翌日、トニーは朝からラボに篭っていた。
マグカップを動かせたのだから、アーマーも動かせるのでは…と考えた彼は、モーガンに頼みアーマーの一部を並べてもらった。そしてそれを何とかして動かそうと、今朝からずっと一人で格闘しているのだ。
どれくらい奮闘していたのかは定かではないが、気がつけば夕方になっていた。
そしてトニーはようやく右腕だけ装着することができた。
「できたぞ!!!」
思わず大声で叫んだが、誰に聞こえる訳ではないので、側から見たらアーマーの肘から下の部分だけが宙に浮いているという摩訶不思議な光景がラボでは繰り広げられていた。
他はできないかと残りのアーマーに触れたトニーは、何とか左腕も装着することができたが、それ以外は無理だった。
だが、これで肘から下の両腕は使えるようになったのだ。試しにその場にあったタオルに触れると、掴むことができた。
2人が帰ってきたら驚かせようと、アーマーを外したトニーは、何食わぬ顔をしてリビングへと向かった。
夕食後。
見て欲しいものがあるんだと、ペッパーとモーガンをラボに連れて行ったトニーは、両腕にアーマーを装着してみせた。2人は暫くポカンと口を開けていたが、トニーがやってみせたことをようやく理解すると、驚き叫び出した。
「パパ!どうやったの!」
「と、トニー!凄い!凄いわ!」
手を握り合いキャーキャー騒ぐ2人に、トニーは眉を吊り上げた。
「パパを誰だと思ってるんだ?トニー・スタークだぞ?」
得意げに笑ったトニーは、妻と娘が自分以上に喜びはしゃいでいるのを見つめていたが、フッと真面目な顔になった。
「これで抱きしめることができるだろ?」
「え…」
トニーのあまりに真面目くさった声に、ピタッと動きを止めた2人は、彼を見つめた。するとトニーは、
「もっと早く試してみればよかった」
と言いながら、モーガンのそばに近づくと、娘をぎゅっと抱きしめた。
アーマー越しにだが、モーガンは数年ぶりに父親を感じることができた。無機質なはずのアーマーから、父親の温もりが伝わってきた。
「パパ……」
モーガンはポロポロ泣き始めた。もう二度と抱きしめて貰えないと思っていたのに、こうやって再び父親と触れ合うことができるなんて、奇跡としか思えなかった。
泣き続ける娘を抱きしめたトニーは、静かに涙を流している妻に向かって微笑んだ。
「ペッパー…」
泣きながらそばにやって来たペッパーを、トニーは反対の手で抱きしめた。
数年ぶりに家族の願いを叶えることが出来た…。涙を堪えるように天を仰いだトニーは、泣き続ける2人の背中をそっと撫でた。
こうして、トニーは最愛の女性たちを再び両腕で抱きしめることができたのだ。
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