Christmas day. (2020)

多くの子供たちにとってそうであるように、クリスマスはモーガンにとっても特別楽しみな日だった。リビングに鎮座する大きなツリーの下には、数日前から沢山のプレゼントが置かれているが、それを両親と共に開封できるのが、クリスマスだったからだ。そして、母親の旨い料理を食べ、大好きな両親と一日中楽しいことをして過ごす…それがクリスマスだったからだ。

だから今年も去年までと同じように過ごすと思っていた。

が、今年は全てが違っていた。いつもの場所にツリーが飾られることはなかった。暖炉に靴下は下げてあるが、年々規模がエスカレートしている庭のイルミネーションも今年はなかった。

それは、大好きなパパが家にいないから。

2ヶ月前、『大変な怪我』をしたパパは、今も病院にいる。父親が眠っている間、母親はずっと付き添っており、モーガンはハッピーおじちゃんと家で留守番をしていた。父親が目を覚ましてからは、モーガン自身も母親と共に病院で過ごすことの方が多かったため、クリスマスの準備は何一つ出来ていなかったのだ。

それでも毎年楽しみにしていたクリスマスだ。父親も毎年楽しそうに準備をしていたのだから、きっと今年も待ち望んでいると考えたモーガンは、庭で拾った木や葉などで小さなツリーを作った。画用紙でクリスマスカードや飾りを作った。あとはケーキと料理があれば完璧だが、小さなモーガンにそれらを作る術はない。そこで病院から帰宅した母親に、秘密の計画を打ち明けた。すると母親は嬉しそうに笑うと、パパのために最高のクリスマスにしようとモーガンに告げた。

翌日、モーガンは母親と共に買い物に出掛けた。数ヶ月前までは閑散としていたマーケットも、華やかな装飾と大勢の人で賑わっており、誰もがクリスマスを心待ちにしているようだった。母親は食材や花などを次々と買っているが、自分もだが父親も好きなアレの材料を母親は買っていないことにモーガンは気づいた。
「ママ、ケーキは?」
「パパはまだケーキが食べられないのよ」
数日前に目を覚ました父親は、話どころか息をするのも大変そうなことを思い出したモーガンは、残念そうに項垂れた。
「パパ、ママのケーキすきなのに、ざんねんだね」
「来年は大きなケーキを作ってパパに食べさせてあげましょ?」
最後にサンタ帽子を3つ買った2人は家に戻ると、早速支度をし始めた。

翌日。
サンタ風のワンピースを着てサンタ帽を被ったモーガンは、両手いっぱいに荷物を抱えていたが、足取り軽く父親の病室に向かった。
本当はジェラルドも連れて来たかったのだが、病院にアルパカを連れて行ってはいけないと母親に言われ、泣く泣く諦めたのだ。
「パパ、よろこぶかな?」
病室に入る前に確認するように尋ねると、母親は悪戯めいた笑みを浮かべた。
「パパはサプライズ好きだから、きっとモーガンのサプライズに大喜びするわよ」

父親は眠っていた。
そこでモーガンは母親と共に部屋を飾り付けした。モーガンの作ったツリーや飾りで、病室はパッと明るさと華やかさに包まれた。そしてBGMにクリスマスソングを流すと、タイミングよく父親が目を覚ました。何度か瞬きをした父親は、すっかりクリスマスムードになった部屋を、視線をキョロキョロと動かして眺めている。
「パパ、メリークリスマス!」
頃合いを見計らったモーガンがサンタ帽を差し出すと、嬉しそうに目を細めた父親はそれを左手で受け取った。が、右手がなくなってしまったし、横になったままで動けないのだから、自分で被ることができない。すると母親がスッと父親から帽子を受け取ると、鼻に挿れられたチューブを避けるように、被せた。
「モーガンが用意したのよ。パパはクリスマスが大好きだから、パーティをしようって」
母親が父親の頬にキスをすると、父親は目尻を下げて笑みを浮かべると、腕を伸ばした。
「モーグーナ……」
囁くような小声だったが、父親だけが呼ぶその響きが、モーガンは大好きだった。
「なぁに?」
モーガンがベッドに近寄ると、父親は頭をクシャッと撫でてくれた。その手の温もりに、モーガンはくすぐったそうに笑い声を上げた。
「ペッパー……」
頭を撫でながら父親が母親の名を呼んだ。するとモーガンの身体が宙に浮いた。母親に抱き上げられたままベッドに腰掛けると、父親が左手を伸ばした。モーガンは父親の左手を握りしめた。すると母親は両手で包み込むように手を重ねた。

モーガンは両親の手の温もりを感じた。
大きく力強く、いつも母親と自分を守ってくれるパパの手と、優しく柔らかく、いつも父親と自分を温かく包み込んでくれるママの手…。

もしパパが2か月前、遠い世界に行ってしまっていたら、こうやって手を握ることも、話をすることも、クリスマスのパーティーをすることも出来なかった。だけどパパは戻ってきてくれた。沢山怪我をして、もう少しお家に戻ってこれないけど、パパはこれからもずっとママと自分と一緒にいてくれるのだ。パパは右腕がなくなってしまったし、右のお顔にも怪我をしたままだけど、パパが一緒にいてくれるだけでいい…。

そんなことをモーガンが考えていると、父親がポツリと呟いた。
「…クリスマスが迎えられて……幸せだな…」
父親の目から小さな涙が零れ落ちた。その涙を拭った母親は何度も頷いたが、頬には涙の筋がいくつも残っている。
「あなたがそばにいてくれる…こんなに嬉しいクリスマスは初めてよ」
そう告げた母親は、両手で父親の頬に触れると、キスをし始めた。

キスをする両親は本当に嬉しそうで、パパもママもみんなが幸せになれるクリスマスは、やっぱり特別な日だなと、嬉しくなったモーガンは両親に抱きついた。

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