01.手を繋いで眠る

ソーがアスガルドへ戻り数日経った。が、相変わらず連絡はない。
(平気よ。この前は2年も連絡がなかったんだし…)
待ち続けたあの日々に比べれば、この数日など比べものにならない。だが、別れ際に交わした口付けを思い出したジェーンは、そっと唇に指を這わせた。
物思いに耽るジェーンにダーシーが声をかけようとしたその時だった。
晴れ渡った空に突然雷が鳴り響いた。窓の外を見ると、空から輝く光が降り注いでいる。
「ジェーン!あれって、も……」
ダーシーは最後まで言えなかった。なぜなら、ジェーンはとっくにその場から消え失せていたのだから…。

万感の思いと共に唇を奪ったソーは、心を捉えて止まない女性を腕の中にそっと閉じ込めた。触れれば壊れそうなくらい弱くか細い人間。だが、その瞳に見える内なる強さは、アスガルドの神を凌ぐほど。だからこそ、彼女は自分に必要なのだ…。

「王位は継がないと伝えた。自分の人生を歩みたいと父上に伝えた。父上は、王としてではなく、父親として賛成して下さった」
「それって……」
顔を上げたジェーンは、ソーの言葉に驚きつつも口元を緩めた。彼女の目をじっと見つめたソーは、アスガルドを旅立つ前から告げようと決めていた言葉を口にした。
「ジェーンよ、俺と共にいてくれ。俺はお前と共にいたい。こうやって、お前に触れていたいんだ…」
目を潤ませたジェーンの頭にもキスを落としたソーは、彼女の身体を愛おしそうに抱きしめた。

こうして、ソーとジェーンの暮らしが始まった……。

☆ ☆ ☆

「ソーはジェーンの部屋ね!」
アスガルドから転がりこんできたソーの歓迎会も終わり、酔い潰れソファーで眠りこけているセルヴィグに毛布を掛けながら、ダーシーは言い放った。
一緒の部屋と言うことは……と、一瞬考えこんでしまったジェーンだが…。
「だ、ダメよ!」
ジェーンは顔を真っ赤にすると飛び上がった。
「ほ、ほら!ゲストルームが…」
「ゲストルームなんか、この狭い家にあるわけないでしょ?」
肩をすくめたダーシーは大げさにため息を付いた。
「う、うん…」
軽くパニックになったジェーンは、状況が掴めずポカンとしているソーの服の裾を引っ張ると大声で叫んだ。
「そ、ソー!もう寝るわよ!」
「あ、あぁ…」
頭を掻いたソーは、ムジョルニアを呼ぼうと手を差し出した。玄関のコート掛けに掛けられたムジョルニアがガタっと音を立てたのに気づいたジェーン。これ以上家を破壊されては大変と、慌てて彼の腕にしがみ付いた。
「ムニョムニョはそのままでいいから!」
「ムニョムニョではない!ムジョルニアだ!」
何度言えば覚えてくれるのだろうか…。ムジョルニアを呼び寄せることを諦めたソーは、口を尖らせるとまだ何か言いたげなジェーンを抱え、彼女の部屋へと向かった。

ソーが自分の元へ来たということは、いずれはそうなると言うことだ。だが、ソーとはまだキスしかしたことのないジェーンは、あまりの急展開にどうしていいか分からなかった。
という訳で、パジャマに着替えたジェーンはベッドに潜り込むと
「お、おやすみなさい!」
と、目を閉じたまま叫んだ。
おやすみなさいと言われたものの、彼女の部屋のベッドはシングルベッドが一つだけ。小さなベッドはジェーンに占拠されているし、そうかと言って床で寝るのも気が引ける…。いや、正確には目の前に最愛の女性がいるのだ。一人寝なんかもってのほか。
服を脱いだソーは…一応下着はつけたままだが…、ジェーンの潜り込んでいるシーツをそっと捲るとベッドの端に横になった。

だが…。
(せ、狭い……)
ソーの大きな身体にはシングルベッドの端は狭すぎた。動けば落ちそうになるのだからたまったものではない。こうなったら彼女を無理やりでも抱きしめて…と思ったソーの脳裏に、アスガルドを出発する前シフに言われた言葉が蘇った。
『いいこと!ソー!これだけは覚えておいて。女性の扱いは慎重にね!』
彼女が自分に恋心があったのは知っている。そして自分も少なからず彼女に好意を抱いていた。それは父親であるオーディンだけではなく、周囲の人々が皆気づくほど。シフは戦友だ。大切な仲間だ。だがそれ以上に今隣にいるミッドガルドの女性の存在は自分の中で大きくなりすぎていたのだ。

(彼女に触れたい。この腕に閉じ込め、そして…)

我慢の限界だった。彼女に対する欲がこんなにも蓄積していたとは自分でも思わなかった。
「ジェーン…」
彼女の方を向き、細い肩にそっと触れると、彼女はビクっと身体を震わせた。

背後から逞しい腕に抱きしめられ、ジェーンは胸の高まりを抑えられなくなっていた。身体を抱き寄せられると耳元を彼の熱い息が擽り、ジェーンは胸の前に回された彼の腕にそっと触れた。
「お前が欲しい…。ジェーン・フォスター、お前の全てを俺にくれないか?」
(ソーったら、いつの間にそんなセリフが言えるようになったの?)
無骨な彼にこんなにも甘い囁きを与えられるとは思ってもいなかった。
怖いほどの幸せな瞬間。涙が零れ落ちるのもそのままに、ジェーンは最愛の男に向かい合うと彼の身体にしがみ付いた。

それからの時間は夢のよう。
結ばれた瞬間も、まるでフワフワと甘く明るい世界を漂っているような感覚に包まれたジェーンは思った。きっと今日のこの瞬間のことは、死ぬまで忘れないわ…と。

身体が離れた後、恥ずかしがりシーツに潜ってしまったジェーンをソーは優しい瞳でじっと見つめていた。

最愛の女性と結ばれることがこんなにも幸せで、そして心を満たしてくれるとは知らなかった。母親と、そしてあの義弟もだが…命を掛けて守ってくれた女性。 これからは自分が守り、そして幸せにしてみせる。それが亡き母と弟、そして自分の我儘を許してくれた父の思いに応えることになるだろうから…。

ソーの視線に気づいたジェーンは、シーツからもそもそと目元だけを覗かせると、上目遣いにソーを見つめた。
「手、繋いでいい?」
くしゃっと笑顔を浮かべたソーは、シーツごとジェーンを抱きしめると、差し出された手を取った。
自分の手の半分ほどしかない小さな手。だが、その温もりは今まで触れたどんな物よりも柔らかくそして温かかった。
「お前の手は温かいな」
指を絡めそっと握りしめると、彼女はソーが見たことがないくらい幸せそうに微笑んだのだった。

同棲5題。Thor TDWのED後のシーン妄想です。

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