珍しく雨の降る1月のある日。車で帰宅中、助手席で窓の外を眺めていたペッパーが突然声を出した。
「トニー!停めて!」
慌ててブレーキをかけると、ペッパーは雨の中傘も差さずに飛び出した。
通りの隅に屈みこんでいたペッパーだが、しばらくして段ボールを抱えて戻って来た。
「何だ、それ?」
ペッパーの手元の箱からは、小さな可愛らしい声がしている。
見ると、産まれたばかりなのだろうか、小さな子猫が2匹、箱の中で寄り添っているではないか。
真っ白な猫と茶色の縞模様の猫は寒いのだろうか、小さく震えている。
「トニー…」
子猫に魅入っていたトニーはペッパーの声に顔を上げた。
「この子たち…可哀想よ…。連れて帰っていい?」
同じことを考えていたトニーは、子猫の一匹の頭を撫でた。
「あぁ。震えてるぞ?早く帰って温めよう」
家に帰った二人は、籠にタオルや毛布を敷き詰めた。トニーが雨に濡れた子猫をタオルで拭いている間に、自身も濡れているペッパーは、シャワーを浴びると子猫のためにミルクを用意し始めた。
「このままで飲めるかしら…」
不安そうに皿を床に置くと、子猫たちはよちよちと走り寄り、小さな舌でミルクを飲み始めた。
「飲んだぞ!よかった、これで一安心だ」
やれやれと大きく息を吐いたトニーは、ソファーに腰を下ろした。
「それにしても、赤ちゃんってやっぱりかわいいわね」
ふふっと笑みを浮かべたペッパーは、ミルクを飲み終わり、あちこち歩き始めた子猫を愛おしそうに見つめている。
数ヶ月前のあの悲しい体験以来、時折ふさぎ込んでいたペッパーだったが、今日の彼女は心底嬉しそうで、トニーも思わず笑みを浮かべた。
すると、真っ白い方の子猫がトニーの方へちょこちょこと近寄り、足元で鳴き始めた。抱き上げると、子猫はミーミーと嬉しそうに声を上げた。
「お前は私が好きなのか?ん?お前は女の子か。きっと美人になるぞ?」
猫に話しかけるトニーを楽しそうに見ていたペッパーは、自分の方へ近寄って来たもう一匹を抱き上げた。
「この子は男の子よ。ねぇ、名前を付けてあげましょ?」
結局、二人の名前にちなんで、真っ白のメスは『ジニ―』、縞模様のオスは『エド』と名付けられた子猫。3日もするとすっかり二人に慣れ、トニーが張り切って猫用の大きな寝床を買ってきたにもかかわらず、気が付けば二人のベッドの隅で丸まって眠るようになっていた。
だが、二ヶ月後。二匹は突然姿を消した。
どうやら、荷物を搬入している隙に外に出たらしい。周りには海と森の広がる場所なのだから、遠くへは行っていないだろうと、トニーもペッパーも必死で探したが、二匹は何の痕跡も残さぬままいなくなってしまったのだ。
「どうして…。どうしてみんないなくなっちゃうの…。ねぇ、トニー…どうして……」
その夜、ベッドの上でポロポロと大粒の涙を零すペッパーをトニーは黙って一晩中抱きしめた。
だが、その数日後、あの子猫と入れ替わるように、二人の元へ待望の知らせが届いたのだった。
未来編”Where the New Story Begins.”の前のお話。