「Pepperony 100」カテゴリーアーカイブ

80. Meddle

ある日のこと。テレビから娘夫婦の話題が聞こえ、ペッパーの母親であるシルヴィアは掃除の手を止め振り返った。
「あら、今度は何かしら?」
こうやってTVを介して連日娘夫婦の動向を知ることができるのはありがたいというべきなのだろうか…。番組によっては嘘ばかり並べるものもあるのだが、この日付けていたチャンネルはいつも真実を伝えてくれる番組のため、シルヴィアはソファに腰を下ろした。
だが、予想に反して画面に現れたのは、二人の娘であるエストだった。可愛らしい孫の姿に、シルヴィアは慌てて夫であるテッドを探したが、あいにくその辺りには見当たらなかった。

『トニー・スタークとペッパー・スタークの長女エステファニアがモデルデビューです。今回彼女が抜擢されたのは、親子で着れるが売りの新鋭ブランド。若干9歳のエステファニア、通称エストですが、両親の良いところばかり受け継いだようですね。顔立ちは父親に似ていますが、クルッとした瞳、長い睫毛が何とも愛くるしいです。そしてこちらは母親似でしょうか。スタイルも良く愛嬌もたっぷりです』
次々と写し出されるエストの写真に、シルヴィアは大興奮。
「きゃー!!さすが私の孫よね!かわいいわ!!それにしてもテッドったら…肝心な時にいないんだから!後で見てないと怒っても知らないわよ!」
その場にいない夫に文句を言うシルヴィアだが、テレビではエストを褒め称えている。
『初めてのモデル経験なのに、堂々としてますし、さすがはトニー・スタークの娘ですね。現場でも彼女は大人気だったそうです。関係者に話を聞いたところ、素直で明るく優しいエストは、みんなに好かれていたとのこと。これは将来が楽しみですね』

「あらあら…」
シルヴィアは不安だった。可愛い孫が華やかな舞台に立っているのは嬉しい。だが、某ドラマでもあったように華やかなショービス界の裏には陰謀があるに決まっている。従って、そんな世界に孫を巻き込む訳にはいかない…。
そう考えたシルヴィアは、急いで娘に電話をかけた。
自分の考えを一通り話すと、電話の向こうで娘は苦笑い。
「ママ、あのねぇ…」
ペッパーが苦笑するのも無理はない。こうやってTVで見るとシルヴィアは、すぐに電話を掛けてくるのだから…。
「お節介かもしれないけど、私は心配なの。だって大事な孫なんですもの…」
(心配してくれるのはいいけど…。この間はエリがトニーと一緒に始球式をして、野球選手になりたいって言った時だったかしら…)
ありがたいことには間違いないけど、こう毎回だとね…と、ペッパーは母親に話始めた。
「ママ、この際だからはっきり言っておくわ。トニーも私も、本当はね、子供たちにはああいう華やかな世界に入って欲しくないの。でもね、あの子たちには自分が本当にやりたいことをやって欲しいの。だからあの子たちが興味を持ったことはまずはやらせてみようって決めたの。今回もね、元々は子供達全員にきた話なのよ。でも、双子はまだ小さいでしょ?それにエリオットはやりたくないって。あの子はトニーに似て、機械にしか興味ないみたいで。それでね、エストだけがやってみたいって言ったのよ」
孫が興味を持ったのなら仕方ない。反対するのもかわいそうよね…と、シルヴィアは頭を垂れた。
「そう…」
一気に元気のなくなった母親に、ペッパーはわざと明るい声で続けた。
「でもね、エストったらなんて言ったと思う?『いろんなお洋服が着れて楽しかったけど、大変ね。私は絶対にモデルさんにならない』ですって。だから、ママ、心配しないで」
クスクス笑ったペッパーに、今度はシルヴィアが苦笑い。
「やっぱりお節介だったわね。ごめんなさいね」
いい加減学習しないといけないわね…とため息をついたシルヴィアだが…。
「ううん、ママ、お節介なんかじゃないわ。ありがとう。私たちのことをいつも考えてくれてて」
と言う娘の言葉に、シルヴィアはこれからもお節介を焼き続けなきゃ!と心に誓ったとか…。

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79. Mettler

『ペッパー様、いらっしゃいました』
ジャーヴィスの声で玄関に向かったペッパーは、ドアの向こうに一人の美しい女性が立っているのを見てドアを開けた。。
「初めまして、スタークさん。メトラーです。今日からよろしくお願いします」
メトラーと名乗った赤毛の女性は、手を差し出すとにっこりと笑った。

