーは軽蔑したような視線を送り、何か言おうとしたが、ちょうどタイミングよく救急車が猛スピードでやってきた。

担架に乗せられたペッパーの手を握りしめ、救急車に乗り込む寸前、トニーは振り返り、人には見せたことのないような冷たい視線を彼女たちに送った。
「もしも…妻と子どもに何かあってみろ。私は君たちのことを絶対に許さんからな…」

***

幸い、ペッパーも子どもも無事だった。
トニーは眠り続けるペッパーの手を握りしめ、祈るような気持ちで一晩中付き添っていた。

外がすっかり明るくなった頃、ペッパーの目がゆっくりと開いた。
「ペッパー?」
握っていた手を優しく握り直すと
「トニー?」
ペッパーはトニーを見て嬉しそうに微笑んだが、辺りを見回すと顔色を変え、
「赤ちゃん!赤ちゃんは?」
と泣きそうな顔になった。
トニーはペッパーの頭を優しく撫でながら
「大丈夫だ。無事だよ。さっきも先生が来たが、心音も確認できたしな。君にも怪我もなかったし…。よかったよ」
とホッとしたようにつぶやいた。
「でも…全然動かないのよ?」
目に涙を浮かべお腹に手を当てるペッパーの額にキスをすると、
「きっとビックリしたんじゃないか?急にママが階段から転がり落ちたんだ…。きっとすぐに大丈夫だと言ってくるさ…」
と言いながら、トニーはお腹にキスをした。

「それよりペッパー…」
それまでの優しい目から一転、真剣な目をしたトニーがペッパーを覗き込んだ。
「パーティーでの一件、聞いたよ…。君にさせなくてもいい思いをさせてしまったようだ…。すまない…私のせいで…」
「あなたのせいなんかじゃ…」
トニーの言葉を遮るように言葉を発したペッパーだが、その唇はトニーのキスでふさがれてしまった。
「おい、私の話を最後まで聞け。最初にきちんとみんなに紹介すればよかったな。そうすれば変な憶測をたてられずに済んだのに。それに、若い頃の評判のツケがこんな形で大事な君に跳ね返ってくるとは…。嫌な思いをさせてすまなかった。でも、ペッパー。これだけは信じてくれ。君と恋人になってからは、私は君以外とどうこうなろうなんて、これっぽっちも思ってないからな。君さえいてくれればいい。君のことは世界で一番愛している。だから君と…そして君との大事なものを壊そうとする奴は絶対に許さない」

力強くそして頼もしいその言葉に、ペッパーの目は涙で溢れかえった。
「トニー…私、自信がなかったのかも…。あなたに愛されるのに自分はふさわしいのかって正直不安だったの。だって…あなたの周りには私よりも素敵な女性がたくさんいるでしょ?私、あなたに迷惑かけてばかりなのに…」
そう言うとシクシク泣き出したペッパーをトニーは抱きしめた。
「何を言ってるんだ?ペッパー、君以外に私にふさわしい女性はいないよ。君のような素敵な女性は、こんな偏屈な私にはもったいないくらいだ。それに、誰が迷惑かけているだと?迷惑をかけているのは昔から私のほうだ。いつも君を引っ張りまわしているのは私だからな。だから、もっと自信を持ってくれ。いつもの強いペッパー・ポッツはどこへ行ったんだ?」
トニーは笑いながらペッパーの涙を指先で拭うと、赤く腫れた瞼にキスを落とした。

しばらくトニーに抱きついていたペッパーだったが、
「あ!」
と声をあげトニーを見つめた。
「どうした?」
またどこか痛むのか?心配そうに見つめるトニーの手をペッパーは自分のお腹へ当てると
「今、動いたの!私は大丈夫よって動いてくれたの!」
と嬉しそうに言った。
「あ、ほら!また蹴った!元気でいてくれてよかった…」
「本当だ。よかったな、ペッパー。これで一安心だ。」
抱きしめる力を強めると、ペッパーはトニーの胸元に顔を押し付けられる形となった。

