⑭115.契り

休暇明けのランチタイムは、それぞれの報告会と化していた。
「で、スターク家はどうだったの?」
休暇前よりもお肌が白くなり輝いているペッパーは幸せそうで、聞かなくても分かりそうなものだが、ナターシャはニヤニヤと笑みを浮かべた。
「うん。トニーのお父様もお母様もすごく素敵な方でね、楽しかったわ。お母様はとっても明るくて気さくな方なのよ」
「そ、それは良かったわね…」
スターク・インダストリーズの社長夫人と言えば、今まで何人もの使用人や従業員など、関わりのあった人物を泣かせてきたという噂のある人物だ。そんな一癖も二癖もある女性が、息子の恋人のことをいたく気に入ったらしい。溺愛する一人息子の恋人。普通なら難癖付けて追い出そうとしそうなものだが、実の息子よりも可愛がっているのだから、人生何が起こるか分からないものだ。
気に入られている…しかもまだ学生の二人に向かって、早く結婚しろ、子供はまだかと言うのだから、この二人は安泰ね…とジェーンは苦笑い。
「これでペッパーはいつでもお嫁にいけるわね」
ボソッと呟いたつもりなのに、聞き耳を立てていた周りにはナターシャの言葉はしっかり伝わっており、その日のうちに『トニー・スタークとペッパー・ポッツは来週結婚するらしい』という噂が広がっていたとか…。

「そういえば、ジェーンの彼氏!」
話題を変えようと、ペッパーはジェーンを突いた。
「あ…うん…」
話を振られたジェーンは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ねぇ、会わせてよ!」
手を握りしめ目を輝かせている二人を交互に見ていたジェーンだが、観念したのかため息を付いた。
「いいけど…彼って変わってるの…」
「変わってるのは、みんな一緒よ。大丈夫」
ナターシャの言うとおり、トニーもクリントも一癖ある。これでダブルデートならぬトリプルデートができるわね、と、ナターシャは口元を緩めながら計画を練り始めた。

「ということで、明後日の土曜日、みんなで遊ぶことになったの。だからトニーも…」
その夜、事の顛末を話したペッパーだが、正直トニーがこのトリプルデートに参加してくれるか不安だった。だが思いのほか食いついてきたトニーは、楽しみにしてると電話を切った。

そして土曜日。
街中の公園で待ち合わせをした3組のカップル。
一足先に到着した女性陣は男性陣が来るのを待っていた。そこへやって来たのはトニーとクリント。ブルーのシャツにチノパン、そしてジャケットを羽織ったトニーは、道ゆく女性が振り返るほどカッコよく、ペッパーは鼻高々だ。一方のクリントは…。ジーンズにパーカーといういつもの服装。
「せっかくのデートなのに!何でスターク先輩みたいにお洒落してこないのよ!」
「痛っ!!」
ナターシャにお尻を蹴飛ばされたクリントは、トニーにすがり付いた。
「トニー……ナターシャがいじめる…」
「知るか。勝手にしてろ」
その手を払いのけたトニーは、ペッパーに近づくとキスを一つ。
「今日もかわいいな、ハニー」
と、四人がいちゃついていると、ジェーンが息を切らせてやって来た。
「ごめん!遅くなっちゃって…」
ジェーンの隣は背の大きなガッチリとした人物が立っている。
「みんな、紹介するわね。ソーよ」
ソーと紹介された男は、トニーやクリントと同じ学年らしいが、二人よりも数段背も高く迫力満点。ソーを見上げたトニーとクリントは、ゴクリと唾を飲み込んだ。だが、ソーはにっこりと笑うと手を差し出した。
「ソー・オーディンソンだ。よろしく」
ガハハ…と笑うソー。見た目ほど怖くないと分かった四人は、次々と自己紹介をしていった。
ひとしきり挨拶が済んだ後、ナターシャはソーの後ろに男の子がいることに気付いた。
「で、こちらは?」
まだ小学生だろうか、大きなソーの後ろにいる目つきの鋭い男の子。何も言わずジロジロと四人を見つめるその子は、サッとソーの後ろに隠れた。困ったように頭を掻いたソーは、その男の子を引っ張り出した。
「弟のロキだ。どうしても付いて来ると言って……」
すると、今まで黙っていたロキが大声を出した。
「違う!兄上が付いて来てくれと言ったんだろ?」
「弟よ!俺はそんなことは言ってないぞ!」
苦笑したソーはロキの頭をグリグリと押さえた。痛いからやめろと騒ぐロキだがどことなく嬉しそうだ。
「いつもこんな感じなの?」
みんなが呆気にとられる中、ペッパーはジェーンにこっそり尋ねた。
「えぇ。ロキくんはね、ソーのことが大好きなの…。大好き過ぎて困るくらいね…」
ため息を付いたジェーンに、ナターシャは肩をすくめた。
「確かに変わってるわね…弟さんが…」

ひとまず近くにあるファストフード店に入った7人。
ハンバーガーやチーズバーガーを食べながら、お互いのことを話していたが、トニーとクリント、そしてソーはすっかり意気投合していた。
ジュースを飲みながら楽しそうに話をする兄をじーっと見つめていたロキだったが、自分が話に入れないのでつまらなくなったのだろう。椅子の上に立ち上がると、突然大声で叫んだ。
「おい!跪け!」
目の前にいたトニーは、かぶりついていたチーズバーガーから口を離すと、ぽかんとロキを見上げた。
大きな目をパチクリさせているトニーに、ロキは頬を膨らませた。
「お前に言ってるんだ!兄上は偉いんだぞ!」
真っ赤になったロキは可愛らしく、からかいたくなったトニーは、
「何だ?お前の兄貴は神様か?それなら俺だって偉いさ。俺は大企業の次期社長だ。それに、国防長官にだってなれるんだぞ?」
と、笑った。
「うるさい!」
ムキになるロキと、からかうトニー。
「お前の弟、かわいいな」
笑いを噛みしめながら言うクリントに、
「そうか?おい、ロキ、よかったな」
と、ソーは弟に笑顔を見せた。
「よくない!兄上のバカ!!」
口を尖らせたロキだが、みんなに構ってもらえたのが嬉しかったのだろう。座り直すと、目の前のハンバーガーにかぶりついた。

夕方になり、また会おうとそれぞれ家路に着いた7人だが、トニーに腕を絡ませ歩くペッパーは、ずっと心の何処かにあった疑問を聞いてみることにした。
「ねぇ、トニーって、子供好きだったの?」
以前、子供は苦手と聞いた記憶がある。だが、今日のロキに対する接し方は、とても苦手なようには思えなかったのだ。
「嫌いじゃないけど、正直苦手だな」
苦笑したトニーだが、ペッパーがやっぱり…というような顔をしたので、率直な思いを告げることにした。
「でも、今日思ったんだ。君との子供がいたら楽しいだろうな…って。だから、いつの日か、君には俺の子供を産んで欲しい」
それって、プロポーズじゃないの?と、顔を真っ赤にしたペッパーは、トニーのジャケットをそっと握った。
ペッパーの手を取ったトニーは、指輪をはめる真似をすると、手の甲にそっと口づけをした。
「返事は?」
「私もね、スタークJr.が走り回る姿を見たいわ」
にっこりと笑ったペッパーは、トニーに抱きついた。
「じゃあ、早速…と言いたいけど、まだ先だな。だけど、その時は覚悟しとけよ?サッカーチームが作れるくらい頑張るから…」

⑮080.狂熱の一夜

高校生パロ。4月のお話。兄上大好きちびっ子ロキが書きたくて…

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