Kiss the Teacher~冬編5

あの出来事の後、トニーとペッパーは話し合った。
トニーは自分の思いをペッパーにぶつけた。ただ、会社の人間が説得に来ていることを除いては…。
ペッパーはトニーの話を聞き終えると、涙を流しながらトニーを抱きしめた。
「大丈夫よ、トニー。あなたは愛されているわ…。それに、私がいるから…。何があってもあなたのそばから離れないわ…」
「ありがとう…ペッパー」
ただ、今後トニーがどうするかという話までにはならなかった。
「俺が自分で決めることだから…」
そう言うと、トニーはまるで『この話は終わりだ』と言うように口を閉じてしまった。

***

三月も終わりに近づいた頃。
もうすぐ合格発表ということもあり、ペッパーもそしてトニーも落ち着かない日々を過ごしていた。
ソファーに座り、他愛のない話をしていた時だ。
「そういえば、向こうではどうするんだ?」
思い出したように、トニーが突然話題を変えた。
「うん。最初は寮に入ろうかなって…。やっぱり初めての場所だから不安だし…」
「そうか…」

トニーはどうするの?

その一言を言っていいものかペッパーが迷っていると、トニーが重い口を開いた。
「俺は…どうしようかな…。君が卒業するまでは、ここにいるつもりだが…」
トニーの方から話し始めた…。
あれから一切この話題を話していない二人。ペッパーは思わず姿勢を正した。
「どうするって…先生辞めるの?」
「あぁ…」
「トニー…」
視線をそらしたトニーだが、大きく息を吐くと、ペッパーを見つめ話し始めた。
「心配かけると思って言わなかったんだが…。俺を説得しに二週に一回らい会社の人間が来るんだ…。親父がすっかり意気消沈しているって。俺があんなこと言ったからだな…。最低の息子だよ、俺は…。だから、そろそろ潮時かもしれないと思って、先週伝えたんだ。遅くても秋には戻るつもりだって。親父とお袋の作戦は、成功したってわけだ」
小さく笑ったトニーはとても寂しそうで、ペッパーは思わず叫んだ。
「でも、でも…。あなたの気持ちは?いいの?」
涙を浮かべたペッパーを見るトニーの目は虚ろだった。
「仕方ない…。俺が我慢すればいいんだ。何事もなかったかのように…。以前と同じだ。実際は違うかもしれないが…親父には愛されているって、俺が思い込めばいいだけさ…。それに…これ以上、親父とお袋を苦しめたくない…」

トニーの決断だもの…。私がとやかく言う資格はない。
でも…あまりに悲しすぎる…。きっと思いは一緒なのに、どこですれ違っちゃったのかしら…。

ペッパーの目から零れ落ちた涙に気付かないふりをしたトニーは、ペッパーの頭をくしゃっと撫でると立ち上がり、わざと明るい声で言った。
「それより、何か飲むか?」
「うん。あ、紅茶がいい」
「分かった」

キッチンへ向かうトニーを見つめながら、ペッパーはソファーに横になった。

何だか最近、すごく眠たいのよね…。身体もだるいし熱っぽい…。
私の身体、どうしちゃったのかなぁ…。

ソファーに寝そべりウトウトしていると、トニーがおそろいのマグカップを持って戻って来た。
「ペッパー、大丈夫か?まだ昼だぞ?眠いのか?」
カップをテーブルの上に置いたトニーは、ソファーの端に座った。
「うん…最近ね、すごく眠たいの…。春だからかなぁ…」
寝そべったままのペッパーの頭を撫でていたトニーは苦笑い。
「もうすぐ四月だしな…。じゃあ、いっしょに昼寝するか?」
立ち上がったトニーは、ペッパーの背中と膝下に腕を入れ抱き上げた。
ペッパーの身体はいつもより熱く、トニーは風邪でも引いているのでは…と心配になった。
「熱いぞ?熱でもあるんじゃないか?」
トニーの首に腕を回し抱きついたペッパーは、半分眠っているのだろう。
「だいじょうぶ…」
という声と共に、あっという間に寝息が聞こえてきた。

ベッドの上にペッパーをそっと降ろしシーツを掛けると、トニーはリビングへ降りていき、パソコンを開いた。

「まずは、一緒に住める所を探さないとな…」

彼女の希望を聞いた方がいいか? キッチンは広い方が喜ぶよな…。ガレージもないと俺の車が入らないし。あと、せっかくだからラボも欲しいんだ。地下室がある物件で…。

物件探しは思いのほか楽しく、気が付けば夕方になっていた。

(そろそろ起こして家に帰さないと…)
パソコンを閉じたトニーは、ペッパーを起こすため寝室へと向かった…。

春編序曲へ続く

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