それからのことをトニーは覚えていない。
急いで荷造りし、車を飛ばし、LAの病院へと向かった。
病院では重役たちがトニーを待ち構えていた。マリアは即死だったが、病院へ運ばれた時、ハワードまだ意識があり、トニーの名前をずっと呼んでいたらしい。
「ハワード様は最期までトニー様のことを言われていました。『すまなかった、トニー』と何度も言われていました…」
ハワードの死を看取った重役たちは、泣きながらトニーに伝えた。
それでもトニーは…すぐには現実を受け入れることが出来ないトニーは、涙の一つも流さなかった。
誰もいない教会。
両親の眠る棺の前でトニーは酒を呑んでいた。
いくら呑んでも酔えない。このまま酔い潰れて眠ってしまいたいのに…。棺に寄り掛かるように座り込んだトニーの足元には、何本もの空のボトルが転がっていた。
しばらくして、内ポケットが震えているのに気づいたトニーは、携帯を取り出した。
何十件もの着信履歴やメール。どれもハワードとマリアの死を知った知り合いからのものだった。
留守番電話に残ったメッセージを聞き始めたトニー。
『大変だけど頑張れよ』
『何かできることがあったら言ってくれ』
どれも励ましのメッセージだったが、今のトニーは聞く気にならず、一つずつ消していった。
ボタンを押すトニーの手が止まった。メッセージは、トニーが今一番そばにいて欲しい人物からのものだった。
『トニー?ペッパーよ。お父様とお母様のこと…。私もお別れを言いに行きたい…。お父様とお母様は、私を本当の娘のように思ってくださったもの…。もう一度お会いしてお話したかった…。トニー、お願いだから、無理しないでね…。愛してるわ…』
携帯を握りしめたトニーは、ペッパーのメッセージを何度も繰り返し聞いた。
何度目かを聞いたトニー。ペッパーからのものを保存すると、また一つずつ消していった。最後のメッセージは、今朝のものだった。差出人を見たトニーは息を飲むと、再生ボタンを押し、耳に近付けた。
『トニー。この間はすまなかった…。思えばお前には昔から、父親らしいことをしてきてやらなかったな…。すまなかった。お前があんな風に思っていたとは、知らなかった。許してくれ…。
アンソニー…父さんは…お前のことを世界一愛している。お前のことは、命に変えてでも守りたいとずっと思っている。お前のことを誇りに思っている。
トニー…私が生み出した最も素晴らしいものは…お前だ…。だから、お前なら…父さん以上に会社を大きくしてくれると信じている。トニー…戻って来い。父さんの手伝いをしてくれないか?頼む…トニー…』
それは、ハワードからの最期のメッセージだった。
今朝かかってきた電話に、俺はなぜ出なかったんだ…。最期があんな喧嘩別れだなんて…。何であの時、きちんと話をしなかったんだ…。
父さんは、俺のことをちゃんと見てくれていたのに…。俺のことを愛してくれていたのに…。どうして俺に向けてくれる愛を信じられなかったんだ…。
「ちくしょう…結局何も言えないままだったじゃないか…!」
手に持っていたボトルをトニーは床に投げつけた。
「父さん…母さん…ごめん…。俺を許してくれ…」
棺に縋り付いたトニーは、子供のように声をあげて泣き続けた。
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