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Need You Now~新婚編4~

翌朝、目を覚ましたペッパーがいつもと違う天井に戸惑っていると、トニーが携帯片手に戻ってきた。
「トニー…」
「目が覚めたか?」
ベッドの横の椅子に腰掛けたトニーは、ペッパーの手を握りしめた。
(そうだわ…。私…急にお腹が痛くなって…)
昨日のことをぼんやりと思い出したペッパーは、顔色を変えた。
「あ、赤ちゃんは?!」
慌ててお腹に手を当てたペッパーをトニーはそっと抱きしめた。
「大丈夫だ。子供は無事だ。ただ、一、二週間は入院することになりそうだ」
「よかった…赤ちゃん、無事でよかった…」
ペッパーの目に浮かんだ涙を指で拭き取ったトニーは、握りしめた手の甲にキスをおとした。
「ペッパー、すまない。君がこっちに来てすぐに君とのことを公表していれば、こんなことには…」
頭を下げるトニーにペッパーは慌てた。
「トニーのせいじゃないわ。それに、赤ちゃんも無事だったし…」
「いや、今回のことだけではない。聞いたよ、会社に来た時のことも。酷い態度をされたんだろ?君の顔を知っている社員が通りすがりに目撃したらしいんだ。 気づいた時には君はもう立ち去った後で、止められず申し訳なかったと言っていた。俺もあの時気づいてやれなくてすまなかった…」
「ううん、トニーのせいじゃないもの。謝らないで。私もちゃんと言えばよかったのよね、あなたの奥さんだって…」
俯いたペッパーの手を取ったトニーは、結婚指輪にそっとキスをした。
「ペッパー、君は俺の妻だ。トニー・スタークの妻はヴァージニア、君だけなんだ。だから、もっと自信を持ってくれ。俺が選んだのは君だけなんだから…」
「うん…」
抱きついてきたペッパーの背中をトニーは優しく撫で続けた。

午後になり、トニーは会社へ向かった。
ペッパーから贈られたネクタイを締めたトニーは、大きく息を吐くと、マスコミが集められた部屋へと入って行った。

「スタークさん!お一人なんですか?」
「大勢の生徒と関係があったとは本当ですか?」
「奥さまは流産されたと聞きましたが?」
「やましいことがあるから、奥さまは連れてこなかったんですか?」

次々と浴びせられる下衆な質問に、トニーは必死に怒りを抑えた。
マイクの前に立ったトニーは、サングラス越しにマスコミを睨みつけた。トニーの怒りを感じたマスコミは、一斉に静まり返った。
咳払いをすると、トニーは話し始めた。
「今日の会見は私一人だ。君たちの心ない報道で、妻だけではない。妻の両親も友人も心を痛めている。だから、私の口から真実を話す。何事も面白おかしく報道したい君たちにとっては、私たちの真実の愛など物足りないかもしれないが…聞いて欲しい。
確かに妻は私の教え子だった。当時、教師だった私は、生徒だった妻に恋をした。教師と生徒という関係上、許されることではないかもしれない。報道されているように、妻は妊娠している。四ヶ月だ。安心してくれ、子供は順調に育っている。
君たちは、私たちが遊びで関係を持ち、妊娠したから結婚したと推測しているようだが、それは違う。私たちは当時から結婚の約束をしていた。お互いかけがいのない存在だから結婚した。妻はどんな時も私のそばにいて支えてくれた。私が亡き両親との関係で苦しんでいる時もだ。他の誰でもない、ヴァージニアだけが、私の荒んだ心に救いの手を差し伸べてくれた。愛を知らなかった私に愛を教えてくれた。出会いは教師と生徒という関係だった。だが、最初から…いや、出会う前からヴァージニアは私にとってなくてはならない存在だったんだ。彼女は私にとって世界一大切な、そして守るべき存在だ。今、彼女は先日の報道、そして心ない人たちからのコメントで、傷付いている。言っておくが、彼女を守るためなら、私はどんな手段も選ばない。命をかけてもいいと思っている。私を誹謗中傷するのは構わない。だが、妻をこれ以上傷つけてみろ。妻とそして生まれてくる子供に何かあってみろ。私は大切な二人を傷つける奴を一生許さない。以上だ」

トニーの言葉にマスコミは、誰一人言葉を発することが出来なかった。静まり返った部屋を見渡したトニーは、何も言わず部屋を立ち去った。

ペッパーは病院のベッドの上で、知らせを受けて飛んで来た母親と共に、トニーの会見を見ていた。
「ヴァージニア。トニーなら、あなたのことを一生守ってくれるわ。だから、自信を持ちなさい」
「うん…ママ…」
トニーの言葉に涙を流す娘を、母親は優しく抱きしめた。

