Reasons to stay in this world.⑥

それから数年が経った。
姿が他人から見えないことを除いては、以前と何も変わらなかった。
家族であちこち旅行に行くこともできた。
勿論写真にトニーの姿は写らなかったが、帰宅後、モーガンは生前の父親の写真を合成し、家族3人の写真に仕上げた。

こうして叶わないと思っていた夢を、トニーは勿論のこと、ペッパーとモーガンも叶え続けることができた。

そして16歳になったモーガンは、トニー同様MITに入学した。そして彼女はボストンで一人暮らしを始めた。頻繁に戻ってくるとはいえ、ペッパーとトニーと2人きりで過ごすことが多くなった。
トニーは全身にアーマーを装着することができるようになっていた。が、何故かアーマー以外には触れることは出来なかった。そこで、モーガンはアーマーを改良し、極力軽量化した。そのため、トニーはペッパーが眠る時、アーマーを着ることにした。それはペッパーを抱きしめて眠るため…。と言っても、トニーには眠りは必要ないのだから、彼は一晩中妻の顔を眺めているのだが…。
「何だか不思議な感じよね」
今日もトニーの腕の中に閉じ込められたペッパーは、甘えるようにリアクターに顔を擦り寄せた。
「昔はね、アーマーが嫌いだったの。あなたがこれを着て出かける度に、不安で仕方なかった…。でも今は…これがあるから、あなたと触れ合えるんですもの…。感謝しなきゃ…ね?」
「そうだな…」
小さく微笑んだトニーに、ペッパーは首を伸ばした。そして彼の唇にキスをしようとしたが、触れられるはずのない唇は宙を切った。そこで彼女は、チュッと音を立てて、キスをしたフリをした。これが今の自分たちに出来る精一杯のこと…。
(彼に触れられる日が来るのはいつになるかしら…。でもきっとその時は…)
首を振ったペッパーは、申し訳なさそうにしているトニーに抱きつくと、リアクターにキスをした。

***
モーガンMITを卒業後、家に戻ってきた。そしてスターク・インダストリーズで働き始めた。
「まさかモーガンが会社で働く姿を見ることができるなんて…」
楽しそうに働く娘の姿に、トニーは感慨深げに呟いた。
自分と同じ道を進む娘。強要した訳ではない。彼女自身が父親と同じ道を進むことを望んだのだ。
家に帰っても、モーガンは技術や開発について父親を質問責めにしていた。そんな娘にトニーは自分の知り得る知識を全て伝授した。毎晩父と娘は夜遅くまで話し込んでおり、そんな2人の姿をペッパーは楽しそうに見つめていた。

***
仕事にも慣れた頃、モーガンが恋人を連れて来ると言い出した。結婚の挨拶にやって来ると聞いたトニーは、顔を曇らせた。自分の姿は見えないのだろうから、自分は必要ないと考えたのだ。だがモーガンには父親の気持ちが分かっていた。
「彼にはね、パパが幽霊になったこと、話したの。最初は半信半疑だったけど、私の話を信じてくれたわ。だからね、パパのことも紹介するから、ちゃんと同席してね」
モーガンにそう告げられたのだから、トニーは当日、ペッパーの隣にちょこんと腰を下ろし座っておくことにした。

モーガンよりも5歳年上の男は、ポールと名乗った。そして、モーガンのことを心の底から愛しているので結婚させて欲しい、そして、スタークの名を絶やすことはできない、だからスターク姓を名乗らせてくれと言った。
誠実なポールの態度に、ペッパーは彼のことを一目で気に入った。そして彼になら娘を任せても大丈夫だと感じた。
が、トニーは黙ったままだった。ずっと何も喋らない父親に、モーガンは不安げにチラチラと視線を送った。
「で、スタークさんは…」
キョロキョロと辺りを見渡したポールに、
「ここにいるわよ」
と、ペッパーは隣を指差した。するとポールは何度も深呼吸をすると、トニーのいるであろう場所を見据えた。
「あ、あの!俺…アイアンマンが大好きだったんです。アイアンマンは俺のヒーローでした。それから、トニー・スタークさんにも、小さい頃からずっと憧れてました。スタークさんみたいになりたくて、MITに入りました。それからスターク・インダストリーズに入りました。モーガンと出会ったのは、偶然なんです。あなたの娘さんだとは知らずに、恋に落ちました。あなたは俺の目標です。きっと俺は一生かかっても、あなたの足元には到底及びません。ですが、モーガンを愛している気持ち…それだけは負けないつもりです。お願いします。モーガンのことは命を懸けて守ります」
頭を下げたポールを、トニーは相変わらず黙って見つめていた。
「トニー?」
ペッパーが夫を突いた。何か言ってという風に…。するとトニーは姿勢を正すと口を開いた。
「娘のこと…頼みます。私は死んだ人間だ。話はできても…ずっと何年も表立って守ることはできなかった…。だが…」
顔を上げたトニーは娘を見つめた。
「モーガン…素晴らしい方と出会えたんだな…。パパは安心した…。お前を守ってくれる人が現れてくれて…本当に良かった…」
トニーの言葉を伝えたモーガンの目から涙が溢れた。そしてトニーも…。
トニーは泣いていた。小さな涙がポツリポツリと零れ落ちた。何もない所から水滴が降り注いだのに気づいたポールもまた、モーガンから伝えられたトニーの言葉に涙した。

⑦へ…

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