Another World of 2012:NY…⑦

そんな時だった。
数ヶ月前から起こっていた、マンダリンによる連続爆破事件に、ハッピーが巻き込まれた。
親友を傷つけられたトニーは猛烈に腹を立てた。
昏睡状態のハッピーを見舞ったトニーに、マスコミは容赦なくマイクを向けた。
怒りに身を任せたトニーは、気づけばマスコミの前でマンダリンに宣戦布告をしていた。

自宅のテレビでその様子を見ていたペッパーは、震えが止まらなかった。
トニーはここの住所を公表した。
つまり全世界が自分たちの居場所を知ったのだ。
マンダリンだけではない。
彼を…アイアンマンを狙う敵が、襲ってくるかもしれない…。

とにかく避難しよう。安全な場所に…。

そう考えたペッパーだが、急に吐き気を催し、慌ててトイレに駆け込んだ。しばらく咳き込んでいたペッパーだが、来るべきものが来ていないということに、ふと気付いた。そこで、もしもの時のために用意していた検査薬で調べてみると…。
結果は陽性だった。
つまりペッパーは妊娠したのだ。
お腹をそっと押さえたペッパーは、目を潤ませた。
トニーの赤ちゃんが…。トニーの赤ちゃんができたのだ。まだ実感はないが、彼の赤ちゃんがここにいる…。
涙が止まらなかった。嬉涙が次々と零れ落ちた。
だが同時に不安だった。
マンダリンが…敵が攻めてくるのではないかと…。
この子を守らなくては…。何が何でも、この子を守らなくては…。
ペッパーは寝室へと向かうと、慌ただしく逃げる準備をし始めた。

しばらくしてトニーが帰ってきた。
住所を公表したことを怒るべきなのだろうが、ペッパーはやはり先に朗報を告げることにした。
「トニー…」
そっと検査薬を差し出すと、トニーは大きな目を見開いたまま、それとペッパーの顔を見比べた。
状況がわかっていないのか、珍しくぽかんとしているトニーに、ペッパーはそっと告げた。
「…妊娠したの」
30秒ほど停止していたトニーだが、瞬きした彼は目を輝かせた。そして彼は何も言わずにペッパーを力一杯抱きしめた。
背中に回されたトニーの腕は震えていた。
ぐすっと鼻を啜る音が聞こえ、ペッパーは彼が泣いていることに気付いた。
「トニー…」
頭を抱きかかえたペッパーは、彼の髪の毛を梳いた。するとトニーは、ようやく声を出すことを思い出したのか、涙交じりの声を出した。
「ペッパー……ありがとう…。ありがとう…」
何度も感謝の念を伝えるトニーに、ペッパーは感じた。
トニーがいれば…トニーと一緒なら、きっと今回のことも乗り越えられる…と。
そこでペッパーは、この家から逃げようと提案した。が、トニーは自分は残ると言い始めた。まずはペッパーとそしてお腹の中の子供の安全が最優先事項。自分が共に逃げると、2人にも危険が及ぶとトニーは言い切った。だが、ペッパーは危険でも一緒に逃げたかった。トニー一人を危険な目に合わせたくなかったから…。

暫く押し問答をしていると、J.A.R.V.I.S.が来客が告げた。
「誰か来る予定なんかあったかしら…」
「いや、ないはずだが……」
顔を見合わせた2人だが、何度もなるチャイムに、警戒しながら玄関へと向かった。
来客は、マヤ・ハンセンという女性だった。1999年スイスで一度だけ関係を持ったことのある女性の突然の訪問に、トニーは頭を抱えたが、彼女は逃げた方がいいと警告しに来たと告げた。
が、その警告は遅かった。

3人を何発ものミサイルが襲いかかった。
辛くも家から脱出したペッパーだが、ものの数分もしないうちに、家が崩壊した。
中にはまだトニーがいる…。いくら待ってもトニーは出てこない…。

ヘリが去ったのを確認したペッパーは、急いで崩壊した家の中に入った。
跡形もなくなった家の中に、トニーの姿はなかった。海底に沈んだ瓦礫の山にも、トニー…いや、アイアンマンらしき姿は見えなかった。

ペッパーは岸壁から動けなかった。
警察やマスコミが押し寄せてきても、動けなかった。
もしかしたらトニーがひょっこり顔を覗かせるかと思うと…。
瓦礫の中から見つけたアイアンマンのヘルメットをペッパーは抱きしめたまま、海を見つめ続けた。
と、ヘルメットの中から電子音が聞こえた。
トニーだった。
トニーからのメッセージが届いた。

トニーは生きている。遠く離れた所にいるが…最愛の人は生きている…。

僅かな希望を見出したペッパーは、何度か深呼吸をした。そしてお腹に触れたペッパーは、トニーの分まで我が子を守ろうと決意した。

マヤと共に安全な場所へと逃げたペッパーだったが、マヤはキリアンと繋がっていた。
キリアンに捕まったペッパーは、見知らぬ場所へと連れて来られた。そして気がつけば拘束され、点滴をつけられていた。
「気がついたかい?」
聞き覚えのある声に顔を向けると、キリアンだった。
「何が狙いなの…」
震える声で告げるペッパーの頬にキリアンは口づけした。
「復讐だよ。復讐。スタークに対する復讐さ。あいつには絶望を味合わせてやる。だが、君は特別だ。まずは君を完璧な存在にしてあげるよ」
ニタニタと笑うキリアンに、ペッパーは顔色を変えた。何をされるのか見当もつかないが、お腹の子だけは守らなければ…と、ペッパーは縋るようにキリアンを見つめた。
「や、やめて!!赤ちゃんが……赤ちゃんがいるの!!」
と、キリアンの瞳が真っ赤に燃え上がった。
「妊娠してるのか?スタークの子を?」
「そ、そうよ!トニーの子供に決まってるでしょ!」
怒り露わにそばにあった椅子を蹴り上げたキリアンは、大きく深呼吸をし気持ちを落ち着けた。

スタークが彼女を孕ませたのは気にくわないが、ものは考えようだ…。予想以上の絶望をあいつに味合わせてやれる…。

そう考え直したキリアンは、笑い声を上げた。
「面白いじゃないか!エクストリミスが胎児にどんな影響を及ぼすのか、実験できるぞ!」
唇を震わせるペッパーに、キリアンは声高々に告げた。
「君もだが、胎児はエクストリミスに耐え切れるか見ものだな。スタークの子供なんぞ、死んでも惜しくないが…。もし生き延びたとしても…お前は怪物を産むことになる。生まれた時から、エクストリミスに侵された、生まれながらの兵器だ!スタークはどう言うだろうな!我が子が怪物だと知ったら!」
キリアンに捕まる前、マヤからエクストリミスについては簡単に聞いていた。人間の力を強化する…本来ならばこの世にあってはならないもの…。それをキリアンは、自分とそしてお腹の中の子供に投与しようとしているのだ。
ペッパーの顔に浮かんだ絶望を見たキリアンは、部下に向かって一言告げた。
「やれ」

点滴を通して、エクストリミスが体内に入ってきた。

苦痛しかなかった。
絶望しかなかった。
トニーの名を呼び続けるペッパーを、キリアンの部下たちは笑いながら見つめている。

するとお腹が熱くなった。
オレンジ色に光るお腹を見たペッパーは、顔を歪めた。

赤ちゃんが……。トニーの赤ちゃんが……。汚されてしまった…。
ごめんなさい…トニー……。この子を…あなたの子を…守れなかった……。

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