仕事帰りに、病院へと向かったトニー。ペッパーの好きなチョコレートと花束を手に病室へ近づくと、何やら賑やかな声がする。
「えらい賑やかだな…」
苦笑しながらドアを開けたトニーは、病院一広い部屋なのに女の子で溢れかえっている光景にひっくり返りそうになった。

人の隙間から、トニーの姿を見つけたペッパーが、嬉しそうに声をかけた。
「あ!トニー、おかえりなさい」
よく見ると、どれもペッパーの友達ばかり。トニーに気づいた元教え子たちは、歓声をあげた。
「あー!先生!!久しぶり!」
「どうしたんだ?みんな…」
輪の中をすり抜けるようにペッパーのそばにやってきたトニーは、
「ただいま」
と囁くと、ペッパーの頭にキスをした。
「だって、友達が入院してるのよ?お見舞いに来たの!」
「私たち、みんなこっちにいるの。ペッパーが入院したって聞いて、いてもたってもいられなくて…」
「そう!ニュースで聞いてびっくりしたの。でも、先生とペッパーのことをあんな風に言うなんて酷いわ!」
「私たちはあなたの味方よ、ペッパー。ペッパーを泣かすなんて、許さないわ!」
「でも、先生の会見、ステキだったわ」
次々と口を開く友達を、ペッパーは嬉しそうに見つめた。
「ペッパー、よかったな。みんな君の味方だ」
「うん、私って幸せよね」
ベッドに座ったトニーはペッパーを抱きしめた。
「トニー、ありがとう。私のこと、ああいう風に思ってくれていたなんて…ありがとう…」
「当たり前だろ?君がそばにいてくれるから、俺は頑張れるんだ…」
「トニー…愛してるわ…」
「俺も…」
見つめ合った二人の唇は自然に近づいていった。

二人は忘れていた…周りにギャラリーがいることを…。

キャー!!!という黄色い悲鳴が聞こえ、二人は慌てて身体を離した。
見ると、ペッパーの友達が目を輝かして二人を見つめているではないか。
(忘れてた…)
顔を見合わせた二人だが、急に恥ずかしくなったペッパーは、頭からシーツを被り潜ってしまった。
「おい、ペッパー。恥ずかしがるな。いいじゃないか、夫婦なんだから」
からかうようにシーツごとペッパーを抱き締めたトニーに、ますます顔を赤らめたペッパーは叫んだ。
「もう!トニーのバカ!」
いつまでも変わらない二人をペッパーの友達は顔を見合わせて笑った。

絆編へ続く…

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Need You Now3~新婚編3~

一週間後、帰宅した二人を待ち構えていたのは、たくさんのマスコミだった。
家の前に大勢のマスコミがいるのに気づいたトニーは
「ちっ!」
と、舌打ちすると、クラクションを鳴らした。スピードを出すこともできず、マスコミの間をゆっくり進む車。
「スタークさん!ご結婚されたと聞きましたが!」
「奥様を紹介していただけませんか?」
車越しに向けられるカメラとマイク。トニーは眉間に皺を寄せて黙ったまま。どうしていいか分からないペッパーは、助手席で思わず顔を覆った。そのペッパー に向けて、無数のフラッシュがたかれた。小さく震えるペッパーの肩を抱き寄せたトニーはそのまま車を走らせると、門を閉めた。

門の外の大勢のマスコミは、二人の動きを見逃さまいと、帰ろうとしない。
寝室の窓からそっと覗いていたペッパーは、不安そうにトニーを振り返った。
「どうするの?」
「ほっとけばいい。明日になったら会社に押し寄せてくるだろう。その時に話をする。それよりも…」
ペッパーを抱きしめたトニーは、首筋にキスをした。
「さっきの…飛行機の続き…いいか?」
「ま、まだするの?!」
飛行機の中だけではない。結局この一週間、ペッパーが妊娠中のため以前よりは大人しめに…ではあるが、ペッパーはトニーにずっと抱かれていたのだ。
真っ赤な顔をしたペッパーだが、先ほどまでの甘い時間を思い出し、もじもじと太腿をこすり合わせた。
「今まで散々我慢したんだ。いいだろ?」
小さく頷いたペッパーを押し倒したトニーは、うっとりした表情のペッパーの唇を奪った。

翌日。
まだ眠っているペッパーを残し、会社に向かったトニーは、車を降りるや否や、大勢のマスコミに囲まれた。一斉にマイクとカメラを向けられたトニーは、何か言いたそうにしているマスコミを制すると、ため息を付き話し始めた。
「君たちの言うとおり、先日結婚した。妻の名前はヴァージニア。近いうちに二人で会見を開く。だから、彼女を追い回したりしないでくれ」
その言葉に納得したのか、マスコミはそれ以上必要に追い回さなかった。

