⑦103.スキャンダラス

あのカフェテリアでの告白の翌日。
校門を潜るや否や、ペッパーは道行く生徒が皆自分を指差しコソコソと話しているのに気付いた。
(きっと昨日のことよね…)
トニーと付き合い始めてから、こうなることは覚悟していたけど、いざ遠巻きに噂されるとあまりいい気はしない。ため息を付いたペッパーは、居心地の悪さを感じながらも教室へと向かった。
教室では、ナターシャとジェーンがいつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。
「おはよ、ペッパー。で、昨日はあれから先輩とヤったの?」
皆が聞き耳を立てているのに、どうしてそんなことを聞くのよ!と、ナターシャを睨みつけたペッパーだが、首筋にある赤い印を見つけたジェーンにコンシーラーを手渡されると、黙って塗り始めた。

「何でポッツさんなの?」
「あんな地味な子のどこがいいのかしら?」
授業中ですら聞こえる陰口。俯いたペッパーの目から涙が一粒零れ落ちた。そんな状況に我慢できなかったのだろう。授業が終わるや否や、ナターシャが机を叩き立ち上がった。
「あんたたち、いい加減にしなさいよ!先輩がこの子を選んだのよ?嫉妬もいい加減にしとかないと見苦しいわよ!」
あまりの迫力にコソコソと話をしていた生徒は口を閉じた。
「ペッパー、行きましょ?」
ペッパーを立ち上がらせた二人は、教室を出て行った。

昼休みのカフェテリアは生徒たちで賑わっていたが、ペッパーたちが姿を現すと静まり返った。
「あの子よ、スターク先輩の彼女」
「あんな子のどこがいいの?」
「先輩に色仕掛けで迫ったんじゃない?」
「一年生のくせに生意気よ」
聞こえるように囁かれる誹謗中傷に耐えきれなくなったペッパーは、ナターシャたちの手を振り切るとカフェテリアを出て行った。同級生になら言い返せるものの、さすがに上級生には言えるはずもなく、ナターシャは唇を噛み締めた。
「おーい、ナターシャ。どうした?」
そこへ姿を現したのは、クリントとスティーブ。
「いいところに!ねぇ、スターク先輩は?」
「あいつは今日明日休みなんだ。家庭の事情だってさ。…何かあったのか?」
ナターシャから話を聞いたクリントは顔色を変えると、慌ててトニーに連絡し始めた。

近くの女子トイレに駆け込んだペッパーは、洗面台の前に立った。
(しっかりしなさいよ、ペッパー!先輩が私を選んでくれたのよ?だから負けちゃダメ!)
涙を拭い、心配しているだろうナターシャたちの元へ戻ろうとしたペッパーを複数の女子生徒が取り囲んだ。見ると、トニーと同学年の女子生徒ばかり。
「何ですか?」
ビクっと身体を震わせたペッパーの髪を一人が引っ張った。
「あんたでしょ?スタークくんのオンナって。一年生のくせに生意気なのよ!」
「誰の許可をもらって、彼と付き合ってるの?」
「あんたなんか、二度と彼に会えないようにしてやるわ!」
彼女たちの言っていることはめちゃくちゃだが、ここにいると酷いことをされると感じたペッパーは、慌てて逃げようとしたが、口をガムテープで塞がれ、トイレの個室に押し込められた。
「んー!!!」
手足をバタつかせるペッパーの頬を何度も殴った生徒たちは、トニーが美しいと褒めてくれた髪の毛を切り始めた。
(い、いや!!トニー…助けて!!)
恐怖と悔しさで涙を流すペッパーを嘲り笑うように、服を破いた生徒たちは頭から水を掛けた。
「ねぇ、誰か男子を呼んできてよ。こいつのこと、めちゃくちゃにしてもらいましょ?」
慌てて逃げようとしたペッパーは、生徒の一人に足を引っ掛けられ、転倒してしまった。
「逃げても無駄よ。あんたのこと、犯してもらうんだから」
ペッパーの身体を蹴り始めた生徒たち。何度も蹴られ泣き叫ぶペッパーだが、その声は誰にも届かない。
目をギュっと閉じたペッパーは、トニーの顔を思い浮かべた。
(先輩……)
意識が遠のき始めたペッパーの耳に、聞き慣れた声と複数の怒鳴り声が聞こえた……。

