Kiss the Teacher~学園編別ED2

その頃、退院許可の出たハワードは、まっすぐICUに向かった。
頭も腕も足も…全身ギブスと包帯だらけのトニーは、血の気のない顔をして眠っている。トニーにつけられた無数のモニターと機械的な呼吸器の音だけが、やけに鮮明に聞こえる。
「トニー…」
両頬に大きなガーゼを貼ったトニーの顔をそっと撫でると、ハワードはベッドサイドの椅子に腰掛けた。
包帯の隙間から右手の指先が見え、ハワードはそっと冷たい手を包み込んだ。
「アンソニー…聞こえるか。お前が生まれた時、命にかえて守ると誓ったのに…お前を傷つけてしまった…。お前を守ってやることができなかった…。許してくれ…。今、お前のことを救おうと、みんな走り回っている。だからお前も頑張るんだ。お前はこんなことに屈する男じゃないだろ?」
握った手に力を入れたが、トニーは何の反応も示さない。

このまま逝かせてなるものか…。マリア…頼む…。この子は連れて行かないでくれ…。
祈るように目を閉じたハワードの目から涙が零れ落ちた。

どのくらいそうしていただろう。
「お父様…」
振り返ると、ペッパーが立っていた。
「お父様、お母様は亡くなったって聞いて…。トニーは…トニーは助かるんですか?」
涙を浮かべたペッパーはゆっくりと近づいてきたが、ベッドに横たわるトニーの姿を見ると、真っ青になりその場に座り込んだ。
「ヴァージニア…」
ハワードがペッパーの背中をそっと撫でると、ペッパーはハワードに抱きつき声をあげて泣き始めた。
「トニーは…助からないかもしれない…。心臓の近くに破片が刺さり、手術できないと言われた…。だが、絶対に救ってみせる。今、全力で手術してくれる先生を探している…。トニーも頑張っている…。だから、二人で見守ろう…」
ハワードは、泣き続けるペッパーを抱きしめた。

控室にと用意された部屋にハワードとペッパーは通された。
祈るようにしているペッパーの顔色は悪く、先日会った時よりも少し痩せた気がし、ハワードはチラチラとその横顔を盗み見していた。
「そういえば、トニーとのことはご両親に言ってないんだろ?大丈夫なのかい?」
「はい…。でも…両親には全て話しました。彼のそばにいたいということも…。だから大丈夫です。それよりも…お父様、お休みになられた方がよろしいんじゃないですか?お父様も事故に合われたんですし…」
ペッパーの気遣いに、ハワードは涙が零れ落ちそうになった。涙ぐんだハワードに、ペッパーはそっとハンカチを差し出した。
「ありがとう…ヴァージニア…。君は素晴らしい娘だ。トニーが君を選んだのもよく分かるよ…」
その言葉にペッパーは俯き、こぼれ落ちそうになった涙を指でそっと拭った。
「…お父様…トニー、助かりますよね?私…彼がいない人生なんて…考えられないんです…だから…」
言葉に詰まったペッパーの目からは、涙がポロポロと零れ落ちた。
「ヴァージニア…、トニーは君のことを置いていったりしない…。信じよう…」
無言で頷くペッパーをハワードは抱き寄せた。

しばらくして、ICUの前に待機していた社員が部屋に飛び込んできた。
「ハワード様!トニー様が目を覚まされました!」

転がるようにICUに向かったハワード。その後ろからペッパーも小走りでついて行った。
酸素マスクをつけたトニーは、ハワードが入ってきたのに気付き、少しだけ開けた目をハワードに向けた。
「トニー…」
ベッドにすがり付いたハワードは、動かないトニーの右手を取った。
「とうさ…ん…。ごめ…ん…。おれ…」
トニーを遮るように首を振ったハワードの目から涙が零れ落ちた。
「トニー、父さんこそ、すまなかった。愛してるよ、トニー…」
やっと聞くことのできた言葉。トニーは嬉しそうに目を細めた。だが、父親の姿はあるのに母親がいないことに気付いた。
「かあさ…ん…は?」
ハワードは言えなかった。マリアはもうこの世にいないとは…。
無理やり笑顔を作ったハワードは、トニーの手をポンっと軽く叩いた。
「マリアは無事だ。まだ動けないが、無事だ。だから、お前も頑張るんだ」
母親が無事と知らされたトニーは大きく息を吐いた。
「よか…った…。おれが…いなく…なっても…」
笑みを浮かべたトニーをハワードは叱咤した。
「トニー!バカなことを言うな!お前は助かる。父さんが治してみせる!それに、ヴァージニアが来てくれたぞ!」
ハワードに手招きされたペッパーは、トニーに駆け寄った。
手を握りしめ涙を浮かべたペッパーは、トニーに向かって笑いかけた。
「トニー。そばにいるから…頑張って…」
ペッパーの笑みを見たトニーの目から涙が零れた。
「ぺっ…ぱ…。よかった…きみに…あえて…。あい…してる…」
トニーはゆっくりと目を閉じた。

3へ…

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。