Father’s Day(2021)

母親に似たのか、元々料理に興味深々だったモーガンは、2ヶ月前にめでたく5歳になったのだが、誕生日には本格的な子供用の包丁のセットを強請り、それ以来母親と共にキッチンに向かっていることが多くなった。

6月のある日曜日。
トニーが半分寝ぼけ眼でキッチンに向かうと、いつもようにペッパーが『完璧な朝食』を用意していた。が、自分の定位置に並んでいるのは……。
半分以上焦げているスクランブルエッグに、大きめにちぎったレタスが皿からはみ出しているサラダ、なんとも言えない色をしているスムージーに果物てんこ盛りのヨーグルト、そして歪な形のパンケーキにはチョコレートで何やら書かれている。顔を近づけしばし見つめていたトニーは、それが『パパだいすき!』という文字であることをようやく理解した。
つまり今朝の朝食の作り主は……。

「あたしがひとりでつくったのよ!」
父親に気づき駆け寄って来たモーガンは、得意げに鼻の頭を擦った。彼女はエプロンを付けていた。『Happy Father’s Day』と書かれたエプロンを。
(あぁ、そうか。父の日なんだ)
だからモーガンは朝食を作ってくれたのだ。
途端に胸がいっぱいになったトニーは、身をかがめると娘をギュッと抱きしめた。

早速娘お手製の朝食を食べようと、喜び勇んで席に着いたトニーだが……。モーガンは本当に一人で作ったようで、スクランブルエッグは卵の殻だらけ、何が入っているのか知らないがスムージーはやたらと苦いではないか。
「美味しいね、ママ」と言いながら、ペッパーお手製の朝食を食べる娘と妻を恨めしそうに見つめたトニーだが、せっかくの娘の料理に「不味い」なんて言えるはずもなく、粉っぽいパンケーキを無理矢理牛乳で流し込んだ。

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