I want to live a second life with you.①

『アンソニー、いい加減、目を覚ませ!』

父親の声に目を開けたトニーは、暗闇の中に佇んでいた。ここは何処だとキョロキョロした彼は、足元に墓標があることに気付いた。

『アンソニー・エドワード・スターク 1975-2023』

墓標に刻まれていたのは、自分の名前。
間違いなく自分の墓だ。
つまり、自分はあの時…サノスとの戦いで、確かに死んだのだ。それなのに、今は自分の墓を見下ろしている。
「生き返ったのか?」
信じられない事態にパニックにならないように、思いついた考えを口に出したトニーだが、周囲には猫の子一匹いないのだから、答えなどあるはずがない。そこで、今起きていることが現実なのか確かめるため、誰でもいいから人を探そうと、暗闇の中を歩き始めた。

暫くして墓地を抜けると、先程とは別の聞き覚えのある声がし、トニーは顔を上げた。すると目の前にストレンジが立っていた。
「……」
ほんの数秒、お互い黙ったまま見つめあっていたが、トニーより先にストレンジが口を開いた。
「とにかく、こっちへ来い」
ストレンジに続きポータルの中に入ると、そこはストレンジの家だった。
奥にある部屋にトニーを連れて行ったストレンジは、ソファに腰掛けた。向かい側にトニーが腰を下ろしたのを確認すると、彼は分かる範囲で説明をし始めた。

今は2028年、つまり、あの戦いの5年後であること、何の前触れもなくトニーは生き返ったこと、生き返った理由は分からないこと。

溜息をついたストレンジは、ポカンとしているトニーに告げた。
「誰かがお前を生き返らせたのだろう。それは私が調べる。だからお前は暫くここにいろ」
さっぱり状況が分からないため、ストレンジに任せることにしたトニーだが、彼にはどうしても気になっていることがあった。それは妻と娘のこと。彼女たちは今どうしているのか、そして彼女たちに会いたいという思いを止めることは出来なかった。
「ペッパーとモーガンに会いたい」
そう口に出してみたトニーだが、ストレンジは苦しそうに顔を歪めた。
「やめておけ」
即答したストレンジに、トニーは眉をひそめた。
「何故だ?妻と娘に会いたいというのが駄目だと言うのか?」
ストレンジは何か知っているのだろうか。だが、彼は敢えてそれを言おうとせず、濁すようにトニーに告げた。
「あれから5年経ち、彼女たちはようやく前ヘ向かって進み始めた。だから今お前が姿を現せば混乱するだけだ」

そう言われれば仕方ない。トニー自身もまだ混乱していたし、ペッパーとモーガンが今どこにいるのかも分からないのだから、暫く大人しくしておくことにした。

が、翌日。トニーはストレンジが言葉を濁した理由を知ることになった。
外にも出れず暇を持て余したトニーはテレビをぼんやりと見ていた。チャンネルをパチパチ変えていると、『ペッパー』と聞こえた気がした。慌てて音量を大きくすると、画面いっぱいにペッパーが映し出された。ペッパーは髪型をショートボブにしていたが、5年前と何の代わりもなく美しかった。
「ペッパー……」
画面に触れたトニーの目から涙が零れ落ちた。ようやく最愛の女性に画面越しではあるが会えたのだ。ペッパーに会いたいという思いを、トニーは抑えることが出来なくなった。
が、その時だった。ペッパーの隣に見知らぬ男性が現れた。するとペッパーはその男性に嬉しそうに腕を絡ませたのだ。
トニーは気づいた。ペッパーの左手には、自分たちの結婚指輪ではない指輪が嵌っていることに……。
「ペッパー……」
トニーはヘナヘナとその場に座り込んだ。
『彼女たちは前に向かって進んでいる』
ストレンジの言葉の意味を、トニーはようやく理解した。
5年も経ったのだ。再婚していてもおかしくない。
それでも心のどこかで、彼女は生涯自分だけを愛してくれると過信していた。だが、彼女は彼女の人生を歩んでいるのだ。それはトニーも望んでいたことだったのだが、実際目の当たりにすると、悲しみがどっと押し寄せてきた。

トニーは泣いた。声を押し殺し、彼は泣き続けた。
どうして生き返ってしまったのだろうと…。

②へ…

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