『先に寝てろ』と言われたものの、状況が状況だけにペッパーは眠ることができず、リビングのソファーの上で膝を抱えていた。
このソファーの上でまどろんでいた数時間前。
『ハルクが見境なく暴れている』
その一報を聞いたトニーは友人の科学者を救うべく、飛び出して行った。
テレビでは、街を破壊するハルクと、そしてそれを止めようと必死なトニーにスティーブ、ソーとクリント、ナターシャといった面々が映し出されていた。理性を失っているのか、仲間の声に耳を傾けようとしないハルク。そればかりか、仲間に向かって攻撃をしていた。反撃をしようとする仲間だが、トニーは違っていた。彼が暴れるのには理由がある。そう考えたトニーは、今にもハルクに攻撃しようとしている仲間を押さえると、一人緑色の友人の元へと向かった。だが彼はトニーにすら攻撃をした。何度地面に叩きつけられても、跳ね飛ばされても、トニーは諦めることなく友であるブルース・バナーの元へ飛んで行った。
アーマーはボロボロになり、地面に倒れ起き上がれないトニーの上にハルクが馬乗りになった。マスクをはぎ取られ、何度も全身を殴られるトニー。テレビでは遠目にしか分からない。だがあの場では、最愛の男が傷つきそして必死に戦っている。
突然中継が途切れた。
これ以上、アイアンマンが傷付くのは映せないということだろうか…。
テレビを消したペッパーは、祈った。
(神様……。お願いです…。どうかトニーが無事に帰って来ますように…)
どれくらい経ったのだろうか。
地下のラボで物音がしたのに気付いたペッパーは、転がるようにラボへ向かった。
ラボのソファーにはトニーが横たわっていた。
あちこちから血を流し、腫れあがった顔にアイスパックを当てている。鼻には大きなガーゼが貼ってあり、見るからに痛々しい姿だが命に別状はないようだ。
「トニー…」
ソファーの横に跪いたペッパーは、目を閉じているトニーの頬を撫でた。
「起きてたのか?」
目を閉じたままボソッと呟いたトニーだったが、ペッパーが彼の髪の毛を梳くと気持ちよさそうに笑みを浮かべた。
「えぇ、心配で眠れなかったの」
泣き出しそうな恋人の声に目を開いたトニーは、顔を顰めながら起き上がった。
「心配かけたな。すまなかった。だが、もう大丈夫だ」
背中を伸ばしたトニーは、苦痛のあまり流れ落ちた汗を拭き取ると立ち上がった。
「ほら、もう寝よう。さすがに疲れた」
足元のふらつくトニーを支え寝室へ向かったペッパーは、彼を着替えさせるとベッドに寝かせた。
辛そうに顔を顰めるトニーの右腕にそっと寄り添ったペッパーは、ずっと気になっていたことを切り出した。
「ブルースは…」
チラリとペッパーを見たトニーは、彼女の肩を抱き寄せた。
「あぁ、大丈夫だ。妙な連中に一服盛られてあの様だ。本人は何も覚えていない。だが、今は正気を取り戻しているよ」
よかったわ、と息を吐き出したペッパーは、トニーの頬を撫でると、彼の目をじっと見つめた。
「あなたを待ってるこの時間って、私、嫌いよ…。あなたが二度と帰って来ないんじゃないかって…。そう思うと…」
目を潤ませたペッパーは、トニーの胸元に顔を押し付けた。
小さく震えるペッパーの背中をゆっくりと撫でたトニーは彼女を力強く抱きしめた。
「ペッパー、私は君の元に必ず帰って来る。何があっても、必ず…」
「約束よ…」
何度も約束の言葉を交わした二人は、お互いの温もりを確認し合うように、いつまでも硬く抱き合っていた。
同棲5題。拍手お礼