Another World of 2012:NY…⑥

半年も経つと、新たなアーマーは次々と完成した。が、トニーは全くと言っていい程、眠れなくなった。それでも何日かに一度は、ウトウトと数時間眠ることができるのだが、結局は悪夢で目が覚め、また眠れない日々を送ることになるのだ。
さすがに4日連続で眠れなかった今日は、いつも以上に酷い顔色をしていたのだろう。
「トニー、疲れてるんじゃないの?大丈夫?」
出社するペッパーに見送りのキスをすると、彼女は心配そうに目の下に隈を作ったトニーの頬を撫でた。
ペッパーには話していない。眠れないこと、悪夢に怯えていることは…。それはペッパーに心配かけたくないという理由からなのだが、ペッパーはトニーが何か隠していると感づいていた。が、トニーは話してくれない。それがペッパーには不安であると同時に、不満でもあった。
「大丈夫さ。それより、今日は早く帰ってこいよ」
そう言いながらキスをしたトニーは、手を振りペッパーを見送った。

トニーのことが心配でたまらなかったペッパーだが、今日は気の重い来客がある。それは、昔の上司のアルドリッチ・キリアン。色々あり、キリアンのA.I.M.を退社しスターク・インダストリーズに転職したのだが、その色々がペッパーにとっては苦痛でしかなかった。本当は思い出すのも嫌なのだが、これもビジネスだと、ペッパーはCEOとしての顔を無理矢理引っ張り出した。
が、キリアンは変わっていた。昔と違い、魅力的な男性に変わっていた。だが今のペッパーにはトニーがいる。明らかにキリアンの目付きは自分を狙っていたが、トニー以外の男性とどうこうなる気はさらさらなかった。
「結婚するんだって?」
ペッパーの指に光るダイアモンドに、キリアンはチラリと視線を送った。
「えぇ」
指輪に触れたペッパーは、幸せそうに笑みを浮かべた。それを一瞬だが憎々しい程の瞳で見つめたキリアンだが、彼もビジネスの話をしに来たのだ。トニーに対する憎しみを隠したキリアンは、自社のプロジェクトについて語り出した。が、ペッパーは首を縦に振らなかった。というのも、どう考えてもA.I.M.のプロジェクトは非人道的としか思えなかったから。
口を開けばトニーの名を出すペッパーに、キリアンは気づかれないように拳を握りしめた。が、これは序曲に過ぎない。これから始まる、トニー・スタークへの復讐というゲームの壮大な幕開けなのだから…。

一方のペッパーは疲労困憊だった。
やはり会いたくはなかった。キリアンは昔から自分を狙っていた。それが退社の原因の一つでもあるのだが…。
自分のプロジェクトを見せると言われ、身体に触れられた。舐めるように見つめられた。嫌悪感しかなかった。
帰ったらトニーにキスをしてもらおう。
沢山キスをして、抱きしめてもらおう…
そうすればキリアンのことは忘れられる…
そう思い帰宅したペッパーはアーマーを着たトニーに出迎えられたのだが、その中にトニーはいなかった。彼自身はラボにいた。空っぽの存在のアーマーに出迎えられたペッパーは、突然虚無感に襲われた。
トニーの様子は明らかにおかしかった。何も話してくれないのは、もはや我慢できなかった。そこでどうしたのか問い詰めてみた。するとトニーは重い口を開いた。
NY決戦では自分は無力で何もできなかったこと…再び敵が襲ってくるという悪夢を見続け眠れないこと…。
トニーが不眠に悩んでいることは知らなかった。彼が悩み、そしてそれを打ち明けてくれないことに、それに気づかなかった自分にペッパーは腹が立った。ペッパーが悲しそうに顔を歪めたのに気づいたトニーは、最愛の女性をじっと見つめた。
「私が守りたいのは、君だけだ。それに君がそばにいてくれるから、私は心が壊れずにすんでいる」
トニーは自分を心の底から信頼し、必要としてくれている…。話してくれなかったのは、おそらく心配をかけたくなかったから…。
そう感じたペッパーは、トニーに近づくと彼を優しく抱きしめた。
ペッパーの温もりはトニーの心の拠り所だ。彼女の胸に顔を押し付けたトニーは、何度も深呼吸をした。すると気持ちが少しだけ落ち着いた。

絶対に何があっても守ってみせる…。君は…君だけが、私の世界の中心なんだから…。

⑦へ…

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