「ペッパー」
振り返ると、むすっとした顔のトニーが背後に立っていた。話をしていた男性に断りを入れると、ペッパーはトニーの元に歩み寄り、頬にキスをした。
「どうしたの?ご機嫌斜めね?」
指を絡ませ歩き始めたトニーは、会場を出てバルコニーへ向かった。
まだ肌寒いこの季節、バルコニーには誰もおらず、二人きりになったのを確認すると、トニーは相変わらず不機嫌なまま口を開いた。
「なぜあいつと話をしているんだ」
あいつと言うのは、ペッパーが話しをしていた男性のことだろう。トニーも知っているその男性は、SIの取引先のCEO。年は若いが頭が切れ、トニーも顔を合わせばそれなりに話しをしていたのだが…。
「なぜって、取引先の方だからよ?ご挨拶していたの」
ペッパーの言葉にチラリとくだんの男性の方向を見たトニーは、鼻を鳴らした。
「挨拶?あいつ、君のことを舐めるように見ていた。君のことを狙っている。知ってるだろ?あいつがオンナにだらしないことは。それなのに君はあいつに笑顔を向けていた」
(また始まったわ…)
トニーの嫉妬。それは今始まったことではないのだが、何年経っても…いや、年を追うごとに酷くなっている気がする。
それに、常日頃から言葉では『君のことを信じている』と言っているトニー。現に彼は世界一自分のことを信じてくれているのだが、自分の目の前で起こるとなると、やはり違うらしい。
小さくため息を付いたペッパーが口を開こうとしたその時だった。
グッと身体を抱き寄せられたかと思うと、目の前にトニーの顔が迫ってきた。
「んんっ!!」
突然唇を塞がれたペッパー。僅かな隙間から入り込んで来た舌は口腔内を舐め回していたが、逃げ惑うペッパーの舌を捉えると、まるで手を繋ぐかのようにキュっと絡みついてきた。
それはまるであの時の彼の指先のよう。
いつもは全身を這い回る指も公衆の面前では控えているのだろう。背中に回された腕は硬く組まれ、その代わりに口腔内を舌で犯されている。
トニーのジャケットをギュっと握りしめたペッパーは、身体の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じ、もぞもぞと太腿を擦り合わせた。
ペッパーの異変に気付いたトニー。銀色の糸を引きながら唇を離すと、大きな息を一つ吐いたペッパーは、欲情した瞳で見つめてきた。
「息が出来ないくらい、感じさせてやるよ」
ニヤっと笑ったトニーは、うっとりとしているペッパーの腰を引き寄せると車に向かって歩き出した。
社長、嫉妬する