双子を出産したペッパーだが、上の二人もまだ手が掛かり、てんてこ舞い。『自分がいない時は手伝うことができない。君一人で子供4人は大変だ』と、トニーは子守を雇ったのだ。
今までに子守の経験が数年あると言っていたメトラーだが、その言葉通り、彼女はあっという間に子供たちを心を通わせた。いや、通わせたように見えた。そしてテキパキと動き、控えめな態度の彼女に、ペッパーもトニーの目に狂いはなかったわね、と安心したのだ。だが一方で、どことなく自分に似ているその女性に、ペッパーは何故かは分からないが素直に喜べなかった。

数週間後。
その日、『たまには息抜きして来いよ』というトニーの言葉に甘えて、ペッパーは久しぶりに買い物に出かけていた。
夕方になり帰宅したペッパーだったが、夕食後トニーがラボへ降りて行くと、エストがコソコソと近づいてきた。
「ねぇ、ママ。メトラーさんね、今日、パパと仲良くお話ししてたよ?」
子守りなのだから、話をすることくらいあるだろうと思ったペッパーだが、エストは深刻な顔をしている。
「メトラーさんは、あなたたちの面倒を見てくれてるのよ?だからあなたたちのことでパパとお話してたんじゃないかしら?」
ペッパーの言葉に頬を膨らませたエストは、首を振った。
「ちがうの。あのね、ママ。メトラーさんね、パパのことが好きなんだよ。だからね、パパともっと仲良しになりたいんだって」
(トニーのことが好きで、仲良くなりたいって…それって…)
「何ですって!!」
思わず声を上げたペッパーに、お乳を飲んでいたルーカスは驚き泣き出した。
それに追い打ちを掛けるように、今度はエリオットの言葉が続く。
「メトラーさん、パパにチューしてたよ」
自分の発見を誇らしげに伝えたエリオットだが、エストは慌てて否定した。
「ちがうわよ、エリ。パパにキスしようとしたの。でもね、パパはダメだって。ペッパーがいるからそんなこ…と……。ママ?」
顔を真っ赤にしたペッパーは、腕の中で眠ってしまったルーカスを寝かせると、腹正しげにラボへと走って行った。
後に残された子供たち…特にエストは困り果てた。自分たちの発言のせいで、両親が喧嘩するのは目に見えている。
「ねーね、どうしよう…」
自分の発言で母親が激怒していると気付いたエリオットは、姉の服を掴んだ。
「エリのせいよ!ママ、すごくおこってる…。パパはぬれぎぬなのに…。きっとママ、パパとけんかになるわよ…」
小さな弟に文句を言っても仕方ない。泣き出しそうな弟の手を握ったエストは、そっと母親の後をついてラボへと向かった。

「アンソニー・エドワード!!!!」
フルネームで呼ぶ時は、妻がとてつもなく怒っていると知っているトニーは、椅子の上で飛び上がった。
「ど、どうしたんだ?」
目を三角にしたペッパーが自分に向かって突進して来たのを見たトニーは、思わず姿勢を正した。
「あの女とキスしたの?!」
トニーの胸ぐらを掴んだペッパーは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「あの女?誰のことだ?私がキスする女は君だけだ」
ペッパーが誰のことを言っているのか訳が分からないトニーは目を白黒させている。
きぃぃ!と金切り声を上げたペッパーは、ヒステリックに叫んだ。
「しらばくれないでよ!!!!!メトラーよ!あの女とキスしたんでしょ!!それとも何?もう自分のモノにしたの?!」
「はぁ?おい、ハニー。私が浮気したっていうのか?!」
「えぇ!そうよ!あの女と仲良くしてたんでしょ?!子供たちが見てたのよ!!!!!」
子供たちが何を見てたのか知らないが、どうして浮気したことになっているのか、見当もつかない。
だが、どうやらペッパーが留守の間に彼女と話していたこと、彼女がキスしようとしたことが原因なのだろうと分析したトニー。まだ泣きわめいているペッパーを腕の中に閉じ込めると、ぎゅっと抱きしめた。
「彼女と話していたことか?あれは理由があるんだ」
二人きりの時のように甘く低い声で囁かれたペッパーは、ピタリと動きを止めた。
「理由?」
妻の涙を拭ったトニーは、頬に優しく口づけした。
「確かに私はメイラーくんと話をしていた。君は毎日育児に追われている。もう少し君の負担を軽減できないかと、彼女に相談していた。ところが彼女は自分も話があると言ってきた。聞けば、私のことが好きだから抱いてくれと言うではないか。50を過ぎた4人の子持ちの男にだぞ?私もまだまだ捨てたものじゃないな。だが、君以外の女性とどうこうなろうなんて金輪際思っていない。きっぱりと断ったらメイラーくんはよろけたふりをしてキスをしようとしてきた。ペッパー、安心しろ。私の唇は死守したぞ!」
自分が採用したのに、さっきから『メイラー』と名前すら正確に覚えていないトニーに、ペッパーはクスっと笑った。
「やっと笑ってくれた。ハニー、私が愛しているのは君だけだ。もう何年も言っているが、それだけは変わらない。それに、彼女には辞めてもらった。仕事はできるが、君を不安にさせるような女性は必要ないからな」
ペッパーの頬を両手で包み込んだトニーは、鼻の頭にそっとキスをおとした。
柔らかく甘い感触に、先ほどまでのイライラした気持ちが、ペッパーはすぅっと晴れた気がした。
「トニー、ごめんなさい…。私ったら何年経っても…」
その続きを言うことはできなかった。なぜならトニーが唇を塞いでしまったから…。

