トニーがボストンへ行きもうすぐ二ヶ月。
大学生となったトニーは忙しく、週末にも何らかの予定が入っており、結局一度もLAに帰れないままでいた。
LAとボストンは飛行機でも約6時間。なかなか行ける距離でもなく、ペッパーも行けば忙しいトニーに迷惑がかかるだろうと、我慢していた。
だが、マメなトニーは毎日のように電話やメールをくれるため、二人は声だけの行き来は欠かさずしていたのだった。
次にトニーがLAに戻って来るのはクリスマス。
「先輩…会いたいな…」
ぽつりと呟いたペッパーは、トニーの代わりに枕を抱きしめた。
そこへSkypeの着信音が響き渡った。
「トニーだわ!」
時計を見ると24時を越している。
「やぁ、ハニー。まだ起きててよかった」
画面に映る恋人は、前回顔を見ながら会話した時よりも少し痩せた気がした。
「大丈夫よ。それよりトニー、ちゃんとご飯食べてる?」
心配そうなペッパーにトニーは苦笑い。
「あぁ。食べてるから大丈夫だ。それよりも、誕生日おめでとう」
今日は9月27日。ペッパーの誕生日だ。初めての誕生日はこうして画面越しだが、それでも顔が見れたことをペッパーはとても喜んでくれた。
一時間ほどお互いの近況を報告しあった二人。
「プレゼント送ったんだ。朝には届くと思う」
と言うと、トニーは通信を切った。
朝になると、トニーの予告通り大きな小包が届いた。
箱の中には真っ赤なバラの花束。
「すごい!ちゃんと15本ある!」
「ヴァージニア、まだあるわよ」
母親が手渡してくれた箱を開けると、ハートの形をしたサファイアの揺れるネックレスが入っているではないか。
「かわいいわね。さすがトニーくん。あなたの好みをちゃんと分かってるのね。あーあ、パパもこういう物をくれればいいのに…」
早速身につけたペッパーは、メッセージカードを開いた。
『誕生日おめでとう。一緒に祝ってあげられなくてごめん。ペッパー、世界一愛してる…。
PS.この埋め合わせは、クリスマスにさせてくれ』
(クリスマスに埋め合わせって…)
カードを抱きしめ真っ赤になったペッパーは、飛び跳ねるように部屋へ戻ると、バラの花束を飾り始めた。
そんな中、ペッパーと同じ学年に転校生がやって来た。サイエンス部に入部した彼は、アルドリッチ・キリアンと名乗った。かっこいい部類に入るキリアンは、トニーがいなくなり目の保養がなくなったと嘆いていた女子生徒の間で、あっという間に人気者になった。だが、ペッパーはもちろん興味がないため、キリアンの名前どころか顔すらも認識していなかった。
ある日、ペッパーが部室でデータをまとめていると、そのキリアンが声をかけてきた。
「ヴァージニア?」
馴れ馴れしくも名前を呼ぶ男子生徒。誰?と思い顔を上げると、話したこともない転校生が目の前に立っている。黙ったままのペッパーに、キリアンは笑顔を向けた。
「ほら、僕だよ。キリアン!アルドリッチ!覚えてない?昔…と言っても、3歳くらいまでかな?君の家の近所に住んでた…」
そう言われても記憶にない。ポカンと口を開けたままのペッパーだったが、黙ったままなのは失礼かと無理やり笑みを作った。
「ごめんなさい…。あまり覚えてなくて…」
覚えてないと言われても、キリアンは愛想を崩さなかった。そればかりか、ペッパーの隣に座り込むとペラペラと話し始めた。
「今までの君の研究、読ませてもらってたんだ。素晴らしいよ。これからは是非いろいろ教えて欲しいんだ」
トニーにアドバイスしてもらってたからなんだけどね…と思ったペッパーだったが、気さくで明るいキリアンに
「ええ。分からないことがあったら何でも聞いて」
と、にっこり笑いかけたのだった。
それから毎日のようにキリアンはペッパーに声をかけてきた。転校生でしかも記憶にはないが幼馴染だったということもあり、何かにつけて親切にしていたペッパーだったが、ある日とんでもない噂を同級生に教えてもらった。
「ペッパーって、キリアンくんと付き合ってるの?」
一瞬何を言われてるのか分からなかったペッパーは慌てふためいた。
「え?!どうしてそんなことに…」
青くなったペッパーに、その同級生は小声で話し始めた。
「みんな噂してるわよ。あなたにはその気はないだろうけど、キリアンくんはペッパーのこと狙ってるって…。それにしても、キリアンくん、命知らずよね…。ペッパーの彼があのトニー・スタークだって知らないのかしら?」
失礼しちゃうわよねと、自分のことのようにプンプン怒った同級生は、ペッパーに忠告した。
「だからね、ペッパー。気をつけた方がいいわよ。噂で聞いたんだけど、キリアンくんって、前の学校でも友達の彼女を奪って、怒ったその男の子を刺したらしいわよ。それが原因で退学になったんだって。あなたは絶対になびかないだろうけど…。でも、スターク先輩、ペッパーに言い寄る男がいるって知ったら、飛んで帰ってきそうよね」
キリアンと付き合っていると噂がたったからには、これ以上深入りしない方がいいと感じたペッパー。他の生徒と同じように関わっていたつもりだったのだが、他人から見るとそう見えなかったのだろう。なるべく距離を置こうとしたペッパーだったが、キリアンは隙があれば近寄ってくる。ナターシャとジェーンがガードしてくれているが、魅力的なキリアンに何の不満があるの?と陰口を言う生徒すらいた。
「あんまりしつこいようだったら、クリントたちに脅してもらうわよ?」
と、ナターシャは言ってくれたが、事を荒げたくないペッパーは、
「大丈夫。でも、もし何かあったらお願いね」
と、この時は断ったのだった。
トニー大学生×ペッパー高校生編。