だが…次の日。
会議を終えて部屋に戻ってきたトニーを、真っ青な顔をしたエミリーが呼び止めた。
「社長…大変です…」
「どうした?」
「これを見てください」
差し出されたのはゴシップ誌。
表紙には、どこで手に入れたのだろうか、結婚式での二人の写真と、あろうことかハネムーンの…しかも海辺で生まれたままの姿で抱き合う二人の写真が載せられ、『トニー・スタークの乱れた性生活』という大きな文字が踊っていた。

中を読み始めたトニーは、書かれている内容に唖然とした。

『トニー・スターク氏の結婚相手は、スターク氏が先日まで教師をしていた学校の生徒。スターク夫人ことミセス・ヴァージニア・スタークは、当時現役教師だったスターク氏と数年にわたり関係を持っていた。スターク氏のセックスの相手の一人にすぎなかったヴァージニアだが、運良く妊娠。スターク氏はヴァージニアが卒業すると同時に結婚し、ヴァージニアもスターク夫人という称号を手に入れることに成功した。愛のない結婚はすぐに破局を迎えるだろうが、現役教師と生徒の乱れた性生活について、直接本人たちの口から聞いてみたいものだ』

「くそっ!」
手にもっていた雑誌を握り潰したトニーは、ゴミ箱に投げ捨てた。だが、
「社長…テレビでも報道されています。早く奥様のところへ…」
というエミリーの言葉に、トニーは走り出した。

途中何度も電話をかけるが、ペッパーは話し中のため繋がらない。トニーはジャーヴィスにテレビを付けるなと命じると、家へと急いだ。
その頃ペッパーは、たまたま付けたテレビから自分の名前が聞こえたため振り返った。
『…スターク氏と結婚したヴァージニアは、妊娠四ヶ月ということです。これは、ヴァージニアが学生の時にスターク氏と関係があったということでしょう…』
『…街の声です。えー、先生とでしょ?学校以外で何教えてもらうの?―エッチの仕方じゃない?―やだー!』
『…二人とも遊びだったんじゃないですか?スターク氏は、大勢の生徒と関係を持っていたという情報もあります。しかし、子どもが出来てしまった。そのうち離婚しますよ…』

「ジャーヴィス!消して!」
TVを消したペッパーは、トニーに電話をかけようとした。だが、携帯が鳴り、ペッパーは相手も確かめず電話に出た。
「もしもし?」
「ペッパー?聞いたわよ!あんた、学校でスターク先生に抱かれてたんでしょ?やだ!それでどんな顔して授業受けてたのよ!」
高校時代のクラスメイトからだった。思わず電話を切ったペッパーだが、たくさんのメールが届いていた。
『ペッパー、おめでとう!ついにミセス・スタークね!赤ちゃんも生まれるのね?今度遊びに行かせてね』
『おめでとう、ペッパー!スターク先生とペッパーの子供でしょ?きっとかわいいわね!楽しみ!赤ちゃんが生まれたら連絡して!』
仲のよかった友達からは祝福のメールが届いていた。だが、一方で…。
『何であんたがスターク先生と結婚するわけ?妊娠したから結婚しろって迫ったんでしょ?』
『どうせセックスもあんたから迫ったんでしょ?真面目な顔して…淫乱ね』
『あんたみたいなお子様、先生にはふさわしくないわ!』

嫉妬による誹謗中傷だらけのメールもたくさん届いており、ペッパーは携帯の電源を切ると、部屋の隅に投げ捨てた。

(違うわ…私たちはそんなんじゃない…。私たちは、愛し合ったから結婚したのに…。みんな、私たちのことを知らないのに、何で面白がってそんなことを言うの…)
床に座り込んだペッパーの目からは、涙がポロポロと零れ落ちた。
だがその時…お腹に鋭い痛みを感じたペッパーはうずくまった。腹部の痛みは増す一方。立ち上がることもできず、ペッパーは床に倒れた。
(赤ちゃんが…どうしよう…。トニー…助けて…)
連絡しようにも携帯は部屋の隅。必死で手を伸ばしたペッパーだったが、気を失ってしまった。

家の前には多くのマスコミが詰めかけていた。裏口から入ったトニーは、ペッパーの名前を呼びながらリビングへ向かった。
「ペッパー?」
だが返事はなく、キッチンへ向かおうとしたトニーは、ソファーの後ろで倒れているペッパーを見つけた。
「ペッパー!」
抱き起こしたペッパーは、青い顔をしてぐったりとしている。血相を変えたトニーは、
「おい!ペッパー!しっかりしろ!ジャーヴィス!病院へ連絡しろ!」
と叫ぶと、ペッパーを抱きかかえ車へ走った。

