146.下がらない熱

「トニー!病院へ行くわよ!」
「嫌だ!絶対に行かない!」
寝室から聞こえてくる怒鳴り声に、ハッピーは大きな身体を縮こませた。
入口からそっと覗くと、大きなベッドの中央に出来た毛布の山をペッパーが必死な形相で引っ張っている。
「もう三日目よ!熱も測らせてくれないの?『嫌だ』ばかり言わないの!子供じゃないんだから!……どうするのよ……大変な病気だったら…」
金切り声で喚いていたペッパーだったが、段々と声が小さくなっていき、最後にはベッドの脇に座り込みしくしくと泣き始めた。
これに慌てたのは騒ぎの張本人であるトニー。毛布の山から飛び出したトニーは、ペッパーの隣に座り込むと顔を覗きこんだ。
「は、ハニー…泣かないでくれ!ほら!私はだ、だ…」
言葉を切り鼻をひくつかせていたトニーは、立て続けに数回盛大なくしゃみをした。
鼻を啜る音にバッと顔を上げたペッパーは、鼻をかんでいるトニーの耳元に隠し持っていた体温計を当てた。
「おい!ウソ泣きか?!」
騙されたことに悔しそうなトニーだが、ペッパーの言うとおり熱は上がる一方らしい。ぼんやりする頭、けだるい身体は回復する気配すらなく、若干ぐったりと 頭を垂れたトニーの耳に軽快な電子音が聞こえた。
「ちょっと!40度もあるじゃないの!」
耳元で叫ぶペッパーの声も、今のトニーには遥か遠くにしか聞こえない。目を三角にしたペッパーは、ゴネた挙句悪化しているトニーに文句を言おうとしたが、真っ赤な顔で意識朦朧としている彼に気が付くと、部屋の外で待機しているハッピーに声をかけた。

結局、肺炎を起こしかけていたトニーはそのまま入院。
薬を投与され半日、ようやく熱も下がり始めたトニーは、苦しそうに呼吸をしているが眠っていた。
「もっと早く病院に来ていれば、こんなに悪化しなかったのに…」
汗ばんだ額をタオルで拭ったペッパーはトニーの頬をそっと撫でた。
とは言っても、彼がこうなった一因は間違いなく自分にもあるのだ。
数日間アイアンマンの仕事で不在だった彼が戻ってきたのが嬉しくて、疲れ切っている彼を屋外プールへ誘い、それから朝まで愛を語り合ったのだ。その後再び 呼び出された彼が戻ってきたのは深夜すぎ。ベッドに倒れこんだトニーはそのまま寝込んでしまったのだ。
あの時休ませていればこんなことにはならなかっただろう。だが自分のせいだと言っても彼は否定するだろう。
彼に無理をさせてしまったことと、せっかくのバレンタインなのに病院のベッドの上で過ごさせてしまったという後悔の念に襲われたペッパーは、トニーの手を 握り締めると、規則正しく動く彼の胸元に頭を付けた。
「トニー、無理をさせてごめんなさい…。埋め合わせは、あなたが元気になってからするわ…」
汗ばんだ手をキュッと握ると、トニーは小さなくしゃみを一つした。

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