Kiss the Teacher~卒業編1

3日後。
その日は朝からどしゃ降りの雨だった。
彼にしては珍しく寝過ごしたトニーは、慌ただしく準備をすると車に駆け込んだ。
エンジンをかけ出発しようとしたその時、携帯電話の着信音が車内に鳴り響いた。
画面を見ると、父親からだった。
だが、トニーは出なかった。
トニーは父親に何と言っていいのか、分からなかったのだ。

一方のペッパーは、自宅のバスルームにいた。
ここ数日、気分が悪い。眠くてたまらない。
それに…アレがこない…。もう随分と遅れている。
脳裏に浮かんだのは、2月のあの日。玄関先での情事。
あの時、酔った彼は避妊しなかった。一年近く前の誕生日の日を除けば、唯一彼が避妊しなかった日。
不安でいっぱいだが、嬉しそうに入学の準備する両親には言えなかった。悩んでいるトニーにも言えなかった。

「ヴァージニア!遅れるわよ!」
母親の声で我に返ったペッパーは、鏡で笑顔を確認すると、傘を差し家を飛び出していった。
途中、ドラッグストアに寄り検査薬を買ったペッパーは、カバンの奥底に突っ込むと学校へ向かって歩き出した。

学校へ着いたペッパーは人目を忍ぶようにトイレへ向かうと、一番奥の個室に入った。
1分後…。
恐る恐る結果を見たペッパーは、トイレに座り込んでしまった。
(ウソ…。どうしよう…)

授業開始のベルが鳴っても、ペッパーはその場から動けなかった。

奇しくも一限目はトニーの授業だった。
後ろからこっそり入ろうとしたペッパーだが、ペッパーがいないことを心配したトニーは見逃さなかった。
「ポッツくん、遅刻―」
ペッパーの様子にトニーは言葉を失った。
泣いていたのか目は赤く、顔もやけに青白い。
「すみません…」
今、トニーと目を合わせると泣きついてしまう…。
視線を落としながら席に着いたペッパーは、心配そうなトニーの視線に気付いてはいたが、顔を上げなかった。

授業が終わり、にぎわう教室。トニーに知らせようと席を立とうとしたペッパーだが、トニーの方が先に声を掛けた。
「ポッツくん、昼休みに部屋に来なさい。遅刻は遅刻だからな」

昼休みになっても、なかなか来ないペッパー。ペッパーの泣き出しそうな顔を思い出したトニーは、部屋の中を歩き回りイライラしながら待っていた。
そこへ
「先生…」
と遠慮がちにペッパーが入って来た。
何かに怯えたような瞳をしたペッパーの目には涙が溜まっている。
思わずペッパーを抱きしめたトニーは、涙を拭うと瞳を見つめた。
「どうしたんだ?顔色悪いぞ?何かあったのか?」
ポケットに入れた検査薬をそっと触ったペッパーは、深呼吸をした。
「あ、あのね…」
その時、トニーの携帯がけたたましく鳴り出した。
「すまない、ペッパー。少し待ってくれ…。スタークだ……。……えっ?…何だって…?」
みるみるうちに顔面蒼白となったトニーは、通話ボタンを切ると、携帯を床に落とした。
携帯を拾ったペッパーは、固まったまま動かないトニーの腕を掴んだ。
「トニー?」
呆然としたトニーは、震える声で呟いた。
「よく分からないんだが…。親父とお袋が…死んだ…」
「え…」
「事故で…死んだと言われたよ、ペッパー…。親父とお袋が…死んだと…」

お父様とお母様が…亡くなった?
あれが最初で最後の対面になってしまったの?
ペッパーに向かい『トニーを頼む』と言ったハワードの姿と、本当の娘のように接してくれたマリアの姿が脳裏に浮かび、ペッパーの目からは涙が零れ落ちた。

その場から動こうとしないトニー。そのトニーの背中を押すように、ペッパーはドアに向かった。
「トニー…早く行ってあげて…。お父様とお母様、あなたのことを待っているわよ…」
「だが、先に君の話を…」

気が動転しているトニーに、妊娠のことは話せない。本当は付いて行ってあげたいけど、それは出来ない…。少し落ち着いてから話そう。それまでは、一人で頑 張ろう…。

涙で濡れた顔を擦ったペッパーは、トニーに向かい微笑んだ。
「私のことは大丈夫。また別の日に話すわ。だから、早く…」

2へ…

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