「切迫流産です。しばらく安静に…」
幸いにも子供は無事だったが、ペッパーの心はひどく傷ついているだろう。
「ペッパー…すまなかった。苦しませてゴメン…」
青い顔をして眠るペッパーの手をトニーは一晩中握っていた。

4へ…

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Need You Now2~新婚編2~

式は身内だけで、ペッパーの実家の近くにある教会で行うことになった。
翌朝『来週結婚式をあげるから』と電話すると、両親はさすがに呆気に取られていた。その日からトニーが手配したプランナーと共に、ペッパーは慌ただしくドレスやブーケの打ち合わせに追われた。
一方のトニーは、結婚式の後、一週間の休暇を取るため、連日深夜遅くまで働くことになったが、一週間後の結婚式とハネムーンのことを考えると、その忙しさすら楽しくなっていたのだった。

♥ ♥ ♥

式まであと二日。
式の打ち合わせも終わり、あとは当日を待つのみ。
朝早く出ていき、日付が変わる頃帰宅するトニーとは、ほとんど会話らしい会話ができていない。誰も知り合いもいない土地で、しかもまだ土地勘もないため、何をしようか途方に暮れたペッパー。
(そうだ!トニーに何か作って行ってあげよう!)
そう思いついたペッパーは、ランチを作り始めた。
 

ペッパーがスターク・インダストリーズへ行くのは初めてだった。結婚式後に正式にお披露目しようと考えていたトニーは、まだペッパーを会社に連れて行ったことはなかったのだ。
あまりに広い会社。どこへ行けばいいか分からず、トニーに電話するも会議中なのか電話に出ない。正面の一番大きな建物に入ったペッパーは、受付に行ってみることにした。

「あの…すみません。トニー…いえ、社長にお会いしたいんですが…」
トニーを訪ねて見知らぬ女性がやって来ることは日常茶飯事。
また誰か来たわ…とため息をついた受付嬢だが、急いで来客用の笑顔を張り付けると、機械的な口調で言った。
「社長とアポイントは取られていますか?」
「い、いえ…あの…」
もごもごと答えるペッパーを受付嬢は品定めし始めた。

日頃社長を尋ねてくる女性は、色気で落とそうとしていると、誰が見ても分かるような恰好をしているのに、今日の人はやけに幼い恰好ね…。この子ったらいくつ?スタイルはいいのに、まだ高校生くらいじゃない⁈
そんなことを考えていた受付嬢だが、目の前の来客がいつまでも答えないのにしびれを切らして、冷たく言い放った。
「失礼ですが、社長とのご関係は?ご用件をお聞きしていいかしら?」
(妻と名乗っていいのかしら?正式にはまだだもの…。婚約者と言えばいいの?)
オロオロするペッパーを見た受付嬢は、自分よりも明らかに年下の来客をあろうことか鼻で笑った。
(この子ったら、何しに来たの?それに、社長には婚約者がいるのよ?あんたみたいな子供、相手にされるわけないでしょ?)
喉元まで出かかっていた言葉をぐっとこらえた受付嬢。
「申し訳ありませんが、お引き取り下さい」
と、ロビーに響き渡るような大きな声で言った。

(まさかトニーに会うのがこんなに大変だなんて…)
周りのスーツを着こなした大人な男性や女性たちの視線が一斉に自分に集まったのを感じたペッパー。先日買ってもらったワンピースを着たペッパーは、自分が場違いであるように感じ、ワンピースの裾をぎゅっと握りしめた。
情けなくなり、俯いた拍子に涙がこぼれ落ちた。
ペッパーの涙に、目の前の二十歳になるかならないかのような女の子を泣かせてしまった受付嬢は慌てた。
「ちょっと、大丈夫?」
「大丈夫です…。ごめんなさい…」
そういうと、ペッパーは涙を堪えて出て行った。

数メートル歩いたところで、ペッパーの耳に大好きな声が飛び込んできた。
「ペッパー!」
呼ばれて振り返ると、車の窓から顔を覗かせているトニーがいた。
「トニー…」
車に近づくと、目を真っ赤にしたペッパーに気付いたトニーは顔色を変えた。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
先ほどの出来事を話すわけにはいかない…そう思ったペッパーは、笑顔を張り付けると、トニーに紙袋を差し出した。
「何でもないわ。あのね、あなたにお弁当を作って来たんだけど…」
紙袋を受け取ったトニーは、心底嬉しそうな顔をした。
「わざわざ持って来てくれたのか?実は腹ペコなんだ。今からもう一件会議があるんだが、それが終われば今日は終わりなんだ。一緒に来るか?」
「え…でも…迷惑でしょ?」
「は?迷惑?そんなわけないだろ?せっかくだから、帰りに食事でもして帰ろう」
「うん!」
ドアを開けたトニーはペッパーを車に引っぱり込んだ。

