「なぁ…頼むからもう寝てくれ…」
リビングのソファーに踏ん反り返った娘の隣で、トニーはむっつりとしている。
今日は大晦日。毎年早々に子供たちを寝かせた後は、夫婦二人きりで年越しを楽しんでいたトニーだが、今年は様子が違った。
普段は早く寝る子供たちがいつまでたっても寝ようとしないのだ。
「イヤ!きょうはね、がんばっておきとくの!」
どうして起きていようとするのかさっぱり分からない。
チラチラと…いや、イライラと先ほどから視線を送ってくるトニーからは不機嫌なオーラが出ているのだが、さすがは娘というべきか、エストは気にする風でもなく子供向きの番組も終わったテレビを睨みつけている。
「でも、さっきから欠伸ばっかりしてるわよ?もう寝なさい」
見るからに眠そうな娘に苦笑しながら言ってみるも、エストは聞く耳を持たない。
「だいじょうぶよ。エスト、おひるねしたから、まだねむくないもん!それにね、エリもね、まだねむくないって!」
と、同意を得るように弟を見るが、うとうとし始めたエリオットはトニーの腕の中で半分眠っているではないか。
「ほら、エリはもう寝たいって言ってるぞ。だからエストも…」
父親と弟を見たエストだが、テーブルの上のジュースを取ると飲み干した。
困ったわね…とため息を付いたペッパーは、早く寝ろとばかり言われて口を尖らせている娘に尋ねた。
「どうして起きていたいの?」
理由を話せば起きていても怒られないだろうと思ったエストは、両親を交互に見ると遠慮がちに話し始めた。
「だってね、パパとママ、いっつもいいことしてるんでしょ?エストがねんねしたあとに…。」
「え……」
思わず顔を見合わせたトニーとペッパーだが、娘は恐ろしい言葉を続けた。
「エスト、しってるよ。このまえのおおみそかにね、パパとママ、おへやでいいことしてたでしょ?パパが『ハニー、これでとしこしだ!』っていったら、ママね 『もっとして』ってよろこんでたもん。だからね、エストも…」
「き、聞いてたの?!」
エストの言葉を遮るように叫んだペッパーの声の大きさに、眠っていたエリオットは目を覚ますとぐずり始めた。
真っ赤になりうろたえる母親と、青ざめながらも弟を必死であやす父親。エリオットを抱いているためトニーの首根っこを掴めないペッパーは、代わりに背中をバシバシと叩き始めた。
「だからいっつも言ってるの!もっと手加減してって!」
「おい!君の声が大きいからだ!私のせいばかりにするな!」
言い合いを始めた両親。どうやら言ってはいけないことを話してしまったらしいと気付いたエストは、ソファーから飛び上がった。
「あ、あたし、ねむくなっちゃった!もうねんねするね!」
子供部屋に駆け上がったエストは頭から毛布をかぶると、アイアンマンのぬいぐるみを抱きしめた。
(かみちゃま、パパとママがなかなおりしますように…おねがいします)
目をぎゅっと閉じ、天の神様に祈っていたエストだが、いつの間にか眠ってしまった。
翌朝、目を覚ましたエストは飛び起きるとキッチンへと向かった。
キッチンでは母親が朝ごはんを作っていた。その後ろ姿はとても嬉しそうで、鼻歌まで歌っているではないか。
「ママ…おはよ…」
恐る恐る声をかけると、母親は恐ろしいほどの笑顔で振り返った。
「あら、エスト。おはよ」
お肌はつるつる、そして美しさに一層磨きがかかった母親はとても幸せそうだ。こういう時の母親は、父親と仲直りした後だと知っているエスト。
(よかった…パパとママ、なかなおりしたんだ)
ホッと息を吐いた彼女は、椅子に座ると隣のハイチェアに座っている弟の頭を撫でた。嬉しそうに声を上げたエリオットは、小さな手をパチパチと叩くと
「だーだっ!」
と、父親を探し始めた。
休日は大体遅くまで寝ている父親なので、当分起きてこないだろうと分かってはいるが、一応聞いてみることにした。
「パパは?」
なぜか顔を赤らめた母親。
「パパはねぇ…今日は起きれないんですって」
と言うと、自業自得よね…と、ペッパーは小声で呟いたのだった。
拍手お礼再掲。2013年年末年始ご挨拶。(エスト5歳 エリオット1歳)