ペッパーが目を開けると、目の前には白い天井が広がっていた。
「ヴァージニア、気がついた?」
目に涙を溜めた母親が自分の手を握りしめているのに気付いたペッパーは、にっこりと微笑んだ。
「ママ…」
「良かったわ、大事がなくて。ナターシャちゃんたちがあなたのこと助けてくれたの。待ってて、呼んでくるわ」
母親が廊下へ出て行くと、ペッパーは自分の状態をチェックし始めた。
身体中は痛み、左腕と左足にはギブスがはめてある。頬は腫れ上がり、そして髪の毛は肩の辺りで切り揃えられている。
あの悪夢のような出来事を思い出したペッパーは、目をギュと閉じた。
「ペッパー…」
ジェーンの声に目を開けると、ナターシャとそしてクリントが駆け寄ってきた。
「みんな…」
三人の顔を見たペッパーの目に涙が溜まり始め泣き始めた。
「ペッパー、大丈夫よ。ごめんなさい。もっと早く気がつけば…」
ペッパーの手を握りしめたナターシャとジェーンも、一緒に泣き始めた。
その時、何かバタバタと走って来る音がし、病室のドアが壊れそうな勢いで開いた。
「ペッパー!!」
入口に姿を現したのは、真っ青な顔をしたトニー。パーティーだったのだろうか、タキシードを着たトニーはペッパーの姿を見るとさらに顔色を変え、駆け寄って来た。
「先輩…」
トニーの顔を見た瞬間、安心したペッパーは声を上げて泣き始めた。腕を伸ばしたペッパーを抱きしめたトニーは、声を震わせた。
「ペッパー、すまなかった。俺が守らないといけないのに、守れなかった。君に辛い思いをさせてしまった…。許してくれ…」
「先輩…怖かった…」
トニーの背中に手を回したペッパーだが、その背中は小さく震えているではないか。ちらりと顔を上げると、トニーの目は涙で光っている。ペッパーの視線に気付いたトニーは、乱暴に袖で顔を拭うと頬にキスをした。
「俺がずっとそばにいる。だからもう大丈夫だ。それと…」
ナターシャたちの方を振り向いたトニーは、怒りに満ちた顔を三人に向けた。
「ペッパーをこんな目に合わせた奴は誰だ!ぶっ殺してやる!」
トニーの口から恐ろしい言葉が飛び出し、ペッパーは思わず声を上げた。するとそれまで黙っていたクリントが、トニーに近づくと肩を叩いた。
「トニー、落ち着けよ。あいつらなら俺が…」
口ごもったクリントをチラリと見たナターシャは、ため息をつくと言葉を続けた。
「クリントったら、あの子たちに向かって得意技を披露したの。あの子たち、怖がって大変だったんだから…。それと、あのロジャース先輩が!トイレの壁を壊したんだから!でも、ペッパーにしたことを考えたら、当然の報いよね。あ、安心して。さすがに先生もうやむやにはできないわよね。警察に通報して、あの子たちは捕まったから…」
クリントの得意技と聞いて思い浮かんだのは、彼はアーチェリーで何度も優勝していること。それに、トイレの壁を壊したというスティーブは、一体何をしたんだろう…と、トニーとペッパーは思わず顔を見合わせた。
「ところで、トニー。大丈夫なのか?」
明らかにパーティーか何かに行っていたのだろう。トニーは頭を搔くとペッパーの背中を撫でた。
「あぁ…。親父とお袋に駆り出されてNYにいたんだけど…。大事な人の一大事だと言うと、二人とも大慌てで…。とっとと帰れと飛行機を出してくれたんだ」
そこへ、買い物へ行っていたのだろう。ペッパーの母親が紙袋を抱えて戻ってきた。
ペッパーの横に座り背中を撫でている見知らぬ男の子に気付いた母親は、パッと顔を輝かせた。飛び上がったトニーは、ベッドサイドに直立不動すると、母親に向かって頭を下げた。
「初めまして。トニー・スタークーです。ペッパー…いえ、ヴァージニアさんとお付き合いさせて頂いてます。今までご挨拶せずにすみません…」
嬉しそうに笑みを浮かべた母親は、トニーに駆け寄ると手を取った。
「まぁ、あなたがヴァージニアの?いつもお世話になってます。ヴァージニアったら、かっこいい男の子を捕まえて!やるわね!」
「ママ…何で分かったの?」
両親にはトニーのことはおろか、彼氏ができたことを話していないのに…と、目を白黒させていると、母親はニヤっと笑った。
「あら?私はあなたの母親よ?言われなくても、あなたの様子を見てたらいい人ができたってことくらい分かるわよ?」
ところで…と切り出した母親は、トニーを椅子に座らせると根掘り葉掘り聞き始めた。それを見たナターシャたちは、ペッパーに手を振るとこっそりと帰って行った。
すっかり母親と打ち解けているトニーを見たペッパーだが、トニーがそっと自分の手を握りしめたのに気づき、温かく大きな手を握り返した。

⑧107.求愛

高校生パロ。2月のお話。ペッパーちゃんをいじめてごめんなさい…

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