ある日のこと。テレビから娘夫婦の話題が聞こえ、ペッパーの母親であるシルヴィアは掃除の手を止め振り返った。
「あら、今度は何かしら?」
こうやってTVを介して連日娘夫婦の動向を知ることができるのはありがたいというべきなのだろうか…。番組によっては嘘ばかり並べるものもあるのだが、この日付けていたチャンネルはいつも真実を伝えてくれる番組のため、シルヴィアはソファに腰を下ろした。
だが、予想に反して画面に現れたのは、二人の娘であるエストだった。可愛らしい孫の姿に、シルヴィアは慌てて夫であるテッドを探したが、あいにくその辺りには見当たらなかった。
『トニー・スタークとペッパー・スタークの長女エステファニアがモデルデビューです。今回彼女が抜擢されたのは、親子で着れるが売りの新鋭ブランド。若干9歳のエステファニア、通称エストですが、両親の良いところばかり受け継いだようですね。顔立ちは父親に似ていますが、クルッとした瞳、長い睫毛が何とも愛くるしいです。そしてこちらは母親似でしょうか。スタイルも良く愛嬌もたっぷりです』
次々と写し出されるエストの写真に、シルヴィアは大興奮。
「きゃー!!さすが私の孫よね!かわいいわ!!それにしてもテッドったら…肝心な時にいないんだから!後で見てないと怒っても知らないわよ!」
その場にいない夫に文句を言うシルヴィアだが、テレビではエストを褒め称えている。
『初めてのモデル経験なのに、堂々としてますし、さすがはトニー・スタークの娘ですね。現場でも彼女は大人気だったそうです。関係者に話を聞いたところ、素直で明るく優しいエストは、みんなに好かれていたとのこと。これは将来が楽しみですね』
「あらあら…」
シルヴィアは不安だった。可愛い孫が華やかな舞台に立っているのは嬉しい。だが、某ドラマでもあったように華やかなショービス界の裏には陰謀があるに決まっている。従って、そんな世界に孫を巻き込む訳にはいかない…。
そう考えたシルヴィアは、急いで娘に電話をかけた。
自分の考えを一通り話すと、電話の向こうで娘は苦笑い。
「ママ、あのねぇ…」
ペッパーが苦笑するのも無理はない。こうやってTVで見るとシルヴィアは、すぐに電話を掛けてくるのだから…。
「お節介かもしれないけど、私は心配なの。だって大事な孫なんですもの…」
(心配してくれるのはいいけど…。この間はエリがトニーと一緒に始球式をして、野球選手になりたいって言った時だったかしら…)
ありがたいことには間違いないけど、こう毎回だとね…と、ペッパーは母親に話始めた。
「ママ、この際だからはっきり言っておくわ。トニーも私も、本当はね、子供たちにはああいう華やかな世界に入って欲しくないの。でもね、あの子たちには自分が本当にやりたいことをやって欲しいの。だからあの子たちが興味を持ったことはまずはやらせてみようって決めたの。今回もね、元々は子供達全員にきた話なのよ。でも、双子はまだ小さいでしょ?それにエリオットはやりたくないって。あの子はトニーに似て、機械にしか興味ないみたいで。それでね、エストだけがやってみたいって言ったのよ」
孫が興味を持ったのなら仕方ない。反対するのもかわいそうよね…と、シルヴィアは頭を垂れた。
「そう…」
一気に元気のなくなった母親に、ペッパーはわざと明るい声で続けた。
「でもね、エストったらなんて言ったと思う?『いろんなお洋服が着れて楽しかったけど、大変ね。私は絶対にモデルさんにならない』ですって。だから、ママ、心配しないで」
クスクス笑ったペッパーに、今度はシルヴィアが苦笑い。
「やっぱりお節介だったわね。ごめんなさいね」
いい加減学習しないといけないわね…とため息をついたシルヴィアだが…。
「ううん、ママ、お節介なんかじゃないわ。ありがとう。私たちのことをいつも考えてくれてて」
と言う娘の言葉に、シルヴィアはこれからもお節介を焼き続けなきゃ!と心に誓ったとか…。