The best thing my dad ever made.①

ロンドンで2日間開催される科学者の国際フォーラムで、トニーが講演を行うことになった。そこでトニーとペッパーは、いつものように娘も連れて行こうと声を掛けたのだが…。

「せっかくだから2人でゆっくりしてきて!」
と、モーガンに提案され、2人は思わず顔を見合わせた。『私も行く!』と、今までなら即答していた娘が、今回は行かないというのだ。確かにモーガンは15歳で、一人で留守番もできる年頃だ。だが、何日も一人にさせるのは些か不安だ。渋る両親に、モーガンは何度も大丈夫だと告げた。そこでモーガンの言葉に後押しされた2人は、3日だけ滞在を伸ばすことにした。

「いいか、モーガン。知らない人が来ても絶対にドアを開けるなよ」
出かける寸前まで心配している父親に、絵本の台詞じゃないんだから…と、モーガンは気づかれないように目をくるりと回した。
「パパったら、心配しないで。それより、お土産、買ってきてね!」
そう言いながら頬にキスをしたモーガンは、余程早く一人になりたいのか、ぐずぐずしている両親を追いたてるように車に乗せた。

***

両親の車が見えなくなると、モーガンは急いでラボへと向かった。今から5日間、この家には自分1人だ。つまり誰にも邪魔されることなく、作業ができるのだ。
「よし!パパがいない間に仕上げちゃおう!」
父親の使っている椅子に勢いよく座ったモーガンは、F.R.I.D.A.Y.に命じた。
「F.R.I.D.A.Y.!『モーガンの秘密プロジェクト』を立ち上げて!」
すると目の前に、アーマーの設計図が現れた。そして部屋の隅に置いてある大きなケースが開き、作りかけのアーマーも姿を表した。
実はモーガン、自分専用のアーマーを作っていたのだ。父親と母親には言っていない。ラボを使ってもいいが、危険なことはしないと約束しているからだ。アーマー作りが危険な訳ではないが、おそらく両親はいい顔はしないだろうと、モーガンはこの数ヶ月、こっそりと作り続けていたのだ。
「ねぇ、パパにはバレてないわよね?」
毎回お馴染みの小さな主人の質問に、F.R.I.D.A.Y.はすまして答えた。
『はい、ボスにはバレておりません』

小さい頃から父親のラボはモーガンの遊び場だった。まだハイハイも出来ないような年から、ラボで作業している父親と共にいることが好きだった。こっそり忍び込んで、色々な物を見つけるのも好きだった。勝手に持ち出して遊んでいても、余程危険なことでなければ、父親は怒らなかった。10年以上前のあの戦いで、父親の右腕が義手になると、父親は『モーガン、手伝ってくれ』と、作業を手伝わせてくれるようになった。モーガンは楽しくて仕方がなかった。父親とロボットを組み立てたり、ダミーやユーの修理もさせてもらえるようになった。
父親が不在の時には、父親が作った物の設計図を眺めて勉強するようになった。中でもアイアンマンのアーマーは、様々な技術が駆使されており、モーガンは自分でも作ってみたいと思うようになった。
そこで数ヶ月前からこっそりとアーマー作りを始めたのだ。
今のところ、両親にはバレていないようだ。だが、もうすぐ完成するのだから、いい加減には話をした方がいいのだろうか。それとも完成したらサプライズだと見せた方が、父親は喜んでくれるだろうか…。
いずれにせよ、秘密にしている以上は父親に頼ることはできないので、父親が昔作っていたアーマーを元に製作しているのだが、どうも理想通りいかない。
「やっぱりパパに手伝ってもらわないと無理かなぁ……」
昔から父親のことは尊敬しているが、自分でアーマーを開発するようになって、父親の凄さをますます体感した。参考にしようと父親のアーマーの設計図を確認したが、どうしたらそうなるのかさっぱり分からない。
はぁ…と溜息を付いたモーガンだが、小腹が空いた彼女は、作業を中断するとキッチンへ向かった。

***

その頃、トニーとペッパーは自家用ジェットでロンドンに向かっていた。
「モーガンったら、余程早く一人になりたかったのね」
出発前の様子を思い出したペッパーは、おかしそうに笑い声を上げた。
「アレをしようと思ってるんだろ」
わざと顰め面をするトニーに向かって、ペッパーは肩を竦めた。
「えぇ。嫌になっちゃうくらい、あなたそっくりね」
妻の言葉にフンっと鼻を鳴らしたトニーは、
「分かりやすくていいだろ?」
と言うと、ペッパーにキスをした。

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