5.Blue

放課後の教室で、トニーは自分を除くクラスメイトが遊びに行く計画を立てていることに気付くと、立ち上がり声を掛けた。
「どこ行くの?僕も行っていい?」
普段から事あるごとにいじめの対象にしているトニーが自分から近づいてきたのだ、いじめっ子達は一斉にトニーに向かって咬みついた。
「何だよ、お前なんかチビのくせに!」
自分よりも体格のいい子供に押されたトニーはよろめいた。
「僕は別に…」
口ごもったトニーを他の子供が突き飛ばした。
「あっち行けよ!頭がいいからって、偉そうにするな!」
床に転んだトニーは目を潤ませたが、それに気付いた子供たちは一斉に囃し立てた。
「泣き虫!」
零れ落ちそうな涙をぐっと堪えたトニーは教室を飛び出した。

闇雲に走ったトニーは、気が付けばどこかの公園へ辿り着いていた。
片隅のベンチに膝を抱え座ったトニーは、涙で濡れた顔を腕で擦った。

みんな僕のことをいじめる…。どうしてか分からない。僕はみんなと仲良くしたいのに…。
ママに言うと心配するし、パパに言うと…パパはきっと『意気地なし』だと怒るだろう…。それでもスターク家の男かって。パパは僕のことが嫌いみたい。パパに好きになってもらいたくて、褒めてもらいたくて、僕は一生懸命勉強したけど、やっぱりパパは僕のことを見てくれない。
僕はいない方がいいのかと思ったこともある。
いつからか、僕の見る世界からは色が消えて、全てが青く見え始めた。
誰か助けて…。誰でもいいんだ。僕のことを本当に分かってくれる誰かそばにいて欲しいんだ…。

「どちたの?」
可愛らしい声に顔を上げると、2歳くらいだろうか、自分よりも小さな女の子が足元にいた。
赤毛の髪をポニーテールにした女の子は、自分も泣き出しそうな顔をしている。
「おにいちゃん、どちてないてるの?」
下げていたポーチからハンカチを出した女の子は、トニーに差し出した。
「泣いてない。あっち行けよ」
ハンカチを受け取らず邪険に扱われたのに、少女はベンチによじ登るとトニーの隣にちょこんと座った。
しばらく黙ったままの二人だったが、何か話した方がいいのかと思ったトニーが隣を見ると、女の子はニコニコとこちらを見ているではないか。その屈託のない笑顔は、なぜか分からないが、トニーの心を温かくしてくれた。
「おい、どこから来たんだ?」
差しさわりのないことを聞いてみたが、女の子はうーんと首をひねった。
「えっとね、あゆいてきたの」
要するに迷子らしい。夕焼け空で辺りは真っ赤になり始めた。
「家は分かるか?親が心配してるぞ?」
立ち上がったトニーは女の子の手を取ると歩き始めた。

「名前は?」
「じにーよ。おにいちゃんは?」
「僕はトニー。よろしくな」
「とにーっていうの。ふーん。おにいちゃん、かっこいいね」
「そうか?」
「うん。やさしいね。あたち、おにいちゃんのことちゅきよ。およめちゃんになってあげゆ」
「お嫁さんになってくれるのか?楽しみだな。君が年頃になったら迎えに行くよ」
「やくちょくよ」
ニッコリと笑ったジニ―という名の女の子は、トニーの手をぎゅっと握った。

しばらく歩いていると、女の子が顔を輝かせた。
「あ!ぱぱとままだ!」
トニーから手を離した女の子は、
「おにいちゃん、ばいばい。やくちょく、わすれちゃだめよ」
と言うと、あっという間に姿を消してしまった。

初めて会った小さな女の子だが、トニーはあの繋がれた手を離してはいけない気がした。理由は分からない。だが、あの子がそばにいると世界は色づいて見えたのだ。それに、あの子とは遠い未来で再会できる気がした。
(その時は、その手を二度と話さないからな…)
温もりの残る手を握りしめたトニーの背後から、聞き慣れた声が聞こえた。
「トニー!」
「トニー様!坊ちゃま!探しましたよ!」
振り返ると、母親とスターク家の執事であるジャーヴィスがホッとした顔で駆け寄ってくるのが見えた。

そうだ、僕は一人じゃない。
ママだっているし、それにジャーヴィスだっている。

それに、パパだって…。

後部座席に父親の姿があるのに気付いたトニーは、泣き出した母親に抱きしめられると背中にそっと腕を回したのだった。

拍手お礼再掲。The Pepperony 100 Challengeより

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