車に乗り込むと、トニーの隣には一人の女性が座っていた。
「ペッパー、紹介しよう。秘書のエミリーだ」
エミリーと紹介された女性は、美人でゴージャスな大人の女性だった。
「ヴァージニア様、初めまして。エミリー・ネルソンです」
「は、初めまして…ヴァージニアです…」
ニコっと笑ったエミリーに見つめられたペッパーは、真っ赤になって俯いてしまった。
「社長のおっしゃる通り、可愛らしい方ですね」
「言っただろ?」
ペッパーの作ったお弁当をパクパク食べながら、トニーはニヤリと笑った。だが、仲睦まじく話をするトニーとエミリー。二人の間に入れないペッパーの目に浮かんだ不安の色に気付いたエミリーは、
「停まってくれる?」
と運転手に告げた。
「どうしたんだ?」
不思議そうな顔をするトニーにエミリーは笑った。
「いえ、ただ。この一週間お忙しかったですから、お二人でお話することもあるかと思いまして。私は前に座りますから。それと、ヴァージニア様。大丈夫です よ。社長はあなたのことしか見えていませんから。それに、私にも婚約者がいるんです。だから、社長の秘書に採用されているんですけどね」
ペッパーにウインクしたエミリーは楽しそうに笑った。

後部座席で二人きりになると、お弁当を食べ終わったトニーは、ペッパーを抱き寄せ膝の上に座らせた。
「と、トニーったら…」
真っ赤になっているペッパーの首元に顔を埋めたトニー。一週間ぶりに触れるペッパーの柔らかな身体に溺れたい思いを、トニーは必死で我慢すると、ペッパーの唇に甘いキスをおとした。
「ゆっくり話すのも久しぶりだな」
「そうね…いつもごめんなさい。先に寝ちゃってて…」
しょんぼりするペッパーにトニーは笑った。
「いいさ。いつ帰れるか分からない俺を待っていて、君が体調を崩したら大変だ」
そう言いながらペッパーのお腹に手を当てたトニーは、お腹に向かって話し始めた。
「お前と話すのも久しぶりだな。元気にしてたか?一週間、ママを独り占めできただろ?だから、明後日からはしばらく俺が独占しても許してくれよ?」
運転手と助手席のエミリーは笑いをこらえているのか、肩が震えている。
「と、トニーったら!!!」
真っ赤になったペッパーは、トニーの肩をポカポカと叩いた。
「本当のことだ。いいじゃないか」
からかうように言うトニーは、まだ文句を言おうとしているペッパーの口を唇で塞いだ。

「社長、到着しました」
二人がキスをしている間に、車はいつの間にか目的地へと到着していた。
車から降りたペッパーは目を丸くした。そこは、空軍の基地だった。

「こちらへどうぞ」
恰幅のいい軍人に先導されて向かったのは、基地の中にある部屋だった。
部屋には背の高い一人の男性が待っていた。その男性は、トニーと手を繋いだペッパーを見ると顔を輝かせた。
「トニー!隣の女性はもしかして…」
「あぁ、ヴァージニアだ。お前に会わせようとわざわざついて来てもらったんだ。ありがたく思えよ」
大げさに言うトニーを無視したその男性は、ペッパーの方へ歩み寄った。
「やっぱり!ヴァージニアさん、初めてお目にかかります。ジェームズ・ローズです。」
 差し出された手はとても温かくペッパーの顔に笑みがこぼれた。
「ヴァージニア・ポッツです。初めまして。」

「ローディとは付き合いが長いんだ」
ソファーに座ったトニーは、ペッパーに説明し始めた。
「そう。トニーがLAを離れていた時は別として…。トニーが大変だった時もペッパーさんが支えてくれていたそうだね。こっちに戻ってきてから仕事でもプラ イベートでもよく会っていたんだけど、会うたびに君の惚気話ばかりだったんだ。だから、ペッパーさんに会うのが、待ち遠しかったんだよ」
「そうなんですか…」
まさか自分がいない所で自分の惚気話をされていたなんて…。急に恥ずかしくなったペッパーは、頬を赤らめた。
「おい、ローディ。俺の妻に馴れ馴れしくしないでくれよ」
ペッパーの肩を抱き寄せたトニーだが、基地の責任者が入ってきたのに気づき、身体を離した。

