76. War

ある昼下がり。
久しぶりに訪ねてきた友人であるブルース・バナーと話をしていたトニーだが、白熱した議論は可愛らしい声に中断された。
「ただいまー。パパ!」
顔を上げると、いつの間に帰って来たのだろう。学校から帰って来たエストとエリオットがいた。
「おかえり」
飛びついて来た息子を膝の上に座らせると、娘は父親の親友に笑顔を向けた。
「ブルースおじさん、こんにちは!」
「こんにちは」
頭を下げた二人にブルースも笑みを浮かべた。
「やぁ、エストちゃんとエリくん。久しぶりだね。二人とも大きくなったね」

「あのね、今日学校でね、お友だちに聞かれたの」
と、エストをちらっと見上げたエリオットが切り出したのは、母親であるペッパーが双子を昼寝させるために子供部屋へ向かった頃だった。
「何を聞かれたんだ?」
父親を見上げたエリオットは、無邪気な顔をして恐ろしいことを言い始めた。
「アイアンマンとキャプテン・アメリカ、どっちがつよいの?」
「は?」
思わず顔を見合わせたトニーとブルース。最初は意見が合わずいがみ合っていた二人だが、苦難を乗り越えているうちに随分と仲が良くなっていた。それでも時折言い合いになることはあるが、お互いに認め合う仲になっていたし、そもそも取っ組み合いの喧嘩はしたことがなかった。
「それはパパ…アイアンマンに決まってるだろ!」
子供たちが大好きなアイアンマン。父親としてやはり威厳を保ちたいトニーは、迷うことなく答えた。だが…。
「でも、トニー。そうとは言えないかもしれない。君たち、二人きりで戦ったことはないだろ?相手はキャプテン・アメリカだ。超人なんだ」
どうしてそう真面目に答えるんだと肩を落としたトニーは、友人である科学者の耳元に口を近づけた。
「おい、ブルース。子供相手なんだ。ましてや私の子供たちだぞ?そこはお世辞でもいいから、アイアンマンと答えておけ!」
コソコソと耳打ちしたトニーだが、妙な所で真面目なブルースは首を振った。
「いや、こういうことはきちんと教えておかないと駄目だよ、トニー。嘘はいけない」
(頑固な奴だな…)
分かっていたが、まさか子供相手でも曲げないなんて…と頭を抱えたトニーに、エリオットはポツリと呟いた。
「やっぱり、パパのが弱いの?」
悲しそうに口を尖らせたエリオットをエストは睨みつけた。
「エリ!パパの方が強いに決まってるわ!だって、パパの方が頭がいいし、カッコいいし、女の人にモテるし、お金持ちだし、ママみたいな美人な奥さんもいるし、私とあんたもいるし…それから、えーっと……」
それは強い理由にはならないだろうと、再び顔を見合わせたトニーとブルースは、必死で笑いを堪えた。
父親がいかに素晴らしいか力説する姉にエリオットは反論した。
「でも、お姉ちゃん、この前、スティーブおじちゃんの方がカッコいいって……」
その言葉に、今度はトニーが食いついた。
「おい!エスト!そんなことを言ったのか?!」
娘は昔からアイアンマン一筋なはず…。小さい頃、スティーブが『おじたんと結婚しよう』と冗談めいて言うと、本気にした彼女は泣きながら『パパのおよめちゃんになるの!』としがみついてきていたのに…と。
ショックに打ちひしがれている父親に、エストは顔を真っ赤にした。
「ち、違うわよ!スティーブおじさんの方が、背が高くて若くてカッコいいけど、私はパパ命よ!!パパ以外の男の人、好きにならないんだから!」
若いというところは間違っているが、『実はスティーブは90歳過ぎのじいさん』という説明を子供にするには複雑だろう。それにしても、『パパ以外の男の人は好きにならない』と宣言したスターク家の長女はどこまで父親好きなんだろ…いつまでも可愛らしいな…と、ブルースは何故かホッコリした気分になり思わず頬を緩ませた。

「ブルース!アイアンマンの方がキャプテンより強いと説明してくれ!」
援軍してくれと子犬のような目で見つめてくるトニー。そしてまだ言い合っている子供たち…。
「えーっと……」
『アイアンマンの方が強い』と一言言えば収まるのに、その一言が真実かどうか確信が持てないばかりに言えないブルース。
終わりの見えない議論に困り果てたブルースは、トニーが子供達と言い合っている間に、その場をそそくさと脱したのだった。

※エスト9歳、エリ6歳、双子1歳

2 人がいいねと言っています。

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