キスをしながらトニーがチラリとドアに目をやると、ガラス越しにやけに不安げなエストとエリオットの姿が見えた。
(パパとママは大丈夫だ)
そう合図を送ると、顔を輝かせた二人は手を振り、階上へと上がって行った。

※Mettlerってサイコメトラーとかのメトラーなんでしょうけど、人名の方で…。

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78. Metal

「スタークさん、お約束通り、リアクターと破片は全て残してありますよ」
手術から数日後。病室にやって来たDr.ウーはトニーにトレーに乗せたリアクターと破片を見せた。
胸にあった悪夢。これが自分の体内にあったのかと思うと、今さらながらぞっとする。
「あぁ、ありがとう」
ゴクリと唾を飲み込んだトニーはDr.ウーから受け取ると破片の一つを手に取った。

「どうするかな…」
いくつもの破片と光の消えたリアクター。
もう二度と使うことのない彼の一部だったものは、輝きを失い静かに最後を待っているかのようだった。
リアクターを手に取ったトニーは、ふいに思い出した。
『トニー・スタークにもハートはある』
その言葉と共にプレゼントされた初代のリアクターを。
「そうだ、いいことを思い付いた」
トニーはとある人物へ電話を掛け始めた。

数時間後、一人の男性が病室へやって来た。
「頼んでいた物、できたか?」
ペコペコとトニーにお辞儀をした男性は、カバンの中から細長い箱を取り出した。
「はい、スターク様。こちらです」
手渡しは嫌いだとベッドの脇に箱を置かせたトニーは、そっと蓋を置けた。
中にはハート型の赤いルビーの光るネックレス。
トニーはとある計画を立てていたのだ。退院したら帰国する前に、指輪とこのネックレスを贈りプロポーズしようと…。
すなわち、この男性は宝飾デザイナーであり、トニーはペッパーに贈るネックレスのデザインを彼に任せていたのだった。
「素晴らしい出来だな。だが、追加して欲しい物がある」
そう言うと、トニーはあの破片を取り出した。
「これは…」
鋭く歪な形をした複数の金属片。女性物のネックレスには似つかわない。困惑するデザイナーをよそに、トニーは説明し始めた。
「これは私の胸の中にあった破片だ。これをネックレスに付けて欲しい」

自分の胸にあった悪夢。悪夢から解放された今、彼女にこれを贈るのには理由がある。
それは今まで苦楽を共にし、支えてくれた彼女へ、自分の心(ハート)を捧げるということ。
世界に一つしかないこの破片付きのネックレスを、世界で唯一愛する女性に贈る…。それは彼女に自分の全てを捧げるということ…。

言葉には出さないが何か感じ取ったのだろう。デザイナーは大きく頷くと、世界に一つしかないネックレスに仕上げると言い、帰っていった。

「心(ハート)を捧げる…か…」
残ったリアクターを手に取ったトニーの脳裏には、ペッパーの姿が浮かんでいた。
自分は生まれ変わった。もう悪夢に悩まされることはない…。いや、例えそうでも、彼女がそばにいてくれる。永遠に愛し守りたい存在が…。
胸元の包帯に手を触れたトニーは小さく笑うと、リアクターを袋にしまった。

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77. Found

赤毛の髪に顔を埋めたトニーは、柔らかな身体を背後からそっと抱き締めた。

死闘を繰り広げた後なのに、いつもの疲労感は微塵も感じなかった。
むしろ幸福感と満足感とそして抑えきれない愛情がトニーの心の奥底から溢れだしている。

ずっと探していた。心の隙間を埋めてくれるオンナを。
いつからだろう、彼女がそのオンナであると気付いたのは。
自分の本心に気付いたのはあの時だ。長年秘書としてそばにいた彼女が、自分の唯一のオンナであると感じたのは、アフガニスタンの洞窟の日々でだった。
あれから数か月…。
ようやくお互い素直になった今宵、自分たちは結ばれた。
硬く抱き合った瞬間、今まで感じたことがないほど幸せだった。
彼女の嬉涙を見た時、この存在の重さを改めて感じた。
そして、彼女のそばこそ、自分がずっと求めてきた場所…。
「やっと見つけた…」