ものの数分で交渉も終わり、二人は帰路へついていた。
何処かへ電話をかけていたトニーだったが、
「サンタモニカまで行ってくれ」
と運転手へ告げた。
「せっかくだから、夕飯は食べて帰ろう」
「うん!」
嬉しそうなペッパーの頬をそっと撫でたトニーは、頭にキスをした。

予約したレストランに到着すると、それまで邪魔しないよう黙っていたエミリーが声をかけた。
「ところで、社長。ヴァージニア様をいつお披露目されるんですか?」
「ハネムーンから帰ってきたら…と思っているが…」
「では、パーティーの予定を入れておきます」
「あぁ、頼む」
「では、ヴァージニア様。パーティーのドレスは、ハネムーンから戻られてからでよろしいですか?」
「は、はぁ…」
目の間繰り広げられている会話に目が点になっているペッパー。ペッパーの様子に気づいたトニーは、心配そうにペッパーの手をキュッと握った。
「大丈夫か?ペッパー?」
「うん…。ただ…何だかおとぎ話の世界みたいで…。私の旦那様ってすごい人なのね…」

先ほどの会話でも驚いたペッパーだが、トニーに手を取られ入ったレストランは貸し切りで、さらに目を丸くしたのだった。
♥ ♥ ♥

三日後。
結婚式はトニーとペッパー、そしてペッパーの両親だけの小さな式。純白のウエディングドレスに身を包んだペッパーの姿に、トニーもそしてペッパーの両親も目を細めた。

そしてトニーとペッパーは、ハネムーンへ向かった。

プライベートジェットで向かったのは、南の小さな島。
誰もいない二人だけの空間で、二人は人目を気にすることなく、愛し合った。
一日中ベッドの中にいることもあれば、そのままの格好でビーチへ向かい、美しい海を楽しむこともあった。

ペッパーはトニーの腕の中で祈った。この幸せがいつまでも続きますように…と。

3へ…

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Need You Now1~新婚編1~

眩しいほどの太陽にペッパーは目を覚ました。いつものように伸びをして起き上がろうとするが、身体が動かない。
(あ…そうだわ。私…)
ここはマリブ。実家ではないことを思い出したペッパーは、目の前いる最愛の人をちらりと見た。トニーはペッパーを腕の中に閉じこめたまま、幸せそうな顔をして眠っている。
(今日からは二人で暮らしていくのよね…)
全身に散らばる紅い花に気づいたペッパーは、昨晩から明け方にかけての甘く蕩けるような時を思い出し、顔を赤らめた。トニーを起こさないように腕の中から抜け出すと、腰回りに申し訳ない程度にかかっているシーツをトニーの肩までかけ、シャワールームへ向かった。

三十分ほどたった頃。抱きしめていたはずの温もりが消え、トニーは目を覚ました。腕の中はもぬけの殻。
(ペッパーがいない!昨日の出来事は夢だったのか?)
「ペッパー?!」
部屋の隅に転がっていたバスローブを引っかけたトニーだが、部屋を出る前に何も着ていないことに気づくと、慌てて下着を履き寝室を飛び出した。

階下へ向かったトニーは、香しい匂いに気付きキッチンへと向かった。
「おはよう、トニー。どうしたの?」
トニーの恰好を見たペッパーは目を丸くした。辛うじて下着は履いているが、バスローブを引っかけただけの身体には昨晩の名残のキスマークが無数についてい た。盛大に寝癖の付いた頭に手を当てたトニーは目を見開いてペッパーを見つめていたが、大きく息を吐くと椅子へ座り込んだ。
(よかった…夢じゃなかったんだ…)
頭を抱えていたトニーだが、やがて肩を震わせ笑い出した。
(トニー⁈おかしくなっちゃったの⁈)
慌てたペッパーは、トニーに駆け寄り抱きついた。
「トニー…。な、何かあったの?」
トニーは目に涙を浮かべ笑っていたが、心配そうなペッパーを見ると笑うのをやめ、膝の上にペッパーを座らせた。
「いや。目を覚ましたら君がいなかったから、夢の中の出来事だと思ったんだ。だが、君の姿を見たら安心して、慌てた自分がおかしくて…」
トニーの首元に腕を回したペッパーは、クスっと笑うと自分の額をトニーの額につけた。
「私はどこにも行かないわ。ずっとあなたのそばにいるって決めたもの…」
「そうだな…ずっと一緒だ…」
笑みを浮かべたトニーは、ペッパーの唇を奪った。

