今日はクリスマス。
本当なら、教会から帰った後は恋人と自宅で聖なる夜を静かに祝う予定だったのだが…。あいにく恋人もおらず、そして友人でありボスであるトニー・スタークの命令とあらば、ハッピーは従わざるを得なかった。いや、正確に言うと、家で一人淋しいクリスマスを迎えるよりは、トニーについてドンチャン騒ぎをする方が遥かに楽しいからなのだが…。
というわけで、ハッピーはトニーの運転手兼護衛という名目でパーティーに参加していた。
LA中のちょっとしたセレブは皆集まっているのではないかと思うような面子の集まったパーティーは、高価なワインやシャンパンが水も同然に振舞われ、大勢の女性を侍らすトニーを見ながら、ハッピーも会場の片隅でジュースと料理を頬張っていた。
「ハッピー、ここにいたのね?」
振り返ると、一人の女性がいた。ペッパー・ポッツ。トニー・スタークのPA。
フラフラと足が地に着いていないトニー・スタークに代わり、実質会社を仕切っているのはポッツと言うことは周知の事実。加えてボスであるトニーの仕事からプライベートまであらゆるスケジュールを管理し、彼が一夜を共にした女性の始末までをも請け負っているペッパー・ポッツは、トニー・スタークの影のように常にそばにいるのだ。
せっかくのパーティーなのに化粧気もあまりなく、彼女は地味な黒のワンピースにポニーテールという普段と同じような格好をしている。
スラリとした身体もくびれた腰も引き締まった尻も普段はスーツで隠しているが、美しく着飾ればオトコの気を引くことは間違いない。
(抜群のいいオンナなんだよな…)
ハッピーもオトコだ。彼女に出会い何度となく声をかけようかと思った。だが、ペッパーはトニーのことが好きだ。本人に自覚はないかもしれないが、ハッピーの目から見ても明らかだ。
(ボスは彼女の魅力に気がついているのだろうか…)
チラリとトニーを見ると、派手な女性とキスをしているところだった。その様子を見つめるペッパーは、彼がそうしていることを無理やり受け入れようとしてい るのか無表情だ。
(このまま帰らないパターンだな…)
今宵はクリスマス。おそらくトニーはこのまま女性たちとホテルに泊まる気だろう。そうなると、ペッパーを送り届けるのは自分の仕事なわけで…。
(たまにはいいだろ?)
そう自分に言い聞かせたハッピーは、何度か深呼吸すると、ワインを飲んでいるペッパーに声をかけた。
「ペッパー…その…もしよかったら、飲みに…」
だが、ハッピーの言葉は突然近寄って来たトニーの言葉に遮られた。
「ペッパー!」
「あら、トニー。どうしたの?」
慌てたようなトニーの様子に気づいていないペッパーは、トニーの顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「ペッパー。疲れた。帰るぞ」
ペッパーの腕を掴んだトニーは、まだ何か言い寄ろうとしている女性たちを無視すると、出口に向かって歩き始めた。
ペッパーには手を出すな…ということか。他の男が話しかけるのがそれほど嫌なら、さっさと自分のモノにすればいいのに…。おそらく、トニーにとってペッパーは何よりも大切なもの。傷付けたくないから慎重になっているのだろうが…。
物思いに耽っていたハッピーは、トニーの声で現実に引き戻された。
「ハッピー!車!」
「はいはい」
グラスの中のジュースを飲み干したハッピーは、仏頂面で腕組みしているトニーの元へ急いだ。
「それから、帰って3人で朝まで飲むぞ!」
ペッパーの手をギュっと握ったトニーは、無意識のうちに身体を抱き寄せたが、ペッパーは特に抵抗する様子もなく、彼の言葉に反論した。
「トニー、私は帰るわよ?」
だが、トニーは眉を吊り上げると、有無を言わせぬように声を張り上げた。
「ダメだ。クリスマスだぞ?今日はうちに泊まれ。いや、朝まで眠らせないからな」
取りようによれば…しかも今宵は聖なる夜なのだ。はっきり言ってトニーの言葉は愛の囁きにしか聞こえない。聞き耳を立てていた女性たちが次々と悲鳴を上げて倒れたが、知らぬ顔のトニーはペッパーの手を引っ張ると車に乗り込んだのだった。