Reasons to stay in this world.⑨

その頃トニーはバルコニーへと足を運んでいた。
「あ!おじいちゃま!」
庭の隅で何やら遊んでいたアンソニーとアビーが、トニーに気づくと駆け寄ってきた。
「おじいちゃま、おばあちゃまに、これ、あげて」
両手いっぱいの可愛らしい花を、アンソニーは階段に座ったトニーの傍に置いた。
「綺麗な花だな。きっとおばあちゃんも喜ぶぞ」
トニーの言葉に2人は得意げに鼻をこすった。
「ねぇ、おじいちゃま。ぼくね、大きくなったら、おじいちゃまみたいになるから!」
「あたしも!あたしね、アイアンマンになるからね!」
口々に言う孫に、トニーは優しい笑みを浮かべた。
「そうか…。それは楽しみだな」
2人を見つめたトニーは、一際優しい笑みを孫たちに送った。
「アンソニー、アビー…。お前たちが大きくなった未来には…おじいちゃんはいないが…。だが、これだけは覚えておいてくれ。おじいちゃんとおばあちゃんは、空の上から、お前たちのことをずっと見守っていると…」
アンソニーとアビーには、祖父がどうしてそんなことを言うのか理解できなかった。
『おじいちゃまはずーっとそばにいてくれる』
2人はそう思っていたから…。
だが、祖父の眼差しは真剣で、そして心なしか泣きそうな表情をしているのだから、2人は元気よく頷いた。
「うん!」
自分にそっくりなアンソニーと、そしてどちらかというとペッパーに似ているアビーに、トニーは手を伸ばした。このままでは触れられないことは分かっているが、2人の頭の上に手を置いたトニーは、撫でる様な仕草をすると、立ち上がった。
「ママのためにも花を摘んできたらどうだ?ママ、喜ぶぞ?」
トニーの提案にパッと顔を輝かせた2人は、手を繋ぐと庭へと走って行った。

広い庭を走り回る孫たちをトニーは見つめた。
結婚を機にここへ家を建てた。あの時は、全ての事から逃げ出したくなり、この地へやって来た。現実から逃れ、それでも新しい人生をもう一度作り直そうと必死だった。やがて、モーガンが生まれ、楽しい思い出も沢山できた。だが、生きている時よりも死んでからの方が、様々な思い出を作ることが出来た。
トニーは手すりを見た。モーガンの成長の分だけ古びた家。楽しいことも辛いことも…この家は全部知っている。

と、モーガンと何やらやり取りをしているF.R.I.D.A.Y.の声が聞こえて来た。
「お前ももうすぐ…お役ご免かな…」
死んでからはF.R.I.D.A.Y.に自分の存在は認識されなくなってしまったが、気付けば彼女の前任者である”J.A.R.V.I.S.”よりも長い年月を共に過ごしてきた。そのF.R.I.D.A.Y.はきっとモーガンが立派に引き継いでくれる。A.I.だけではなく、モーガンはきっと全てをより良く受け継いでくれる。
自分の遺産はこうやって次世代へと引き継がれていくのだ。名前なんか残らなくてもいい。モーガンやアンソニーたちの未来に、技術がちょっとばかり貢献できるのなら…。

そんなことを考えていたトニーは、モーガンに呼ばれ我に返った。
「パパ…」
モーガンは気付いた。先ほど子供たちと話している父親の様子から、父親は母親の余命を知っているのだと…。だから今更自分が話すべきではないのかもしれないが、それでも彼女はきちんと話しておこうと考えた。が、モーガンが口を開く前に、トニーが話し始めた。
「なぁ、モーガン…。パパは…夢が全て叶った。あの戦いで勝つための唯一の方法が…パパが死ぬことだと悟った時…、もうモーガンに会えないんだと…モーガンの成長も…結婚して子供が産まれるのも…何もかも見れないのだと…これから起こるモーガンとの未来を、全て諦めなければならないんだと…無理矢理覚悟したつもりだった。ペッパーの手に最期に触れた時…ママのこと、最後まで泣かすことしか出来なかった…幸せにすることが出来なかったと、悔しくてたまらなかった。モーガンを抱きしめることもできないと…最期にお前に愛してると言わずに死ななければならないんだと、悔しくてたまらなかった。だが…幽霊という姿ではあるが…パパは、一度は諦めなければならなかった人生を、過ごすことができたんだ…」
ふぅと深呼吸をしたトニーは、小さな涙を流した娘に向かって微笑んだ。
「昔…親父に言われたんだ。直接ではないが…。『父さんの作った最高のものは、お前だ』と…。パパもだ。パパが作った最高のもの…それはモーガン、お前だ。お前は立派に自分の人生を歩いている。ママに似て優しくて思いやりがあって…パパなんか足元にも及ばないくらい、素晴らしい人間だ。ありがとう、モーガン。パパの思いは、これからも、お前やアンソニーたちが引き継いでくれるんだ…。あの時…パパが命を懸けて守った未来は…これからはお前たちが守ってくれる…。パパはもう何も思い残すことはない…」
と、その時。モーガンには父親が消えそうに見えた。不安になった。パパは今度こそ本当に消えてしまうのではないかと…。
「パパ…これからもそばにいてくれるわよね?」
恐る恐る尋ねると、トニーはにっこり笑った。
「勿論さ。モーガンはいつまでたっても、パパの世界一大切なモーグーナだ。何があっても…モーガンのそばにずっといる…」
トニーはモーガンに向かい合った。そして腕を伸ばし、娘の身体を包み込んだ。
「モーガン・H・スターク…3000回愛してる…」
あの時のホログラム越しのメッセージのように、モーガンの顔を覗き込んだトニーはそう囁いた。するとモーガンも、とびっきりの笑みを浮かべ、父親に告げた。
「私も。パパのこと、3000回以上愛してるわ」
モーガンから身体を離したトニーは、
「ママの様子を見てくるよ」
と言うと、家の中へ向かった。
その背中にモーガンは声を掛けようとしたが、息子と娘の呼ぶ声が聞こえたため、子供たちの元へ向かった。

トニーが振り返った。
モーガンは転んで泣いているアビーの元へ大慌てで駆け寄っていた。
「ありがとう、モーガン…。パパは…お前のパパになれて…本当に幸せだった…」

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