マリブのスターク邸の朝、それは電脳執事であるジャーヴィスの声で始まる。
『ペッパー様、おはようございます』
薄暗い部屋に照明が灯され、窓から太陽の光が降り注ぐ。
眠い目を擦りながら先に起きるのはペッパー。ベッド下に散らばる服をかき集めるとバスルームで身支度し、朝食の準備のためにキッチンへと向かう。その後、頃合いを見計らってジャーヴィスは再び声を掛ける。
『トニー様、朝でございます』
その声にようやく目を覚ましたトニーはそのままバスルームへ向かい準備をし、キッチンへ降りて行く…。
というのが、毎朝の光景なのだが…。
定時になり主人を起こそうとしたジャーヴィスだが、いつもと違う光景に思いとどまった。
寝室のベッドの上はもぬけの殻。寝室どころか、バスルームにもキッチンにも主人とその恋人の姿は見当たらない。
もしかしたら…と主人の定位置であるラボを確認するも、そこでも二人の姿を捕えることはできない。
ジャーヴィスは焦った。24時間この家で起こっていること、そして主人であるトニーの動向には目を光らせているのに、なぜ二人の姿を捉えることができないのかと。
文字通り消えてしまった二人。人間ではないのだから、感情などないと言われるかもしれない。だが、執事であり親代わりであり、時には恋人のように主人であるトニー・スタークと過ごしてきたからだろうか、彼には人工物らしからぬ感情が芽生えていた。
しーんと静まり返った室内を見渡したジャーヴィスは、いつも冷静な彼からしてみれば珍しいことなのだが、感傷に浸った声を発した。
『トニー様…ペッパー様…』
だが、いくら待っても返事はなかった…。
「ジャーヴィス?どうしたんだ?」
しばらくして聞こえてきた主人の声に、ジャーヴィスは我に返った。
『トニー様?!どこにいらっしゃったのですか!』
慌てふためくジャーヴィスに、ペッパーを抱きかかえたトニーは目を丸くした。
「どこって…外のプールだ。おい、J。きちんと見張っておいてくれないと困るぞ?それより、ペッパーがプールサイドで転んだんだ。頭は打っていないが足を捻挫した。だから…」
『すぐにお医者様を手配します』
先程までの取り乱した様子もなく、そこにはいつものように冷静沈着なジャーヴィスがいた。
「なぁ、J。私がいないと寂しいだろ?」
ペッパーをベッドに寝かせたトニーがジーンズを履きながら尋ねると、考えを見透かされたジャーヴィスは恥じらいを隠すように主人に告げたのだった。
『いつもなかなか起きて下さらないトニー様ですから、今朝は起こさなくてもいいと思うと気が楽でした』
拍手お礼再掲。The Pepperony 100 Challengeより