とある昼下がり。NYの街角の洒落たカフェにはペッパー・ポッツとナターシャ・ロマノフの二人がいた。
出会った当初は何となくお互いを信頼することができなかった二人だが、ナタリーことナターシャの素性を知ったペッパーは、彼女を受け入れ、そしてナターシャもペッパーを数少ない親友の一人として受け入れたのだった。
今日も『女子会』と称してお互いの近況を報告し合っていたのだが…。
「最近ね、トニーを見るとイライラするの…」
デザートを突きながらペッパーは盛大にため息を付いた。
「イライラって?」
ケーキを口に頬張ったナターシャは、首を傾げた。
スタークの査定のために潜入していた時、世間一般と少々感覚のズレているトニーにペッパーはよくイラつき怒っていた。それは友人となり二人のプライベートにまでお邪魔するようになってからもよく見られる光景。だからナターシャからしてみれば、何を今さら…というところだろうか。
あまり興味なさそうなナターシャに気付いてはいたが、誰かに聞いてもらいたいペッパーは、咳払いをすると話し始めた。
「前は気にならなかったことが凄く気になって…。例えばね、下着をベッドの下に脱ぎ捨てたままにしておくとか、朝起きてバスルームに何も着ずに向かってそのまま出てくるとか、野菜を食べさせようとせっかくサラダを作ってもなかなか食べないこととか、家にいる時にやたらとベタベタくっついてくることとか、毎晩アレを求めてくるけど、正直面倒な時もあったりするし…。とにかくね、前はかわいいって思ってたことがね、妙に癇に障るというか…。結局私がイラつい て、彼に八つ当たりして…それで喧嘩になって……」
(ちょっと…。それって、ただの惚気なんじゃないの?)
そうは思ったものの、目の前の親友は本気で悩んでいるのだからそんなことを言えるはずもない。
仕事もプライベートも、四六時中共にいる二人だから、トニーはともかくペッパーには息抜きが必要なのだろう。
「倦怠期よ、きっと。距離を置いてみたら?」
と提案してみたものの、『距離を置く=別れる』と解釈したペッパーは、目に大粒の涙を浮かべた。
「私たち、別れた方がいいのね…」
ペッパーの目から零れ落ちた涙が膝の上に落ちるのを見たナターシャは、背中をぽんっと叩くとウインクした。
「違うわよ。あなたには息抜きが必要ってこと。たまには女だけで出かけましょ?私もね、あいつに少しだけ腹が立ってるの。だから私たちがいかにあいつらに必要か、思い知らせてやりましょ?」
3日後…。
ミーティングルームへ入るなり、S.H.I.E.L.D.長官であるニック・フューリーは室内のどんよりした空気に一瞬怖気付いてしまった。
よく見ると、部屋の中央にいるトニー・スタークからその淀んだ空気は漂ってきており、他のメンバーは誰も近寄れないのか、遠巻きにそれを見ているではない か。
「どうしたんだ、スタークは?」
近寄って来たバナーのそっと尋ねると、彼はひそひそと耳打ちした。
「ミス・ポッツが行方不明なんです」
「行方不明?!」
声が大きくなり慌てて口を押えたが、その言葉に過剰に反応したトニーは、身体をビクつかせた。
「見つからないのか?」
こそこそとバナーに尋ねると、彼は眉を潜めた。
「えぇ…。スタークでさえ見つけられないんです。もしかして…」
言葉を切ったブルースと、ゴクリと唾を飲み込んだスティーブ。
最悪の事態を一瞬想像したフューリーだが、こういう時こそ我らがエージェントの出番だと、あの二人を呼び出そうとした。
だが、肝心の二人の姿は見当たらない。
「おい、バートンとロマノフは?」
二人の名前を聞き、それまで控えていたコールソンが言いにくそうに話し始めた。
「実は…ロマノフも行方不明なんです。バートンは…その…ショックのあまり巣に籠ってます」
どいつもこいつも…と、頭を抱え込んだフューリーだが、コールソンを睨みつけると、まだ沈み込んでいるトニーに向かって声を荒げた。
「バートンを巣から引きずり出して来い!それから、スターク!ミス・ポッツは必ず見つける。それよりも仕事だ!シャキッとしろ!」
顔を上げたトニーはチラリとフューリーを見上げたが、またすぐに顔を伏せてしまった。
「ニック、放っておいてくれ。ペッパーが行方不明なんだ。今の私に仕事は無理だ。何もする気が起こらない…。他を当たってくれ…」
どうしたものか…と、再びフューリーが頭を抱え込んだ時だった。エージェントに引きずられるようにクリントが姿を現すと同時に、トニーの携帯が鳴り始め た。
ポケットから携帯を取り出したトニーは、画面を見ずに電話を出た。
「…スタークだ…」
すると…。
「ぺ、ぺ、ペッパーか?!おい!どこだ!今、どこにいるんだ!」
叫び声と同時に立ち上がったトニー。その衝撃で椅子がひっくり返った。
「帰ってきてくれたのか!……仕事?そんなはずはない!今すぐ帰る!待ってろ!…何?ロマノフも一緒だと?!」
ナターシャがペッパーと一緒と知ったクリントは、自分を押さえていたエージェントを突き飛ばすとトニーの元へ走った。
しばらく電話に耳を傾けていたトニーだったが…。
「分かった!すぐに帰る!」
目を輝かせたトニーは電話を切ると、縋り付いているクリントを見つめると頷いた。
「スターク!」
「任せろ!行くぞ、レゴラス!」
アーマーを呼び寄せたトニーは、クリントを小脇に抱えると、大空に向かって飛び出して行った。
「何だったんだ…」
後に残されたのは、さっぱり状況が分からない上に振り回された人々ばかり。
そして…。
「おい!仕事だと言っただろ?!いいから呼び戻せ!」
怒り狂ったフューリーだったが、あのトニー・スタークを呼び戻すことなど誰が出来よう。エージェントにバナーにスティーブ、そしてマリア・ヒルでさえも、そっと部屋を出て行ったのだった。
同棲5題。拍手お礼