ペッパーが嬉しそうに自分の胸元に顔を摺り寄せるのを見たトニーは、甘い声で囁いた。
「ペッパー、元気だったら、折角だしあちこち行ってみないか?」
「3人で?」
「そう…3人でな」

目を輝かして嬉しそうに自分を見つめるペッパー。そのいつも真っ直ぐな君の目が、私を捉えて離さないんだよ…トニーは彼女の瞳に映る自分を見つめながら思ったのだった。

この後のロンドンぶらり旅、書きますね…

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Can I touch you?

「触ってもいいか…」
「えぇ、もちろん」

彼女は優しくふわっと笑うと私の手を取り、自分のお腹に当てた。
ふっくらした彼女の下腹部。
手の下で存在を示すように元気よく動くのを感じる。
「!動いた!動いたぞ!」
「ふふ…。きっとパパに触ってもらって嬉しかったのよ」
嬉しそうに笑う彼女の何と神々しく神聖なことか…。

彼女の横に寝そべりその温もりに口づけすると、普段は照れ臭くて口に出せない言葉をつぶやく。
「パパだよ…早く出ておいで…私たちの天使…」

社長の中の人夫妻の某動画風味に

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My little girl

「パパ!今日こそちゃんと会ってね!」
母親によく似た娘が作業場でアーマーの整備をしている私の元に押しかけてきた。
「…何の話だ…」
私がとぼけると
「パパ!言ったでしょ!紹介したい人がいるって!もう上に来てるんだから!着替えて上がってきてよ!」
目を吊り上げ、腰に手をやるその姿は、まるでペッパーそのもの。
あまりごねると、そのうち母親の方も現れるだろう…。彼女にはめっぽう頭があがらない私は、しぶしぶ立ちあがった。

上に上がると、3人がソファーに座り楽しく談笑していた。
「あら。トニー早かったわね」
私の気持ちを察しているペッパーはおかしそうにクスリと笑った。
「カワイイ娘のためだからな…」
ペッパーの隣に腰を下ろすと、彼女の肩に手を回し抱きよせた。

「パパ!」
また始まった…と、あきれ顔の娘に睨まれたので唇にキスをするのはやめておいたが、ペッパーが耳元で
「トニー、しかめっ面はダメよ」
と囁いたので、頬に軽くキスを落とした。

「で、何の用だ?」
ペッパーの髪の毛を弄びながら正面の2人を見つめる。
それを合図に、娘と隣に座る男が姿勢を正した。
「パパ、ママ…。私、彼と結婚したいの。私のことすごく大事にしてくれるし、それに…」
「大事な娘さんだということは重々承知です!一生大事にします!彼女との結婚を許して下さい。お願いします」

深々と頭を下げる2人。

正直、カワイイ娘を…大事に育ててきた娘を取られるのはいい気がしない。
つまり、私が彼女を手放すのが寂しいんだ。
しかも、こんな軟弱そうな男が大事な娘を本当に幸せにしてくれるのか?
娘の命が危険にさらされた時、自分の命をかけて守ってくれるのか?

この数カ月、頭の中でずっと繰り返してきた疑問。

何も言わず黙っている私にしびれを切らした娘が、不安そうにこちらを見つめているのに気付いた。
「…おい。いつも言っているだろ。結婚するなら、パパより強くてカッコよくて頭がいい奴じゃないと許さんとな」
「…彼はパパよりは弱いかも…だってアイアンマンじゃないし…。でも、パパみたいに完璧な男っていないのよ?」
「じゃぁ、あきらめろ。話は以上だな」
「ママ…」
泣きそうな顔でペッパーに助け船を求める娘に心がチクリと痛んだ。

