クリスマス(ハワード+トニー20歳 1990年)

もうすぐクリスマス。
出張先からNYの自宅へと戻って来たトニーは留守電に母親からのメッセージが何件も残されていることに気付いた。
ため息を付いたトニーだが、母親からの電話とあっては掛けないわけにはいかない。
数回の呼び出しの後、電話口から聞こえてきたのはマリア・スタークの声。
近況を聞かせろと言う母親と会話していたトニーだったが、しばらくしてマリアが遠慮がちに話を変えた。
「トニー、今年も帰ってこないの?」
クリスマスをLAで一緒に過ごそうということだが、トニーは口を噤んでしまった。
大学卒業後、LAの本社へ…と言われていたが、あの父親の元に戻るのが嫌で無理を言いNYの支社で働き始めたトニー。
大学に入って以来、クリスマスはいつも友達とパーティー三昧で、両親とはここ数年クリスマスを共に過ごしていなかった。そればかりか、最後に顔を合わせたのは1年前。
黙ったままのトニーにマリアは寂しそうに呟いた。
「そう…」
母親の声にトニーは慌てて言った。
「ゴメン…。でも…」
トニーが言いかける前に、息子の気持ちが分かっているマリアは慌てて口を挟んだ。
「いいのよ。でも、たまには帰ってきてね。ママはあなたに会いたいわ」
近々NYに行くからその時に会いましょ?と言うと、マリアは電話を切った。

電話を終えたトニーは、酒を片手にバルコニーに出た。
冷え切った空気が体中を包みこみ、トニーは身震いした。先ほどの会話と、そして母親の寂しそうな声が蘇り、トニーは慌てて酒を煽った。

なぜだか分からないが、今年は帰らないといけない気がした。

クリスマス当日。
夜も更けた頃、トニーはLAの実家の前で車を降りた。
22時を過ぎ、辺りは猫の子一匹いない。
両親は眠っているかもしれない。そう思いつつそっと家の中に入ったトニーは、リビングで話し声がしているのに気付いた。
リビングでは、両親がワイン片手に寄り添い話をしていた。
何の前触れもなく突然戻って来た息子に驚きつつも、マリアは満面の笑みで抱きつき息子を自分に隣に座らせた。
ハワードは黙ったままだが、グラスを持ってくると何も言わずトニーの前に置きワインを注いだ。
「どうしたの?お友達とパーティーだったんでしょ?」
久しぶりに家族がそろったのだ。マリアは楽しそうに話をしているが、ハワードは相変わらず表情を崩さない。だが、父親の目がかすかに潤んでいることにトニーは気付いてしまった。
「たまには親孝行もいいかと思って…」
照れ臭そうにそっぽを向いたトニーだったが、ポケットから小さな箱を2つ取り出した。
「あと、クリスマスだから…。母さんには、これ。それと、いらないかもしれないけど…父さんに…」
遠慮がちに差し出したリボンのついた小さな箱。
「トニーったら…。あなた、このワインを送ってきてくれたじゃないの」
先ほど飲んでいたワインは、確かにクリスマスにと両親に送ったものだ。だが、それは部下に命じて送らせたものであって、トニーが自ら選んだものではなかった。
「これは俺が選んだんだ。だから…」
もごもごと口ごもった息子を愛おしそうに見つめたハワードとマリアは、箱を開け始めた。
「あら!素敵!ありがとう、トニー。大切にするわね。新年のパーティーに付けて行かなきゃ!」
ジュエリーのセットを箱から出したマリアは、早速身に着け始めた。
そしてハワードは、高級腕時計を箱から出すと腕に付けじっと眺めた。
「お前が選んだにしてはセンスあるな」
微かに顔を綻ばせたハワードは、顔を上げると珍しくニヤリと笑った。
どうやら父親は自分が選んだ時計を気に入ってくれたらしい。安心したようにホッと息を吐いたトニーは、グラスを取るとワインを飲み干した。
「いつまでいるの?」
「年明けまで。だから1週間はいる」
「あら、嬉しいわ。明日は買い物について来て。ハワードったら一人で行って来いって言うのよ。それから、夜は食事に行きましょ?」
嬉しそうな母親とそれを黙って見守る父親の穏やかな瞳。
ここ数年感じることのできなかった家族の温もりに、トニーは久しぶりに心の底から楽しいクリスマスを過ごした。

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