Reasons to stay in this world.⑩

トニーが寝室へ入ると、ペッパーは目を覚ましていた。
「気分はどうだ?何か欲しいものはないか?」
首を振ったペッパーは手を伸ばすと、サイドテーブルの上にあったトニーの写真を手に取った。
写真と目の前のトニーを見比べたペッパーは、わざとらしく頬を膨らませた。
「あなたはいいわね。いつまで経っても若いままで…」
「生きていたら90過ぎのじいさんだ。君も若くてカッコいい私が傍にいる方がいいだろ?」
肩を竦めてみせたトニーに、ペッパーはふふっと笑い声を上げた。いつまでも変わらないその笑みに、トニーは表情を崩した。
「君も出会った頃からちっとも変わらず、世界一美しい」
ありがとと小声で告げたペッパーは、写真を胸元で抱きしめると、大きく息を吐いた。
「ねぇ…。天国に行っても…あなたとずっと一緒にいられるかしら…」
妻の言葉にトニーは頷いた。
「あぁ。結婚式で誓っただろ?何があっても、永遠に一緒だと…。君がいい加減、私に飽きていなければ…の話だが…」
「あなたに飽きるなんて…残念ながら、永遠に無理ね…」
「それは光栄だな。助かるよ。偏屈な私の相手を出来るのは、宇宙中探しても君しかいないからな」
ペッパーの瞳が微睡始めた。そしてトニーを求めるかのように、彼女は手を伸ばした。するとトニーはその手をそっと握りしめた。
「あなたに…触れるわ…」
少しだけ目を見開いたペッパーだが、トニーの手の温もり…それはずっとそばにいたのに、もう何十年も感じることのできなかった懐かしい温もりだった。
嬉しくて涙が零れ落ちた。ようやくトニーに触れることができたのだから…。
「そうだな…」
ペッパーの涙を拭ったトニーは、身を屈めると妻の頬をそっと撫でた。そしてそのまま彼はペッパーを抱きしめた。
トニーの温もりに包まれたペッパーは、ずっと胸の中に開いていた穴が塞がるのを感じた。
トニーが死んだ時、自分の半分も死んでしまった。幽霊になって戻って来てくれたとはいえ、やはり触れられないもどかしさがあり、どこか物足りなさを感じていた。
が、今こうやって何十年ぶりに彼と触れ合い、ペッパーの心はようやく平穏を迎えることができた。
「トニー……キスして……」
触れることができると分かれば、もっと触れ合いたいと欲が出てくる。それはトニーも同じだったようで、彼の顔はすでに数センチの所まで近づいていた。
「君がボスだ。だから私は従うまでだ」
懐かしい台詞にペッパーはクスクス笑い声を上げた。
トニーの唇が触れた。温かく柔らかなトニーの唇は、ペッパーがずっと求めていたものだった。
唇を離したトニーは、ペッパーに向かって笑った。
「ペッパー…愛してる…。これからも永遠に……」
その笑顔は、40年程前の彼の最期の笑顔とはまた別のもので、本当に心から楽しそうな…ペッパーの愛するトニーのとびっきりの笑顔だった。
(あぁ…彼は、ようやくゆっくり眠れるのね…)
ペッパーは気付いた。彼がこの世に留まり続けた理由に…。それは全て私のため…。私が彼にそばにいて欲しいと願い続けたから…。だから彼は眠ることよりも、私とモーガンのことを選んでくれたのだと…。
「ハニー…君のそばにいたいから…。私が選んだ道だ…。これからもずっとそばにいてくれ…」
ペッパーの考えを読んだのだろう、トニーは悪戯めいた笑みを妻に向けた。
「とにー……わたしも………。ずーっと……。あいし……てる……」
ペッパーがにっこりと笑みを浮かべた。

そして光のなくなった目を閉じた……。

⑪へ…

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。