数日後。警備を強化したためか、パパラッチの姿は私有地付近でも見られなくなった。
ようやく静けさを取り戻したが、この場を離れれば再び追いかけられる可能性は大いにある。
トニーはリビングでハッピーと今後の警備について朝から話し合っていた。そして昼時になったため、ペッパーも昼食の準備を始めた。
モーガンは庭のテントでままごとをして遊んでいた。
父親代わりのアイアンマンの人形を椅子に座らせ、自分は母親になりきり、一人で遊んでいたのだが、茂みからガサゴソと音がし、モーガンは振り返った。
「だあれ?」
立ち上がったモーガンは恐る恐る近づいた。
すると、見知らぬ男が2人、いきなり茂みから飛び出してくると、モーガンに向かってカメラを構えた。
小さく悲鳴をあげたモーガンは、逃げようとしたが、男がモーガンの腕を掴んだ。
モーガンは怖くて声が出なかった。
震えるモーガンに、手を掴んだ男がカメラを構えた男に叫んだ。
「早く写真を撮れ!」
男は泣き出しそうなモーガンの写真を何枚も撮影した。
「…パパ……ママ…」
ようやく声を出せるようになったモーガンは、
「パ、パパ!!!!!!」
と、大声で叫んだ。
娘の声に、家の中からトニーは飛び出した。見るとパパラッチが2人、モーガンの手を掴み写真を撮っているではないか。
「おい!!」
トニーの声に、逃げようと男たちはモーガンを突き飛ばした。
すると、モーガンがよろけた。足を滑らせたモーガンは、湖に落ちてしまった。
「モーガン!!!」
モーガンはまだ浮き輪なしでは泳げない。トニーは走った。
ハッピーとペッパーも家の中から出てきた。
「モーガン!!」
溺れている娘の姿に、ペッパーが悲鳴を上げた。
ハッピーは逃げようとしている男たちを追いかけた。
バタバタと水のなかでもがけばもがく程、岸からどんどん遠ざかり、ついにはモーガンが見えなくなってしまった。
トニーは湖に飛び込んだ。
水の中に潜ったトニーは娘の姿を探した。沈みかけている娘を抱きしめたトニーは、水面へと急いだ。
グッタリとしたモーガンを抱えたトニーは、岸まで急いで泳ぐと、待ち構えていたペッパーに娘を渡した。
「モーガン!モーガン!!」
ペッパーが呼びかけてもモーガンはグッタリとしたままだ。
水から上がったトニーは泣き叫ぶペッパーに告げた。
「早く救急車を呼べ!!」
パパラッチを追いかけていたハッピーが戻ってきた。パニックになっているペッパーに代わりに、ハッピーは電話を掛け始めた。
「モーガン!モーガン!!」
必死に呼びかけるペッパーだが、モーガンは水を飲んだようでピクリとも動かない。
トニーは小さな胸元を何度か押した。息を吹き込みまた胸元を押した。
すると、モーガンがビクッと身体を震わせた。口から水を吐き出したモーガンは、苦しそうに咳き込んでいたが、何度か瞬きすると目を開けた。そしてか細い声で
「まま……ぱぱ………」
と両親の姿を確認すると、すぐに目を閉じてしまった。
救急車はすぐにやって来た。
搬送される娘に付き添うため、救急車に乗り込んだペッパーは、ずぶ濡れの夫に告げた。
「トニー…大丈夫だから。着替えてきて?」
怒りに震えるトニーが心配になったペッパーは、夫の親友に彼を託すことにした。
シャワーを浴び着替えたトニーは、モーガンのパジャマやお気に入りのぬいぐるみなどを鞄に押し込むと、ハッピーの運転する車でモーガンが搬送された病院へ向かった。
トニーは黙ったままだった。黙って窓の外を眺めているトニーは、ハッピーですらも見たことないような瞳をしていた。
チラチラと様子を伺うハッピーに気づいたトニーは、胸元からサングラスを出すと掛けた。
「あいつらの身元は?」
「防犯カメラをF.R.I.D.A.Y.が分析中です」
溜息をついたトニーは頭を抱えた。黙り込んでしまったトニーにハッピーは恐る恐る尋ねた。
「ボス…どうしますか?」
トニーが顔を上げた。サングラス越しだが、彼の瞳が怒りに燃えていることくらい、容易に分かった。
「ハッピー、あいつらは…娘を傷つけた。一歩間違えば死んでいたかもしれないんだぞ?!」
声を荒げたトニーだが、ハッピーに怒鳴るのはお門違いだ。謝罪の言葉を口にしたトニーは、SIのお抱え弁護士に電話を掛け、病院へ来るよう伝えた。
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