彼女の首筋にキスをしたトニーは、身体をさらに密着させると目を閉じた。

※IM2屋上シーンの後

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76. War

ある昼下がり。
久しぶりに訪ねてきた友人であるブルース・バナーと話をしていたトニーだが、白熱した議論は可愛らしい声に中断された。
「ただいまー。パパ!」
顔を上げると、いつの間に帰って来たのだろう。学校から帰って来たエストとエリオットがいた。
「おかえり」
飛びついて来た息子を膝の上に座らせると、娘は父親の親友に笑顔を向けた。
「ブルースおじさん、こんにちは!」
「こんにちは」
頭を下げた二人にブルースも笑みを浮かべた。
「やぁ、エストちゃんとエリくん。久しぶりだね。二人とも大きくなったね」

「あのね、今日学校でね、お友だちに聞かれたの」
と、エストをちらっと見上げたエリオットが切り出したのは、母親であるペッパーが双子を昼寝させるために子供部屋へ向かった頃だった。
「何を聞かれたんだ?」
父親を見上げたエリオットは、無邪気な顔をして恐ろしいことを言い始めた。
「アイアンマンとキャプテン・アメリカ、どっちがつよいの?」
「は?」
思わず顔を見合わせたトニーとブルース。最初は意見が合わずいがみ合っていた二人だが、苦難を乗り越えているうちに随分と仲が良くなっていた。それでも時折言い合いになることはあるが、お互いに認め合う仲になっていたし、そもそも取っ組み合いの喧嘩はしたことがなかった。
「それはパパ…アイアンマンに決まってるだろ!」
子供たちが大好きなアイアンマン。父親としてやはり威厳を保ちたいトニーは、迷うことなく答えた。だが…。
「でも、トニー。そうとは言えないかもしれない。君たち、二人きりで戦ったことはないだろ?相手はキャプテン・アメリカだ。超人なんだ」
どうしてそう真面目に答えるんだと肩を落としたトニーは、友人である科学者の耳元に口を近づけた。
「おい、ブルース。子供相手なんだ。ましてや私の子供たちだぞ?そこはお世辞でもいいから、アイアンマンと答えておけ!」
コソコソと耳打ちしたトニーだが、妙な所で真面目なブルースは首を振った。
「いや、こういうことはきちんと教えておかないと駄目だよ、トニー。嘘はいけない」
(頑固な奴だな…)
分かっていたが、まさか子供相手でも曲げないなんて…と頭を抱えたトニーに、エリオットはポツリと呟いた。
「やっぱり、パパのが弱いの?」
悲しそうに口を尖らせたエリオットをエストは睨みつけた。
「エリ!パパの方が強いに決まってるわ!だって、パパの方が頭がいいし、カッコいいし、女の人にモテるし、お金持ちだし、ママみたいな美人な奥さんもいるし、私とあんたもいるし…それから、えーっと……」
それは強い理由にはならないだろうと、再び顔を見合わせたトニーとブルースは、必死で笑いを堪えた。
父親がいかに素晴らしいか力説する姉にエリオットは反論した。
「でも、お姉ちゃん、この前、スティーブおじちゃんの方がカッコいいって……」
その言葉に、今度はトニーが食いついた。
「おい!エスト!そんなことを言ったのか?!」
娘は昔からアイアンマン一筋なはず…。小さい頃、スティーブが『おじたんと結婚しよう』と冗談めいて言うと、本気にした彼女は泣きながら『パパのおよめちゃんになるの!』としがみついてきていたのに…と。
ショックに打ちひしがれている父親に、エストは顔を真っ赤にした。
「ち、違うわよ!スティーブおじさんの方が、背が高くて若くてカッコいいけど、私はパパ命よ!!パパ以外の男の人、好きにならないんだから!」
若いというところは間違っているが、『実はスティーブは90歳過ぎのじいさん』という説明を子供にするには複雑だろう。それにしても、『パパ以外の男の人は好きにならない』と宣言したスターク家の長女はどこまで父親好きなんだろ…いつまでも可愛らしいな…と、ブルースは何故かホッコリした気分になり思わず頬を緩ませた。

「ブルース!アイアンマンの方がキャプテンより強いと説明してくれ!」
援軍してくれと子犬のような目で見つめてくるトニー。そしてまだ言い合っている子供たち…。
「えーっと……」
『アイアンマンの方が強い』と一言言えば収まるのに、その一言が真実かどうか確信が持てないばかりに言えないブルース。
終わりの見えない議論に困り果てたブルースは、トニーが子供達と言い合っている間に、その場をそそくさと脱したのだった。

※エスト9歳、エリ6歳、双子1歳

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