「パパ!今日こそちゃんと会ってね!」
母親によく似た娘が作業場でアーマーの整備をしている私の元に押しかけてきた。
「…何の話だ…」
私がとぼけると
「パパ!言ったでしょ!紹介したい人がいるって!もう上に来てるんだから!着替えて上がってきてよ!」
目を吊り上げ、腰に手をやるその姿は、まるでペッパーそのもの。
あまりごねると、そのうち母親の方も現れるだろう…。彼女にはめっぽう頭があがらない私は、しぶしぶ立ちあがった。
上に上がると、3人がソファーに座り楽しく談笑していた。
「あら。トニー早かったわね」
私の気持ちを察しているペッパーはおかしそうにクスリと笑った。
「カワイイ娘のためだからな…」
ペッパーの隣に腰を下ろすと、彼女の肩に手を回し抱きよせた。
「パパ!」
また始まった…と、あきれ顔の娘に睨まれたので唇にキスをするのはやめておいたが、ペッパーが耳元で
「トニー、しかめっ面はダメよ」
と囁いたので、頬に軽くキスを落とした。
「で、何の用だ?」
ペッパーの髪の毛を弄びながら正面の2人を見つめる。
それを合図に、娘と隣に座る男が姿勢を正した。
「パパ、ママ…。私、彼と結婚したいの。私のことすごく大事にしてくれるし、それに…」
「大事な娘さんだということは重々承知です!一生大事にします!彼女との結婚を許して下さい。お願いします」
深々と頭を下げる2人。
正直、カワイイ娘を…大事に育ててきた娘を取られるのはいい気がしない。
つまり、私が彼女を手放すのが寂しいんだ。
しかも、こんな軟弱そうな男が大事な娘を本当に幸せにしてくれるのか?
娘の命が危険にさらされた時、自分の命をかけて守ってくれるのか?
この数カ月、頭の中でずっと繰り返してきた疑問。
何も言わず黙っている私にしびれを切らした娘が、不安そうにこちらを見つめているのに気付いた。
「…おい。いつも言っているだろ。結婚するなら、パパより強くてカッコよくて頭がいい奴じゃないと許さんとな」
「…彼はパパよりは弱いかも…だってアイアンマンじゃないし…。でも、パパみたいに完璧な男っていないのよ?」
「じゃぁ、あきらめろ。話は以上だな」
「ママ…」
泣きそうな顔でペッパーに助け船を求める娘に心がチクリと痛んだ。
立ちあがろうとする私を、ペッパーが「トニー…」と制したが、「下にいるから…」と彼女の手を振り切りまた作業場へと降りて行った。
中断していたアーマーの整備を再開するも、気が付けば同じことばかりしていた。
手に持っていたスパナを放り投げ、椅子に座る。
机の上に飾られた家族写真を手に取る。娘がまだ幼かった頃の写真。
大事な大事な娘。
世界で一番愛しい女性にそっくりで、それでいて性格はどうも私に似てしまったようだが…皮肉屋で、でもすごく優しくて思いやりがあり、みんなに愛されている娘。
大事な娘だが、いつまでも私の手元で守ってやるわけにはいかない。
いつか私の代わりに彼女を一生大事にしてくれる男にバトンタッチをしなければならない。
私がペッパーを手に入れたように…。
どうして素直に「おめでとう」と言えないんだろうな…。
無理難題を付けてこれまでも何人も追い返してきたが、あの男は違う。
追い返されても、何度も何度も粘り強く足を運んでいる。
娘のことを本気で心から愛してくれているのだろう。
あの男になら…娘を託しても大丈夫だろう…。
「トニー…」
写真から顔をあげるとペッパーがいた。
「ペッパー…」
彼女を手招きし、膝の上に座らせる。
彼女の唇にキスを落とし、肩に顔をうずめる。
ペッパーは私の頭を撫でながら、いつまでも変わらない優しい声で言った。
「ねぇ、許してあげて?私も寂しいのは一緒。それに、あなたも分かっているんでしょ?彼なら大丈夫だって」
「…」
私の心の内を全て理解してくれているからこそできる無言の返事に、ペッパーはクスリと笑った。
「それにね、あの子、何て言ったと思う?私たちみたいな夫婦になりたいんだって。パパとママは小さい時から憧れの夫婦だからだって。パパがママと大事にしているみたいに、私のことを大事にしてくれる人に巡り合えた、彼とだったらパパとママみたいに夫婦になれそうって言っていたわ。トニー、あの子、本当にあなたが大好きなのよ。だからちゃんと話を聞いてあげて。お願い」
私の頭を抱きしめながら話すペッパーを抱きしめると
「分かっているよ…心の準備が一番できてなかったのは私なのかもな…」
そうつぶやくと、ペッパーは
「私がいるわ…寂しいけど私で我慢してね」
と目をつぶる私の唇に…甘く…優しいキスを…。
__________
「…とにー…トニー…」
ベッドの中で彼女を抱きしめ、キスを繰り返しているうちに、不覚にも眠ってしまったらしい。
「!!ペッパー!すまない…」
久しぶりの逢瀬でとんだ失態をおかしてしまった。
必死で謝る私にペッパーは苦笑しながら
「いいのよ、トニー。出張と徹夜続きで疲れているのよ…。ほら、この子も…パパ早く寝なさいって言っているわよ」
彼女の膨らんだお腹に手を当てると、元気よくお腹を蹴り存在を主張し始めた。
「痛っ!もう…元気なんだから…誰に似たのかしら?」
愛おしそうにお腹をなでる彼女を背後から抱きしめ、彼女の手の上に自分の手を重ねる。
「不思議な夢を見たんだ」
「どんな夢?」
背後から彼女の首筋にキスを繰り返すと、彼女はくすぐったそうに笑った。
「娘が結婚すると言いだして…君に許してやれと諭される夢だ」
「そうね、そうなったらあなたは大騒ぎしそうだものね」
クスクスとおかしそうに笑う彼女だが、どうやら今でも全てお見通しのようだな…。
バツが悪くなった私は、夢の中で先程数十年後の私が言っていたセリフを思わずつぶやいた。
「当たり前だ。私より強くてカッコよくて頭がいい奴じゃないとダメだ」
それを聞いたペッパーは目を丸くして
「あら、それは見つけるのが大変ね。生まれる前からこの調子じゃ先が思いやられるわよ」
苦笑しつつもうれしそうにお腹を撫でてほほ笑んだ。
産まれる前から親ばか発揮