星空を見に行こうと差し出された手に捕まったのはいいのだが…。
降り立った先はアスガルド。
目をぱちくりさせるジェーンを軽々と抱きかかえたソーは、何も言わずズカズカと歩いている。
「ちょっと、ソーったら!星を見に行くんでしょ?!」
じたばたと暴れてみるが、気が付けば馬上の人になっていたジェーンは、逆に振り落とされまいとソーにしがみ付いた。
「そうだ。星を見に来たんだ。ミッドガルドでは見ることのできない星空をお前に見せようと連れてきた」
確かにここは神々の国。広大な宇宙に浮かぶ国の頭上には、地球では見ることのできないような壮大な星空が広がっている。
嬉しいことに違いはない。だが、ジェーンはソーに気付かれないようにため息を付いた。
というのも、てっきり近くに…いや、地球上のどこかで星を見るのだとばかり思っていたので、今日の彼女の服装は、セーターにジーンズにダウンという普通の恰好。それなのに、ソーはアスガルドに自分を連れて来た。アスガルドはソーの生まれ故郷であり、しかも今日は大晦日。神々の世界に大晦日や新年という概念があるかは分からないが、とにかく彼の実家である以上、彼の両親や話には聞いていないがおそらく親戚もいるということだ。(ちなみに噂の弟もいるだろうが、あまりお会いしたくはない…)
(初めてお会いするのに…どうして私はこんな恰好なのよ!来るならちゃんと言いなさいよ!私だってそれなりに準備が…)
ぷーっと頬を膨らませたジェーンだが、ソーは全く気付く気配すらない。そればかりかアスガルドはあれが美味いこれが美味いと食べ物の話ばかりしている。目的地に到着し馬から降りた頃には、すっかり腹を立てていたジェーンは、
「ソーのバカ!」
と叫ぶと頬をペチンと叩いた。
「お、俺?!」
なぜ平手打ちされるのか全く検討も付かないソーは、目を白黒させている。
(こんな時、スタークさんなら『泣くな、ハニー。君のために贈り物があるんだ』と言って、ドレスの1枚や2枚や3枚用意してくれるんだろうなぁ…)
彼にそこまで求めているわけではない。何と言っても相手は『神様』なのだから…。
(もっと女心を理解してよ…)
今だ首を傾げているソーをチラリと見たジェーンは、ため息をつくと手を腰に当てた。
「そうよ!あなたのせい!ちゃんと言ってくれないとね、私にも用意があるの!」
そう言われたものの、女心などイマイチ理解できない。口をポカンと開けていたソーだったが、しばらくすると笑い始めた。
腹を抱えて笑うソーにますます腹を立てたジェーンは、ポカポカとソーを叩き始めた。
「お前、もしかして、その服装を気にしてるのか?」
笑い過ぎて涙を流しているソーをジェーンは涙ぐんだ目で睨みつけた。
「当たり前でしょ?!あなたの家に来るのに、普段着なんだから…」
シクシクと泣き始めたジェーンは、顔を覆うと俯いてしまった。困ったように頭を掻いたソーだが、『もっとミッドガルドの女性の気持ちを勉強しなさい!』と言うシフの言葉を思い出した。口元を緩めたソーは自分よりもか細くそして柔らかな身体を抱き寄せると、壊さないようにギュッと抱きしめた。
「ジェーンよ、笑ってすまなかった。女心は複雑だな。もっと勉強しなければならない。だが安心しろ。お前はお前だ」
答えになっているようないないような…と思ったジェーンだが、彼なりのその愛に満ちた言葉に涙を拭うと笑みを浮かべた。
頬に伝った涙を唇で拭ったソーは、ジェーンの手を取ると歩き始めた。
「母上が会うのを楽しみにされている。お前に贈り物もあるそうだ。仕立屋を呼んで何やら作らせていたから…」
(つまり、お母様が用意されてるってこと?!)
まさかそういうことになっているとは…と、目をぱちくりさせていたジェーンだが、ニカっと笑ったソーにつられて満面の笑みを浮かべた。
「よし、ジェーン。みんな美味い物をたくさん用意して待っているぞ!」
「ソーったら、また食べ物の話?」
クスクスと笑うジェーンを眩しそうに見つめたソーは、待ちきれないとばかりにジェーンを抱きかかえると走り出した。
(Thor:TDWは未見時です)