ペッパーの作った朝食を食べた二人は、並んで後片付けをしていた。
「天気もいいし、買い物に行かないか?」
「でも、仕事は?」
「今日も休みを取っているんだ。せっかく二人で暮らせるようになったんだし」
「いいの?やった!」
嬉しそうに飛び上がったペッパー。トニーも思わず笑みを浮かべた。

トニーはペッパーを連れて海沿いのショッピングスポットへ向かった。平日ということもあり人も少なく、二人は腕を組んで歩いていた。
「そういえば、お出かけするのって、あの旅行以来ね」
「そう言えばそうだな…。もう誰の目も気にしなくていいからな」
「うん」
笑顔を浮かべたペッパーの頬にトニーはキスをした。

「この店、覗いてもいいか?」
しばらくぶらぶらと歩いていた二人だが、トニーが一軒の店の前で立ち止まった。そこはおしゃれなセレクトショップだった。
顔なじみなのだろう、トニーが店に入ると、オーナーらしき女性が飛んで来た。
「スターク様、いつもありがとうございます」
「頼んでいた物、入っているか?」
「えぇ。今朝ちょうど入荷したんです」
見るからに高そうな服が並んだその店は、ペッパーにとっては来たことがないような場所だった。トニーの後ろでキョロキョロと辺りを見回すペッパーに気付いた女性オーナーが声をかけた。
「あら?今日はお一人ではないんですね。スターク様が女性とご来店されるなんて初めてですよね?」
自分の後ろにいたペッパーを引っ張り隣に並ばせたトニーは、肩を抱き寄せた。
「あぁ、紹介する。妻のヴァージニアだ」
店内にはトニーとペッパー以外いないのだが(というのも、トニーが来店すると貸し切りにするため、店の入り口には『準備中』と札が下げられるのだ)、聞き耳を立てていた店員たちがざわめいた。
「奥様?ご結婚されたんですか?」
「正確にはまだだが…。近々する予定だ」
店内の反応に苦笑したトニーだが、ペッパーは複雑な顔をしていた。そんなペッパーにオーナーはニッコリ笑うと頭を下げた。
「ヴァージニア様、よろしくお願いします。何かご相談があれば遠慮なくおっしゃって下さいね」
「こ、こちらこそ…」
頭をぴょこんと下げたペッパーに
「スターク様、ヴァージニア様は可愛らしい方ですね」
と、オーナーは微笑んだ。

「ペッパー、欲しい物があったら言えよ?」
そう言うと、トニーは服を選び始めた。
キョロキョロと辺りを見回すペッパー。自分がいつも着ているような服だけではなく、大人っぽい服もありペッパーは目を輝かせた。
(私の服…子どもっぽいわよね…。トニーの奥さんになるんだもの…。もっと大人っぽい服装にしなきゃ…)
服を選び始めたペッパーに、店員が声をかけた。
「ヴァージニア様、これはいかがですか?」
「え?」
店員が次々と勧めてくる服は、どれも胸元や脚が強調されるような服ばかり。そんな服を着たことのないペッパーは、目を白黒させた。
「ヴァージニア様はスタイルもいいですし、このような服もお似合いになると思いますよ?」
「そ、そうですか?」
店員の言葉に、ペッパーは勧められた中でも一番大人しめの服を手に取った。
そこへ、数枚の洋服を手に、トニーが戻ってきた。
「ペッパー、いいのがあったか?」
「あ、トニー。うん、これなんかどうかしら…」
ペッパーは手に持っていた服を広げた。精一杯大人っぽく見せようとペッパーが選んだのは、胸元が広く開いたシャツにショートパンツ。トニーの驚く顔を思い浮かべたペッパーだが、予想に反してトニーは渋い顔をした。
「何だ、その服は?」
顔をしかめたトニーは、手に持っていた洋服をペッパーに渡した。
「これはどうだ?」
それは、色鮮やかな花柄のワンピース。ペッパーは一目で気に入ったが、今着ている服とあまり変わらない。
「かわいいけど…私、こういうお洋服持ってないから…」
本当はトニーが選んでくれたワンピースがいいのだが、何となく後に引けなくなったペッパーは、自分が手に持っている洋服をトニーに差し出した。
トニーは、差し出した服を受け取ると、そばにいた店員に渡した。
「君はこっちの方が似合う。それに、そんな短いのを履いてどうするんだ?この子のためにもよくないだろ?」
ペッパーの少しふっくらしてきたお腹に触れたトニーは、ペッパーの顔を覗き込んだ。
「そうだけど…」
口を尖らせているペッパーを見たトニーは苦笑い。
(もしかして、俺に釣り合うような服を…と思っているんじゃないだろな?)
トニーはうつむいているペッパーの頬を触ると顔をあげた。少し潤んだオーシャンブルーの瞳をじっと見つめたトニーは、ペッパーに向かって優しく話し始めた。
「なあ、ペッパー。俺は今のままの君が好きなんだ。前にも言っただろ?君は君のままが一番輝いているって…。だから、無理しなくていいんだ。君のことだ、俺に釣り合うように…と考えているんだろ?だが、今の君でも、俺にはもったいないくらいなんだぞ?」
トニーの言葉に、ペッパーの目から涙が一粒こぼれ落ちた。
「ホント?」
「あぁ、本当だ」
トニーの背中に腕を回したペッパーは、顔を胸元に押し付けた。
「私ね、本当はあなたが選んでくれたワンピースの方が気に入ったの…」
ペッパーの頭を優しく撫でたトニーは、嬉しそうにつぶやいた。
「それはよかった。ペッパー、君が好きな物を選べよ。それに…ほら、もうすぐマタニティーウェアも必要になるだろ?」
顔を赤らめたペッパーにトニーは楽しそうにウインクした。

