「メリークリスマス」
カチンとグラスのぶつかる音が響き、ペッパー・ポッツは目の前の男性に気付かれないように身体を震わせた。
海沿いの有名レストランも今宵はクリスマスということもあり満席。
店内でも一等席に座ったペッパーの目の前には、数か月前恋人になったばかりの男性…トニー・スタークの姿。
トニー・スタークと言えば、彼と過ごした一夜限りの女性は星の数ほどおり、どうやら隠し子(本人は知らないというが…)も数人いるというもっぱらの噂。天才・億万長者・プレイボーイと名高い彼だが、つい最近、『プレイボーイ』の代わりに『スーパーヒーロー』という称号と極上の美女を手に入れたわけだが、その美女であるペッパー・ポッツは周囲の目が気になって仕方ない。元々彼の秘書であり、つい最近CEOとなったばかりの彼女だから、トニー・スタークとの付き合いは長く、注目されるのには慣れているはずなのだが、『トニー・スタークの恋人』という目で見られるのはまだ慣れていなかった。
「おい、ペッパー。食わないのか?」
目の前の超高級料理に手を付けない彼女にトニーは声を掛けた。
「あ…、ご、ごめんなさい」
我に返ったペッパーは、慌ててフォークとナイフを手に取ると料理を口に運んだ。だが、黙々と料理を口に運ぶペッパーに、トニーは眉を潜めた。
「なぁ、ハニー。もし口に合わないなら…」
店内にいる全員がトニーの一挙一動に聞き耳を立てているのは間違いない。それ故にトニーが『マズイ』とでも言えば、明日からこの店には誰一人来なくなることは間違いないのだから…。
ペッパーは慌てて首を振った。
「ち、違うわ!ここの料理は最高よ。それにワインも。ただね…その…何だか恥ずかしくって…」
もじもじと顔を赤らめたペッパーをトニーは不思議そうに見つめた。
「なぜだ?今さら何を恥ずかしがるんだ?」
鼻を鳴らしたトニーだが、どうやら女の事情は違うらしい。チラりと辺りを見渡すと、客のみならず店員まで自分たちの方を盗み見しているし、窓の外ではパパラッチが大勢カメラを構えているではないか。
(なるほど…)
自分はこういう状況には慣れているが、ペッパーはまだ慣れていないということらしい。だが、せっかくのクリスマス。ペッパー・ポッツはトニー・スタークのオンナであることをアピールするには絶好のチャンスじゃないか。
気付かれないようにニンマリと笑ったトニーは、いつになく顔を真っ赤にしながらケーキを食べているペッパーをじっと見つめると手を取った。
「ハニー」
甘い声で囁かれペッパーが顔を上げると、目の前にはトニーの顔が迫っており…。
「ん…」
気が付いた時には、ペッパーはトニーから情熱的なキスをプレゼントされていた。
唇が触れる程度の軽いキスではない。逃げ惑うペッパーの舌を探り当てたトニーは、舌の根まで吸い取るように自分の舌を絡め始めた。こんな激しいキスは、まだベッドの中でしかもらったことはない。無意識にトニーのジャケットの襟元を握りしめたペッパーの口の端から飲み込み切れなかった唾液がつっと零れ落ちた。
辺りがしーんと静まり返る中、銀色の糸を引きながら唇を離したトニーは、すっかり腰が抜けぼんやりとしているペッパーを抱きかかえると
「美味かった」
と、颯爽と店を後にした。