Kiss the Teacher~冬編4

二月のある週末。
トニーの家へ向かっていたペッパーの元へ一通のメールが来た。
『急用ができた。すぐに戻るから、家で待っていてくれ。T』

「急用って何かしら?」
トニーも相変わらず忙しいわね…と思いつつ、ペッパーは返事を送った。

去年のクリスマスに貰った合鍵で家に入るペッパー。もう何度も使っているが、カチャっという音がするたびに、ペッパーの胸はときめいた。
脱ぎっぱなしの服を洗濯し、ベッドのシーツを取り替える。部屋の掃除をして料理を作りながら彼の帰りを部屋で待つ。
(ふふ…こういうの、憧れていたのよね…)
鼻歌を歌いながら、ペッパーは楽しそうに部屋を片付け始めた。

その頃、トニーは、家の近くのカフェで、年配の男性と会っていた。
「トニー様。お願いです。戻って来て下さい」
男性はスターク・インダストリーズの人間だった。父親の側近に近い男だが、トニーは昔からこの男が苦手だった。トニーが幼い頃、父親の見ていないところで母親はこの男にいつも泣かされていた。『お前みたいな女、どうせ金が目当てなんだろ?』と罵られ、涙を流す母親をトニーは何度も見ていた。聞くところによると、この男は父親が年の離れた母親と結婚する時から反対していたらしい。母親が大企業の令嬢などではなく、ごく普通の家庭で育った娘だったという理由だけで…。
この男は金と名声が全て。
だから、この男と会うのは嫌だった。だが、何度もしつこく連絡をしてくるため、父親の手前、渋々会うことにしたのだった。
「もう少し待ってくれ…親父にもお袋にも言った。気持ちの整理が出来たら話をしに行くと…」
トニーの言葉に男はため息をついた。
「お付き合いされている女性のためですか?僭越ながら調べさせて頂きました」
なぜ、ペッパーの話になるんだ?嫌な予感がしたトニーは、話を元に戻そうとした。
「彼女は関係ない。これは俺の問題だ。中途半端な気持ちのまま戻りたくないだけだ」
だが、男は鼻で笑うとべらべらと話し始めた。
「トニー様はその女性とご結婚されるおつもりとか…。ハワード様もマリア様もその方のことを気に入っておられるそうですね。ただ、会社としては…どうでしょう。聞けばまだ高校生とのこと。しかもあなた様が教えていらっしゃる生徒ですよね。そんな方は、今後スキャンダルのネタにされる可能性もあります。その娘は愛人にでもされたらいかがでしょうか?どこかに匿われて、お金を与え、トニー様が抱きたい時に抱きに行けばよろしいかと思います。ただ、お子様ができれば厄介ですので…。その時は大金を与えてどこか遠くへ行っていただきましょう。トニー様は、もっと家柄のいい御令嬢と結婚され…」
頭にきたトニーはテーブルを叩き怒鳴った。
「ふざけるな!俺は彼女をそういう風に思っていない!」
トニーの声にカフェの中は静まり返り、全員の視線がトニーに注がれた。

「トニー様、大声を出されるとみなの注目を集めてしまいますよ…」
トニーを宥めるように肩を叩いた男は立ち上がると、トニーの耳元に口を近づけた。
「トニー様、会社の跡を継いで、どこかのご令嬢と結婚され跡継ぎを作る…それがトニー様の仕事です。社員一同、それを望んでおります。トニー様がお付き合いされている方…ヴァージニア様ですよね?口では気に入ったと喜ばれていても、ハワード様もそう思われていると思いますよ? それをお忘れないように…」
拳を握りしめ動けないトニーの耳に、男の言葉が何度もこだました。

***

「遅いなぁ…」
夕方になってもトニーは帰って来ない。テレビを見ながらソファーでゴロゴロとしていたペッパーだが、あまりに遅いため、連絡してみようと携帯を取り出した時だった。
玄関が開く音とともに、どさっと何かが落ちる音がした。
トニーが帰ってきた!
慌てて玄関へ向かったペッパーは、言葉を失った。

酒の瓶を持ったトニーは玄関に座りこんでいた。赤い顔をしたトニーの吐く息は酒臭く、ペッパーはこんなに酔っ払ったトニーを見るのは初めてだった。
キッチンで水を汲んだペッパーは、トニーの横に座るとコップを差し出した。
「どうしたの?」
虚ろな目をしたトニーはペッパーを見つめた。その目は悲しみに溢れ、絶望すら浮かんでいた。ペッパーが差し出した水を一気に飲んだトニーは床にコップを投げつけると、ペッパーに抱きついた。
「と、トニー⁈」
トニーは何も言わず、ペッパーに荒々しくキスをすると、その場にペッパーを押し倒した。
「やっ!と、トニー!やめて!」
嫌がるペッパーの服を破ったトニーは、まだ潤っていないペッパーの秘部に自分のものを押し込んだ。
「いや…っ!」
嫌だと言いつつも、トニーを受け入れることに悦びを覚えた身体はすぐに反応し始めた。次第に潤いを増すペッパーの秘部からは、ぐちゅぐちゅという水音が聞こえ始め甘い声も重なり始めた。

やがて、中でトニーが大きくなるのを感じたペッパーは顔色を変えた。
(このままじゃ…!今日は…)
「やぁぁ!と、トニー…!な、なかは…今日は…だ、だめぇぇっ!」
だが、トニーはペッパーに腰をぐっと押し付けると、嫌がる彼女の身体を強く抱きしめた。

身体の奥深くが、生暖かいもので満たされるのを感じたペッパーの目からは涙が一粒零れ落ちた。

***

「ペッパー…すまない…」
酔いが覚めたトニーは床に跪き、ベッドに潜り黙ったままのペッパーに頭を下げた。

いつも優しいトニーなのに、さっきのトニーは荒々しく…そして怖かった…。私が学生だからといつもきちんとしてくれるのに…。

無理やり抱かれたことではない。何も自分に話してくれないことが悔しかった。情けなかった。
ペッパーの目には涙が浮かび、それを隠すように枕に顔を埋めた。

「…何があったの?」
しばらくして、ポツリとつぶやいたペッパーは、ベッドから起き上がった。
「何かあったんでしょ?あなたがあんなことするなんて…」
だが、トニーは何も言わず黙ったままだった。
何も言わないトニーに腹が立ったペッパーは、そばにあった枕をトニーに向かって投げつけた。
「答えてよ!ねえ?何で私には話してくれないの?あなたのこと、支えたいの!あなたが苦しんでいるのを黙って見ているだけの女にはなりたくないの!お願い…トニー…。一人で抱え込まないで…。私はあなたの…何? お嫁さんにしてくれるんでしょ?」
耐えきれなくなったペッパーは、ベッドから降りるとトニーに抱きついた。ペッパーの目から零れた涙がトニーの肩を濡らした。
やがてペッパーの身体を強く抱きしめていたトニーが、囁くような声でぽつりと呟いた。
「ペッパー…ずっと俺のそばにいてくれ…。頼む…。俺を置いて…どこにも行かないでくれ…」

「大丈夫よ、トニー…。私はどこにも行かないから…」

いつも大きく広いトニーの背中が、今日はとても脆く小さく見えた。

5へ…

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