翌朝、目を覚ましたペッパーがいつもと違う天井に戸惑っていると、トニーが携帯片手に戻ってきた。
「トニー…」
「目が覚めたか?」
ベッドの横の椅子に腰掛けたトニーは、ペッパーの手を握りしめた。
(そうだわ…。私…急にお腹が痛くなって…)
昨日のことをぼんやりと思い出したペッパーは、顔色を変えた。
「あ、赤ちゃんは?!」
慌ててお腹に手を当てたペッパーをトニーはそっと抱きしめた。
「大丈夫だ。子供は無事だ。ただ、一、二週間は入院することになりそうだ」
「よかった…赤ちゃん、無事でよかった…」
ペッパーの目に浮かんだ涙を指で拭き取ったトニーは、握りしめた手の甲にキスをおとした。
「ペッパー、すまない。君がこっちに来てすぐに君とのことを公表していれば、こんなことには…」
頭を下げるトニーにペッパーは慌てた。
「トニーのせいじゃないわ。それに、赤ちゃんも無事だったし…」
「いや、今回のことだけではない。聞いたよ、会社に来た時のことも。酷い態度をされたんだろ?君の顔を知っている社員が通りすがりに目撃したらしいんだ。 気づいた時には君はもう立ち去った後で、止められず申し訳なかったと言っていた。俺もあの時気づいてやれなくてすまなかった…」
「ううん、トニーのせいじゃないもの。謝らないで。私もちゃんと言えばよかったのよね、あなたの奥さんだって…」
俯いたペッパーの手を取ったトニーは、結婚指輪にそっとキスをした。
「ペッパー、君は俺の妻だ。トニー・スタークの妻はヴァージニア、君だけなんだ。だから、もっと自信を持ってくれ。俺が選んだのは君だけなんだから…」
「うん…」
抱きついてきたペッパーの背中をトニーは優しく撫で続けた。
午後になり、トニーは会社へ向かった。
ペッパーから贈られたネクタイを締めたトニーは、大きく息を吐くと、マスコミが集められた部屋へと入って行った。
「スタークさん!お一人なんですか?」
「大勢の生徒と関係があったとは本当ですか?」
「奥さまは流産されたと聞きましたが?」
「やましいことがあるから、奥さまは連れてこなかったんですか?」
次々と浴びせられる下衆な質問に、トニーは必死に怒りを抑えた。
マイクの前に立ったトニーは、サングラス越しにマスコミを睨みつけた。トニーの怒りを感じたマスコミは、一斉に静まり返った。
咳払いをすると、トニーは話し始めた。
「今日の会見は私一人だ。君たちの心ない報道で、妻だけではない。妻の両親も友人も心を痛めている。だから、私の口から真実を話す。何事も面白おかしく報道したい君たちにとっては、私たちの真実の愛など物足りないかもしれないが…聞いて欲しい。
確かに妻は私の教え子だった。当時、教師だった私は、生徒だった妻に恋をした。教師と生徒という関係上、許されることではないかもしれない。報道されているように、妻は妊娠している。四ヶ月だ。安心してくれ、子供は順調に育っている。
君たちは、私たちが遊びで関係を持ち、妊娠したから結婚したと推測しているようだが、それは違う。私たちは当時から結婚の約束をしていた。お互いかけがいのない存在だから結婚した。妻はどんな時も私のそばにいて支えてくれた。私が亡き両親との関係で苦しんでいる時もだ。他の誰でもない、ヴァージニアだけが、私の荒んだ心に救いの手を差し伸べてくれた。愛を知らなかった私に愛を教えてくれた。出会いは教師と生徒という関係だった。だが、最初から…いや、出会う前からヴァージニアは私にとってなくてはならない存在だったんだ。彼女は私にとって世界一大切な、そして守るべき存在だ。今、彼女は先日の報道、そして心ない人たちからのコメントで、傷付いている。言っておくが、彼女を守るためなら、私はどんな手段も選ばない。命をかけてもいいと思っている。私を誹謗中傷するのは構わない。だが、妻をこれ以上傷つけてみろ。妻とそして生まれてくる子供に何かあってみろ。私は大切な二人を傷つける奴を一生許さない。以上だ」
トニーの言葉にマスコミは、誰一人言葉を発することが出来なかった。静まり返った部屋を見渡したトニーは、何も言わず部屋を立ち去った。
ペッパーは病院のベッドの上で、知らせを受けて飛んで来た母親と共に、トニーの会見を見ていた。
「ヴァージニア。トニーなら、あなたのことを一生守ってくれるわ。だから、自信を持ちなさい」
「うん…ママ…」
トニーの言葉に涙を流す娘を、母親は優しく抱きしめた。
仕事帰りに、病院へと向かったトニー。ペッパーの好きなチョコレートと花束を手に病室へ近づくと、何やら賑やかな声がする。
「えらい賑やかだな…」
苦笑しながらドアを開けたトニーは、病院一広い部屋なのに女の子で溢れかえっている光景にひっくり返りそうになった。
人の隙間から、トニーの姿を見つけたペッパーが、嬉しそうに声をかけた。
「あ!トニー、おかえりなさい」
よく見ると、どれもペッパーの友達ばかり。トニーに気づいた元教え子たちは、歓声をあげた。
「あー!先生!!久しぶり!」
「どうしたんだ?みんな…」
輪の中をすり抜けるようにペッパーのそばにやってきたトニーは、
「ただいま」
と囁くと、ペッパーの頭にキスをした。
「だって、友達が入院してるのよ?お見舞いに来たの!」
「私たち、みんなこっちにいるの。ペッパーが入院したって聞いて、いてもたってもいられなくて…」
「そう!ニュースで聞いてびっくりしたの。でも、先生とペッパーのことをあんな風に言うなんて酷いわ!」
「私たちはあなたの味方よ、ペッパー。ペッパーを泣かすなんて、許さないわ!」
「でも、先生の会見、ステキだったわ」
次々と口を開く友達を、ペッパーは嬉しそうに見つめた。
「ペッパー、よかったな。みんな君の味方だ」
「うん、私って幸せよね」
ベッドに座ったトニーはペッパーを抱きしめた。
「トニー、ありがとう。私のこと、ああいう風に思ってくれていたなんて…ありがとう…」
「当たり前だろ?君がそばにいてくれるから、俺は頑張れるんだ…」
「トニー…愛してるわ…」
「俺も…」
見つめ合った二人の唇は自然に近づいていった。
二人は忘れていた…周りにギャラリーがいることを…。
キャー!!!という黄色い悲鳴が聞こえ、二人は慌てて身体を離した。
見ると、ペッパーの友達が目を輝かして二人を見つめているではないか。
(忘れてた…)
顔を見合わせた二人だが、急に恥ずかしくなったペッパーは、頭からシーツを被り潜ってしまった。
「おい、ペッパー。恥ずかしがるな。いいじゃないか、夫婦なんだから」
からかうようにシーツごとペッパーを抱き締めたトニーに、ますます顔を赤らめたペッパーは叫んだ。
「もう!トニーのバカ!」
いつまでも変わらない二人をペッパーの友達は顔を見合わせて笑った。
絆編へ続く…