洋服や靴、バックにアクセサリーとたくさん買ってもらったペッパー。お揃いの物が欲しいと、ペッパーはマグカップやパジャマなどの日用品も楽しそうに揃えていき、帰る頃には車のトランクは荷物でいっぱいになっていた。

「もう一軒大事な所に寄るぞ?」
そう言ってトニーが車を走らせたのは、スターク・インダストリーズも支援している病院だった。
「病院?」
「あぁ。これからはこっちで検診を受けないといけないだろ?ここは、俺が産まれた病院だ。顔なじみの先生もいるから、君もここなら安心かと思って…」
「そうなの?あなたが産まれた病院で、あなたの赤ちゃんを産むって…何か不思議ね」
トニーの腕にしがみついたペッパーは、笑みを浮かべた。

ペッパーを診察してくれたミルズと名乗った年配の女医は、
「順調ですよ」
と、不安そうな顔をしていたペッパーを安心させるように笑った。
「私がまだ新人だった時に、トニー様がお生まれになったんですよ。それ以来のお付き合いなんです。小さかったトニー様がお嫁さんをもらって、しかもお子さんまで…」
照れ臭そうに頭をかくトニーにミルズはウインクした。
「四ヶ月でしたら、エコーで赤ちゃんの様子が見られますよ?」
そう言うと、ミルズはエコーの準備を始めた。
ペッパーのお腹に機器を当てたミルズは、モニターに写る小さなものを指差した。
「あら?ちょうど起きてますよ?ほら、元気な赤ちゃん」
5センチほどの大きさだが、ぴょこぴょこと手足を動かしている胎児。初めて見るわが子に二人の目は釘づけだった。
「見て…トニー…私たちの赤ちゃん…」
感動のあまり涙をポロポロこぼすペッパーの手をそっと握ったトニーは、ペッパーの額にキスを落とした。
「元気な子だな。君に似ているか?世界一可愛い赤ちゃんだ」
嬉しそうに語り合う二人に、ミルズは写真を渡した。
「では来月。次は性別も分かるかもしれませんよ」
カバンの中に写真をしまったペッパーは、
「先生、私、分からないことだらけなんです。これからよろしくお願いします」
と頭を下げた。

自宅に帰りソファーに座っていると、ペッパーがお揃いのマグカップにコーヒーを入れて持ってきた。
「おい、ペッパー。コーヒーは…」
慌ててカップを覗き込むトニーにペッパーは苦笑い。
「大丈夫。私はミルクだから」
トニーの隣に座ったペッパーは、嬉しそうに身体をすり寄せた。
「ふふ…新婚さんみたい」
その言葉に、ペッパーの肩を抱き寄せていたトニーだが、姿勢を正した
「そうだ。そのことなんだが…」
トニーの目は真剣だ。思わず姿勢を正したペッパーの手を取ると、トニーは手の甲に口づけをした。
「ペッパー。結婚しよう。君のお腹が大きくなる前に、花嫁姿をお義父さんとお義母さんにも見せてあげたいし、君をハネムーンにも連れて行ってやりたいんだ」
「トニー…」
ペッパーの目にはみるみるうちに涙が溜まり始めた。
「何なら明日でもいいんだぞ?」
ニヤリと笑ったトニーを見たペッパーは飛び上がった。
「明日?!そ、それは…心の準備が…」
真っ赤になってもじもじするペッパーを膝の上の乗せたトニーは
「その計画は明日から練るとして…。いいか?」
唇にキスを落とすと、トニーはペッパーを抱き上げ寝室へと向かった。

2へ…

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