立ちあがろうとする私を、ペッパーが「トニー…」と制したが、「下にいるから…」と彼女の手を振り切りまた作業場へと降りて行った。

中断していたアーマーの整備を再開するも、気が付けば同じことばかりしていた。
手に持っていたスパナを放り投げ、椅子に座る。
机の上に飾られた家族写真を手に取る。娘がまだ幼かった頃の写真。
大事な大事な娘。
世界で一番愛しい女性にそっくりで、それでいて性格はどうも私に似てしまったようだが…皮肉屋で、でもすごく優しくて思いやりがあり、みんなに愛されている娘。
大事な娘だが、いつまでも私の手元で守ってやるわけにはいかない。
いつか私の代わりに彼女を一生大事にしてくれる男にバトンタッチをしなければならない。
私がペッパーを手に入れたように…。

どうして素直に「おめでとう」と言えないんだろうな…。
無理難題を付けてこれまでも何人も追い返してきたが、あの男は違う。
追い返されても、何度も何度も粘り強く足を運んでいる。
娘のことを本気で心から愛してくれているのだろう。
あの男になら…娘を託しても大丈夫だろう…。

「トニー…」
写真から顔をあげるとペッパーがいた。
「ペッパー…」
彼女を手招きし、膝の上に座らせる。
彼女の唇にキスを落とし、肩に顔をうずめる。
ペッパーは私の頭を撫でながら、いつまでも変わらない優しい声で言った。
「ねぇ、許してあげて?私も寂しいのは一緒。それに、あなたも分かっているんでしょ?彼なら大丈夫だって」
「…」
私の心の内を全て理解してくれているからこそできる無言の返事に、ペッパーはクスリと笑った。
「それにね、あの子、何て言ったと思う?私たちみたいな夫婦になりたいんだって。パパとママは小さい時から憧れの夫婦だからだって。パパがママと大事にしているみたいに、私のことを大事にしてくれる人に巡り合えた、彼とだったらパパとママみたいに夫婦になれそうって言っていたわ。トニー、あの子、本当にあなたが大好きなのよ。だからちゃんと話を聞いてあげて。お願い」
私の頭を抱きしめながら話すペッパーを抱きしめると
「分かっているよ…心の準備が一番できてなかったのは私なのかもな…」

そうつぶやくと、ペッパーは
「私がいるわ…寂しいけど私で我慢してね」
と目をつぶる私の唇に…甘く…優しいキスを…。

__________

「…とにー…トニー…」
ベッドの中で彼女を抱きしめ、キスを繰り返しているうちに、不覚にも眠ってしまったらしい。
「!!ペッパー!すまない…」
久しぶりの逢瀬でとんだ失態をおかしてしまった。
必死で謝る私にペッパーは苦笑しながら
「いいのよ、トニー。出張と徹夜続きで疲れているのよ…。ほら、この子も…パパ早く寝なさいって言っているわよ」
彼女の膨らんだお腹に手を当てると、元気よくお腹を蹴り存在を主張し始めた。
「痛っ!もう…元気なんだから…誰に似たのかしら?」
愛おしそうにお腹をなでる彼女を背後から抱きしめ、彼女の手の上に自分の手を重ねる。
「不思議な夢を見たんだ」
「どんな夢?」
背後から彼女の首筋にキスを繰り返すと、彼女はくすぐったそうに笑った。
「娘が結婚すると言いだして…君に許してやれと諭される夢だ」
「そうね、そうなったらあなたは大騒ぎしそうだものね」
クスクスとおかしそうに笑う彼女だが、どうやら今でも全てお見通しのようだな…。
バツが悪くなった私は、夢の中で先程数十年後の私が言っていたセリフを思わずつぶやいた。
「当たり前だ。私より強くてカッコよくて頭がいい奴じゃないとダメだ」

それを聞いたペッパーは目を丸くして
「あら、それは見つけるのが大変ね。生まれる前からこの調子じゃ先が思いやられるわよ」
苦笑しつつもうれしそうにお腹を撫でてほほ笑んだ。

産まれる前から親ばか発揮

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